絶対天才! カマセ朝食!
「おれは、てんさいだ!」
これ、幼稚園のカマセ。
「俺はぁ、てぇんさいだぁ! クゥーックックックックックッ!」
これ、マイクを持って叫んだ入学当時のカマセ。成長はしてる。悪い方に。
という事で、カマセこと鎌瀬今一についてだ。
一言で言おう。馬鹿だ。昔っから自分を天才と信じて疑わない馬鹿。
「俺は天才、そう、本物のな! 運動であろうと文学であろうと。科学であろうと、俺は一流になれる! 俺はそこら辺の小物や三下とは違うのだぁ!」
と言った妄言を周りを気にせず吐く。馬鹿だ。超馬鹿だ。
「あの子はもう強制するよりああさせておいた方が元気そうでいい気がするわ……自活も一応できてるし」
義母様はもう匙を投げていた。とても疲れていた。
「彼奴はなぁ……普通に育ててきたし、普通に叱っても来たんだが、それでもあんな風になってしまったんだよなぁ、どうしてだろうなぁ、ホント……ハァアアアアァァァ……」
義父様はお酒を嗜みながらそう言ってた。目尻が光ってた。
「あの馬鹿の話はしないで、ホント、恥だから、マジで。ホント……こんなグラマラスで目の飛び出るような美人となんで未だに付き合いが持てるか疑問視するレベルで馬鹿だよホント……」
義姉様はペンを回しながら死んだ目で言った。痰を吐き捨ててた。
「「「魅恋ちゃん、あの馬鹿をよろしくお願いします」」」
「わかりました」
宜しくされたので、了承した。特に断る理由は無かった。
宜しくしてからは、こうやって朝、カマセが通ってくるようになった。
「クク、準備が出来たぞ。見よ、トーストにレタス、トマト、スクランブルエッグにカリカリベーコン! 俺の天才的な朝食を……おい、何故こっちを見ている魅恋」
で、何故か言っても居ないのに朝食の準備をするようになった。エプロンが似合う。
「いんや、べつに。美味しそうだね」
「当然だ。クク、手際の良さから調味料の配合まで、完璧にこなしてしまう自分が、全く持って恐ろしい……というか、貴様。テーブルに座っているだけではなく、偶には手伝ったらどうだ、本当に」
「私が手伝うとカマセの完璧な料理の調和が崩れちゃうから」
「カマセと呼ぶな! カイザー・エンペラーと呼べ! それはそうとして言うとおりだ! 俺が作ったからこそ、この完璧な朝食が出来上がるというもの!」
と、言ってはいるが。別に飛びぬけて美味い訳じゃない。普通の域を抜けられていない。嫌いじゃないけど。
「スクランブルエッグ、ちょっと固めにしてくれた?」
「そうせんと貴様は文句を言うだろうが。ったく、この俺に手間を取らせるな」
「……それにしては半熟の部分があるんだけど?」
「なにぃ!?」
そして、抜けた部分が必ずある。それもまた、嫌いじゃないけど。
「ば、馬鹿な……加熱の時間は完璧だった筈……一体なぜ!?」
「手早くやった所為で卵が冷たいまんまだった。で、時間は完璧でもムラが出来た」
「……」
そして指摘されると砕け散る。姫寅先輩戦完敗直後も崩れ落ちてた。メンタルが弱い。
「く、こ、この俺が、この俺が……そんなくだらないミスを……馬鹿な」
「時間だけで計算してるからダメなんだよ。料理を隅々までちゃんと見ないと」
コイツの根本は、残念だ。出来ない訳ではないのだが、小物臭が拭えない。
「……えぇい! 次こそは!」
「頑張れー」
そして、酷く立ち直りが早い。懲りるという事を知らない。だから小物臭が拭えない。
「でも味付けはピッタリだから、そこだけ直せばいいと思うよ」
「! ク、クククク! 当然だ! 俺は天才だからな、一度失敗したとしても、その次は絶対に間違えない! 学習能力も天才! 俺に不可能はなぁい!」
「はいはい天才天才」
そして少し褒めるとすぐ付け上がる。小物だ。スッゴイ小物だ。
「……そういえば、貴様、中間はどうだ。合格は出来そうなのか」
「よゆーよゆー……じゃ、ないかな、どうしよう」
「どうしようではない! 全く、貴様はこの天才の幼馴染であるという自覚があるのか本当に! それで、何処が厳しいのか言え! いや言わんでもいいわ、どうせ英語だろう!」
そして変な所で察しは良い。肝心なところで発揮は出来ない。残念。
「後は地理か! 数学理科歴史系国語系は問題なし、そうだ、音楽は?」
「今回はちょーしが良いから大丈夫」
「良し! それなら……ホレ、スケジュールだ! その時間帯に俺がみっちり叩き込んでやるから覚悟しろ。安心するが良い、分かっているだろうが……」
「教えるのも天才、でしょ」
「そのとおぉり!」
この勉強会は昔からだ。本人曰く、『俺と付き合いの深い奴が馬鹿だと俺も同類と思われる』からだそう。馬鹿じゃない。失礼な。
「じゃ、今回もよろしく……ごちそうさま」
「ごちそうさま! クク、今日も完璧な朝食だった……!」
終わり際の自己陶酔も昔からの事。いい加減慣れた。
「さ、行こうか。忘れ物ない?」
「ない! 俺はもう高校生だぞ! 子供ではないのだ!」
椅子の横のバック、私はスカスカ。彼奴はパンパン。置き勉というものを知らない。
『家に帰っても研鑽は欠かさないのが本物の天才! ク、当然だろう!』
との事。なお教科書が十分の一、個人所有の参考書が残り全部。学校とは。
「いつ見てもげっそりする。それ、みてるだけで重い」
「ク、登下校も鍛錬の場という事だ。当然だろう。今や、世界の武術熱は最高潮なのだからな! 俺の絶対的最高な頂点の力を見せつける為に、鍛錬は決して欠かさない、それが常識、それが天才! クーッククククククク!」
「いや、意味わかんないよ、最後」
いませんか? こういう残念な方。