エピローグ
私は栞を置いて、思わずため息をついた。感嘆の意が籠る美しい称賛のため息だ。
とある話、とある人の物語。本当に本当にちっぽけで、弱くて意気地のない男の子の恋の話。ドキドキする展開はなかった。見惚れるような文章力は無かった。だけど、私は思わず感嘆してしまう。
物語の最後には、空白の頁が残されていた。彼の物語は初恋の女の子を置いていってしまったところで終わっている。
——いいや。終わっていないのだ。未だに。
空白の頁、挟まれぬ栞。物悲しげな書体の著者名は「ロクデナシ」とある。
一体今、彼はどうしたいのだろう。そして私は何が言いたいのだろう。この空白は、頭が真っ白なこの本は、未来の見えぬ霧は、一体何を隠しているのだろう。
そんなまだ見ぬ先、そして空白の最後に刻まれたFinの文字。私はそれに感嘆した。
彼は彼にしか選べない。彼は彼にしか決められない。
私は私でさえ見えない。私は私ですら決められない。
それでも。人生の読者だったとしたら、なんと感想を述べるだろうか。
私はペンを取り出して、空白の霧を裂くようにインクを走らせる。
人はみんな死ぬ。だけど、それが次の瞬間かもしれないことに、貴方は気づいていますか?
今すぐ死ぬと思って、生きてみよう。
永遠に生きると思って、楽しんで死のう。
気づけば、後ろに彼がいた。
そして手を差し出して、不器用に笑った。
初恋をありがとう、と。