表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/7

#04 頭が花畑でもいいじゃない。勇者さま(笑)だもの

 マスタールームに設置されている大型モニターに侵入者の姿が映っている。

 シーフと思われる獣人の少女が先頭に立ち、他三名の男女が後を追っている。

 銀ピカの鎧を着込んでいる青年が勇者で、その背後に二人の女子が並ぶ隊列。


 『←盗賊←勇者←僧侶&魔法使い』という斥候・前衛・後衛で構成される隊列。

 トラップの多いダンジョン探索で最も有効的とされる教科書的な編成ですね。


「リッチーさん、彼らの移動先にカメラをどんどん設置してください」

「うむ、第三層の通路に不可視型の邪眼を五箇所ほど設置しましたじゃ」


「上位種ですか? LPかなり喰いますので無理なさらないでくださいね」

「カカカカ……心配無用。ゴーレム自作のコスト削減で余裕はありますじゃ」


 回廊や部屋のあちこちに【邪眼イビルアイ】というモンスター型の監視装置を設置し、

 冒険者の動向を常に監視するのもダンジョンマスターの嗜みです。


 侵入者がどんな状況にいるか、何処まで進んだか、どう対処するかを見定め、

 行動を予測してモンスターを配置したり、不意打ちでトラップを発動したり、

 要所で宝箱を湧かせたりして報酬アメ危機ムチを使いこなせるようになれば、

 今日からあなたもLP稼ぎのコツを掴んだダンマス中級者。

 場当たり対処ででアワアワするダンマス初心者を無事に卒業です。


 練度を上げてダンマス中級に昇格すると千里眼スキルをLP購入可能になり、

 もっと精密かつ広範囲でダンジョンの状況を把握できるようになるのですが、

 デビューして半年目のリッチーさんは、さすがにまだそこまで達してない模様。


〔あのぉ、勇者さまぁ。もうそろそろ戻ったほうがいいとおもうんですよぉ〕


 ここで黙々と通路を進んでいた勇者さま御一行に異変が起きました。

 トラップ感知役としてパーティーの先頭にいるシーフが急にぼやいたのです。


〔ここ、どう見ても開発中区画ですよ。見つけた隠し扉にも『工事中』の札が

 貼り付けてあったじゃないですかぁ。これ以上先に進むのは危険ですよぉ〕


 豚獣人オークのシーフは、まだ年端もいかない女の子だった。

 ハイエルフなみに寿命が長い竜族じぶんの感覚だと計り辛いけど少女期の初期くらい。

 身体もアンコマッチョの多いオークにしては成熟しきっていない。

 オークとドワーフのメスといったら、でっぷりオカン体型が基本なのに。

 シーフだから体重管理に気を使っているのかもしれませんが、非常に細身。

 冒険者レベルは……あら、この子だけ16レベルで他の三人の半分以下だ。


「大陸東部でオークの冒険者は珍しいですな」

「ですね。コボルトやオークといった妖獣族は西方諸国が活動拠点ですし」


 妖獣族というのは神話の時代に魔界側の勢力についた獣人たちの総称で、

 ダークエルフやゴブリンら妖魔族と同じく一昔前はモンスター扱いでした。

 現在は近代化が進んで妖魔も妖獣も市民権を得て亜人族のカテゴリーに入り、

 まだまだ二等市民的な差別は受けるものの中央の都会でも姿をみかけます。


 社会的地位が低めの亜人たちが完全実力主義の世界である冒険者になるのは、

 珍しいことではありません。社会的な信用を保証してくれる冒険者ギルドに

 加入するのも、世間に蛮族扱いされがちなオーク族にはメリットでしょうし。


〔あのぉー、聞いてます? これ明らかに迷宮探索者ダンジョントラベラーの禁則に抵触しますよ。

 冒険者ギルドも工事中の区画には入るなって警告してるじゃないですかぁ。

 成長や進化で拡張中のダンジョン区画は空間が不安定で極めて危険だって〕


 ええ、彼女の言うとおりです。一昔前はそういう仕様だったらしいですね。

 たとえば冒険者が回廊を通行中にいきなり通路を潰して生き埋めにしたり。

 逆にタイミングを合わせて湖や海の底から通路を拡張して水攻めにしたり。

 施設破壊コマンドを使って天井や床を広範囲で壊して崩壊トラップにしたり。

 そういったシステムの穴を使った裏技が一時期流行したことがあったそうで。


 もちろんハメ技すぎて冒険者から総スカンされたので仕様変更されました。

 とあるダンマス曰く『建築コマンドハメつよ過ぎww修正されるねwwww』。

 当然といえば当然の対応です。バグ技を野放しにする理由もありません。

 ダンジョンマスターと冒険者の戦いは公平でなければいけないのですから。


 なので現在は侵入者がいる状態での建築コマンドの使用は不可能。

 可能なのはユニットの設置コマンドのみという仕様になっています。


 最近、魔界と冒険者ギルドの間で交わされた協定では──

 もしダンジョンの拡張や改造を行いたいのであれば、まず冒険者ギルドに

 事前にメンテナンス告知をして冒険者が立ち入らないように手回しをし、

 かつ出入り口を封鎖してからメンテ予定日の通りに拡張作業を行うこと。

 また、冒険者も空気を読んでメンテナンス中の無粋な侵入は控えること。

 

 という形に落ち着き、マナーというか不文律という体で根付いたようです。

 冒険者としても完成していないダンジョンを走破したって恥ですものね。

 リッチーさんもそのあたりは分かっていて、裏ダンジョンの部分を閉鎖し、

 裏三層は完成まで常にメンテナンス状態として隠蔽していたようです。

 裏面へ繋がる出入り口を実装していないキーアイテム必須で隠しておけば、

 冒険者もうっかり入り込んだりはしないですからね。


 封鎖していた出入り口が勝手に開く不具合さえなければの話ですが……


 でも通常、工事中の立て看板を置いておけば冒険者は察するんですけどね。

 いつ崩落や落盤が起きてもおかしくない場と認識されている工事区画。

 そんなところにわざわざ生き埋めの危険を冒してまで入るバカはいません。


〔大丈夫だ。問題ない。なぜならボクたちは愛と正義の光の戦士なのだから。

 悪が支配するダンジョンがどれだけ危険でも、光竜神の愛が守ってくれる〕


〔さすがは勇者様です。その勇ましさはまさに万夫不当ですわ!〕


〔さす勇! さす勇!〕


 あ……

 ナルホド、納得しました。

 こういう目に見えて分かる【勇者さま(笑)】って、基本的にバカでした。

 それも正義バカと呼ばれる、流れも空気も読まない最も厄介な部類のようで。


「ふむ、あの不安げな様子からして、オークだけ一時的な雇われのようですな」

「シーフ職は固定型よりも雇われ型が多いですからね。私もそう思います」


 ええっと、オークのクラスはメインがレンジャーでサブがシーフ。

 レンジャーは森林や山岳を生息域にするオークに多い職業の選択ですね。

 南方の猫獣人と比べると鈍重ながら優秀な狩人の資質を持っています。


 え? オークといえばエルフや女騎士を捕まえて強姦する種族だろって?

 全然しませんよ。ファンタジーやメルヘンや薄い本じゃないんですから。

 意外と思われますがオークって意外と温和で清潔好きな種族なんですよ。

 むしろオークを毛嫌いするエルフのほうが民族主義で残忍なくらいで。


〔ダメだこいつら……はやくなんとかしないと……〕


 頭が御花畑な三人の中で、オークだけがヒシヒシと危機感を感じている。

 クラスが『レンジャー/シーフ』の冒険者は現実主義者リアリストが大半だそうです。

 シーフ職は常に冷静な状況分析が求められ、トラップ解除や敵感知などなど、

 パーティーを事前に危機から守るのが主になるのですからクールで当然です。

 

 その警戒役の意見を聞かないというのは冒険者として危機感がなさすぎ。

 よほど自分の腕に自信があるのか。無謀と慢心の精霊にでも愛されたか。

 勇者という人種はたまに無根拠な自信を持つことがあるから困り者です。


〔もぉ、みなさん。自分の話を真面目に聞いてくださいっ!〕


 勇ましき者と書いて【勇者】。

 それは勇気を力に変えられるヒーローの資質を備えた者が名乗れる称号。

 近年は職業として定着してしまいましたが、勇者とは本来そういうもの。


 助手くんは言ってました。

 ヒーローってのは自分で名乗りだしたらもう資格的にアウトなんだって。

 そもそも勇ましさっていうのは無謀と紙一重のところがあるんですよね。


 竜穴に入らずんば竜卵を得ず。

 されど身の程知らずで向こう見ずな匹夫の勇は我が身を滅ぼすのみ。

 これは竜のタマゴをパクって輸送するハンターさんの有難い教訓です


 彼らはさんざん竜族わたしたちに痛い目あわされてますからリアルです。

 まぁ、あれだいたい無精卵で孵化しないから守る意味ないんですけどね。

 でもやっぱ巣を土足で荒らされるのは癪にさわるので、きっちり襲います。

 ハンターさんも丸焦げのスリルがあったほうがやりがいありますもんね♪


〔勇者さんは知らないんですか? ここ最近、ダンジョンの掟を破る冒険者が

 あちこちの迷宮を彷徨う謎のエネミーに抹殺されているって噂があるんです。

 ダメですって。このまま行ったら目をつけられますよ。迷宮の死神に!!!〕


「は?」


 迷宮の死神?

 なんですかそれ? 私も知りませんよ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ