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エピローグ 凛目線

やっぱり自分の身体は最高だ。


でも、それはおばあちゃんも同じらしい。


その理由を聞いてみると、高級ホテルで1年間暮らしていて、ようやく自宅に帰ってきた。


そんな“安心感”らしい。


私は“高級”なんて事はないと思うけど“使えそうな表現”だな、と思った。


小説を書くようになると、日常の全ての事が、作品に盛り込めるから面白いものだ。世界が一変したと言っても過言ではないだろう。


おばあちゃんの指が痛くなり、ピアノが弾けなくなった。なので「東京から帰ってきた孫の凛がレッスンを引き継いでもいいですか?」という形で優真君を紹介してもらった。


私からみればいつも通りで私がピアノを教えるだけだった。


しかし、“優真君の事をよく知らない”って設定でずっと通さなくてはならなかったのが、すごく無駄で面倒だ思った。


2人の「性格が似過ぎている」違和感にもすぐに気がつくだろうし…。


だから、私はすぐに事の顛末を全て詳細に話した。


辻褄は全てあっているはずなので、優真君は完全に納得してくれた。


当然、驚いてしばらく固まってはいたが。



フォトフレームを褒めてくれた優真君に“今度、孫を紹介してあげるね”と言ったことは、

=(つまり)“私の身体が戻ったら、あなたとお付き合いしたい”という気持ちを伝えたことだった。


その事もわかってくれていたはずなので、自分から告白もしやすいと思った。



         * * *



それから3回目のレッスンの休憩中に、いつもの様にケーキを食べている時に、あふれる思いをこらえきれずに自然に口に出た。


「優真君のこと大好きです!ずっと一緒にいたいので私と付き合ってください!」


目を見てはっきり言えた。


「はい!もうお互いの事よく知っていますからね。一緒にいてすごく楽しいのは実証済みですね。こちらこそ宜しくお願いします」


優真君は手を差し出すと、私はその手を両手で握り締めた。


こうして小心者の私が、人生初めての愛の告白に成功した。



        * * *



こうして今、彼氏の優真君が部屋にいる。


もうお互いのことはよく知っているので、親密な関係になるのに時間はかからなかった。


といってもまだ手を握ったところまでだけど。


私は事の顛末を詳細に説明した際、おばあちゃんと颯太さんの事も、優真君に話していたのだ。


“同棲していた”と言うことは私の身体で“ベッドを共にした”という事だ。複雑な思いをさせてしまって申し訳なかったと思う。


でも、そのへんの事は、全ておばあちゃんの記憶で、私の記憶ではないのだから許してほしい。


「ねえ、凛さん。こんな不思議な話、小説にかけそうじゃない?」


「でも、実話だからね。社長の颯太さんに迷惑かかっちゃう」


「でも、そこをカットして凛さんの事だけ書いても、物語的に深みは出ないかもね」


「そこも含めて書いてみようかな?おばあちゃんにも心情の取材してさ」


「すごくいいと思うよ」


「別に、世に出さなければ問題ないでしょ?優真君とおばあちゃんだけに読んでもらうの。颯太さんが『読みたい』って言ったら読んでもらってもいいけどね。今度会ったら聞いてみようかしら?」


「それすごく素敵だよ。ぜひ書いて、聞いてみるべきだよ」


「うん、そうしてみる!でも今は働き始めたばかりで、中々書いている余裕ないから、そのうちね」


「うん、完成、楽しみにしている」


「あと今度、時間ができたら、ひまわりにも行っていいな。またみんなの前でピアノを弾いてみたいの」


「本当!?」


「指が痛くなって弾けなくなった、おばあちゃんの代わりに、孫が来ましたーーってね」


「ははっ、それ最高だね!」


「そうでしょ?」


「うん、みんなも喜ぶと思うよ」


「指が痛くて弾けなくなったって設定が雑すぎるけどね」


「確かに、ははっ。でも理学療法師の僕がお墨付きを与えれば大丈夫だよ」


「ふふふっ。それ、すごくいいアイディア!」


その姿を想像すると急に嬉しくなって、おもわず抱きついてしまった。


優真君も緊張した面持ちで優しく腰に手を回す。


そして、私はその胸に静かに顔を埋めた。


ずっと、ずっと、こうてみたかったんだ…。

 


        * * *



フラワーリンクで働き始めて1ヶ月が経った。


夕霧支社で形式的な面接はあったが、そこには颯太さはいなかった。


身体が戻ってからまだ1回も会えていない。


でも、同じ会社なのでいずれ会えるだろう。


もしかしたら、まだ私と会う心の準備ができていないのかも知れない。


おばあちゃんと別れたとはいっても、見た目は全く一緒の私なのだから…。


1年間のブランクもあったが、仕事勘も完全に取り戻し、今はバリバリ働いている。


以前の会社では、常にピリつきながら仕事をしていて、ランチも1人で食べていた。


でも、フラワーリンクは雰囲気が全然違う。みんな、社交的で表情もどことなく柔和なのだ。


そんな雰囲気なので、今ではランチの会話が何よりも楽しみなのだ。


それは颯太さんが作り上げた社風というものもあるだろうけど、1番は要因この1年間で私自身が変わった事だろう。


人生における時間の大切さ、自分の身体の愛おしさ、人の温かさ。おばあちゃんの身体で色々な事を学ばせてもらった。


おまけに人生初の“まともな彼氏”ができた。


まだ、抱き合うまでしかいっていない、この恋を大切に育んでいきたいと思っている。


今改めて考えると、元カレとの恋は私が未熟だったとは言え、完全なる不倫関係で相手の家庭を壊しかねない、実に愚かな行動だったと深く反省している。


元カレだって妻子がいるのに一回り離れた19歳の女性の心を弄び、無言で捨てた上、警察にまで呼んだ人間だ。


あんなのは“彼氏”だったとはとても言えないだろう。


これからは自分も他人も大切にしていきたい。



        * * *



今日は颯太さんから「ランチを食べたあと屋上に来てください」とメールがあった。会える喜びと「なんだろう?」と思う気持ちの半々だ。


「凛さん、お疲れ様です!」


屋上に着くと、すでに颯太さんはベンチに腰掛けていた。


「社長、お疲れ様です、お久しぶりです」


社会人に復帰したの呼び名はで颯太ではなく“社長”だ。


「お久しぶりです。なかなかお会いする機会がもてなくて申し訳なかったです」


「いえいえ。社長こそ、私をみると色々思い出しちゃいますよね?」


「それは正直あります。でも全て素敵な思い出ですよ。ちゃんと眠れる様にもなりましたし!」


「それは本当によかったです!」


「はい!それより仕事の方はどうですか?何かありましたら遠慮なく僕に言ってもらってください」


「みんなやさしくて、毎日楽しく働かせて頂いてますよ!」


「それはよかったです!頑張ってくれてすごく助かっていますよ。改めて来てくれてありがとうございます!」


「私もまさか、あんな形で次の就職先が決まるなんて思ってもいませんでした」


「ハハハッ。ですよね?別れ話の直後ですから。

今考えると、だいぶ強引でしたね?」


「ふふふっ。大丈夫です。それより今度おばあちゃんの手料理が恋しくなったら、うちにいらしてくださいね。いつでも歓迎ですよ」


「えっ?いいんですか?本当に行っちゃいますよ!」


「はい!是非是非!」


「あと私、好きだった人と無事に結ばれる事ができました。社長にはお会いした時に、報告しておきたいと思っていました」


「ああ、それは本当におめでとうございます!」


「ありがとうございます。社長にそう言って頂いて肩の荷がおりました」


「その事は気にしないでくださいって。最高に楽しかったのですから」


「ありがとうございます。それと、1つ聞きたい事がありまして…」


「なんでしょう?」


「バリバリの理系の社長が“身体の入れ替わり”なんてオカルトみたいな話を受け入れてくれたのが不思議で。やっぱり仮想現実の上位世界の人間のアクションだったとかお考えだったり?」


「ご名答、と言いたいところですけど…」


「違うとお思いですか?」


「僕は“魔法”だと思ってますよ!あの素敵な日々をその様な理論で片付けたくないんです」


私は何も言えず立ち尽くしてしまった。


…魔法か…。


「実は私……その事を小説に書きたいと思っています。世には絶対出しません。それは約束します」


「へー。小説ですか⁉︎面白そう。どんな感じになりそうですか?」


「今考えているのは、私とおばあちゃんのダブル主人公の1人称形式です。おばあちゃんにもその時の心情なんかも丁寧に取材して書きたいと思っています」


「めちゃくちゃ面白そう!!是非読みたいです」


「はい!今度の連休中に書きます。楽しみにしていてくださいね」


「はい、本当に楽しみです!!」



         * * *

 


3連休初日、ノートパソコンを開いた。


テーブルの上には、香り立つブラックコーヒー。


深呼吸をしてから、新しいドキュメントを立ち上げる。


タイトル欄に、文字を打ち込む。


「星屑のホテル」


おばあちゃんの心情等は全て取材済みだ。


この1年で出会ったすべての人、すべての出来事に感謝しながら打ち込んでいく。


考えながら書く小説とは違い、あふれる思いをひたすら綴るだけ。


今はその作業が楽しくてしょうがない。


執筆は寝食を忘れるほど楽しく、どんどん筆が進んでいく。



       3連休の最終日の夜




恥ずかしい事まで赤裸々に綴ったので、読んでもらうのは、おばあちゃん、颯太さん、優真君の3人だけ。


あの日、おばあちゃんと山に星を見に行かなかったら、こんな“魔法の様な”現在はなかったんだろうな。


そう思うと、星を見たくなって窓を開けた。


きれい…。


冬の冷気の中で、無数の星たちがまたたいている。


書くことが楽しすぎて、わずか3日で10万文字以上を書き上げた。


「ふぅ〜」


最後の「一文字」を打ち込み、「保存」を押した。



           完



















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