1話目.ウワサ
更科 雅は死んでいる。
僕は寝たふりをしながらそのウワサを聞いた。
更科雅とは、僕のクラスにいる不登校の生徒だ。
彼女は入学式の時に来た以来一度も学校に来ていない。
その為いつも僕の隣の席は空席だった。
寂しくそこに机が有るだけだった。
机の中にはプリントが詰まっている。
いつも僕は寂しさをどこかで感じていた。
更科雅……
更科雅はとても綺麗だ。
綺麗な顔立ち、美しい髪を持っている。
入学式で体育館に入ってきた時から噂になっていた。
僕を含めほとんどの男子は彼女の美しさに目を奪われ、誰もが彼女を目でおってしまう。
それほど綺麗なのだ。
それほど彼女は特別な何かを持っていたのだ。
先輩方も彼女を一目見ようと集まった程だ。
誰もが更科雅に恋をする。
このクラスの男子全員が彼女との青春を想像しただろう。
しかし、彼女は入学式以降一度も学校に、この教室に来ていない。
彼女を見て四ヶ月が立ち誰も彼女のことを噂しなくなった頃にそんなウワサが急に流れた。
最初は誰もそのウワサには耳を傾けなかった。
ウワサの出所は三年生からだった。
だが、ある男子生徒の話から変わった。
その男子生徒は、デートの帰りに不思議な小道を見つけたという、そして、その小道に入ると謎のオッサンに出会いその後に更科雅を見て、更に彼女が消えるところを目撃したという。
それが更科雅の幽霊ではないのかという話が広がり。
そして、その話を聞いた人の中に同じ体験をした人がいたらしい。
そこからこのウワサはどんどん信憑性を増し、ウワサは拡大していく、現在一年生であるこの更科雅のクラスまで流れてきたのだ。
僕はそんな事どうでも良いと思いながら聞き流す。
しかし、嫌でも耳に記憶に入り込む。
僕は今でも更科雅との青春を想像しているのか。
隣の空席を見る。
入学式で見た、更科雅の綺麗な横顔が頭の中に現れる。
僕は少し焦りながらその空席から目をそらした。
正直に言うと、早く学校に来て欲しい。
彼女を狙っているという訳ではなくて、隣が居なくて寂しいのだ。
はぁ
ため息が自然と出る。
『お前は今でも淡い期待を抱いているんじゃないか』
頭の中で、声が響く。
『期待するだけ損だぜ』
声が響く。
誰かが前に僕に向かって言った言葉だ。
僕の胸にグサリと刺さる言葉が響く。
何度も僕の頭に響き続ける。
更科雅、彼女は不思議な空気を纏っていた。
僕の頭から彼女が離れない。
四ヶ月たった今でも僕は彼女の姿が頭から離れない。
気づいたら僕は、クラスメイトが話しているウワサに耳を傾けていた。
まだ僕は更科雅に、夢を抱いているらしい。
僕は願っているらしい彼女との青春を。
忘れられない、彼女の姿を。
僕は、ポケットからスマートフォンを出して指を動かす。
メモ帳には溜まりにたまった文章がある。
彼女のことを考えると色々と事が浮かぶのだ。
それをメモに残していたらいつの間にか自分でも把握できない量になっていた。
自分でも気持ち悪いという自覚はある。
はぁ
僕はため息を再び漏らした。
もう一度彼女に会いたい。
彼女と話したい。
キンコーン♪カンコーン♪
と鐘がなる。
今日も退屈で寂しい一日が始まっていく。
僕の隣の席は空席のまま。