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博物館

今まで見てきた建物はかつての形が分かる建物であれば長方形や円柱形の形の建物があった。今日見つけたその建物は高さはそれほどではないが横に広く変わった屋根の形をしていた。建物の中へと入るまで短い階段があり何か、ここに飾っていたのか石で作られた台座がある。人の足…のような形の石がその台座の上に残っているが、ここには人の形をした石が飾られていたのだろう。

「何か中の空気が冷たい感じがする」

先に建物の中へ一歩踏み入れていたカイが不思議そうに言った。カイに続けて中へと入ると確かに外の空気よりもどこか冷たい空気がこの建物の中に流れているようだった。入ってすぐ目の前に入ったのは大きな白いテーブルだった。

側に背もたれの無い椅子があり、床に埋め込まれている椅子のようで初めて見る物だった。

テーブルの上や正面から見えない場所に小さな機械があり、何の機械か調べる前にカイの声がしたのでそちらを見る。するとカイが指差す方向には大きな赤い。矢印だ。

「…矢印がある」

「この通りに進んで行けばいいのかな?」

「かもな…」

この建物を作った人がわざわざ親切に矢印を壁に張り迷わないようにしてくれたのだろうか、案内に従いそのまま歩くと、電気はまだ生きているらしく暗い道を転ばないように灯してくれている。

「何かドキドキするね」

「俺もドキドキするよ」

多分違う種類の感情ではあるけどと思いながらカイと並んで足元と天井に灯された僅かな明かりで進んでいくと先に広い空間が見える。何が待っているのかと進んでみるとそこには高い天井に広い空間、そしてその空間でなければ佇めない程に大きな何かがある。

あまりの大きさに思わず後ろに下がってしまったがカイは自分とは逆にその存在に向かって進んでいく。

「カイ、待てって…何だこれ」

「すごい、何だろうこれ」

「待てって、動いたら…何か分からないんだぞ」

「…えっと、発掘…化石?」

「化石?」

化石と聞いて安心する。生きている生物ではないと分かると近付いてカイが見ていた説明文を読んでみると、今よりもはるか昔存在していた生物の化石らしい。しかし自分達よりも遥かに大きいその存在に動かないと分かっていても恐怖を感じる。

「ジン、ここのボタン押すと何かあるみたい」

「…専用のゴーグルを装着してここを押すとかつて生きていた姿が見られます…って」

「専用のゴーグル?」

「どこかにあるんじゃないか?」

辺りを見回して確認すると、入ってすぐのところにそれらしき棚がある。ゴーグルを使用するにはお金が必要のようでどこに入れればいいか分からないためとりあえずゴーグルが置かれている棚に必要枚数を置いてゴーグルを二つ取る。

「あっちにもすごい牙の化石がある」

「あんなのがこの世界にいたのか…」

「どれぐらい前だろう?」

「何百…何千も前かもしれないな」

あんな大きな生物があの世界を走り回る事が出来たなんてきっとずっと、遥か昔の時代なんだろう。

専用のゴーグルを着けてボタンを押すと目の前の化石に形が付き色が付き爪が生え目が宿る。

「……っっ」

「ジン怖がってる?」

「いや、その…目が」

「すごい迫力…」

息を飲みじっと見つめるカイ、よくもあんな鋭い爪に牙、射貫いて殺されるのではと思われる目をした生物を前にして平然としていられるものだと驚いている。

「…ジン」

「……ぇ?」

「手、繋ぐ…?」

「……」

「いらない?」

「繋ぐ…」

久しぶりにカイと手を繋いだ。

体温があると冷静になれるものだと分かり改めて目の前の生物を観察する。大きな体にたいして手足は随分細い気がする。あれであの巨体を支える事が出来たのか謎だ。

大きな牙は何でも噛み砕く事が出来るのだろう。人間は食べられる物と食べられない物があるがこの生物はどうだったのだろう。見た目と同じく内部も丈夫だったのか。

「…信じられないな」

「こんな大きなのがいた事が?」

「それもある…」

「それも?」

「俺が覚えてるこうなる前の世界はこんな生物いなかった」

「人間には危ないから殺されたのかな?」

「そうだとしても、そんな呆気なく死ぬような生物には見えないけどな」

ゴーグルを外して他の化石を見ると、やはりどれも存在したいた事が信じられない生物ばかりだ。羽を広げて空を飛ぶという生物。手足も大きく太く早くは動けなさそうだが潰されたら一溜りも無いだろうと思える生物。長い首をした、その首の長さはなんのためにあるのかと疑問に思う生物。

「昔存在してた生物がたくさんある場所…」

「ここって死んだ生物を飾る場所なんだね」

「…というよりは学びの場所じゃないか?」

「昔はこんな大きな生物がいたんですよって」

「そういう場所かもな」

「過去の学んで…どうするんだろ」

「過去の記憶が学びになるんじゃないか?」

「ふーん…ところで手、もう離していい?」

「…いいよ」

この場所の雰囲気もだいぶ慣れてきた頃だ。

剥き出しで化石が飾られた場所もあれば分厚い透明な箱に入り飾られている物もある。ゴーグルを外してカイと身を乗り出してその化石に触ると無機物になった冷たさと固さが分かった。

「あ...」

「お…」

矢印が示す方向に進んでいくと大きく張り出された歴史があった。先ほど見てきた化石の生物の写真と共に彼等が生きていた時代が詳しく書かれている。

「へぇ…こういうの面白いな」

「いついなくなったか書いてる?」

「まずはいついたかだな…えーっと……え?」

「何?」

「あの化石…存在したのは億年も前だって…」

「億……?」

「億」

あまりに聞きなれずあまりに遠い時代の話だった。

「…その時って人間いた?」

「…いなかったと思う」

「じゃあ何で?何でいなくなったの?」

「待てって…えーっと…」

人間も存在していなかった時代の世界で生きていた彼等はそれぞれ自分達の特徴を生かし生活していたらしい。食うか食われるのかの時代で人間のように言葉を介さないそれは想像出来ない程に過酷で本能に満ち溢れた時代だったのだろう。

そんな彼等を終わらせたのは隕石らしい。

「隕石?」

「空、ずっと上の宇宙から石がすごい速さで堕ちてくる事だって」

「たった一個の隕石で?」

「一個かどうか…それで環境が変わって生きられなくなって死んだらしい」

「隕石一つで!?」

「分からない、かなり昔の事だから…もしかしたら他にも原因はあるかもしれない。でも、この建物が作られた時はそう考えられていたんだろうな」

あんな大きな生物が生きられなくなる程にとんでもない出来事だったのだろう。これから綺麗だと見つめていた星を見る目が変わってしまいそうだ。

「でも不思議だね」

「不思議?」

「あんな大きなのがいなくなって、それから僕らみたいな人間が生きれる世界になったのに…彼等は復活しなかったんだね」

「…もう、彼等を復活させるような物は無かったんじゃないか?」

「あの化石から復活…出来なかったんだね」

「もう死んでるからな。そういう技術があれば、もっとこの世界には俺達以外にいたかもしれないし」

「そっか、そうだね」

あんなに冷たくなったら元には戻らないもんね。

独り言のようにカイが言った言葉がやけに響いた。もう甦る事は決して無い彼等の歴史を指でなぞりながら目に焼き付ける。

「…よし、覚えた。次に行こう」

「行こう行こう」

矢印の示す先へと歩く。肉の無い形だけが残った化石が多くある場所から歩いて行くとまた何か影が見える。しかし、化石と同様に生きているという感覚は無かった。

体が残り目が残りしっかりと床に手足を付けてそこにいるはずなのに彼等はまったく動かない。

「…おぉ」

「これは…」

“剥製”の展示だと大きな看板に書いてあった。

「剥製って?」

「死体だな。生きてた頃と同じような姿で残すみたいだけど…すごいな…本当に今にも動き出しそう」

こちらを映していないはずなのに目は鋭く存在している。

「あの化石には驚いてたのに...何でこっちには平気なの?」

「驚いてるよ。ただここにあるのは動かないって分かったら段々平気になってきただけ」

「…変なの」

「それにさっきの化石より小さいし」

「あ、ふわふわしてかわいいのもいる」

図鑑で見た事がある生物達の姿が目の前にある。多きな翼を広げる生物。短い手足だが大きな体と鋭い牙を持つ生物。図鑑の小さな写真で見たよりもずっと大きいその生物の姿にただ目を奪われる。説明を読む限り彼等は人間が存在していた時代と同じ時代を生きていたらしい。

「すごいな…本当に…こんな生物がいたんだ」

「人間とどう生活してたんだろう」

「暮らす場所は分かれてたんじゃないか?こんな体がテーブルの椅子に座って食事をしてたんなんて考えられないしな」

「確かにね」

「どこか、人間がいない場所で仲間と家族と生きてたのかも」

「素敵だね。彼等にも生活があったんだ」

どんな生活をしてたんだろうねとカイが剥製の彼等に触れる。真似して触ると固い毛は刺さってしまいそうですぐに触れるのを止めた。広げた羽根を触れるとこちらは柔らかく、しかししっかりとしたその羽根はまるで人の目を惹くように美しい。

「思ったよりもたくさんの生物がいたんだね」

「人間だけじゃ生きられないようになってたんだな」

こんな多くの命と共存していたのかと飾られる剥製を一つ一つ見て周りながら触れていく。これがこの命の感触なのかと思いながら歩くとふと、赤い文字に気付く。

「あ」

「え?」

「これ触っちゃ駄目らしい」

「え、触っちゃった」

「大切な物らしいから駄目だって…」

遠慮も無しに触ってしまった。これはまずいと思いとりあえず化石と剥製の彼等に謝る。

「ごめんなさい…」

「ごめんなさい」

許してくれるか分からないが、頭を下げて次へと進むとカラフルな場所に柔らかい床と固めのクッションのような場所がある。

「何ここ?靴脱いでだって」

「休む場所か?」

「結構広いよ、寝れるし」

「…キッズスペース…」

「キッズスペース?」

「…多分子どもが遊んだり休む場所?」

「だからこんな優しい感じなのか…」

なかなか快適なこの場所は大きな機械が壁に埋め込まれている。ここの電気がまだ生きているならこの機械も動くのではと思いカイと機械周辺を見て手当たり次第押せる物を押すと、機械から音がする。

「何だろう?」

「…何か始まったな」

優しい声に先程の化石の彼等の歴史を随分分かりやすく教えてくれる映像だった。なるほど子ども向けだからこんなにも分かりやすい教え方なのかと感心しながら見てしまう。

「ねえジン」

「んー?」

「今日ここに泊まろう?」

「ここに?」

「ここで寝れるし面白いよ」

「寝れるけど…けど死体があるしな」

「大丈夫だって、ね!泊まろう!」

「ん~……」

「ジン…」

「ここで夕飯になりそうな物見つかったらな…」

「やった!」

すぐに探しに行こうとカイが靴を履いて駆け出す。電気は通っているが前に来たような建物のように何か食べたり飲んだりする場所は無さそうだ。恐らくここは生物の勉強をするために作られた建物なんだろう。それなら食べる物や飲める物なんてきっと無い。

「あったよ!」

「……」

「こっちにあった!見てよこれ!」

輪っかの形をしたそれは確かに食べ物だった。保存用と書かれたそれは缶に入っており開けると甘い香りがした。更に化石の写真が載ったボトルに入った水も見つかり今日の夕飯には十分な量だった。

「何か向こうにしょっぷ?があってさ、そこにまだ残ってた。帰りに全部持って帰ろうよ」

「うん…」

「じゃあここで食べて今日はここで寝よう」

「うん……」

死体がある場所で寝るのかと思いながらキッズスペースで横になる。

高い天井に明かりは消えないらしいが眠るには支障が無い。相変わらず冷たい空気が流れているが、この空気はここに存在する彼等をきちんとした状態で保存するために必要なのだろう。

リュックから毛布を出してかけると空気の冷たさは気にはならない程度になる。

「何か、不思議だったね」

「あんな大きな生物が過去にいた事が?」

「それもあるけど、もう甦る事がないってことも」

「彼等が生きてた時代とは変わったからな…」

「でも、またその後に新しい命が出来てる」

「そうだな…」

「…人間も何かが滅んだ後に出来たなら…」

「これから何かまた別の存在が出来るかもって?」

「そう思わない?」

「…可能性は無くはない。それでその新しい存在が過去の人間の痕跡を見つけるかもな」

「飾られるのかな?」

「そしたらここに存在したのがずっと残る」

「それはちょっと楽しみかも」

そう笑いながらカイは毛布の中へと潜る。自分も同じように潜りながら眠りについた。

普段二人で眠るのが限界の車内で寝ているのと反対に広すぎる空間で眠ったからかおかしな夢を見た。

剥製の彼等が化石の彼等が歩き、飛び、走る夢だ。

言葉を介さずただ真っ直ぐに同じ方向に向かうのを見つめていた。

追いかけようとはしなかった。恐らく自分達とは向かう方向が違うから。

彼等が向かうあの向こうには再び生きてまた自由に動き回る世界があるのかもしれないと思いながら目を覚ます。

自分よりも少し遅くカイが目を覚まし、昨日言った通りにいくらか食糧が残っておりすべて車に積み終えると名残惜しいがこの場所を離れる。

「ジン、これ見て」

「ん?写真か?」

カイが手にしているのは一枚の写真。化石の彼等がかつて生きていた姿で映っている。

「ここに来た記念」

「どこに飾るんだ?」

「後ろのポケット、寝る前に思い出す」

そう言って座席の後ろに設置している小物入れに写真を差し込む。

「思い出すか」

「覚えてる人間は一人でも多い方がいいでしょ」

確かに今の世界は彼等を知っていた人間は恐らく殆どいなくなってしまった。

それでもまだここにいる。

「確かにな」

記憶がある内はまだこの世界に存在しているのだ。












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