第4話:歌いはじめたるい
「さぁ!着いたよ。お待たせ」
和子はコンパクトカーのサイドブレーキをギギッと引きながら、元気いっぱいな声で言った。
家に入ると、テーブルに伯父の太一がニコニコしながら座っていた。
「いやぁ!るいちゃん!いらっしゃい。さぁさぁ早くここに座んなよ!」
太一はせわしない声で言った。いつでもこの調子で、聞いている相手がきぜわしくなるので、いとこのカスミは、父のことを今ひとつ好きになれないでいた。そんなことから、るいが父親とすごく仲良くしているのを、昔からとても羨ましくも思っていたのだった。
「さぁ!食べて!食べて!お腹空いたでしょう。」
あっという間にエプロン姿になった和子が言った。
「わぁー!スゴいごちそう!いただきまーす!」
るいは元気に料理を食べはじめた。
「うーん、おーいしい!」
「相変わらず小さな体に似合わずよく食べるね。」
カスミがニヤニヤしながら言った。
「ところで歌はずっと続けてるの?ほら、たくさん曲作ってるって言ってたじゃない。」
和子は興味深そうな表情でたずねた。
「うん、ずっと歌ってたけど、父ちゃんの一件があってからは歌ってないんだ。やっぱりそういう気分になれなくて・・・」
るいは少し伏し目がちで言った。声には心なしか力がない。
「そりゃあ無理もないよ。家庭に何かありゃ、思い切り歌えないさ」
「うん。でも今日は何だか歌えそうな気がする。久しぶりに東京に出てきたし、カスミや伯父さん伯母さんにも会えたから」
少し無理をして明るい声を出したるいだが、声に出して宣言することで自分自身にも言い聞かせようとしたのだ。
「わぁ!聞きたい!聞きたい!久しぶりにるいちゃんの歌。だってもう何年も聞いてないよ私」
るいのひとことで、小さな部屋の雰囲気が一気に明るくなった。
「じゃカスミの部屋で聞きましょう。あそこならピアノもあるし」
和子が待ちきれない様子で言った。
「ちょっと待って!今日って土曜日でしょ?近くのライブハウスが飛び入りOKの日よ!ほら、お母さん、このあいだ勇次がライブした店、覚えてるでしょ?あそこに行こうよ!どうせならいい音で聞きたいよ、るいちゃんの歌」 カスミが目を輝かせながら言った。
「でもカスミ、そんな急に言ったらるいちゃんだって・・・なぁ!心構えってものがあるだろうよ」
心配そうにるいの表情を見ながら、太一はカスミにそう言った。
「何言ってんの!急に歌うからこそ飛び入りなんじゃない。それにるいちゃんはたくさんステージ経験あるから大丈夫なの!」 カスミに強引に誘われた形ではあったが、るいは表情こそ苦笑いを浮かべていたが、胸の中はワクワクした気持ちでいっぱいだった。 にぎやかに夕食を終えると、全員で車に乗り込み、カスミが言うライブハウスへと向かった。