プロローグ
深夜、、、
灯りが少なくなるこの時間帯は変質者や強盗の他に
「怪人」も現れる。しかし怪人の存在は証明されていない。ほんの一握りの目撃者がいるだけだ。
大概の人間は新手の変質者として捉えている。無論捕まえようという輩はいない。結局は噂の域を過ぎることはなかった。
現在午前2:00。バイト帰りの学生が疲れた体を引きずりながら家路についていた。一刻も早く布団に潜りたい、と考えている学生の背後に影が迫っていた。人間の形にしては歪な、しかし二本足でしっかりと直立している。
「怪人」だった。
音もなく忍び寄り学生に黒い両腕を伸ばした瞬間。
どごっ!
鈍い音と共に影は弾き飛ばされた。音に驚いた学生は振り向く、が。
ばさぁっ
翻すような音が聞こえた以外はそこには何もなかった。
歪な影は追う者から追われる者へと変わっていた。学生の背後へ迫る刹那に食らった一撃は影に火傷とも刺突ともつかない苦痛を与え、尚且つ体の一部分を完全に再起不能にしていた。
実際にその影響で足元がふらついている。それでも相手との距離をある程度はキープしている、、、、つもりだった。
数メートル先に何かが着地した。影の前を塞ぐかのように。
夜風でマントを靡かせ、爛々と光る目で歪な影を睨みつける。
その眼光に射竦められる影。動きが止まったのを認めると追跡者は素早く地を蹴った。そして右手を突き出した。
ジュワッと音を発てながら、右手に触れた影の体が一部溶けた。
「!!?」
声にならない悲鳴を上げる影。
溶けた部分が削げ落ちる。
逆上した影は反撃に出た。口らしきものを大袈裟に開いたかと思えば、そこから火炎を放った。
猛火が一瞬闇を払う。追跡者は慌てた様子も見せずに、ただマントで我が身を包み込んだ。灼熱が襲いかかる。
ごぉっ!!
灼熱が納まったあとには何も残っていなかった。灰の一欠片も。
終わった、とばかりに一息つく影だったが、、、、終わっていなかった。
ブゥン
奇妙な音と共にそこに現れたのは黒いマント姿。燃え尽きてなどいなかったのだ。
狼狽する影に向かって追跡者は高々と跳躍した。
空中で追跡者は再びマントを掴んだ。ばさり、と翻すと一瞬でマントは形を変えた。引き締まるように細長くなったかと思うと、黒く輝く長槍となった。
呆然としている影の顔面とおぼしき所のど真ん中目がけて槍は放たれた。
槍は吸い込まれるように狙った場所を貫く。
今度は悲鳴すら上げられずに、影は倒れた。
無表情に影の死体を見下ろす追跡者。完全に死んだと判断したのか槍を引き抜く。
長槍が追跡者の手に戻ると一瞬で再びマントに戻った。
マントを着用すると追跡者は長居は無用とばかりに現場を去った。
後日のテレビや新聞ではあるニュースが小さく取り上げられた。
顔に大穴を開けて死んでいる真っ黒な猫が見つかった、と。