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ピアノ 凛目線

私の容姿で、中身がおばあちゃんは、かなりウケが良い事がわかった。


それはそれで結構な事なのだが、今現在の私は“その真逆”と言う事に気がついてしまった。


外見が絹代おばあちゃんで中身が性格に難のありの私…。


それが今の自分だ。


だから今はせめて中身だけでも清らかでいたい。


そう思っているのだけど、こうして身体が痛くて、家に引き籠もっていると本当に気が滅入る。


仕事している時はNetflixやYouTubeをなかなか見る時間がなくてイライラしていた。


しかし、今は好きなだけ見る時間はあるのに、なぜだかわからないが全く見る気がしない。


休日って言うのは働いているからこそ輝くのだろう。


今では、おばあちゃんが外に出て働きたいって言ってた気持ちが本当によくわかる。


私も嫌だった前職のプログラマーが今となっては恋しい。


もし身体が戻ったらやっぱり前職に復帰するのだろうか?その可能性も少し出てきた。


おばあちゃん、いったいどんなハイスペ男子と仲良くなれるのだろう。


今の希望といえばその事だけだ。


他力本願で情けない気もするけど。


今日は理学療法士の東野さんが業務で来てくれる日だ。よく考えてみれば、こちらも楽しみだ。


この前は、部屋で一緒にケーキを食べて、色々お話をして楽しかったなぁ


ふと気になって、理学療法士の年収を調べてしまった。


平均年収は430万円と出てきた。しかも平均だ。

20代だと300万円台だろう。私は年収650万円稼いでいたのだ。


「安っ!!」


思わず声が出てしまった。自分の性格の悪さに思わずぞっとする。


こう言うの本当にやめよう…。


もしおばあちゃんが、ハイスペ男子と上手くいっても、身体が元に戻ったら、性格で嫌われてしまうから…。


いや、そこじゃないだろ?


自分にツッコミを入れる。


ピンポーン


玄関のチェイムがなった。


胸が、なぜか大きく跳ねる。


身体は前回よりずっと良くなっていたので、玄関まで出て迎える。


「こんにちは、一条さん。だいぶ良くなったみたいですね」


東野さんの笑顔は、本当に嬉しそうで、思わず心が温かくなる。


今回も自室で身体を診てもらい、可動域や痛みの状態を丁寧に確認してくれた。


軽いストレッチやリハビリを終えると、今度はメンタルのチェックの為いくつか質問を受けた。

やはり、そちらも心配してくれているのだ。


「心身ともに順調に回復しています。来週からは、また来れそうですね」


「はい」


正直、「ひまわり」にはもう行きたくないと思っていた。


でも、東野さんがいるならいいかもしれない。


そんな気持ちが、ふと胸に芽生えていた。


「そういえば、この前言っていたピアノの件、お願いしますよ」


東野さんは、覚えていてくれた。


ピアノを聴くのが好きだと言っていたけれど、社交辞令でも嬉しかった。


小学生の頃からピアノはずっと好きで続けてきたけれど、「聴きたい」と言ってくれる人は驚くほど少なかったから。それは、ただ単に私の人望のなさが原因かもしれないが…。


私は台所に立ち、ドリップしたコーヒーをお気に入りのマグカップカップに注いで東野さんに手渡した。


リラックスして、ゆったりと聴いてほしい――そんな思いからだ。


「ありがとうございます」


東野さんはカップを両手で受け取り、ソファに腰を下ろす。その穏やかな仕草に、私の心臓は落ち着くどころか余計に高鳴ってしまう。


“おばあちゃんが弾く”と言う事なので簡単な曲をゆっくり弾くつもりだ。


おばあちゃんは少しだけピアノができるのだ。その設定かを守らなければならないのがじれったい。実はこの身体でもそれなりに弾けるのはわかっているのだ。


電子ピアノの前に座り、呼吸を整える。


東野さんが真剣な眼差しで私を見ているのが横目でもわかった。


選んだ曲はバッハの「主よ人の望みの喜びよ」だ。


柔らかな和音が部屋いっぱいに広がり、午後の光とコーヒーの香りに溶けていく。


ふと東野さんを横目で見ると、そっと瞳を閉じて噛み締める様に聴いてくれている。


今までこんな幸せそうに私のピアノを聴いてくれた人がいただろうか?


弾き終わると拍手をしてくれた。


「すごく良かったです。こんなにも弾けるんですね?もっと聴きたいです!」


「はい!」


私は即答した。シンプルな感想だが、社交辞令でなく、本心から言ってくれている感じが本当に嬉しかった。


次に選んだ曲はドビュッシーの「アラベスク第1番」。


こちらもあえてゆっくりと弾く。


弾き終わると再びリクエストされ、結局その後ゆったり目の曲を4曲も弾いてしまった。


「ああ……感動したな。来てよかった……」


東野さんは、ひとりごとのように呟いた。


その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が熱くなるった。


ああ、なんて幸せなんだろう。


私のピアノなんて、両親でさえろくに聴いてくれなかったのに…。


「よかったら、また聴きに来ていいですか?」


「……はい……」


声が震えたのは、きっと気持ちを抑えきれなかったからだ。嬉しくて、泣きそうになった。


その夜、私はもう次に弾く曲のことを考えていた。


自分で作曲した曲が弾きたい。


東野さんを私の曲で思いきり感動させたい。


そんな気持ちで胸がいっぱいだった。


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