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別れ 絹代目線

あの日から5日経った。大きな荷物は全て自宅に送り、残った荷物はスーツケースの中に収まるものだけ。


明日、明後日の土日で1つの恋愛が終わる。


不思議なほど円満に別れる事ができたので、一緒に住んでいる今でも“気まずいと言う雰囲気”は全くなかった。


凛が来て“身体が入れ替わっている”と颯太さんに知れされた(正確には、気づかれていた)日は私の事を“凛さん”とは呼ばず“絹代さん”と呼んだ。


しかし、まだ凛の身体で“絹代”と呼ぶ事は違和感があるらしいので、明日までの私の呼び名は“凛”だ。


颯太さんと恋人同士で過ごす、最終の土日は何か特別な事はせずに、いつも通りに過ごす事にした。


お互いに何気ない日常が本当に楽しかったからだ。


土曜日は曇っていて風が心地よく、8月とは思えないほど涼しかった。ジムで汗を流し、プールで泳ぎ、ランニングをしてから、自転車で海沿いの公園を走り抜けた。


息を切らしながら、レストランに入ると、込み上げてくるものが抑えきれず「愛してる」とだ告げた。


2人の頬には涙が伝っていた。


夜は、自宅で一緒に料理を作り、お酒を飲んだ。


タワーマンションから見える、暮れてゆく東京の街並み…この絶景も明日で見納めだ。


颯太さんは私が“「絹代”さんに戻っても友達で」とは言ってくれたが、さすがにここに来る事はもうないだろう。


深夜ベッドに入ると、私達はキスをして、抱き合って眠った。


颯太さんは出張の1人の夜もぐっすり眠れる様になったと言う。


今では仕事や“完璧であろう”とする強迫観念からも解き放たれたのだ。


私と別れてからも“大丈夫だ”と言う事だ。


その言葉を聞けただけでもお付き合いできた意味はあったと僭越ながら思ってしまった。


5ヶ月程度の短い同棲生活だった。


しかし、若い凛の身体で颯太さんと、人生初の最高の恋愛ができた事は、“神様からの最高のプレゼント”だったと呼べるだろう。


いや、“神様”って言い方はあまり好きではない。


戦争や差別、格差、生まれながらの不公平。


世界には、理不尽があまりにも多すぎるからだ。


タワーマンションで人を見下ろながらそんな事を思ってしまった。


「そう言うのを海外では“シャルドネ左翼”や“キャビア左翼”」と言うんだってことを、颯太さんが自嘲気味に教えてくれた。


そして微笑みながら、自分が開発したアプリ「Strawberry」の話をしてくれた。


富める者も、そうでない者も、国も年齢も関係なく、言葉を超えて心がつながる――そんな世界をつくりたい、と。


今は文字だけのチャットだが、近い将来は音声でも自動翻訳ができるようになるらしい。


颯太さんらしい、静かで壮大な夢。


そのプロジェクトに凛もプログラマーとして加われると言うおまけ付き…。


だから、あの言葉は訂正しよう。


これは“神様”ではなく、“星屑のホテル”からのギフトだった。


眩しくて、あたたかくて、儚い恋という最高の贈り物。















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