第二話
日本時間八月一三日午後九時、横浜にある独立政府の旧東京管理局の会議室に、黒木と神林は呼びださ
れていた。会議室には既に白衣姿の初老の男、旧東京管理局局長の藤波が、煙草を咥えて待っていた。
「第15次作戦も失敗に終わったか。」
「ええ、自衛隊が虎の子として出してきたS特も全く歯が立ってない様子でしたし。やはり『オリジナル』相手にはI.Sシールドだけでは厳しいですね。」
「ああ、そのことだが、防衛省から苦情が来た。I.Sシールドが事故を起こしたと。それでS特が全滅したらしい。」
「それはお気の毒に。」
黒木は口元に笑みを浮かべながら言った。
「もう我々には協力をしないとまで言ってきたよ。」
「それは枢密院の息のかかった保守派の連中でしょう。大部分は藤波管理官についてきますよ。」
藤波は何も答えず、煙草を吹かし、一息ついて神妙な顔をして言った。
「………今度の作戦が、最期の奪還作戦になるだろう。」
「それは、ようやくって感じですね。」
「君らはその間枢密院の管理の下、作戦から外される。」
黒木の顔から笑みが消えた。
「どういうことですか。」
「今度の作戦を失敗すれば、『オリジナル』を処分することが昨夜の御前会議で決定した。陛下の承認印も押された。」
「それとどう関係があるのですか?」
藤波は押し黙った。
「まさか、最後の最後まで俺を前線に出さない気ですか?」
「イレギュラーである君に出張られることを枢密院は恐れているのだ。彼らは彼らの用意した兵隊で全ての幕を引こうとしている。」
「幕引きって、『オリジナル』の処分ってのは、それこそ日本の終わりですよ。第3次世界大戦であれほど世界に喧嘩打っておいて、『オリジナル』を処分したので赦して下さいとはいきませんよ。」
「分かっている。だが、日本を失う位なら、自らの手で壊して見せるというのが、彼らの思想らしい。」
「過激派の考えてることはわかりませんね。」
「私もそう思う。」
「それで、その作戦は、成功しそうなんですか?」
藤波は黙った
「まさか、またS特だけでやるってんですか?」
「いや、そうじゃない。ただ………」
藤波は大変言いにくそうな様子で、煙草を咥えては離しを繰り返した。
「『空間天使』を出すんですね。」
神林の一言に藤波はむせ返った。
「またあのガキですか?一体何度失敗して、何度ケツ吹いてやったと思ってるんです?前々回位の時に『創生天使』ごときにやられかけたの助けたの俺ですよ?あいつきっと自分の力だと思ってるでしょうけど。」
「分かっている。ただ、枢密院としては彼を使う以外の方法は取れないのだよ。分かるだろう?」
「それは十分理解してますけど。」
「実際君がS特を使いI.Sシールド暴走を引き起こし『オリジナル』を臨界寸前まで追いやったことは問題にもなったのだ。私が何とか事故だという事にしたが。君らへの警戒は解けてないのだぞ。」
「それは恐れ入ります。」
「ともかくだ、君らは作戦には召集されていない。」
「てことは、自由って訳ですね。じゃあ、旧東京観光でも行きますか。」
黒木は笑顔で言った。
「君等が動くのを枢密院が見れば、まず間違いなく君らが先に狙われるぞ。」
藤波は語気を強めて言った。
「やられる訳ないでしょう。俺と神林が。」
黒木は言ってのけた。
「………フッ」
藤波はその自身たっぷりな黒木の様子に、今まで耐えてきたものをこらえきれずに噴き出した。だが、藤波はすぐさま表情を真剣なそれに戻した。
「明日の早朝、君らは羽田基地へ連行され、そこから自衛隊機に乗せられ移送される。観光をしたいのなら、そこで思う存分してくると良い。」
藤波は最後の最後に少し笑みを見せた。黒木はその笑みで全てを理解した。
「お土産、必ず持って帰ります。」
「ああ、楽しみにしてるぞ。」
藤波はまた表情を戻し、ただ声は楽しげに言った。
Q.バトルは? A.実はそんなにバトルないかもです。書いてから気づきました。
Q.単語の意味わからんのだが? A.伏線回収特に考えてません。そういう話です。