夜中の悪魔騒ぎ(後編)
「ありがとう」は心に温もりを与え、笑顔は人を幸せにする素晴らしいものなのです。
若草が鷲掴みしてる悪魔は少女の姿をしており、黒い蝙蝠のような羽を生やしてドレスの様にフリルのついた黒色のゴスロリの洋服を身にまとっている。
「何なのよあんた!なんで悪魔のあたしの姿がわかるのよ!」
悪魔の少女は状況が呑み込めないらしくバタバタと手足をばたつかせて抵抗する。しかし、その言葉には少し恐怖が混じっているようだった。
周りの人はあっけにとられて静かに事の顛末を見守っている。
「反乱軍もここまで馬鹿になってたとは悪魔の恥を知れ!」
若草も背中に漆黒の『天使の様な翼』を顕現させる。そして、その翼を見た途端小悪魔の少女の顔はさらに恐怖に歪んでいく。
「ごめんなさいでした…」
若草が手を放し、小悪魔を床に落とすと小悪魔は地に頭をつけたまま土下座した。
「さて、と。洗いざらい話してもらおうか?」
「…はぃ」
それから小悪魔はぽつりぽつりと人間界にやってきた理由を説明した。
「じゃあお前は何も知らずにやらされてたって事なのか」
小悪魔によると反乱軍が大規模な中立区を保ってる若草に痺れを切らし、反乱軍の両親を持つこの小悪魔に作戦を実行させたらしい。時雨の占いでも確認したところ間違っていないとの事だった。何より驚きなのがこの小悪魔は中立勢の悪魔だったことだった。親が反乱軍にもかかわらず。
「さて、お前はどうしてほしい?」
若草は足元で土下座してる小悪魔に問う。小悪魔はおびえた声で一言ずつ話す。
「あ、あたしは人間の皆さんに迷惑を掛けました…どんな処遇でも抗いません…」
「はあ…逃がせって言ったなら即刻牢屋送りにしたところだが…まあいいさ、見逃してやる代わりに残りの悪魔退治に協力しろ」
「わ、かりました。ありがとございます…」
小悪魔は所々噛み、変な日本語になる。そして頭を上げた小悪魔はルウの後ろでおびえているゆうなの前まで行き、頭を下げた。
「辛い思いをさせてごめんなさい…」
小悪魔も歳は十そこらであろう、自分の子供に無理やり実行犯を押し付ける親に若草は激しい憤りを感じていた。
「正直に話してくれてありがとう。顔…あげて?もう、怒ってないから」
「うぅ…ありがとう…」
小悪魔は顔を涙でぐしゃぐしゃにして答える。自分に憑いていた悪魔を許せるゆうなもかなりの度量の持ち主と言えるだろう。
「いい子たちね…!」
「ですね…」
少女たちのやり取りを見ていたリリーと時雨は感極まって泣きそうだった。
「じゃ、みんなでご飯にしましょうか!ゆうなちゃんもえっとー、小悪魔ちゃんも今日は泊まっていきなさい」
「あ、あたしもいいの?悪魔なのに…皆さんに迷惑かけたのに…」
小悪魔が動揺してリリーに聞くとリリーはかがんで小悪魔を抱きしめて艶やかな黒髪を優しく撫でる。
「別に私は悪魔だからって差別しないわ?若くんだって悪魔だしね。そ、れ、に!素直な子は大歓迎よ」
リリーが小悪魔を放すとまた泣きだしそうになっていた。
「…あたし、悪魔のミアと言います。一晩よろしくお願いします」
「はい♪よろしくね!」
リリーが笑顔で返事をすると泣き顔だったミアにも少し笑顔が戻ってきた。
「ミアちゃん!一緒に…行きませんか?」
「…うん!!」
そんなミアに手を差し伸べたのはルウだった。同年代の子に手を差し伸べて貰ったことが初めてだったミアはそれが嬉しくて嬉しくて…
ぎゅっと両手でルウの手を取るのだった。
その日の夕飯はゆうなとミアも加えた八人での食事となった。
大皿に盛られた数々の料理に目をキラキラさせつつも遠慮してるのかミアはあまり食べていない様子だった。横に座っていた楓がそれに気づき、ミアの皿に沢山の料理を盛りつけてあげる。
「あっ…お皿…!」
「遠慮しなくて大丈夫だよ?何なら俺が毎回よそってあげてもいいしさ」
「あっあう…ありが、とう」
「どういたしまして」
照れながらもお皿を受け取り、おなかをきゅるきゅると可愛く鳴らすミアに楓も微笑みをこぼす。
それからはミアも大分肩の力が抜けてきた様で皆の会話を聞いて度々笑うことが増えて来た。話しはしないがその姿はとても楽しそうに見えたのだった。
夜、寝る時になって少女たち三人とも楓とルウの部屋で寝ることになった。
時雨が楓をジト目で疑っていたが、ルウが『楓がもし、ゆうなちゃん達に手を出したら楓は生きてないでしょうね!』とさらっと恐ろしいことを口走る様子に楓は引き気味だったが何故か時雨は納得したように頷くのだった。
というわけで、今部屋には普段使わない布団も敷いて二組の布団が並べられている。
「かえでー、ほんとに布団で寝なくていいんですか?」
「ルウだけならまだしも人様の子がいる布団じゃ寝られねえよ…」
「いいじゃないですか~!ほらっわたしの横空いてますよ?」
「いいから早く寝なー。明日悪魔退治に行かなきゃならないんだから」
「しかたないですねぇ…じゃ、寝ましょうか」
「うん、ルウちゃんおやすみ♪」
「おやすみ…なさい」
楓は布団の横で座布団を枕に雑魚寝である。首の高さが痛みに直結するので座布団での高さの調整がうまくいってないのか少し寝にくそうだ。
ミアは楓に近い方で寝ていたので布団から顔をひょこっと覗かせて小声で呟いた。
「ありがとうございました、楓さん」
眠りかけていた楓には聞こえなかったらしく、すうすうという寝息の返事が返ってくるだけだったのだがミアは嬉しそうに微笑んで目を閉じた。
深夜。寝始めてからおよそ四時間位だろうか、布団からもそもそとミアは這い出して股をむずむずさせている。
(うう…怖い…)
ミアは暗闇が大の苦手だった。実家に居たときも両親があまり家に居なかったのでお姉ちゃんについて行ってもらってたらしい。
(楓さん起こしたら怒るかな…でもっ、もうちょっとやばいかも…)
「楓さん、楓さん。起きてください」
「ん、んん?みあ?どうしたんだ?」
ゆさゆさと揺らすと楓はすぐに目を覚ましてくれて、覗き込んでいるミアの表情が恥ずかしそうなのを月明かりで確認した楓は何も言わずにトイレへと一緒に行ってくれるのだった。
そして、決壊寸前だったミアダムは事なきを得たのだった。
「悪魔なのに暗いのが怖いってやっぱりおかしい…?」
「そんなことないだろ。悪魔も人間も等しく生き物なんだから得意不得意があってもおかしくないだろ?」
(やっぱり、楓さんはお姉ちゃんと同じだ)
「ついてきてくれてありがとう…」
照れながらお礼を言うミアは楓の服の裾を摘まんで歩く。
「ミアはちゃんと『ありがとう』を言えて偉いな」
「お姉ちゃんがね、いつも言ってたの『何かをしてもらったらありがとうって言うんだよ』って。だからあたしはありがとうが好き。心がぽかぽかしてくるから」
「いいお姉ちゃんなんだな」
楓がそう返すとミアは急に立ち止まって楓の服の裾を引っ張る。
「ちょっと…お話がしたい、の。…だめ?」
「…いいよ、聞いてあげる」
二人して月明かりが照らす縁側に移動し、横に並んで腰をおろした。
月明かりに照らされたミアの表情は薄暗くてもわかるくらい赤みが増していた。
「ここは凄く居心地がいい。皆さんすっごく優しくて…楓さんも会ったばかりの私のお願いを聞いてくれたし」
「みんな笑ってるからじゃないかな」
「ふぇ?」
「笑顔ってさ人の心を温かくするんだよ。そしてそれは他人に伝染する。皆で笑ったら幸せな気持ちも、より大きくなるんだ」
「なるほど…」
そして、なかなか本題を切り出せずにいるミアに楓は助け船を出す。
「話したいことは他にあるんだろ?」
「っ…うん…聞いてくれる?」
楓が頷くとミアはぽつぽつと話し出した。
「あたしの家はさっきも言った通り両親が反乱軍に所属してて、家にほとんどいなかった。だから家ではいつもお姉ちゃんと一緒だったの」
「うん」
「あたしにとってお姉ちゃんは憧れで、お母さんよりお母さんの様な存在だった…でもあたしはお姉ちゃんと引き離された」
「引き離された?」
「反乱軍は数に物を言わして無理やり人間界を攻撃させる作戦を主に行ってるの。お姉ちゃんも私の様にお母さん達に人間界に送り出されていったの」
そこでミアが言葉に詰まってしまったので背中を優しくさすってあげる。
「お姉ちゃんは…お姉ちゃんはっ、戻ってこなかった!何日たっても!ううっ…反乱軍は中立側に捕まったら最後、監獄に閉じ込められて死ぬまで出てこられないの」
「もしかして、ミアが今回やってきたのって」
「うん、お母さん達に命令されたときは本当に嫌だった。だけど、もしかしたら捕まれば…監獄に行けばお姉ちゃんに会えるかもって…」
「でもだめだった…あの悪魔の人すっごく怖かったけど優しかった。だから監獄に行く気持ちが完全に折れちゃったの…やっぱり一人じゃ何もできないんだ、あたし…」
「別に一人でやることが偉いとも限らないぞ?」
「え?」
「人はな、ひとりじゃ生きられないんだよ。頼って、頼られて…支えあって生きてるんだ。俺だってルウが居なかったら今ここにはいないだろうしさ。だからさ、ミアも俺たちをもっと頼ってくれていいんだ。他にお姉さんの取り戻し方が無いか考えよ?」
「うう…やっぱり楓さんは優しい。ありがとう!」
お礼を言うミアはとても笑顔で希望の光りが差している様だった。
「じゃあ、戻ろうか」
「うん!」
ミアを連れて部屋に戻るとき楓は背後を振り返り、先ほどからそこで話を聞いていた人物にアイコンタクトを送った。
「楓め…気づいてやがったか。さて、無限監獄か…厄介だが人肌脱いでやりますか!」
小声で気合を入れた若草は羽を顕現して闇夜に吸い込まれるように消えていった。
翌朝、楓は目が覚めて薬を飲もうと体を起こそうとすると不意に体に優しい温もりを感じた。
「み、ミア?」
「くぅくぅ…」
楓に引っ付いて丸くなって寝ているのは布団を抜け出したミアだった。安心した様に眠るその寝顔は年相応の愛らしさがあり、楓も思わずミアの髪の毛を優しく撫でてしまう。
撫でている手に無意識に気づいたのか楓の手を掴むと口元に持っていき、人差し指をかぷりと咥えたのだ。
「み、ミア!?………なんだこれ、何か気持ちいい」
「かーえーでぇー?」
「ひぃっ!」
楓を見下ろしてるのは何者でもないルウだった。氷のように冷え切った目線を向けるルウに楓は思わず小さく悲鳴を上げる。
「ミアちゃん!起きてください!わたしの楓に手を出したなんて万死に値しますよ!?」
「重いわ!」
「ん…んん?んん!?ご、ごめんなさい楓さん」
「お、おはようミア」
ルウの声で目が覚めたらしいミアはすぐさま楓の指から口を離し、飛び退いた。
「す、すみません。夜は怖かったので…」
「いいよいいよ、何も怒ってないから」
「わたしは!怒ってるんですが!」
「ひ、ひぃっ…」
「楓はわたしのなんですぅ!」
そう言ってルウは楓の右腕に抱きついてミアに威嚇する。ミアはと言うと何故か物怖じせずに楓の左腕に抱きついた。
「あ、あたしだって楓さんのこと、す、好き…だもん!」
「「ええ!!?」」
驚きの発言にルウと楓は同時に驚きの声を上げる。
そしてしばらく睨み合いが続いた所でゆうなが目を覚ましたので一旦休戦となったのだった。
「どうしたの?」
「僕にもわかんないです…」
ミアとルウに両端を固められた楓に時雨が怪訝そうに聞くが当の本人も理解出来ていないようだった。
「そういえば、若草さんどうしたんですか?」
「あ、若くん?何か用事があるから出てるんだってー。悪魔退治は私たちだけでいきましょうか」
「リリーさん間違って悪魔浄化しないでくださいね?」
悠とリリーが今後の予定について話して朝御飯は終わったのだった。
「あんた、ミアの姉だな?」
無限牢獄に来た若草は牢屋の中で磔にされてる一人の女性に問いかける。
「み、ミア…」
「ちっ…魔力が尽きかけてるなこれは」
看守から預かった鍵で牢の扉を開くと中に入って女性の拘束を解く。
「ちょっとじっとしてろ」
「ミア………」
虚ろな目の女性に若草は自身の魔力を分け与えるのだった。
ゆうなの両親の悪魔は本当に呆気なく退治できた。
リリーの魔法が炸裂し、一瞬で悪魔をあぶり出して牢獄へとおくり飛ばしてしまったのだ。
ゆうなの両親もしばらく気を失っていたが目が覚めた時は無事、正気に戻っていた。
「皆さん本当にありがとうございました!」
「いいのよ〜♪また遊びに来てね!」
ゆうなと別れた一同は旅館への道を歩いていた。
「ミアちゃん…大丈夫?」
「ルウさん…うん。大丈夫…」
ミアの顔は傍から見ても分かるくらいに落ち込んでいた。
それもそうだろう、家に帰ったらまた反乱軍の親に使われるのが分かっているのだから。
楓はリリーの服の裾を軽く引っぱって注意を引く。
「どうしたの?楓くん」
「あの、リリーさん。勝手な話なんですけど…ミアが望むならミアを旅館に置いてあげる事って出来ませんか?」
「楓くん…」
リリーはミアの顔を見て納得したようで頷くと笑顔で答えた。
「そうだね!あのミアちゃんいい子だし、必要なら助けてあげようか」
「ありがとうございます、リリーさん」
「ふふっ、楓くんは優しいね」
「そんな事ないですよ…ミアはなんかほっとけなかったので」
「それが優しいねって言ってるんだよ〜」
リリーは嬉しそうに鼻歌を歌い出したので、楓も少し笑って安心した様な顔を見せる。
楓はミアが優しくてしっかりとした女の子だと分かったので見捨てる事が出来なかった。
それから事が動くのは早かった。
「おーい!みんなー!」
一同の背後から呼び止める声が聞こえ、振り返るとそこには若草とやつれた一人の女性が立っていた。
「お、ねぇちゃん?」
ミアはその女性をみて信じられないと言うふうに目を丸くする。
そして、その目にはどんどん涙が溢れていく。
「お姉ちゃん!!おねーちゃぁん!!」
「ミア!!良かった…無事で…」
「うわあああん!寂しかったよぉ!うぅっ…お姉ちゃん…」
「一人にしてごめんね…本当にごめんね…」
ミアはお姉さんに飛びついて大泣きしながら溢れ出る感情を吐き出した。
「これからどうするんだ?また反乱軍の親の元に帰るのか?」
若草はミア姉妹に問うとお姉さんはかなり迷っているようだった。
「もうミアを怖い目に会わせたくないので家には帰りません。これからは二人でどこか住める場所を探して…」
「ならうちに来ない?」
「え?」
リリーがかがみ込んで二人を旅館で住まないか誘う。
「いいんですか?」
「もちろん♪住み込みで働いてもらう事になるけど家とご飯の心配はしないでね」
「ほんとうに…ありがとうございます…!」
お姉さんは顔を覆って泣き崩れてしまった。安心で緊張が緩んだみたいだった。
ミアはお姉さんから離れて楓の元に近づくと楓に屈むように手で合図する。
楓が屈むとミアは楓の頬に小気味よい音を立ててキスをした。
「み、ミア…」
「悪魔のキスは主従の証。楓さんがリリーさんに言ってくれたんだよね?」
「見てたのか?」
「うん。ありがとう楓さん!」
ミアは一番の笑顔で「ありがとう」を口にする。
笑顔は人を幸せにする行為で感謝は心に温もりを与える。
ミアはこの瞬間、世界で一番心の優しい悪魔になったと言っても過言では無いだろう。
今回のミアの登場は急に決まったのですが、想像以上に心の優しい女の子になりました(笑)
「ありがとう」と「笑顔」をテーマにこの前後編を書き上げました。
僕も 「ありがとう」と「笑顔」を忘れずに今後の執筆を頑張りたいです。
追記 皆さんは誰が一番好きですか?次はそのキャラを元にしたストーリーを書いてみようと思いますので感想の方で教えてください♪




