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対峙① 凛目線

優真君が帰ると私はおばあちゃんに電話した。


なぜだかわからないけど、おばあちゃんに聞けば道が開ける予感がしたのだ。


本当になんでかわからないけど…。


「ねえ、あの星屑のホテルの予約票のことなんだけど…」


「いよいよ来月ね。私は心の準備はできているわ」


「えっと、どこにあるんだっけ…?」


「しっかり保管してあるわよ。コピーは箪笥の中だけど、本物は専用の封筒に入っていて、私の耐火金庫の中だからね」


「そう!そう!それ!それ!」


おばあちゃんは要心深く、本当に大切なものは自分専用の耐火金庫にしまうのだ。


予約票をもらった時に、“専用”の封筒に入れてもらった事の記憶が完全に抜けて落ちていたのだ。


魂は私でも、脳みそは“おばあちゃん”なんだ。


その違和感がずっと、何かを訴えていたんだ。


あの“根拠のない自信”は、これだったんだ。


私は、おばあちゃんの耐火金庫の暗証番号を知らない。


今すぐ確認したいと伝えると、あっさり教えてくれた。


「19971124よ。凛の生年月日だからね」


「うん、ありがとう!」私への愛が伝わってくる暗証番号の設定が最高に嬉しいかった。


お礼を言って、おばあちゃんの部屋の押し入れを開け、金庫の前にしゃがみ込む。


震える指先で金属でできたテンキーのボタンを押す。


19971124


カチッ――。


金庫の扉が開くと、そこには深い紺色の封筒が1枚。現金の入った封筒や通帳や実印なども入っていた。


金の星屑が散りばめられ、表には「星屑のホテル」とエンボスで刻まれている。


あのホテルらしい、高級感があるけど、どこか可愛らしい封筒だ。


丁寧に開くと、中から上質な水色の紙が現れた。


破り捨てたコピーとは似ても似つかない、それはまるで魔法の書類のように、美しかった。


「やったぁ!!!」


思わず声が漏れ、私は両手で封筒をそっと抱きしめた。


しばらく感慨にふけったあと、私は封筒を丁寧に戻し、再び耐火金庫の奥にしまい込んだ。


この小さな紙切れが、私の身体になる――そう思うと、震えるほどの重みを感じた。


次にやるべきことはひとつ。


“おばあちゃんと颯太さんに別れてもらう”という、

何よりも気の重い作業だ。


現実に戻され一気に気分が落ちる。


けれど、これはもう避けては通れない。


おばあちゃんにすべてを背負わせるわけにはいかない。


私自身の言葉で、ちゃんと話をつけなければならないのだ。


東京へ行こう!


この胸のざわめきが静まらないうちに!


不思議なことになぜか上手くいく気がしていた。


恋をしていると、そんな気分になるのだろうか?


根拠なんて何もないのに。


スマホを手に取ると、手のひらがじんわりと汗ばんでいた。


勢いでおばあちゃんには今伝えよう。


もう一度、おばあちゃんに電話をかける。


「おばあちゃん、度々ごめんね」


「なに?どうしたの?」


「……ごめん……今まで私のために、颯太さんのことで尽力してくれて本当にありがとう…でももう…」


「…………」


おばあちゃんはしばらく黙ったままだった。


全てを察したのだろう。


「本当にごめんなさい。私、颯太さんとは一緒になれない!」


一気に言い切った。


受話器越しに、おばあちゃんの息が乱れているのがわかった。


「私、他に好きな人ができたの。相手は東野優真さん」


「……そう……」


落胆のため息が聞こえた。


おばあちゃんの気持ちを考えると辛い。


でも、私は逃げる訳にいかない。


こんな大切なことは、自分でケリをつけなければならないのだ。


「今からそっちに行く。私が話をするから」


「この前来た時の様子がおかしかったから、なんとなく気づいていたわ。東野さん、とても優しくて素晴らしい人ね。……いい選択だわ……」


その声には、まるで力がなかった。


おばあちゃんの気持ちを思うと、胸の奥が締めつけられた。


「うん、本当にごめんなさい。今からそっちに行くね。 夜になってしまうけど、泊まるところは自分で手配するから」


「でも凛……おばあさんの身体のあなたが一体何を言うの?」


「全部、本当のことを言う」


「身体が入れ替わっていたって??」


「そういうこと」


「……でも、そんな話……」


「うん、とにかく言ってみる。行き方はもうわかってるから、迎えにこなくていいよ」


「……そう……」


         * * *



東京へ向かう新幹線の中でも、足の震えが止まらなかった。


さすがに殴られることはないと思うが、激しく罵倒されることくらいは覚悟していた。


颯太さんの大切な時間を奪い、心を弄んでしまったのだから。


あの時の、根拠のない自信が揺らいでいく。


あれは一体、なんだったのだろう?


スマホで東雲近くの有明のホテルを予約する。


今日、その部屋に入るとき、私はどんな気持ちでいるのだろうか?


全く想像がつかない。


おばあちゃんには、颯太さんに「祖母が大切な話がある」と伝えてもらった。


遅くならないように切り上げ、部屋で待っているという。


東京駅に着くと、時刻は19時。


前回と同じように、タクシーで東雲へ向かった。


夕方の渋滞にハマり、なかなかつかないのがもどかしい。


40以上かかり、ようやく到着した。


車寄せに泊まったタクシーから降りるとタワーマンションを見上げた。


今から対峙する現実を考えると、まるでタワーマンションが巨大な要塞の様に感じた。


緊張で心臓が張り裂けそうだった。


落ち着こう。


深呼吸だ。


インターフォンで通されると、ドアの前でおばあちゃんが立っていた。


その顔には、心配と優しさが入り混じった複雑な表情が浮かんでいた。


「ごめんね。迎えに行けなくて。……よく来たね」


「うん、こちらこそ本当にごめん」


「もういいわよ。颯太さん、部屋で待ってるわ」


「うん……おじゃまします!」


私は意を決して、部屋へと足を踏み入れた。



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