殻がないやつ
「伝票にサインを」
はいはい、と段ボールの山を見据えてSato、と書く。
中身は産地直送の野菜。
マスターも出かけているので、とりあえず倉庫に入れる。
「カラン、カラカラ」とドアを全力で開く音がすると、声が先に飛んでくる。
「段ボールすぐ開けてくれた?」
マスターが寝癖だか急いだのか分からない髪型で叫ぶのだから、びっくり。
「倉庫に入れましたよ?」
入れてから15分も経ってないので、私は何気なく答える。
でも、マスターは直ぐに店頭で選別しだした。
バス停に並ぶお年寄りたちは、露店販売かと興味津々に見、話のタネにしている。
幼稚園帰りの子供たちもマスターと私がキャベツをさばくのを興味津々に見ている。
「甘い匂いがします」
思わず顔をほころばせて上気した声で言ってみる。
「そうだよなぁ、うんうん。でも……」
「?」
首を上下してこたえるマスターだが、なにやら真面目な顔で「除湿剤(コーヒー豆を炒って時間が経ったもの)」を私に渡す。
「甘いものには出るから…… お嬢様方が苦手なヤツ」
私はやはり「?」としか答えられない。
「あみちゃん、目の前の『殻なしカタツムリ』に物凄いブラックコーヒーご馳走していいよ?」
その後、1時間の間にお灸をすえたようなものがが、結構な数出来上がった。
―― 数日後 ——
「お祭りバヤシ~♪ ??」
私は、鬱陶しい目で腐れ縁を見つめた。
「??」
青年は店の中のある場所を見ている。
出汁だから山車ときたか、とか突っ込んだら負けなのだろう。
「?? 新手の盛り塩??」
あの後、ネットで調べたら、コーヒーは直接振りかけないそうだが、もうすでにどうでもいい。
彼に忠告した。
「この店の結界壊すと、不幸になるよ」
それを聞いて頷きながら、
「君が言うと本音臭い」
柄にもなく彼は何やら考えていたようだった。