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#05 主人がキマイラアントに殺されて1年が過ぎました

〔迷宮の死神……ですか〕


 なんか悪者っぽいワードを聞いて勇者さま(笑)が反応した。


〔はい、噂ではこれまで3パーティーがソレと遭遇して全滅したとか〕


 やっと話を聞いてくれたとオークは嬉しそうにコクコクと頷く。


〔なんでもダントラチャンネルの掲示板では【刈り取るモノ】と呼ばれていて、

 正体は闇竜神が放ったダンジョンの死神だとかなんとか憶測が流れていて、

 ダンジョンのルールを破る不埒な冒険者の前に現れては裁きを下すとか……

 これまで迷宮の死神に狙われて、無事生還できた冒険者はいないそうです〕


 うわぁ、ものすごく都市伝説っぽい。

 たまに冒険者間で流行りますよね。そういうネット掲示板発の都市伝説。

 好いた男冒険者を付け狙って呪い殺す身長八尺のサキュバスの話とか。

 地図に載っていない馬車駅に迷い込んだ人が行方不明になった話とか。

 出てくるだけであらゆる悪霊が退散する神殿生まれのTさんの話とか。

 たぶん刈り取るモノというのもソレ関連の与太話ではないでしょうか。


「生きて帰った者がいないのになんで死神の情報が出回ってるんじゃろ?」


 リッチーさん、そこを冷静にツッコんじゃダメ。


〔初耳ですわね。どうせネットで流行っている作り話の類でしょ?〕

〔それにどんなヤツがやってきたって、勇者様がいればイチコロよ〕

〔もしそれが事実だったとしても、僕たちは止まるわけにはいかない〕


 案の定、オークの真面目な注意勧告は三人に一蹴されました。


〔ううっ、こないよね。まさか自分たちの前にはこないよね。ああ、でも……

 この人たちって【迷宮破壊者ダンジョンブレイカー】の称号持ちで前科凄いし、

 エンカウント条件は見事に揃ってるから……どうしよぉ……帰りたい……〕


迷宮破壊者ダンジョンブレイカーとは?」


「ダンジョンを見つけては無差別に破壊するのを好む愉快魔のことです。

 ひとたび目をつけられればダンジョン核を破壊せずにはいられない。

 ダンジョンマスターにとって天敵としかいいようのない厄介者ですね」


 困ったことに迷宮破壊者はダンジョンはすべて悪と断じて滅ぼす性分。

 凶悪なモンスターが生息してたり、迷い込んだ旅人や冒険者を食らったり、

 明らかに人間側の害になると冒険者ギルドに判断されたものだけでなく、

 安定した資源獲得が見込めて保護対象と認定される優良ダンジョンさえ、

 冒険者ギルドの制止を無視して破壊するのだから、ヒドイです ><


 最悪のタイプになると歴史的価値があって世界遺産に登録されたものさえ

 正義の名のもとにブッ壊すほどで、もう宗教テロリストの領域ですね。

 実際、そういうことをするのは神様への奉仕をこじらせた聖職者に多い。

 特に聖なる殺人鬼を排出する聖竜神派や、闇陣営はブッコロな光竜神派に。


〔そんなにおびえることはない。ボクたちには光竜神様の愛がついている。

 偉大なる太陽の光は、こんな木偶人形が徘徊する地下道なんかに負けない。

 ボクたちはダンジョンの暗闇を打ち消す光の使途! 正義の輝きなんだ!

 ダンジョンの核はこの先に必ずある。工事中のおかげで道はほぼ一直線、

 トラップもモンスターも設置されていない。天は正義に味方している。

 まさに願ったり叶ったりじゃないか。ボス部屋だけは油断できないけど、

 たとえどんな悪がやってこようと、光を信じれば決して負けはしない!〕


〔さすが勇者さまですわ。レベル十台には分からない次元の理論に脱帽です〕

〔さす勇! さす勇! なにもかもが規格外で胸がキュンキュンきちゃう!〕


「「うわぁ……」」


 あまりの香ばしさに、私とリッチーさんの声がハモりました。


 勇者さま(笑)のほうは逆にテンションが上がっているようですが、

 オークは事実かどうかも定かではない都市伝説に芯から怯えている様子。

 冒険者というのは縁起を担ぐ人種です。不安になるのも分かります。


〔……昨年にキマイラアントにやられたうちの旦那と同じフラグ立ててる……〕


 意外! それは未亡人ッ!


「キマイラアント……幻獣級のハイランクモンスターですな」

「あれ、ネットでネタキャラ扱いされてますけど普通に強いんですよねー」


 もうキマイラアントが出るというだけで冒険者から笑いが取れちゃうんで、

 シリアスタイプのダンマス界隈では召喚ダメ絶対ユニットの代表格だとか。


「リッチーさん、もうじき勇者一行が最終防衛ラインに到達します」

「助手くんはどうかね。できたら倉庫はあまり壊さないでほしいのぢゃが」


 ──善処するさ。やれやれだな。ボス部屋にオブジェクト置きすぎだろ──


 待ってましたとばかりに裏ボス部屋に待機している助手くんからの通信。


「助手くん、あと一分もしないうちに勇者一行が裏ボス部屋に侵入します」


 ──ああ、さっきから脳味噌あったかい会話が向こうから聞こえてんよ──


「身バレはNGなのでエンカウント前に闇の衣の装着をおねがいしますね」


 ──了解。どのみち第一形態は闇の衣で擬態ってのが俺のスタンスだ──


 助手くん状況を愉しんでるね。うんうん、そうだろうね。

 ああいう身も心もキラキラした勇者様って彼が一番キライなタイプだし。


 爽やかな好青年で、愛と正義と熱血で、正義バカの純粋真っ直ぐクンで、

 装備も邪悪を寄せ付けない光の鎧に、見て分かりやすい光輝く聖なる剣。

 うーむ、なんといいますか、もう物理的に眩しいくらいの陽キャラ。

 おまけに太鼓持ち役のヒロインを両手に花ではべらせるリア充モード。


 人間と少し価値観が違う竜族の私から見ても実にウザイ……

 ハーレム主人公は死すべし! 陽キャは滅ぶべし! リア充は爆発しろ!

 これはもう陰キャの助手くんが死刑判決を下すギルティの数え役満です。


 ギィィィィィッ……


 裏ボス部屋の扉が開かれ、ついに勇者一向と助手くんが遭遇する。


〔やはり現れましたわね! ダンジョンに棲み付く邪悪なる存在め!〕


 侵入して早々に僧侶が各耐性強化の光の祝福を発動させ──


〔鑑定発動! 見たところ闇の神の加護を受けた影騎士シャドゥナイトね!〕


 次に魔法使いが索敵魔法を使用して助手くんの正体を調査する。


〔影騎士……太陽の庇護を受ける人でありながら、誇り高き騎士でありながら、

 闇の力に溺れ、魔の虜に落ちた邪悪なる者。忌まわしき夜の私生児たち。

 嗚呼、ボクは悲しい。光に祝福された人間がここまで邪悪になれるなんて。

 ならば正そう。人が宿す原罪を浄化しよう。正義の名の元に光の裁きを!〕


 そんでもってラストに勇者さま(笑)が臭い芝居で〆る。


〔あれ?〕


 その中で、オークだけが冷静に状況を見ていた。


〔おかしいなぁ。ここの支配者ってたしかリッチーだったはずじゃ……〕


 ぞわり。


〔……あっ……〕


 そこまで言って、オークは豚耳をピンと立てた。


 ──クククッ クハハハッ ハーハハハハハッッッ!──


 出た! 助手くんの得意技! なんか大物っぽい三段笑い!


〔なにがおかしいんですの? 邪悪の使途よ!〕

〔その自信満々な笑いかた、顔は見えないのに凄くムカつく!〕


 ちなみに──

 勇者一向には助手くんの姿は外套を着た影人間に見えてます。

 正体隠しが大好きな魔王御用達のオーバーボディ『闇の衣』。

 この外套をまとうだけで全身が闇に染まり、ミステリアスに大変身。

 ステータス看破の魔法も誤作動させる効果もあるので機能美も抜群。

 突如現れた正体不明のエネミーを演じるには最高の装備といえます。


〔狂い人ですか。力に溺れて闇の陣営に堕ちた人間の悲しき末路ですね。

 ボクも騎士の端くれです。同胞のその邪なる醜態は見るに耐えません。

 この裂光勇者†クラゥド†が、この光剣にてあなたの罪を浄化します!〕


 ──浄化する? この俺を? 貴様風情が? たかが蛍火の分際で?──


 おもしろくってしかたがないと、助手くんはウワーハハハと高笑い。


 ──囀るなよ三下。俺を狂人と罵るお前が今一番キチってて滑稽だ──


〔ふざけるなッッッッ!〕


 煽りよる。

 さすがの勇者さま(笑)もこれにはカチンコチン。

 煽り熟練者の舌戦はすごい。下手な挑発スキルより効果テキメンです。


      ── Der bleiche Held, ──

     ── nicht bläst er es mehr; ──

     ── nicht stürmt er zur Jagd, ──

     ── zum Streite nicht mehr, ──

   ── noch wirbt er um wonnige Frauen. ──

     ── Eines wilden Ebers Beute: ──

    ── Siegfried, deinen toten Mann. ──


 そんな勇者一行へ向けて、助手君が異世界言語でなにかを唱えた。


〔これは……?〕

〔魔術詠唱では……ありませんね。詩を口ずさんでいるのでしょうか〕

〔でも、こんな言語は聞いた事もないわ。こいついったい何者なの?〕


 私もリッチーさんも勇者一行も誰も知らない未知の言語。

 だけど彼の放つ声のトーンから勇者を嘲笑してるのだけは分かった。


 ──骸と化した勇者は、もう角笛を吹くことも狩りに行くこともない♪

  戦の場に赴くこともなく、美しい女どもをはべらせることもない♪

  貴女の愛するジークフリートは♪ 大猪に逆に狩られてくたばった♪ 

  このうたは、哀れな竜殺しの勇者様の末路を綴った暗殺者の唄さ──


〔〔〔なッッッッ!?〕〕〕


 うわきっつい。わざわざ訳してあげてるのがまたいやらしい。

 これはお前の未来だといわんばかりな言動が勇者一行の心を逆撫でする。


 ──選びな三下。尻尾を巻いて逃げ帰るか、それともここでくたばるか──


 たぶんこれは最終勧告。向こうの返答次第で彼らの未来は両極端になる。

 助手くんってこれでなかなか甘いというか冒険者に優しいよね。

 煽ってバカにしつつ、逃げる時間と考える時間を与えてあげるんだもの。

 私だったら前口上が終わった瞬間に問答無用でブレスでコンガリだけどなぁ。


〔戯言を! 闇に満ちた邪悪を前にして、僕たちに撤退の選択はない!〕

〔そうですわ! わたくしたちはそんな言葉に惑わされませんわ!〕

〔あたしたちの勇者様は闇の誘惑なんかに騙されないんだから!〕


 ──相変わらずこのテの正義バカは聞く耳持たずの阿呆ばかりだな。

  おい三下、さんざんっぱら俺のことを邪悪呼ばわりしてくれたな。

  いいぜ。認めてやるよ。お前の尺度に合わせてあえて言ってやる──


 次に出す言葉は助手くんのキメ台詞。

 同時にそれは自分に敵対する存在へ送る無慈悲な死刑宣告。

 これまでこのセリフを聞いて無事で済んだ冒険者はいない。


       ── 俺は相当、邪悪だぜ? ──

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