左目
しばらく歩くと、また科学者が通路の扉を開く。無機質な白い扉が左右に別れ、中が見える。
そこには、たくさんの子供が溢れていた。男の子も女の子も関係なしにひとつのとてつもなく広い部屋にこれでもかってくらいに詰め込まれている。
「さぁ、ここが今日からお前が住む場所だ。食事は○○時、就寝時間は○○時だ。実験の時は番号が流されるから放送に注意しておけ。そのほかの時は何をしても構わないが、脱走しよう等とは考えない方がいい。逃げるだけ無駄だ、ここには最新のセキリュティがかかっている。わかったな。」
「はい、分かりました。」
どうやら、説明はもう終わったらしい。科学者はそれだけ告げると、また白い扉を開き、どこかへと消えていった。
それにしても、この部屋にいる子供たちからの視線が痛い。新入りとは辛いな、周りの舐め回すような視線がボクに絡む。と、どうやらここのリーダーのような子供がボクに話しかけてきた。
「おい、お前新入りだろ。てことはまずは挨拶回りからだろ。ほら、俺に挨拶してみろよ!!」
なんだかめんどくさいなぁ。ボクはこういう奴が大嫌いだ。あの村にはこんな子供が溢れていたからだと思う。
「こんにちは。ボクは11番です。君は?」
「ああ?お前、目上の〝人間〟に対してまともな挨拶もできないのかよ!!おい、誰か挨拶の仕方、教えてやれよ!!」
挨拶ができない?ああ、こいつも誰かを蔑んで遊ぶのが好きな子供なのか。まったく、僕の周りにはろくな人間がいない。
「結構だよ。ボクは挨拶はできるし、君みたいな人とは関わりたくないんだよ。できればこれから関わってこないで欲しいんだけど、お願いできるかな?」
「あと、ボク等は人間じゃない。モルモット、だよ。ここにとらわれている限り、永遠にね。」
「なんだと!?お前、誰にそんな口聞いてんのかわかってんのか!?」
「分かっているよ。」
「くそ、おいみんな!!ヤッちまえ!!」
「「「おおおおおおお!!」」」
めんどくさいなぁ。こんな奴ら、相手にしてるだけ無駄だよ。科学者たちはガラス越しの別世界から蔑んだ目でこちらを眺めているだけ。そんな彼らをスッ と流し見て、視線を戻す。
こちらに向かって殴りかかろうとしてくる男の子たちが、スローモーションのように見える。
「っ!!なんだ、あいつ!!目が片方赤くなったぞ!!」
目が、赤くなった…―――?ボクの?そんなはず、な――――
「う、わぁぁぁぁあ!!化け物だ!!」
化け物、か。ボクにはピッタリ、なのかな…
「そうだよ、ボクは化け物さ。殺されたくなかったら…近づかないほうがいいよ。」
そうだ、これでいい。我ながらいいことを思いついたよ。これで誰も近づいてくなくなる。少し、胸の奥が痛いのは気のせいか。
「はぁ、また一人…か…」
そう呟く。なんだ、これじゃあ一人なのが嫌みたいじゃないか。ボクにはもう、頼れる家族もいない。サナリア牧師も、キルトも死んだ。これから一人で生きてかなくちゃいけないのに…
この頃のボクは、そう思っていた。たぶん、いろんなことが重なって、精神的にも結構キていたんだと思う。
そして、この頃だ、ボクの左目が変化をきたしたのも。もとは漆黒だった両眼が、左目だけ、真っ赤な血のような赤色に変色した。そして、どれだけ実験を受けても、体が…
普通ならとっくに死んでいるはずの傷を受けても、あっという間に回復した。おそらく、左目の影響。何かしらの力があるらしい、というのはすぐにわかった。しかし、その力が異常なほどの回復力なだけなのか、それとも、さらにまだ見ぬ能力が宿っているのか。それはわからなかった。