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裏方の一幕  作者: estimate
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第一話

 吐いた息が一瞬で白くなるほどの寒空の下。折り畳みイスとテーブルに2台のノートパソコンと石油ストーブと言う簡易な指揮所で、黒木はホットココアを飲みながら眠たげな眼で画面を見ていた。

 画面には薄暗い建物の内部が赤外線映像で映し出されている。

≪アルファ、配置に就きました。≫

≪ベータ、いつでも突入できます。≫

 黒木の耳に着けているインカムから随時報告が入る。

「黒木三佐、ただ今より作戦を実行します」

傍らで立っている軍服姿の男が言った。

「そうですか。」

 黒木は興味なさげに答えた。

 男は無視して隊員達に無線で突入の指示を出した。数秒後、インカムからけたたましい爆音と発砲音が鳴り響き、黒木は思わずインカムを外した。

 インカムを外した後も遠くから爆音と銃声が聞こえ、黒木は顔をしかめた。

(寝れないじゃないか。)

 その後も断続的に発砲音や爆音が聞こえるだけで、指揮所には≪制圧≫や≪クリア≫等の報告しかはいらない。

 黒木は退屈になって目の前のパソコンの映像を切り替えて遊び始めた。

「勝てますかね。」

黒木の隣に座って暖かいお茶をすすりながら画面を見ている少女が黒木に訊ねる。聞かれた黒木は

「勝てるんですか?」

とそのまま質問を軍服の男に受け流した。

 男は二人に知られないようため息をついて答えた。

「何度もいいましたが、S特は我々が誇る最精鋭の対能力者部隊です。人員50名は全てレンジャー課程を修了し、なおかつ半年間のデルタフォース並みの戦闘訓練と、3か月間の対能力者戦闘訓練も受けています。装備も他部隊ではまだ配備が進んでいない火器を優先的に配備し、弾薬も、対能力者専用の圧縮水素弾を配備しています。更には実証試験中のI.Sシールドも導入し、隊員達の防御も完璧です。圧縮水素弾の圧倒的火力で、能力者であろうと数分で殲滅できます。」

「はあそうですか。」

黒木はまたも興味なさげに答えた。

 男は忌々しげに黒木を睨んだ。だが、突然入ってきた無線が男から黒木に対する憎しみを忘れ去せた。

≪こちら後続のガンマ!先発のアルファが全滅しています!≫

「なんだと!?」

男は慌てて黒木たちが見ていたパソコンをひったくると、画面を切り替えた。先ほどまで戦闘の様子を

捉えていた赤外線カメラは、横たわる隊員達の姿を映し出していた。

「何故画面を変えていたのですか!」

男は怒鳴った

「すみません。暇だったんで。」

あっけからんと言い放った黒木に男は激高寸前だった。だが、無線から次々と隊員達がやられていく様子が入ってくるので、男は怒りを鎮め無線で指示を飛ばした

「全面撤退だ。エー班とビー班は撤退するS特部隊の援護に回れ」

「え、もう撤退ですか?」

黒木の言い方が癪に障ったが、男は平静を取り繕い応える

「当たり前です。S特は自衛隊の最精鋭、現時点で対能力者部隊はS特のみ、それを今ここで全滅させる訳にはいきません」

「でも使えなかった。」

少女が冷たい声で言った。その言葉に男は何も言い返せなかった。

「んじゃま、俺たちは第二プランを遂行しますか。」

「第二って、黒木さんが勝手に作った作戦なのに。」

「いいじゃん。後方支援という名の待機ばっかでつまんなかっただろ?そろそろ俺らも動こうじゃないかね。」

「バレても知りませんよ。」

「事故だよ事故。なんたって実証試験中なんだから。」

そういって黒木はパソコンの入力画面にパスワードを打ち込み、エンターを押した。

 その瞬間、男の耳に何十人という隊員達の悲鳴が一斉に聞こえてきた。

「何をした――――――!」

 言い終わる前に、男は黒木の放った銃弾に倒れた。

 そして数分後、数百メートル離れたビルから、白い影が月夜に飛び出した。まるで天使のようなソレはビルの上で一回り旋回すると、また地上へと墜ちていった。

「落ちましたね。拾いに行きますか?」

「いや、いい。めんどい。」

黒木はそういうと、コップに残った既にぬるくなったココアを一気に飲み干した。

 数秒後、白い影が飛び出したビルが爆発した。その爆音の中に、幾人もの人間の悲痛な叫びが混じっていることに、黒木と少女は一切気を留めなかった。










 

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