表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/7

#02 !!!警告!!! 迷宮の脆弱性が検知されました!

 大陸中央部にある王都から南東へ向けて馬車で半月あまりの場所。

 そこに大陸四大魔境のひとつ『死音の大湿地帯』は存在します。


 八大神の一柱にして死と暗黒を司る【闇竜神】の加護を受けるこの湿地帯は、

 無数に点在する毒の沼地、南方にある迷いの森に匹敵する自然の森林迷宮、

 悪疫や毒持ちの凶悪な自然系モンスター、沼地を彷徨う不死系モンスター、

 そういった『いかにも闇属性』な陰湿で厄介な環境が広がる未開の地。


 そんな見るからに暗黒地帯な場所ではありますが、少しマシな場所へ行くと

 闇竜神の従者である【深淵の聖女】がいる闇竜神殿という観光名所があり、

 定期的に八大神の神殿に参拝に向かう御遍路の修行者がそこに訪れるため、

 決して未到の魔境ではなかったりします。名物の暗黒饅頭も美味しいです。


 ですが、この地区は探検大好きな冒険者の挑戦率が極めて低い傾向。

 それはなぜかというと、現地入手資源の割の合わなさが理由になります。

 冒険者が冒険をする九割の理由が銭になるものの入手であることは常識。


 特殊素材装備の材料になるレアなモンスター。

 希少な薬品の材料になる特定区域にのみ生息する動植物。

 まだ採掘されていない鉱物資源、伐採されていない森林資源の発見。

 そして最後に手付かずで金銀財宝うっはうはの新規遺跡の発見と攻略! 


 冒険者ならば前人未到の地へ赴くならば必ずこれらの夢を抱きます。

 でも、この湿地帯に限ってはこれまでの調査で目立った成果はなくて。

 多少、この沼地でのみ生息できる珍しい動物や植物などが発見されたり、

 主に禁制品の毒薬や麻薬の素材になるものがあったりと一部の需要こそ

 生まれたものの、一般的な冒険者の心を満たすものはありませんでした。


 とにかく場所の危険性と敵の強さに比べ得られる報酬が釣りあわない。

 道を阻む毒の沼地や底なし沼、いつ侵されるかもしれない悪疫に猛毒、

 バッドステータスてんこもりの毒虫毒蛇毒蛭モンスターを蹴散らして、

 仲間に入れたそうにこっちを見ているアンデッドモンスターを越えて、

 ようやく辿り付いた場所が宝箱もない鉱脈もない所では泣きもします。


 しかしそんな場所だからこそ! ダンジョン物件としてはオススメ!


 冒険者すら忌諱する辺鄙な大湿地帯に新たに発見されたダンジョン。

 どうです? あなたが冒険者なら「なにかある!」と思うでしょう?

 探索心がくすぐられませんか? 好奇心が沸き立ちませんか?


 しかし土地柄でダンジョンにいたるまでの道中が難関。

 そこらの三下冒険者ではとても挑戦できない。集客数はかなり低い。

 でも、それは言い換えれば少数精鋭で稼ぎたいダンマスにオススメ。

 適度にデカいLPを稼ぎつつ、あまり侵入者の対処に気を使わず、

 のんびり本業に没頭できるスローライフなダンジョンを経営したい。


 そんな御要望をもとに私が建築アドバイスしたのが当物件。

 死音の大湿地帯の北東部にポツンとある【不死王ノーライフキング】のお住まいです。


 本日のお客さま──C級指定『傀儡師の人形工房』のリッチーさん。


「カカカカカ……ようこそ……私の研究室へ……」


 おびただしい数の人形に埋め尽くされたマスタールームに彼はいた。

 ボロ布のようなローブを身を包んだ骨と皮だけの異形のヒトガタ。

 眼球のない眼窩からは鬼火のような紅い眼光がゆらりゆらりと輝き、

 全身からは触れる者の生気を蝕む邪気が常に垂れ流されている。


 何処に出しても恥ずかしくないイメージ通りの不死の王。

 魔道を究め、死の理を越え、闇竜神に認められた不死者の最高クラス。

 リッチと書くと著作権の問題でいろいろあるのでリッチーと人は呼ぶ。


「いきなりだがどうかね? この魔法少女どよめきマギナの出来は。

 裏ルートから取り寄せた異世界の書物のキャラを立体化してみたのだ。

 造形美・機能美・塗装その他を含めてかなりの自信作と自負しておる。

 異世界ではこういうのが人形使いの間で文化的に進化していると聞く。

 助手くんだったね。異世界からやってきたキミの意見が聞きたい」


 ただし、彼は人形オタクだった。

 その昔は大国でも有名な魔術師にして人形使いだったそうなんですが、

 時代の流れというか、異世界知識を取り込む過程でこじらせたというか、

 現在はダンジョンに引き篭もってフィギュアの原型師をやっています。


「悪くないんじゃないか? でも、スカートの下のつくりが若干テキトーで

 目の書き方のほうも実物と違ってて製作者のクセが出てるのが問題点だな。

 まぁ、こっちは二次元絵があまり発展してないから当然ちゃあ当然だが」


「ぬぬぬっ。やはりキミもそう思うか。ワシもまだまだ修行が足りんな。

 顔立ちの造形に服の下の部分のこだわりか……なかなかにして厳しい喃」


「真のフィギア好きをなめたらダメだぜ旦那。あいつらは下着とか見えない

 部分にこそこだわりまくる。シワとかラインとかな。手抜きはギルティ。

 そこのところは家のつくりにこだわる大工と同じ視点で考えなきゃダメだ」


「つまり市場に出すには及第点に達していないと」


「まだフィギア文化が発展途上なこの世界のレベルなら十分合格点なんだが、

 なまじ旦那のゴーレムづくりの腕が一級品なもんだから、どうしても過度な

 期待をしちまうし、俺の世界なみの造形技とクオリティを求めちまうのよ。

 研究が進んでクオリティ維持したまま等身大でゴーレム化したら最強だぜ。

 自分にベタ惚れしてくれる美少女オートマタとか人類永遠の夢だからな」


「そうそう、それだよキミ。ワシが傀儡師の道を目指したのもまさにそれよ。

 若き頃は国が誇る天才傀儡師ピグマリオンなどと呼ばれておったものだが、

 現実は人としての生の限界を迎えても造り上げたゴーレムは人型には遠く、

 不死の王になって百年が経過して尚、美少女オートマタの域は遠い彼方よ。

 異世界の人形知識に造詣の深い助手君に出会えて本当によかったと思う。

 キミに出会わなければ、死にぞこないに堕ちてなおドン詰まりだったろう」


「頼むぜ旦那。最近は自分を裏切らず甲斐甲斐しく尽くしてくれるヒロイン、

 美少女奴隷ものが流行だが、女奴隷が裏切らないなんて童貞の夢だしな。

 やっばり隷属ヒロインならオートマタに限る。俺はマルチで人生狂った」


「わかるぞ青年! 奴隷女を囲うなど下の下よ。むしろ奴隷は二度刺す!

 つうか生肉の女などいらん。やっぱり娶るならば美少女のゴーレムよ!

 だって自分の理想の造形にカスタムできて着せ替え自由なヒロインとか、

 このうえないロマンじゃもの! しかもこんなワシでも裏切らない!」


 互いにがっちり握手。ここに不死王と異世界人の奇妙な友情があった。


類友ポンヨウ!」

類友ポンヨウ!」


 ……なんだこれ。


「あの、人形つくりの話もいいんですが、ダンジョンのおはなしのほうも」


 道は違っても同じ造形職人のロマンの話題なんで口を挟みづらいです。


〔!警告! !警告! 攻略禁止区画への侵入者が第二防衛ラインを突破!〕


 突如、マスタールームに轟く警告音と緊急事態発生の赤ランプ。


〔至急最終防衛ラインにユニットの設置を求めます! !警告! !警告!〕


 これがマスタールームで鳴り響くということは、いよいよもってヤバイ。


 最終防衛ラインとは、すなわちダンジョン最奥のラスボス部屋のこと。

 これが鳴るとラスボス部屋にボスモンスターの設置を行わないといけない。

 そうしなければボス部屋に冒険者が踏み込んだ瞬間に防衛失敗が確定。


 ただの防衛失敗ならまだいい。多大な報酬を覇者に与えればいいだけ。

 未踏破ダンジョンという称号にこだわらない限りは痛手じゃない。


 でも最悪のケース、最奥に存在するダンジョン核を破壊されるのはNG。

 手塩にかけて造り上げたダンジョンが崩壊することになるのはマズイ。

 それはダンジョンマスターとしての資格と膨大な財産の喪失に繋がり、

 ときにマスター自身の死にすら繋がることがあります。


 通常、ダンジョン核は壊されないよう様々な隠蔽手段をとるものだけど、

 リッチーさんのダンジョン核はたぶん最奥で剥き出しの状態にあるはず。

 おまけに完成前の工事中に壊されたとなればダンジョンマスターとして

 末代までの恥クラスのやらかし。業界で特にあってはならない事態だ。


 それだけに今回のトラブル解決、失敗するわけにはいきません。


「っと、いかん。趣味の話に夢中になって今の危機的状況を忘れておった!」


 身に覚えがありすぎてツッコムにつっこめない。


「リッチーさん、緊急事態のため御挨拶は省きます。今回のトラブルの内容は、

 開くはずのない製作中の裏ダンジョンへの経路が解放されてしまったのと、

 偶然にそのルートを発見してしまった侵入者への対処でよろしいですね」


「それで間違いない。このダンジョンは表向き全三層の構造になっておって、

 のちのちに隠しダンジョンとして追加で三層を予定しておったのじゃが、

 まだ工事中で通路も雛形のままだというのに、三層のボス部屋に設定した

 裏ダンジョンへの入り口が解除条件もなしにに解放されてしまったのだ」


「となると裏ダンジョンは当然に冒険者の目に入らない工事中設定ですよね。

 なのに冒険者の目に入って侵入された。完全にシステムの不具合ですね」


「うむ、裏ダンジョンはまだマップ構想中で、工事もほとんど進んどらん。

 罠もモンスターもサンプルすら配置しておらず、道もほぼ一直線じゃ。

 となるとあと二つの防衛ラインを突破されたらボス部屋に……あわわわ」


 この狼狽ぶりかたから察するに。


「もしかして裏ダンジョンのボス部屋、工事段階の無解放状態で冒険者がまだ

 入ってこれない仕様をいいことに、ていのいい倉庫とかになってません?」


「なぜバレた!?」


「やっぱり……」


 そういうダンジョンマスターのかたって多いんですよね。

 ボス部屋って広くて便利だし。


「さすがだ喃。その通りあそこはわし研究の研究成果が詰まった大倉庫よ。

 どうにもマスタールームは狭すぎてな。一時的な倉庫にしておったんじゃ。

 もしそこを荒らされたら……わしの傀儡師としての数百年の研究の数々が……」


 うん、御自身の研究成果を根こそぎ冒険者に奪われて換金されますね。


「しかもバンピーの冒険者が美少女フィギアなんて見つけてもポイ捨てだし、

 不死の王が女の子のおにんぎょうごっこしてたとか吹聴される地獄が……」


「いやじゃあああああ! ワシの傑作群がゴミ扱いとかいやじゃああああ!

 それに美少女フィギアは人形ごっこではない! 文化だ! 浪漫じゃ!」


 助手くん、煽らないの。ほら、リッチーさん頭を抱えて嘆いてますよ。


「さらに資料として集めていた数々の異世界の薄い本が白日の下に」


「ヒィィィィィィッッ」


 隠していたえっちな本を母親に発見された男の子ですかあなたたちは。


「ご安心くださいリッチーさん。そのための私たちですから」


 そう、ダンジョンのトラブル解決はダンジョンコンサルタントにお任せ。


「低レベルでも楽して強敵を倒してデカく稼げる冒険が存在しないように、

 安心で安定したダンジョン経営なんてものはこの世には存在しません。

 ダンジョンマスターは敵は侵入者である冒険者たちだけではありません。

 ダンジョンで発生する様々なトラブルにアクシデントに不具合にバグ!

 ときに神の尖兵である勇者よりも厄介になるといわれるシステム問題。

 それらに対処して解決して、ダンジョンマスターのみなさんのよりよい

 ダンジョン運営の一助となるのが、私どもの使命であるのです!」


 私の名はファフナー。

 この魔界でも二人しか存在しないダンジョン建築士特級資格者。

 他人の造ったダンジョンの中枢に介入する資格を持つ迷宮の裏大工!

 私の腕をもってすれば、この程度の不具合なんてちょちょいのちょい。


 あとの問題は侵入した害獣ゆうしゃの駆除だけど。


「助手くん、ぼちぼち最終防衛ラインのおしごとをよろしくね」

「わかってらぁな。手段とか加減とかはどうする?」


「一任するわ」

「やれやれだな」


 ダンジョンの維持補修は私の管轄で、暴関連は助手の管轄。


「そんじゃま」

「いっちょはじめるといたしますか♪」


 さぁ、『傀儡師の人形工房』のシステム不具合の調査開始です!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ