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罰苦逆門

作者: 菓子パン

 ころ、ころ、ころり。

 運命のダイスは今日も舞う。


 ポイントからポイントへの人生。それが私の送り方。でもそうやって、ラインに乗れないこの私は、同年代からなる集団にはいられないものなのでしょうか。

 流れを無視するこのことが、正当に悪だというのなら、私は気にせず従いましょう。正当な罰です。文句のつけようもない。

 しかし違うというのなら、抗いますよ全力で。

 それが自由というものです。自由バンザイ。


 高校に上がって初めての長期休暇。つまり夏休み。

 に、入る前に私たち『JK』とかいう人種はやっておかなければいけないことがあったらしい。

 LINEの交換。たかだかソーシャルアプリ一つで、なにをそんなに気張らないといけないのでしょう? ともかく、交換をして、クラスのグループだとかに入らないといけないのでした。

 ええ、クラスのやつくらいは入りましたが、そこには次のステージがあったのです。お気に入りの子達でのグループです。存在は薄々感じれますが、決して漏洩させてはならない秘密の……というと言い過ぎかもしれませんが、機密性の高い、半分蠱毒のようなグループです。蠱毒も言い過ぎでしょうか? なんにせよ、気持ちのいいものではありませんでした。

 残念なことに、私はスマホを最近の若者の例に漏れず持っていましたし、自分で言うのもなんですが、見てくれはまあまあよろしかったので、そういうのに誘われました。

 最初は、わあ、誘ってくれるなんて、素敵な人たちだなぁ、と暢気に思っておりましたが、どうも中に入ってからわかったのは、そこは誹謗中傷の巣窟だったということ。それにそのグループ内で誰かと誰かが対立でもしようものなら、その片方を抜いたグループの申請が二件、つまり二人分の悪口特化の儀式場が出来上がり、というわけです。

 気持ちが悪くて仕方がありませんでした。今に思えば、きっと私抜きのやつもあったのでしょうかと。

 自分から抜けてやりましたよ。ええ、もう一斉に。

 翌日から私はめでたく異物となりました。表向きは普通ですがね。

 蠱毒から抜けて、孤独に入りました。

 つまらない冗談にもなりませんでした。


「あの子ってさぁ~」

「あー、超わかるー! ほんっと意味わかんないよね~」

「ま、いいんじゃない? 自分から行ったんだしー」

 ねー! きゃははははは……。

 はっきり言えばよろしいことを。男子に聞こえないように、けど私には聞こえるように。

 あれを言ってる三人も裏ではどうせアホの団でしょうに。いけしゃあしゃあとまるで「自分たちは仲良しだよ?」みたいな空気であの子(=私)を刳り貫きます。ほかの女子だって厄介事(=やはり私)にはあまり近寄りません。女友達皆無じゃないですか……。

 だからって、男に友達いますか? と問われれば、いません。そう答えざるを得ない人間関係の中です。部活にでも入っていれば、そこで仲間というものでもできたのでしょうか? 多分できたとしてもこれらと本質的には変わらないと思います。やはり嫌気は差していたでしょうね。推論に過ぎませんが、裏付けはあるも同然です。ちなみに委員会にはいましたが、あそこは集まりがそんなにないので関係も希薄でした。

 そして、見てくれはまあまあです。意外とこれが大事だったようで。男子に友達はいませんが、扱いは悪くありません。バカの団と馬鹿騒ぎすることがないので、自分でいうのはむずがゆいですが『高嶺の花』という感じに見られています。

 勿論、私だって男女の機微というものくらいわかります。自分がそんなに魅力があるかと言われれば、首をかしげるばかりですが。

 まあしかし、『高嶺の花』ということは、今度は男子も接しづらいらしく(男子間での牽制などあったようです。もしくは恥ずかしかったのでありましょうか。)結局クラスではぽつんといます。ザ・孤独です。

 しかしまたそのおかげで女子は私を排斥し切ることはできず、一番面倒な『あいつなんかボッチらしいぞ』みたいな空気くらいで済んでいます。いえ、済ませたくはないですが。クラス、というより学校にいれないよりはマシです。

 

 ある日、唐突に私の学校生活のターニングポイントとなる出来事が起こりました。まさか備えなどしてようはずもありません。毎日はダイスによる導きのように予想がつきません。と常々思っているのですが、変わっていますかね? 多分普通です。あの蠱毒野郎共より全然マシです。あ、野郎はさすがに可哀想だし、言葉遣いも汚いので、蠱毒のお嬢様方、とでもしておきましょう。

 それで、私に起こったことというのは……一目惚れです。きゃー、恥ずかしい。

 私にもそんな感情あったんだなぁ、ってびっくりしました。それに、そのときの心臓ほどうるさかったものはありません。

 惚れた相手は、サラサラの髪で、あ、ちょっと長髪気味で、顔もいいし、優しいし、えーっと、まあ、私の凡庸な表現力ではこれぐらいが限界でした。ともかく、王子と呼ぶにふさわしいかと思いました。ので、私はその王子のことをそれとなく目で追ったりするようになりました。

 そんなとーっても理想的な王子様には、彼女がいるとかそういう噂も聞かず(無論、盗み聞きです)ますます私はいいんじゃないかと思いました。どうも私は狭量なようでして、王子様が誰かの彼氏だったかもしれないとは、考えたくもなかったのでして、そういう意味でもまた理想的でした。

 そうそう、一目惚れとはいっても、きっかけはありますよ。さすがに自分の恋愛感情の存在を疑っていたような私が、本当に見ただけでそんな想いを抱いたりはしないのです。

 その王子様はもとよりその存在自体は知っておりました。特に意識をしてなかっただけ、というやつですね。同じ委員会に所属しながらも、他学年でありませば、どうしたってやはり、関係などないも同然です。じゃあ、同学年の人たちはというと……女子の口周りの早さといったら目を見張るばかりでして、まあつまりはどうしようもない部分もあったのでしょう。ですが、委員会の仕事は割合多く、何も分からず一人でやるには少し荷が勝ちそうなものでした。

 そこで、委員会でもボッチを敢行しようとしていた私に声をかけてくれたのが、王子様だったわけです。

「君、一人で仕事するの大変じゃない? 手伝おうか?」

 ――最初は、まさか先輩に(しかも男の人に)声をかけられるなんて想定もしていないですので、応える際に少し噛んでしまいました。少しですよ。

「ひゃ、あ、はい。えーっとでも、大丈夫ですよ?」

「大丈夫です。って、何が大丈夫なのさ」

 疑問を孕んだ声で返せば、打ち返しのように言葉を挟まれ、あははと笑われてしまいました。

「他の子は組んでやってるよ。君は……どうしたことか組みづらそうにしてるから、僕と組んでやろうよ」

 それから王子様……ここでは先輩として、先輩は本当にしっかりと私に仕事を教えてくれました。

 それで私は惚れて、そんなことで私の中で、先輩は王子様になったのです。なってしまったのです。

 私の頭の中にも、吊り橋効果とか、えっと多分ほかにも色々ある恋愛絡みの○○効果というやつが浮かんでは消えて。結局、ただ単純に、恋というものを知らない生娘が、圧倒的な嵐の中に置かれて蹲っているとき、少しでもこちらに手を伸ばしてくれる太陽を見たら。

 そんなの惚れるに決まってます。


 けれども前途は多難なのです。そもそも先輩ですから、単純に会いません。高校ですし、校舎も広いですし。中学と大体同じ感覚で、先輩を目にするかと思うのは甘い想定だったようです。

 恋をすれば表情というものは変わってくるものなのでしょうか。私について、女子からは(というよりあのお嬢様方から)面白くなさそうな『なに、高校生活満喫してます。みたいになってんの』といった感じの噂が。男子からは、何か前より更に可愛くなった気がする(王子様から以外の評など、酷なようですが、どうでもいい、のですけれど)などの噂が。聞こえてきました。

 やはり面白くないのは、私をハブにしている女子たちです。そりゃそうでしょうね、叩く対象が知らん場所で勝手に飛び出ようとしているのですから。まあ、想像できなくもありません。

 そして、さすがは私の王子様。おっと、まだ『私の』ではありませんが、王子様は魅力的です。……それが他の女子たちにも分かる程に。 

 

 一体、どこから嗅ぎつけたのか、クラスの女子に、私が王子様をお慕いしていることがバレてしまいました。どうしてでしょうね。ある意味こういうことに、一番なりにくい処に私はいたはずなのですが。どうもクラスの女子にも王子様に憧れる、まあまあ違いのわかる人もいたようでして――恋敵でなければ、よい友達になれたかもしれません――その人がいたこともあって、火の回りはなかなかに早く、そして女子たちはこれ幸いに、私を中傷できるようになったのです。男子は『好きな人(しかも先輩)がいるらしい、元・高嶺の花』の人間をかばいはしませんでした。というよりは、興味を失った感じですね。私は首をかしげながらも、自分の人気を少し勘違いしていたようです。所詮は薄氷の上でのダンス。いつ落ちてもおかしくありませんでした。少し幸いだったのは、だからって王子様に私の想いは人伝いにバレることはなかったということだけですかね。

 まあでも、ただの孤独から、蠱毒出身の棘ましのお嬢さん方に、いじめられることとなったわけです。


 どのくらい、そのいじめが苛烈だったかは、正直よくわかりません。というより、もとより孤独にさせられていたのですから、それにちょっと付け加わったところで、痒い、くらいのもの。興味を失ったといえども、男子が引くようなひどいものはしませんし、直接的なものもできません。案外「こんなものですか」と、少し舐めてかかるようになりました。

 しかし、精神的なものにかけては、彼女らは上手でした。いえ、私の耐性がなかっただけでしょうか。

 私は、彼女らの、

「あの子じゃ、あの人(=王子様)に相応しくないよねー」

「ほんっと! 何様なんだろうね!」

「ばっかじゃないの? 何ならあたしらの方がよくない?」

「わかるー! じゃあ誰か告ってくる?」

 キャハ、キャハハハハハハ――

 気が狂いそうでした。そんな穢れたお前たちが、あの人のことを口にするな。私に関して何を言える? よく考えたら、私が何をしたっていうのです。ただLINEのグループ抜けただけじゃないですか。トントン、と。それの何が悪いというのです。どうしてこう、バツのように色々と言われなければいけないのです。いくらなんでもあんまりです。下らなさ過ぎます。

 なぜこの理不尽に私が堪えなければならないのでしょう。そこです、そこの認識を間違えていたのです。

 こんなことで『私』が脅かされるなんて。こんなことに屈する必要はないのです。

 立ち向かおう。

 それで、王子様のもとに行って、結ばれてやって。

 あいつらの鼻先に叩きつけるのだ、私の怒りを。あっかんべー、ですよ。

 

「少し、話が」

 とりあえず奴らの内の誰かに話しかけます。応えた奴が、とりあえずのリーダー格でしょう。

「何? こっちには話なんてないんだけど?」

 上からなのは気に食いませんが、声が少し震えていますね。今まで動かなかった私が来たのですから、ちょいと身構えた。そのくらいの警戒度ですかね。まだ。

「ここじゃなんなので、食堂にでもお願いします」

「……いーよ。行こう」

 あっさりです。呼ぶのでひと悶着目があると思っていたので、少し拍子抜けです。


「……で、話って?」

 不機嫌さを隠さずに聞いてきます。機嫌悪くなりたいのはこっちなのですが。けど、他のを連れてこなかったところから察するに、あの中でまた何かあってこの人も不機嫌なのかもしれません。大変ですね。私まだ何もしてないのに。

「私をくだらないことでハブるのはやめてください。迷惑です。疲れます。何でそんなくだらないことするんです?」

 まあまずは、私の件から。

「……自分からグループ抜けといて何言ってんの? 私らだっていつだって仲良しこよしじゃないけど、ちゃんとグループっていう防波堤つくって置いといたのに、無視して傷つく側になったのはそっちでしょ?」

 ――ああ、さすがは立派なお嬢様方。なるほどどうしたって私が『悪』なのでしょう。自分たちだって我慢するルールの中で我慢してるんだから、守んなかったお前が悪い。と、いったところでしょうか。

 ……全くもって、くだらない。結局そんなどうでもいいことですか。

 なら、私も最初から無視すれば良かったのですね。こんな無駄なルールなんか。

 それで自由にしていれば、彼女たちとまあまあな付き合いを出来ていたかもしれません。知らなければ、別に追求されることもないことでした。本当に。

「……はぁ。言いたいことはわかりました」

 嘆息しながらそう言うと、食ってかかるように、

「何!? なんなのその態度――」

 吠えてきますが、でも、

「うるさいですよ。もう私についてのことはいいのです。後は、あの人について何も言わなければ、それでいいです。何も不満はありません」

 割り込んで言ってあげます。あの人、については察しがついたのでしょうし、そのまま怯まず泰然としている私を見て、何か言うのは諦めたようで。

 きっ! っとひと睨みして、帰って行きました。 

 一応、解決ということにしておきましょう。

 本番は、これからなのです。


「来てくださって、ありがとうございます、先輩」

 最後の試練、王子様への告白。

 必ず掴んでみせるという意気込みで来ましたが、ヤバイです。見るだけでもクラクラします。こんなに重症でしたっけ。

「んー、何の用かな?」

 さすがに王子様は自然体です、緊張もしてないようです。……ちょっとは緊張というかなんというか、してくれていたら期待が持てそうなものですが……。大丈夫でしょうか。

「あの――」

 

 そこで何を言ったか、私は覚えていません。何があったかも。

 でも、

「今日はどうする?」

 私の王子様は、横を歩いてくれています。ともに歩んでくれています。

 私の完全勝利です。ざまあみなさいということです。おっと、汚い言葉ですかね。なおしましょう。


 さよなら、苦い苦いバックギャモン。ゾロ目の晩にゴールして、私は次へ進みます。

 運命のダイスももう卒業して。

 次は、幸せ家族計画のある人生ゲームにでも移りましょう。

 今度は運命のルーレットですかね。








 

                        


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