ホラー 凛目線
おばあちゃんに言いづらい事を伝えられてスッキリした。おばあちゃんは颯太さんの事が好きなのだろう。
実際、その方がバトンタッチも上手くいくはず。そう思う半面、胸の奥が少しざわめいていた。
テレビ番組「世にも奇妙な物語」でこんな話があった。
題名は「おばあちゃん」。
祖母と孫が入れ替わる話だ。
まさに私とおばあちゃんではないか…。
あらすじは大体こんな感じだったと思う。
山奥の病院に入院する死期が近い昏睡状態の祖母を訪ねた少女・美保と母。
美保の母は祖母を忌み嫌い、ここへ来る事をよく思っていないかった。
そんな中、美保と祖母の2人はテレパシーの様なもので繋がってしまう。
祖母は死期が近いと言い、自分の弟に一目会うため「1日だけ体を貸してほしい」と頼む。
美保は不安に駆られながらも承諾する。
美保は祖母の身体の中に閉じ込められ、苦しみを味わうことに…。
一方、祖母(美保の身体)は走って弟に会いに行き感謝を伝える。
死期の時刻ギリギリでなんとか病院に戻り、祖母はそのまま亡くなった。
* * *
やがて美保は大人になり、母親の葬儀を執り行ったが、冷ややかに呟いた。
「不公平だろ?私ばっかりじゃ」
時間ギリギリで病院に戻り、美保に身体を返し、祖母はそのまま亡くなった。
そう思われていたが、実は戻った祖母は病院では身体を返さなかった。つまり、美保は祖母の身体で死んだ。
入れ替わったまま祖母は美保の身体で生き続け、美保の魂は祖母の身体のまま亡くなっていたのだ。
望まない延命、嫌われた挙げ句、山奥への病院への隔離、そして放置……。
祖母がかつて受けた仕打ちを、今度は母親に与えてやったのだった。
なかなかぞっとする話だ。
私はおばあちゃんの事は120%信頼しているけど、本気で颯太さんの事を好きになってしまい、当日(星屑のホテルに行く日)どこかに行ってしまったら…。
怖くなり思わず猫のマリーをそっと抱き寄せた。
柔らかい毛並みに顔を埋めると、胸の奥のモヤモヤが少しだけ和らいだ。
けれど同時に、そのモヤモヤの正体に気づきたくない自分がいる。
触れてしまえば、戻れなくなる気がしたからだ。
こういう時は、颯太さんの手がけた「strawberry」で気持ちを落ち着かせよう。
スマホのいちごのアイコンをタップすれば、すぐに世界の誰かと繋がれるその一瞬の繋がりが、まるで心の避難所のように思えた。
アプリを起動すると、すぐに画面に接続先が表示された。
私はここでの名前K.Iだ。
「C.M./フランス/51歳/女性」
そして、仲介AIのBerryが軽やかな文字で入ってきた。
Berry「本日の相手が決まりました。素敵な時間をどうぞ。」
C.M.「こんにちは、はじめまして」
K.I.「こちらは“こんばんは”です。今、夜の21時です」
Berry「日本はフランスより8時間進んでいるので、C.M.さんはちょうどお昼の時間なんですね。どんなランチを食べましたか?」
C.M.「クロックムッシュとサラダを食べました。定番ですが好きなんです」
K.I.「いいな、日本ではオシャレフードです!パンにチーズとハムを挟んで焼いた料理ですよね?」
C.M.「そうです!」
K.I.「想像したら食べたくなってきました。さっき夜ご飯食べたばかりなのに…」
C.M.「ハハハッ」
Berry「面白いですね。同じ瞬間を過ごしていても、K.I.さんは一日の終わり、C.M.さんは午後の始まり。時差が会話のスパイスになっていますね」
C.M.「確かに。あなたが眠っている間に、私は仕事をしていますね」
Berry「お2人とも音楽は好きですか?」
C.M.「私はショパンのピアノ曲を弾きます」
K.I.「わあ、私もショパン大好きでピアノも弾きますよ」
C.M.「まあ、嬉しい!私の好きな曲はショパンのノクターンです」
K.I.「ノクターンいいですね。私は9-2をよく弾きます。あの流れるような旋律を弾いていると、時間を忘れちゃいます」
C.M.「ああ、それは私も好きです。私は27-2をよく練習します。しっとりしていて、とても大人っぽい雰囲気があるんですよね」
K.I.「わかります。ショパンってシンプルなのに、弾いてみると表情をつけるのがすごく難しいですよね。強弱とか、ペダルの入れ方とか…」
C.M.「そうそう。同じ曲でも、その日の気分や弾き方で全然違う音楽になるのが面白いです」
Berry「なるほど〜。お2人の話を聞いていると、ショパンへの愛が伝わってきます」
K.I.「一生練習しても終わらない感じです。でもだからこそ、飽きないんです」
C.M.「本当にそう。ショパンは私にとって、ずっと寄り添ってくれる存在ですね」
Berry「ピアノの話題でこんなに盛り上がるなんて珍しいですね。お2人の“音楽の旅”のお話、もっと聞いてみたいです」
世界の誰かとの何気ない会話。本当に癒される。
私は友達がいなかったから…。
最近はおばあちゃんも「strawberry」にはまっている。今は文字だけだけれど、近い将来、音声での自動翻訳にも対応する予定だという。
その精度を高めるために、颯太さんが夕霧支社を作り、日々奮闘していると、おばあちゃんが言ってた。そちらの完成も今から楽しみで仕方がない。
こんなアプリを開発した颯太さんは本当に素敵で最高だと改めて思った。おばあちゃんもそう思っている事は間違いない。




