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たとえば、僕たちが  作者: 滝沢美月
first half
7/28

7.気になる存在 side佑真



 甘酸っぱい柑橘系の香りがして、ふっと彼女の泣き顔を思い出した――

 居酒屋の薄暗い通路の壁に寄りかかるようにして手を置いて、声もなく静かに涙を流す姿が頭から離れなくて、ピリピリと痛いくらいの電流が心臓から全身に駆け抜けた。

 今まで女の子とは年相応に付き合ってきたけど、こんなふうに胸を震わされたことはなくて、女の子の泣き顔を綺麗だと思ったのもはじめてで、あの涙が忘れられなかった。

 浪江は彼女のことをよく学内で見かけると言っていたが、学部も違ければ学年も違うわけで、そんなしょっちゅう見かけるわけでもない。そう思いながらも、俺は校内を歩く時、無意識に彼女を探してしまっていた。

 一度、居酒屋で会っただけの、しかも話したとかそういうレベルでなく、ただ酔っているところに居合わせてトイレまで付き添っただけで、それまでまったく関わりがなくて名前すら知らない子なのに。

 まあ、名前と学部は浪江から聞いてすぐに知ることができたけど。

 文学部のユウちゃん、か……

 なんとなく気になる、それだけなんだ。

 でも、あれ以来学内で彼女の姿を見かけることはなく、実験も無事終わり、前期試験もあっという間に終わって七月も終わろうとしていた。

 バイトを終えて家に帰る途中、「これから出てこられるか?」と浪江から連絡があった。そういえば、試験前に今日の予定を聞かれた気がする。もう帰って飯食って寝ようかなって思ってただけで特に用事はないから、俺は「今から行く」と言い、指定された待ち合わせ場所に向かった。

 ――で、これはどういうことなのだろうか。

 俺は不快感を表情には出さずに、浪江に鋭い視線を向けた。

 浪江はそんな俺の視線に気づきながら、いつものちゃらちゃらした表情で気づかないふりをする。こういう時の浪江は、いくら睨んでも効果がないと長い付き合いで分かっているから、俺は諦めて内心ため息をついた。

 待ち合わせ場所にいわれた駅の改札前に行くと、サークルメンバーの浪江と城崎と近森がいて、そのほかに女子が三人いた。この状況を見れば、なんなのかすぐに分かるだろう。

 女子と無邪気な笑顔で話していた浪江が、俺の側に近寄ってくる。


「あともう一人女の子来るから。そしたらカラオケ行こうかって話になってるんだけど、いいよな?」

「飯食えれば、別にかまわないけど」


 俺はおざなりに答える。浪江は俺のそんな様子を気にするふうもなくまた女子の輪に戻っていった。

 女子三人と浪江と近森が和気あいあいと談笑するのをやや遠巻きに見ていたら、城崎が話しかけてきた。


「同じ大学の文学部だって」


 唐突な言葉に、首を動かして城崎を見る。城崎は眼鏡の奥の涼しげな眼差しを女子達に向けたまま続ける。


「学年は一つ下。モノトーンの服着てる子がうちの後輩らしい」


 そこまで言われて、浪江と話してる女子達のことを言ってるんだと分かる。

 浪江がかなり親しげに女子と話してるから、どんな知り合いなんだろうと考えていたのが顔に出ていたのかもしれない。

 ふーん、サークル繋がりの後輩とその友達ってことか。

 一人はフリフリの黒のミニスカートにこちらもフリフリの白のシャツにゴテゴテした飾りがついたゴスっぽいファッションのショートカットの女子。残りの二人は少し大人びた雰囲気で、イマドキの姉系のファッション。三人ともお洒落にすごく気を使っててそれぞれ特徴は違えど美人だ。

 もしかしたら彼女が来るかもしれないという考えが浮かぶ。

 彼女も文学部の一つ学年下で姉系ファッションだった。

 淡い期待が胸に広がっていった時、改札を出てきた女子がこっちに向かって小走りに駆けてきた。

 それは、緩いウェーブのかかった肩より少し短めの髪の黒縁眼鏡をかけた地味な女の子だった。


「遅くなってごめーん……」


 必死に走ってきた女子は、こちらを見て眼鏡の奥の瞳を驚きに大きく見開き、言葉尻がだんだんしぼんでいった。

 なんとなくその様子から、この子も俺達がいるって知らされないで呼ばれたんだろうなと思う。

 黒縁眼鏡の彼女は、やや低めの身長に水色の小花柄のサロペットを着ていて、どちらかといえば可愛い系だろうか。他の三人とは印象が違うせいで悪い意味で目立っていた。

 一番背の高い女子が何度もごめんねって頭を下げる黒縁眼鏡の子に詰め寄る。


「ユタカっ、どうせまた変なことに首突っ込んでたんでしょ」


 口調は厳しいが、嫌味というよりも姉のように心配しているのが伝わってきて、ちゃんと友人関係なのだとほっとしていた。




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