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プロローグ

白い石造りの城壁に、鮮やかな青色の屋根。ここは、異世界を管理、統括している神界の城。その中の一室に城の外見に似つかわしくない畳が敷かれた和室。濃茶の家具で揃えられたその部屋の落ち着いた雰囲気の中に、ちゃぶ台に向かって茶を啜りながら座る老人の姿があった。


パアンッ!と勢い良く障子が開かれる。

「ラムネアさまぁ~!大変ですぅ~!」

突然飛び込んできた1人の女性。

まったりとした態度で、お茶を飲む老人───創世神ラムネアがコトリと湯飲みをテーブルに置いて不思議そうに見た。

「リーシアか。どうしたのじゃ?そんなに慌てて?」

異世界を管理、統括している総統括の部屋に慌てて入ってきたのは、第2異世界を管理している女神リーシアだ。

「第5異世界の住人が、30人単位の勇者召喚を行ったみたいなのです。ですが、魔法陣に住人が魔力を過剰に注ぎ込んだ為にマナが暴走しています!第5異世界を担当しているアネリアが現在押さえ込んではいますが、このままではアネリアが倒れてしまいます‼」


「やはり、やりおったか……。アネリアからは相談を受けていたんじゃ。神託も与えたが無理じゃったか。良いか?第1・3と6・8の安定した異世界担当の女神を呼ぶのじゃ。ワシは先に行く。勿論、リーシアも来ておくれ。第5異世界の被害を最小限に抑えるぞい!」

「っ……はい‼」

リーシアは部屋を出ると走り出し、すぐに念話で呼び出しをかける。

《異常事態発生!創世神ラムネア様からの通達です!異世界女神第1・3・6・8の女神達へ、第5異世界暴走しました!女神アネリアの元に集合です!》

リーシアは念話をすぐに切ると、全速力で第5異世界へ続く階段を昇るのだった。



「アネリア‼」

リーシアは第5異世界の管理塔の最上階にいる女性───アネリアに声をかけた。苦痛に耐えながら、神力を注いでいる姿はもう限界に近いようだが、既にラムネアが到着してアネリアのサポートをしている。

「ダメじゃ……!魔力が膨大すぎる!皆はまだか⁉」

「「「「到着しました!」」」」

残り4人の女神が到着。直ぐ様7人で一気に押さえ込む!

「アネリアはこれ以上はダメじゃ!後はワシらが何とかする!」

ラムネアの言葉を聞き、アネリアはその場にへたり込んだ。声も出せないくらいに疲弊している。

「女神たちよ、もう一息じゃ‼踏ん張れ‼」

「「「「「はい‼」」」」」

ラムネアの呼吸に合わせ、女神たちは一気に神力を注ぎ込んだ─────






第5異世界の制御に長い時間を使うことになったが、何とか押さえ込むことが出来た。しかし、4人の地球人を死なせてしまった。

「3人はアネリアの世界に送るとして……。問題は巻き込まれた娘じゃの……」

3人の肉体は少々欠陥が出来ているが、回復して準備できる。しかし、巻き込まれた娘の肉体は消えてしまった為、違う肉体を準備しなくてはならない。

「うん?」

魂に、パッと見ただけでは分からないくらいにうっすらとした細い糸が付いているのを、ラムネアが見付けた。

「何処に繋がっているんでしょう?」

リーシアが不思議そうに辿っていると、リーシアに向かって伸びている。……と言うよりはリーシアの世界に繋がっているようだ。

「これって……」

「ふむ。成る程のう。では、リーシアの世界に送るかの。その間は魂を休ませておこう」

ラムネアとリーシアはピンときた。無意識に呼び寄せるものがいる事に。

「では、肉体とお洋服は私に任せてください‼可愛いの用意します♪」

「うむ。ならばワシは武器と旅に必要な収納アイテムやアクセサリーを作成しよう。充分な準備と、それから地球の神に謝罪の連絡じゃ」

「はい!」

二人はそれぞれの時間を掛けて作成に取りかかった。


異世界に行くことを選んでくれることを信じて。巻き込まれた娘のために──────


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※








いつの間にか自分が佇んでいる真っ白い空間に、ショックを隠せない女性───遠宮鈴霞は辺りを見回している。


自分は先程までバス停にいたはずだ。何時ものように会社に行って、今日は珍しく定時で終わった。バス停に着き、明日は久し振りの休みだからまったり過ごそうと。

そんな事を考えながら、高校生が3人で仲良く話してるのを少し離れた場所からぼんやり見ていたのだ。

私にもあんな時期があった。18歳の夏、4人の友人達が姿を消すまでは。

友人達の飲み物を買いに、教室から出た瞬間だった。幾何学模様の魔法陣が出現し、魔法陣の外側にいた自分は何かに阻まれて中には行けず……4人の友人達は幾何学模様の魔法陣に飲み込まれて消え、一緒に行くことも、助ける事も出来なかった。

教師や友人達の親に説明しても信じてもらえないだろうと思い、どうすることも出来ず……ただ知らないと言うしかなかった。


あれから10年の月日が流れた。

そういった思いに耽っている時に、事件は起きたのだ。

バス停にハンドルを切り損なった車が結構なスピードで突っ込んで高校生3人を跳ね───それと同時に魔法陣が出現して高校生3人を飲み込んだのを見た。それに驚いて自分の方へ向かってきた車に気付かず、気付いたときには跳ねられた。───そこまでの記憶しかない。

自分は死んだのだろうか。


「……誰もいないなんて───誰かいませんか⁉」

────静寂。小さく溜め息をつき、鈴霞は考える。

まさか、自分の身に小説───ラノベの定番が降りかかったのでは?と。

確かに、ラノベは好んで読んでいる。気分転換になるからだ。こういう世界に行ってみたいなぁ程度に思ったことはあるが、まさか現実に起こるなんて。

少しずつ不安になりつつある自分。膝を抱えて座り込み、再び溜め息をついたところで声を掛けられた。


「─はい。こちらにいます」


鈴霞の後ろに気配。ハッとして勢い良く振り向いた先に────見目麗しい女性が静かに立っていた。


「遠宮鈴霞さん、ですね?私はこの異世界アークスライドを統括する女神でリーシアと申します。貴方は今回、別の異世界の勇者召喚に巻き込まれ、召喚の余波で死亡しました。申し訳有りません」


女神リーシアは鈴霞と呼ばれた女性に深々と頭を下げた。

「死亡しましたって……じゃあ私、地球に帰れないんですか?」


「鈴霞さんの肉体は消滅してしまったので……生き返りとしては帰れません。そのままだと、肉体と一緒に魂までもが消滅してしまうところでした。完全なこちらの不手際です、申し訳ありません。そういう状態でしたので、私の神界の者たち───貴方の世界の言葉を借りるならば、上司と部下ですね。その話し合いの結果、鈴霞さんに異世界アークスライドへ転生して頂こうと言う話になりました。地球の神にも謝罪致しました。地球の神は、貴方が異世界への転生を選ぶならば好条件で、と仰いました。選ばないときは、此方に魂を戻し、記憶を消した上で新しい命として輪廻転生させるから、貴女の意思を尊重してくれ、とも仰いました」

リーシアは淡々と説明。

鈴霞は呆然と聞くしか出来なかった。

だが、鈴霞に身寄りはいない。両親は高校生の時に事故で失った。近しい親類もいない。─────友人も。

「そんな……まぁ良いですよ。向こうに大した未練も有りませんし。あ、気になることと言えば、異世界へ転生する場合の私の記憶ってどうなりますか?」

ここで未来を選べるならば、と異世界へ行くことを選んだ。


「鈴霞さん、何だか随分軽い感じが……」


「そうですか?だって、こうなったものはどうしようも無いじゃないですか。肉体が無いんですよね?それに、地球に戻って記憶消されてまた赤ちゃんからやり直す……なんて、嫌ですから」


「そうですか……では、お答えします。────私の統括する世界に転生する条件として、記憶、地球で培ったスキルのうち実用性のあるスキルを持ったままの転生になります。この世界は剣と魔法の世界ですので、他に希望のスキル等を付与致します。先程も言いましたが、貴女の肉体は余波の影響で消えてしまいましたので、新たな器をこちらで準備致しました。ただ……」


「ただ?」


「条件として、私が管理している地上の森へと降りて頂きたいのです。魂と器を馴染ませるためです。それと、ナビゲーターを少しの間ですが置きますので、この世界の事を色々と学んで下さい」

神妙な面持ちのリーシアを見て、鈴霞はゆっくりと頷いた。

「……お願いします」

ペコリと鈴霞が頭を下げた。

「はい。では、まずスキルと魔法のリストをお見せします」


リーシアが出したのは……タブレット。

鈴霞は少し驚きながら受け取ると、画面を見た。

「まさか、タブレットとは」

「地球の神に融通していただきました。とても便利ですね。時間は充分ありますから、ゆっくり選んでくださいね」

その言葉を聞きながら、鈴霞はタブレットを覗き込んだ。


「色々あるんですね」

鈴霞がリストをスクロールさせながら、リーシアへ振り返る。

「はい。魔法に関しては、属性のみになります。希望が有れば、タップしておいてくださいね」

リーシアの言葉を聞きながら、鈴霞はスキルと魔法属性を決めていくのだった。




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