近況 絹代目線
最近、凛が高そうな服やアクセサリー、靴などを、何着も郵送してくる。
そして、試着した画像をLINEで送ってほしいと言うのだ。凛は自分の身体やファッションの事は熟知しているので、着てみると本当によく似合うのだ。
しかし、普段はラフな服装ばかりなので、「ありがとう、でもいらないよ」と言うと、なぜか怒ってしまった。
やっぱり今の状況で1人になると、精神的に不安定になるのかもしれない。
だから、「今度うちに泊まりにおいで」と言ったら、「絶対行きたい!」と返信してくれて、少し安心した。
もしかして、凛は実はもう颯太さんに興味がなくなってしまったのではないか、と言う不安が少しあった。でも「絶対行きたい!」って言ってくれたので、そうではないのだろう。
“もしそうだったら”の事を考えたら背筋が寒くなった。
颯太さんは私が作る料理を「美味しい」と褒めてくれるので、私はつい調子に乗ってしまう。特にホームパーティーの時は全力で腕をふるってしまうのだ。
凛は、料理の修行をサボり気味のようだから、いざ身体を戻した時、どうしようかと心配になる。
しかし、颯太さんの笑顔を見ていると、そんな不安はどうでもよくなってしまうのだが、タイムリミットは確実に近づいているのだ。
今は5月の後半なので、あと4ヶ月程だ。
他に、最近は颯太さんのすすめで、トライアスロンを始めた。水泳に、自転車に、ランニング、それにジムにも一緒に行っている。
私は元々運動は好きではなかったのだが、陸上選手だった凛の若い身体で無心に汗を流していると楽しくてしょうがないのだ。
特に水泳は無心になれるので好きだ。ただ腕を伸ばし、足を蹴り、呼吸を整える。その繰り返しの中で、過去も未来も、すべて溶けていくようだった。
音も、重力も、世界のざわめきも――全部、水が包み込んでくれる。
ただ、このことを凛に伝えると「ほどほどにして」とすごく嫌そうな感じだった。陸上部といっても、一瞬の跳躍で勝負が決まる、高跳びは好きだったが、持久走は全く好きではないのだと言う。
日焼け止めは入念に塗る様に言われた。水泳はプールの塩素でキューティクルを傷つけてしまうので、できれば数を減らしてほしいとも言われた。
美しい黒髪のロングヘアーは凛の自慢のパーツなのだ。週に最低でも2回は「ヘアオイルパック」をする様に言われ、やり方の動画まで送られてきた。
正直かなり面倒くさい…。
一方の凛は、「ひまわり」にキーボードを設置してもらたったらしく、自作の曲を披露したり、リクエストに応えて伴奏をしたりしているらしい。
「身体が戻ったら、“指が痛くて弾けなくなった”っとでも言っておいて」と笑っていた。
電話越しの声があまりに楽しそうで、ついこちらまで笑顔になってしまった。
他にも、理学療法士の東野優真さんと仲良くなり、小説を書いては見せ合っているとも言っていた。当初嫌がっていたデイサービスも楽しく行っている様で、聞いていて本当に安心した。
最近は、車で近所のスーパーまで買い物にも行っているようだ。私はペーパードライバーなのに……。
近所の人にどう思われているのか、少し心配になる。おそらく、喋り方ももうあまり気をつけていないのだろう。でも、それは私も同じかもしれない。
そんなふうにして、お互いに守っていた“当人のふりをして生きる”という原則が、完全に揺らいでいた。でもそれは、お互いに自分らしく最大限に楽しんでいる証拠でもあるのだ。
タイムリミットのことを考えると色々と不安はつきまとうが、あまり深く考えるのはよそうと思った。




