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花束 凛目線

最近は、体調も少しずつ回復してきて、ひまわりにも行ける様になった。


これからは自己流のリハビリやトレーニングは絶対にやめて、東野さんの言うことを素直に聞こうと固く心に誓った。


施設の中でも、他の利用者さんともできるだけ会話をするように心がけてた。常にニコニコして、相手を受け入れるのだ。人には必ずいいところがあるのだから。


今日は苦手な“主”と呼ばれている佐藤さんとも、結構話ができた。自慢話や武勇伝は相変わらずだけれど、耳を傾けていると、根は優しくて正義感が強い人なんだと気づいた。


東野さんは、近いうちにまたピアノを聴きに来てくれるという。今はそれが楽しみで仕方がない。


他人に聴いてもらえることって、なんて嬉しいことなんだろう。


その日の夕方。おばあちゃんから「お客様と食事」とのLINEが届いた。


私のために頑張ってくれているのだ。


一体どんな人なのだろう?


胸の鼓動が止まらない。



        * * *



「ただいま、凛!」


21時。ようやく帰ってきたおばあちゃんの姿を見て、私は思わず息を呑んだ。


「おばあちゃん…おかえり」


抱えていたのは、今まで見たこともないくらい豪華な花束。


芸能人やスポーツ選手が皆の前でお祝いでもらう様な特大サイズの花束だ。鮮やかな色彩が玄関いっぱいに広がり、思わず声を失った。


「どうしたの、それ?」


「帰り際にいただいたのよ」


にこやかな笑み。あきらかに頬が紅潮している。


「すごい!ねえねえ、相手はどんな人?」


花束を受け取ると、おばあちゃんはハンドバッグから名刺を取り出した。


「この人よ。自分では“業界でそこそこ有名”なんて言っていたけれど、私は聞いたことないわ。凛はIT業界だから知っているかしら?」


どこか誇らしげな表情。


私は名刺に目を落とした瞬間、声を上げてしまった。


フラワーリンク株式会社


代表取締役 神谷颯太


「……知ってるよ、おばあちゃん!」


「strawberry」を開発し、一躍有名になった人だ。


世界的な大流行を巻き起こしている。夕霧にも支社を設立するらしく、その件で頻繁に来ているのだろう。


おそらく年収は軽く“億超え”。顔も、身長も、その他すべてのステータスも、私の合格ラインを余裕でクリアしている。


元カレなんて比べものにならないレベルだ。


神谷颯太なら私の辛い記憶を上書きしてくれるかもしれない。


おばあちゃんと上手くバトンタッチできたら――。


そう思った瞬間、宝くじに当たったみたいに胸が熱くなった。


「すごく素敵な人よ」


「うん!!おばあちゃんヤバすぎだよ!!絶対に逃さないでね!!」


「まだ、1回食事をしただけだから、どうなるわからないからね?」


「おばあちゃんなら大丈夫だよ!!」


こうして私は舞い上がってしまい、おばあちゃんにプレッシャーをかけてしまっていた。


冷静に考えてみれば、そんなに上手く行くとはとても思えなかった。神谷颯太レベルになるとライバルはごまんといるのだから。


ベッドに寝転んでスマホを開き、つい検索してしまった。


「神谷颯太 彼女」


検索結果には写真こそ出てこなかったが、学生時代の元カノについて語っているYouTube動画は見つかった。


けれど大した情報はなく、拍子抜けした。

まあ、そんなものだろう。芸能人とは違うのだから。


他の動画では趣味がトライアスロンやアウトドアだと語っていて、どことなくパリピ臭もする。その辺も少し心配になってきた。


まだ何も始まってすらいないのに、心が掻き乱される。


あまり期待するのはやめよう。


今までの人生、期待していたことは必ず裏切られてきたではないか。


そんなことを考えながらも、私は神谷颯太の画像を検索して、気づけばたくさん保存してしまっていた。


やはりスタイルがよくイケメンだ。


芸能人でも上位に入るくらいのルックスだろう。


すっかり舞い上がり過ぎてしまったが、今の自分の肉体が“おばあちゃん”な事を思い出して冷静になった。最近はこの繰り返しだ。


これが長く続くと最終的には、性格も“おばあちゃん”みたいになってしまいそうだ。


でも、それはそれで悪くはない事だと思っている。


私、凛は性格的に色々問題があるのだから…。


これは1年間限定の“魂の修行”なのだ。


その暁には、颯太さんとの一緒になれる未来が待っているかも知れないのだ。


そう思うとまた気分が上がったが、なぜかとても不安な気持ちにもなった。


動悸がする程に…。


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