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たとえば、僕たちが  作者: 滝沢美月
second half
14/28

14.偶然の再会 side優



「お疲れさまでしたー」


 カフェレストランでのバイトを終えて、私は一つ下の階に降りた。

 バイト先のカフェレストランは郊外にある大きなショッピングモールの中に入っているお店で、そのショッピングモールをちょっとふらついてから帰ることにした。

 最近、お母さんの仕事の手伝いで部屋にこもっていることが多かったから、体を動かす意味と気分転換にウィンドショッピングでもしようということ。

 すでに季節は八月にうつり、じりじりと地面を焼くような日差しが照りつけて、家から駅までの数分の道のりを歩いただけで全身あせだくになってしまう。

 だけど、半袖やノースリーブでは外を歩けない。

 肌が弱いのか、この時期の日差しにちょっとでも当たると肌がヒリヒリしだしてすぐに真っ赤になってしまうし、頭痛がしてくる。

 だから、外に出る時はつば広帽子とUVカットの長袖パーカーと首に巻くストールが必需品。もちろん日焼け止めもばっちり塗っている。

 暑いから外に出たくないっていうのもあって、エアコンがきいて涼しいショッピングモール内をあてもなくふらふらと歩いた。

 洋服を見たり、雑貨屋さんをのぞいたりして一時間ぐらいぶらぶらしていた私は、CDショップにいてみようと思い立つ。

 夏休み直前、美笛ちゃんに誘われていったカラオケで知り合った山科先輩。

 あの後もいろいろ話して、好きな曲や歌手、映画なんかも好みがあって、話しているのが楽しくてあっという間に時間が経ってしまった。

 山科先輩が歌った曲が入っているJOKERのアルバムを貸してもらう約束もしたけど、とくにメールアドレスを教えあったりもしなかったから約束が現実となることはないだろう。

 同じ大学といっても学部が違うし校舎も広いから、文学部の私と理学部の山科先輩が大学の校舎で会うことはめったにないだろう。

 山科先輩の歌声をまた聴いてみたいと思う。秋にある大学祭のステージで歌うって言ってたから、絶対に聞きに行こうっ思ったくらい。

 それに話ももっとしてみたい。でも。

 そう考えた瞬間、カラオケの通路で抱きしめられたことを思い出してしまって、かぁーっと顔に熱が集まってくる。

 思い出してしまった光景を消すようにかぶりを振る。

 あれはどういうことだったんだろう……

 考えても分からない。

 あの時、私は自分のことで手一杯だったし、あの後の山科先輩もなんだか普通だったし。

 やめよう、山科先輩のことを考えるのは。

 あんな格好よくて歌もうまくて優しい山科先輩の側で、どきどきさせられっぱなしで。そんな自分にちょっと困っていた。

 あれは仕方がなかったことなのよ。不可抗力っていうか。女の子なら誰だってどきどきしちゃうよ。別に深い意味なんてないんだから。

 それに、もう会うこともないだろうし。

 そんなことを考えながら、私はJOKERのアルバムってどこらへんにあるんだろうとCDショップ内をうろうろ歩き回り、気がついたら店内を二周してた。

 やっぱり見つけられなくて、仕方なく視聴コーナーに向かう。

 ヘッドフォンをつけて、気になるCDを順番に聞いていく。

 最近、新曲のCDも全然買ってないから、なにか買いたいなぁ~。

 この前TVで見た韓流ドラマのサントラも気になってるんだよね。

 JOKERのアルバムもどこにあるんだろ~。

 そんなことを考えていたら、とんとんって肩をたたかれて振り返ると、隣の視聴コーナーのヘッドフォンを持った山科先輩が立っていた。

 山科先輩の形の良い唇が動いてなにか言ってることに気づいて、私は慌てて自分のヘッドフォンをはずす。


「山科先輩っ!」


 まさかこんなとこで会うとは思わなくて、ちょっと声が弾んでしまう。


「こんにちは、優さん。買い物?」

「はい、この上のレストラン街でバイトしててその帰りです」

「そうなんだ、俺はこの後バンドの練習」


 そう言って、肩紐を少し引っ張って背中のギターを見せてくれた。


「少し早めに出てCDショップに寄っていこうと思ったんだけど、優さんがいるから驚いたよ」

「私も驚きました。すごい偶然ですね」


 さっきは突然のことでビックリしたけど、このショッピングモールは大学の最寄駅の一つ隣の駅だから、うちの大学生でこのショッピングモールを利用する人は多い。だからそんなに驚くことでもなかったのかな。

 でも、広いショッピングモールの中で、この瞬間この場所で会うのはすごい確率だよね。


「CDショップにはよく来るの?」

「実はJOKERのアルバムを買おうと思って」

「それなら貸すって約束しなかったっけ、あっ……」


 不思議そうに首を傾げて言った山科先輩は、そこで何かに気づいたように言葉を切る。


「連絡先も知らないのに貸すもなにもないよな、気づかなくてごめん……」

「いえ、私も気づいていなかったので」


 今日ここに来るまでは。


「あー……、じゃあ、連絡先教えてくれる?」


 照れたように視線を天井に向けて戸惑いがちに尋ねられて、私は小さく頷いた。

 赤外線でお互いのアドレスを交換し合い、アドレスに山科先輩の名前が加わってなんだかむずむずっとする。

 ついこの間まではぜんぜん知らない人だったのに、いまこうして一緒にいるのが不思議なカンジ。




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