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ワールド・エンド・ドライブ

 祖父母の部屋と同じく地下の開かずのガレージに目を映してみると解錠の音がして開いた。予想はしていたがやはりこの開かずのガレージは祖父母のガレージだったらしい。

 中には自分達が運転しているのと似てはいるが一回り程小さな来るまだった。何故、両親があんな大きな車を所有していたのか聞いていなかったが恐らく祖父母から貰った車なのかもしれない。

「ジン。どう?」

「ガレージの中にタイヤ交換出来そうな道具は一通り揃ってる。大丈夫だ」

「この車、ちょっとガレージから出す?」

「そうだな」

 中に乗り込むと長い間放置されていたからか独特の匂いがして顔をしかめる。鍵もそのままにされて動くかどうか不安だったか何度目かエンジンをかけてみると問題なく動いた。

「何年も放置されても動くんだね」

「それぐらい技術があったからな、タイヤも何年も何十年も大丈夫なように丈夫に作られてるし」

「でもパンクするんだねえ」

「…する時はするんだな」

「それで?外してどうする?」

「転がして外の車まで持ってくか」

「道具も持ってかなきゃ」

「そうだな」

 タイヤの外し方から交換の仕方は父から口頭で伝えられていた。父も実際にやった事はないらしく運転のやり方を教わった時に習ったらしいがその時はもう機械や専門家に任せるのが当たり前だったため自らの手でタイヤを外すのは骨が折れる。

 ゆっくり外していきカイが取り付けるための道具を持ち自分が外したタイヤを転がしていく。なかなか重い。地下のガレージから地上に出るとあの時瓦礫の下敷きになったレアの側にマリィが静かに座っていた。

「マリィ」

「あら。ご苦労様ですわ」

「なんてこと無いよ」

 マリィの折れた腕に包帯を巻いて捥げた足はどうにもならず、彼女の第二の足として松葉杖をこのマンションにある物で作ってみたが我ながら何とも不恰好な出来映えだった。

 レアを瓦礫の下から出して埋葬してやろうと思ったがどうにも動かずどうする事も出来ず、結果出来たのはレアの亡骸を埋めるようにして瓦礫を積み墓のような物を作った。その側に椅子を置き、マリィが側にいれるようにしたのだ。

「マリィ、体は平気か?」

「私は痛みを感じませんの」

「それじゃどこか動きづらいところはないか?」

「片腕と片足が動かない事以外は不自由無いですわ」

「そうか…」

「何か…義手とか義足とか作れたらいいねえ」

「そうだな…」

「平気ですわ。不自由ないですもの」

 そう言ってマリィは動く片手と片足を見せて何でも無いように言った。

「…ちょっと外に出てくる。外の俺達の車のタイヤ交換して来るから」

「分かりましたわ。お気をつけて」

「終わったら、必ず戻るから」

「待ってますわ」

 タイヤを転がして先頭はカイに任せる。瓦礫が崩れて歩きづらくなっているため何度かタイヤが思うような方向に進まず戸惑いながらも閉ざされていた出口の前に来た。

 レアとマリィの部屋で得た鍵をカイが差し込みゆっくり回す。どれだけ世の中が発展しても最後に扉を開けてくれるのは冷たい鉄で作られた鍵らしい。

 片手で開けられるはずの扉はやけに重く感じて少しずつ開くとそこには久し振りに感じた外の空気があった。

「……出られたな」

「何だろう。一月もいなかったのに…何年も閉じ込められてたような感じだったから…」

「そうだな…ずっと気を張ってたのもあるからな」

「……ジン」

「ん?」

「外って…世界って……すごく広いんだね」

「……広いな」

 何度も感じたはずなのに改めてそう思わされた。この世界にはまだまだ自分達の知らない事が多すぎる。今でも生きている人達に会い、彼等から見聞きした事を覚えている。それでどこか自分達は世界を知った気でいた。

 そんな事は無かった。

 あまりにもこの世界は広すぎる。守られ続けた自分達が知る事も体験する事も感じる事も無かった残酷な事実もきっと、この世界には語られずに眠っているかもしれない。それを、やっとほんの一欠片だが拾う事が出来たかもしれない。

「マリィはここにずっといるのかな」

「…人間のマリィの脳をデータ化して今のマリィになってるらしい。そのデータの中に“レアの側にいる”って言うのが強烈に残ってるらしい」

「……レアが死んでもずっと?」

「………だから、ここから離れないって言ったんだろう」

 レアに口止めされ人間であると言う振る舞いをしろと命令されていたマリィは人間の体を持っていたマリィの体から脳を取り出してデータ化してそれを今の体に移し替えたのが今のマリィ。

 ただ完璧に生前の姿を再現するのは難しく、彼女の中に強く残っていた二つの意識“レアの側にいる”“ナギの天使を守り抜く”が彼女の中にあった。

 それ以外の喋り方や立ち振舞いは彼女の体をこうした連中に都合良く作られたらしく、強く残った二つの意識以外は従順で主の命令を遂行するように設定されたらしい。

「あ、あったよ」

「うわ。本当にパンクして……釘とかそう言うかわいい物じゃないな」

「冷静に考えたら今の車は釘ごときでパンクしないって言ってたもんねえ」

「地面に埋めてたのか?こんな…太いナイフ」

 パンクしたタイヤに深く刺さっていたのは鋭いナイフだ。わざわざこの上に刺さるように誘導していたのかと、レアの執念がここで見えてしまった。

 閉じ込められていた間外に放置されていた愛車は少し汚れていたが変わらず自分達を迎えてくれる。エンジンをかけてパンク以外に以上は無いか確認したが問題は無さそうだ。

「よし…交換しよう」

「うん」

「車持ち上げて…」

 車を固定して持ち上げてタイヤを外して新たな物に交換する。慣れない作業、いや初めての作業で時間がかかったが何とか終えるとまたいつものように走り出してくれた。

「復活だ~」

「本当…良かった」

 ようやく二人揃って安堵するとここでもう、ここにいる理由は無くなった。

「……マリィにお別れしなきゃだな」

「…うん」

 マンションの近くに停めて再びマリィのいるマンションに戻る。相変わらず彼女はレアの側に静かに座りもう動かない彼を見つめていた。

「マリィ…」

「あら。おかえりなさいませ」

「…ただいま」

「マリィ。タイヤの交換終わったよ」

「あら。良かったですわ」

「…だから、僕達そろそろ行かなきゃ」

「お別れですわね」

「……」

 手にしていた道具やリュックを置いてマリィの側に座る。

 瓦礫で作った墓の側、隙間無く埋めたと思うがこれからもしかしたらレアの遺体の腐る臭いがするかもしれない。

「…色々と…本当に世話になったな」

「うん。僕なんか命助けられたし」

「とんでもないですわ」

「…マリィには。俺達のお母さん。ナギの記憶はあるのか?」

「残念ながらございませんわ。私には今の私になってからの記録しか刻まれませんの。人間だった頃のお話は出来ませんの」

「でも。ママの歌は分かってたんだね」

「前の私が決して忘れてはいけないと思った記憶だったからでしょうね」

 機械の体になる前に残された記憶はその記憶を呼び起こすきっかけが長く無かったため今のマリィ自身にも本当にあるのか怪しくなっていたらしい。

 しかしここに来てカイが母と同じ歌を歌った事で残されていた記憶が一気に呼び起こされて守るために迷い無く体を張ったらしい。

「でも…声は違うでしょ?ママが歌うのと僕の声じゃ同じ歌って認識出来たの?」

「周波数がまったく同じでしたの」

「周波数?」

「一秒間に繰り返される波動や振動の事だな」

「その通りですわ。カイ君とナギの歌の周波数がぴったり揃いましたの。そこで前の私の意識が呼び戻されたのでしょうね」

「今歌ったら…また呼び戻せる?」

「不可能ですわ。前の私の意識が呼び戻せる条件は“レアの側にいる”“ナギの天使を守る”事ですわ。レアの側にいると言う事は生命反応のあるレアの側が条件なのでもう不可能ですわ」

「…それじゃあの時本当に奇跡的に前のマリィが戻ってきたんだな」

 レアがまだ生きていて、親友であるナギの子どもだと分かり尚且つその子どもが危機的状況になっていたために起こったのか。

「…何だか不思議だね…人間だったマリィはもう死んでるんでしょう?」

「ええ。死んでますわ」

「なのに、意識は…記憶は残ってるのんだ」

「不思議ですわね。そして側にいると決めた彼がこの二つの条件が揃った時に自暴自棄にならないようにメッセージまで置いてあるんですわ」

 死に行くマリィが機械になっても側にいるレアのためにメッセージを残せるようにしようとしたのは誰なのか。マリィをこうした連中の中にも同情的な人間が存在してこっそりメッセージが再生させるように組み込んだのか。

 こんな非人道的な事をしながらも、その中に組み込んだメッセージがあったために助かった事実もあるために複雑な気持ちになっていく。

「…マリィ以外にも同じ事をされたの人はいるのか?」

「私が記録する限りはいませんわ。元々は生き延びた人類が世界を再生するために衣食住が必要の無いように生まれ直そうとするために行われた計画でしたの」

「うわ。そんな計画あったの」

「まずは他国の血が入っている人間の亡骸から始めて上手くいったら自国の者をと言う計画でしたが、圧倒的に設備や材料が不足して実現出来ずに終わりましたわ」

 恐らくマリィ以外にはいないだろう。ここまで来てマリィ以外に人間と見間違う程のロボットはいなかったし、いたとしてもマリィ程に振る舞えるような存在がまだいるとは信じがたい。

「…この世界は生まれ直そうとしたのか」

「その一歩が私でしたの」

「でもそれって、結局死んだマリィの体を好き勝手にした結果だよね。もし…」

「もし、人間のマリィが死んだままだったら…レアはあそこまで…」

 自分の愛した妻を死んでもなお好きにされて目の前に現れたのは会いたいと何度も願った妻と瓜二つのロボットだった。

 その頭がおかしくなりそうな事実を突きつけられずに、ただマリィはあなたの妻はこの争いで命を落としてしまったと伝えたるだけで終わればレアは深い悲しみの中に落ちても争いが終わってもなお人を殺めるような事を続けなかったのかもしれない。

「何か起きた時…残った人間ってどうしてこんな…たらればな未来を考えるんだろうな」

「どこかで止められたかも、どこかで救えたかもってね」

「平和を望んでいるからそう考えるのですわ」

「平和か…」

「そして自分を救うためにも考えるのでしょうね」

「自分を?」

「ご自身が選んだ行動がどこか間違っているのではないかと後悔されてなくて?」

「……正直。レアが死んだ結果になった事を後悔してる」

 もっと何か違う方法が。違う言葉で彼をもっと早く止められたのではないかと。

「だからもし、こうだったらの未来を考えるのですわ。こうしていれば助かったのではと…そんな未来を想像していると少し気持ちが軽くなりますわ」

「…そうして現実に戻った時に重く突きつけられるんだよ」

「そんな事言ったって、僕には確かにレアは…うん…死んじゃったけど…他に最善がなかったよ」

「……それも分かる」

 だから想像するのはレアがあっさり説得に応じて平和に終わり自分達を笑って見送る存在しない未来を考えてしまう。

 そしてレアの墓を見てそれはたどり着かなかった未来だと分かる。

「ジン君、カイ君」

「ん?」

「何?」

「現実は変わりませんわ」

「…分かってる」

「うん…」

「どんなに過去に想いを馳せても違う未来を想像しても、現実は変わりませんわ。絶対に」

「マリィ。はっきり言うなあ」

 ほんの少し苦笑いをしてマリィと目を合わせる。マリィの金色の目に自分が映る。

「全てが正しい選択肢で紡がれると思います?」

「……出来ないな」

「出来なかったから、こうなんだよねえ」

「人間は選択を誤ります。人工知能の私でも選択を誤ります。想像する全てが平和の正しい世界はきっと、どこにもありませんわ」

「…間違えないと学ぶ事がないからな」

「その通りです」

 数多の知識を蓄える人工知能も思考する人間の前ではそれは違うと間違える事がある。それならば人間はどうだろう。もっともっと間違える。取り返しのつかない事も起こってしまう。

 そして学び続ける。

「ジン君、カイ君。あなた達が後悔しているのならばこれは学びですわ」

「この先繰り返さないように?」

「レアみたいな人が絶対にいないって限らないもんねえ」

「学んで下さいな。そう…繰り返さないように。後悔も悲しみも怒りも飲み込んで」

 全てがこれからのあなた達を作る糧になりますわ。

 そう言ってマリィは動く片手で自分の頬に触れる。人間の体温と変わり無いように設定されている彼女の手は温かい。

 その手に自分の手を重ねて今ここに自分とカイと、マリィがここに生きている事を感じた。

「食事を作りましょう」

「…手伝うよ」

「うん。僕も手伝うよ」

 重ねていた手が離れてマリィがいつも食事を作っていた時間になると変わらぬ日常を繰り返すように台所に向かう。片足のマリィを支えて台所に向かうと上手く料理が出来なくなったマリィの指示を受けて料理を始める。

 何の形も成していない粉に水分を加えて捏ねて形にしてマリィの言うようにそれにかけるソースを作りついでに栄養たっぷりのスープを作ろうと台所があっという間に様々な料理の匂いで埋まると自分とカイ、二人分の料理が出来上がった。

「これは」

「ミートパスタと野菜スープですわ」

「美味しそうだね」

「召し上がれ」

 毒の入っていない美味しい料理を口に運ぶ。

 出来たてで熱く、口の中が火傷しそうになりながら運んで行くと体の中が満たされていく。

 その様子をマリィは見つめていた。

「お二人は」

「ん?」

「これからまたどこかへ行かれれるでしょう?」

「うん。建物とか見つけたら入ってみて…定住出来そうな家とか見つかればいいけどね」

「今までそう言った建物は無くて?」

「住むには食糧が足りなそうだったりずっといるのには難しそうな建物ばっかりだったな」

「ステラのプラネタリウム…ミナモがいた水族館もミナモだけなら平気だけど僕達も一緒には無理だもんねえ」

「何かあったら病院に戻るのもありかもな」

「お友達がたくさんいますのね」

「お友達、お友達か」

「そうだね。たくさんいるよ」

 マリィに言われてそうかと気付く。

 ずっと家族しかいなかったこの世界にはいつの間にか想像していなかった人との繋がりがある。プラネタリウムに、水族館に、あの病院に。

 それだけではない。会った事の無い痕跡だけを残した人達。大学で学んでいた学生。スーパーで買い物をしていたであろう人達。駅で働いていた彼等や美術館に残る芸術を残した人達。

 数え切れない程に残った人間の記憶が自分達にあるのだ。

「マリィ」

「はい?」

「マリィもお友達だよ」

「まあ?私、カイ君を殺そうとしましたのに?」

「いいよもうそれは」

「マリィも、勿論レアも」

「本人聞いたらどう思うだろうね」

「すごく複雑だと思いますわ」

 逆恨みをしていたのに許されてあなたは友達なんて言われてしまったら、きっとすごく複雑で難しい表情をされますわ。

「それは…面白いな」

「笑っちゃうねえ」

 見ることが叶わなかったレアのそんな表情を想像しながら料理の皿を空にした。

 空になった皿を三人で片付けていき少し休むと出発の準備をする。

「ねえ。写真持って行こうよ」

「そうだな」

 祖父母の部屋にお邪魔して祖父母と父の写真。父と母の写真を持っていく。

「貰っていくぞ。お祖父様」

「ジンさあ。ずっと思ってたけど様付けなの何で?」

「お父さんにそう呼ぶように言われたんだよ」

「僕は言われなかったよ?」

「まだ世界が機能してたから…体裁的な呼び方を教えられたんだな」

「そしたらそれ以外で呼べなくなったと?」

「そんなところだな」

 自覚は無いが世界が機能していたら自分達はお金持ちの息子だったんだろう。それにはそれなりの立ち振舞いが求められたに違いない。

「僕も生まれが早かったらお祖父様。おばあ様って呼んでたんだろうね」

「…似合わないな」

「ジンこそ」

 そう言ってお互い顔を見合わせて笑い。

 地下に残るレアとマリィの写真も持っていく。


「マリィ」

「おかえりなさい」

「これあげる」

「こちらは…」

 マリィの手を取り二人の写真を渡す。渡された写真を見つめて彼女の頭の中で処理をしているのか不思議そうな顔からゆっくりとこの写真に写る二人を理解した。

「旦那様と」

「マリィだねえ」

「私ではありませんわ。彼女は私の元になった人間でこの旦那様の隣にいる彼女は私ではありませんわ」

「…まあそうだな」

「お二人とも。どういった意図で私にこの写真を」

「どういった?」

「私はこの写真を見ても何の感情も浮かびませんの」

「…そうかもしれないけど…この写真を持つべきなのはマリィしかいないだろ」

「私だけ?」

「この世界でマリィの意識を持っててレアの側にいてくれるのはマリィしかいないもん」

 彼女が人工知能でその写真のマリィとはもう別人だとしても、この世界に存在する中でこの写真を持つべき人間は今のマリィしかいない。

 レアが鉄の固まりだと否定してもマリィがマリィ自身を別人だと否定しても、それでも彼女の中に写真の人間だったマリィの意識や願いは確かに残っていて、その中にあるレアを愛する気持ちは消えていない。

「…好きな人の存在が分かるものが近くにあった方がいいじゃん?」

 カイが自分にも言うように呟いた。

「……まあ何と言うかな」

「何と言うか?」

「深い意図は無いんだ。カイが言うようにマリィが側にいたレアの存在。今のマリィの元になったマリィの存在が分かるのがその写真だ」

「それが何か?」

「マリィの中にはこの二人の記憶、意識があることをまあ分かってて欲しいと言うか…うん。一人じゃないんだ」

「孤独を紛らわすための写真をくれたと言う事で?」

「…まあ、そんなところだな」

「難しいねえ伝えるのって」

「だな…それにそれだけじゃない。俺達もマリィの事を覚えてるし忘れない」

「流石ですわ」

「ありがとう」

 さて、もう行こうか。


 車の中を軽く掃除をし、新たに増えた荷物は大切に仕舞う。

 マリィが調理の必要が無い食料をいくつか譲ってくれてまたしばらくは食べる事に関して心配する必要は無さそうだ。

 忘れ物は無いと確認していよいよ出発となり今度はどちらに行こうかとカイと話す。

「どこにでも行けますわ」

 突然声がして振り向くと杖を付いて立つマリィがいた。慌てて支えようとすると首を振り一人で立つことが出来ると証明した。

「どこにでも?」

「ええ。どこにでも」

「そんなの…出来…るか」

「ええ。世界中どこまでも。世界の果てが見えるところまでもきっと」

「果てしないな」

「だって、こんなに世界は広いのですわ」

 あなた達はどこまでも行けますわと、マリィが笑う。金色の目を細めて優しく柔らかく。

「そうして疲れたら…羽休めするようにまたいらして下さいな」

 私はいつでもあなた達の味方です。

「……ありがとう」

「マリィありがとう。レアも…」

 カイがマンションの方向に向いて言う。

 怖い思いは散々されたがそれでも今はそれは忘れておく。

「ありがとう。行ってきます」

「行ってらっしゃい」

 ロボットのマリィと、人間のマリィの声が混じったように聞こえる声で送り出された。


 車の走らせる。

 マリィが見えなくなるまで見送ってくれている。前を見ないと危ないのに何度も振り返りながらマリィの姿を見た。

「……ジン」

「…ん?」

「寂しいね」

「…ちょっとな」

「だけど嬉しいね」

「またどこにでも行けるから?」

「それもあるよ。それもあるけど戻れる場所がまた増えたね」

「ステラのプラネタリウムにミナモとナギの水族館」

「カナエのいた病院に…レアとマリィがいるマンション」

「本当だな。心強い」

「うん。だから、どこにでも行こう」

「任せろ」

 どこにでも行ける。

 この世界は何もかも無くなっていない。まだまだ行ける場所はたくさんあるのだ。

 そして巡って巡ってたくさんのお土産話を抱えながら必ずまた会いに行こう。


 世界の果てまでドライブしてまた会える。


 







 ここまでお読みいただきありがとうございました。

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