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その手の話 絹代目線

12月に入り朝晩の冷え込みが本格的になってきた。


でも凛の身体だと、歩くだけで身体が熱くなり、日中ならシャツ1枚でも平気なくらいだ。


これが代謝がいいと言う事なのだろうか?


自分の若い頃の身体の感覚なんて遠い昔に忘れてしまった。


最近は凛のおかげで、スマホもだいぶ使いこなせる様になってきてた。音楽や乗り換えアプリ、各種支払い、YouTube、radiko 、Google map、Amazon、Netflixなど、本当に便利だ。


難しい設定をやってもらえれば、あとは実に簡単に使う事ができる。わからなければ、Googleで調べるか、凛に聞けばいいだけだ。


その中でも颯太さんが手がけたアプ「strawberry」は本当に面白い。


接続すると世界の誰かとランダムに繋がり1対1のチャット(文字のやり取りのみ)ができるのだ。


登録するのに身分証が必要で表示されている国籍、性別、年齢は全て正確。名前はイニシャルだけ。


連絡先、個人情報、暴力的、性的な事などはAIが精査し、絶対に送れない仕組みになっている。


しかも、1度繋がった人とはその日だけで、2度と繋がる事はないという事だ。


翻訳や話題の提供、司会的な事までAIがしてくれるので、チャットはかなりの確率で盛り上がるのだ。


安全が確実に担保されている為、例えば日本の女の子とアメリカのおじいさんがチャットする事も可能なのだ。


世界中の人とのチャットは本当に面白いし、心が温まる事もしょっちゅうだ。


遠い国の人と、その日限りのたわいない会話を交わす。それだけのことなのに、まるで世界の街角で会話をしたみたいに心が軽くなるのだ。


凛も夢中でやっていて、夜、ベッドで横になりながら「今日はイタリアの女の子と話したよ」「この前はアフリカの学生さんと!」と楽しそうに教えてくれる。


そんな風に並んでスマホを眺め合っていると、まるで同年代の姉妹のように思えてきて、不思議と笑みがこぼれた。


ある日、LINEでふと「どうしてstrawberryって名前にしたのですか?」と颯太さんに尋ねたことがある。


彼は少し照れたように笑いながら、こう答えた。


「“一期一会”って言葉、ありますよね。いちごいちえ……いちご。そこから“strawberry”にしたんです。甘くて、儚くて、2度と同じ出会いはない。そういうのを形にしたかったんです」


その瞬間、胸の奥にじんと沁みるものがあった。


なんて素敵な発想なのだろう。


アプリの名前の由来を聞いただけなのに、どうしようもなく心が温かくなってしまった。


私はこの「strawberry」の画面を見つめながら考えてしまう。こんな平和で素敵なアプリを開発した颯太さんは本当に素晴らしい人で、間違いなく凛に相応しい人なんだって思った。


でも、身体が戻るまでは私が恋人だ。


この恋を大切に育んで凛に渡していきたいと思った。


あと、颯太さんは“成人には誰であっても敬語を使う”と決めているらしい。なんと、自分の親や兄弟に対してもそうなのだという。


理由を聞くと、「日本語って、言葉ひとつで上下関係がはっきりしてしまうのが好きじゃないんです」と、穏やかに笑って答えた。


私なんて、そんなこと考えたこともなかったから、目からウロコだった。本当に素晴らしい考え方だと思った。


だから、私たちは今でもお互いに敬語で話している。多分これからもそうなのだろう。


トントン


「入るよ」


「どうぞ」


そんな事を思っていたら凛がノックをして部屋に入ってきた。


「ねえ、おばあちゃん、話があるの」


「なあに?」


「……少し言いづらいんだけど」


「何かしら?」


「単刀直入に言うね」


「うん」


「このままおばあちゃんが颯太さんと交際を続けたら、早かれ遅かれ、まあ……そういう関係になると思うの。そのことについて、おばあちゃんはどう考えてるの?」


「……凛はどう思っているの?」


どう返せばいいのか、全くわからなかった。

精一杯の答えは、質問をそのまま返すことだけ。


「じゃあ質問変えるね。おばあちゃんは、颯太さんのことどう思ってるの?」


「私は……凛のために頑張っているだけよ」


「ありがとう。じゃあ、恋愛感情は?」


「……よくわからないわよ」


凛に尋問されているようだ。


そんなつもりはないのかもしれないけど。


好きになってしまったなんて、口が裂けても言えない。


どうせ、いつかは凛に渡さなければならない人なのだから。


凛は小さくうなずき、少し声を落として続けた。


「じゃあ身体のことなんだけど、私のことは気にしないで。妊娠だけには気をつけて自由にしていいからね」


「……うん。ありがとう……」


そう言うのが精一杯だった。


凛もそれ以上は何も言わなかった。


その手の話を凛とするのは、とても恥ずかしい。


でもそれはお互い様だろう。


夜の営みといえば――亡くなった夫と最後に関係を持ったのは、もう20代後半の頃のことだ。


寄港地で「女を買っている」と聞かされてからは、触れられるのも嫌になってしまったからだ。


それから気づけば50年……つまり半世紀……。


今や78歳。


「やり方」なんて、すっかり忘れてしまった。


「ふっ」


「やり方」その言い方がおかしくて、つい笑ってしまう。


凛はそんな私を見て、肩をポンポンと叩くと、ニヤリと笑いながら部屋を出ていった。

















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