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鍵の部屋と放たれた部屋

 この建物には持って行くには困難な物がいくつも残されているらしい。入ることが出来た部屋には確かに何人でも眠る事が出来そうなベッドにこれまた何着でも収納出来そうなクローゼット。

 何故こんな重い素材で作ったのか、石で、大理石で作ったと言うテーブルなど一体どうやって部屋に持ち込む事が出来たのかと怪しむ程に重く大きな家具が残されていた。更に、ベッドやクローゼットには過剰なまでの装飾が施されており眠るにして収納するにしてはあまりにも賑やか過ぎないかと疑問に思うばかりだ。

「ここはお金持ちが住んでたんだってな」

「えぇとても経済的に豊かな人達が」

「じゃあこの家具はお金持ちの証か?」

「こんなごちゃごちゃしたのが?」

 カイと共にこのごちゃごちゃした家具を観察しながらマリィに尋ねると首を傾げた。

「証、と言う訳ではないと思いますわ。好きで手に入れた方もいらっしゃれば…高額だから手に入れた方もいるかもしれませんけど」

 真意はその方しか分からないから闇の中。

「…あ、何かある」

 大きなベッドの下に黒い何かがある。引きずり出して見ようと手を伸ばすがなかなか重くカイと二人で力を合わせてようやくその姿を拝むとそこまで大きくないにも関わらず床に沈み込むのではと重量感のある綺麗な箱があった。

 白い箱に桃色や黄色い花が模様として描かれておりいかにも大切な物を入れていますと言っているようだった。

「マリィ、これを見た事は?」

「ありませんわ。大きな金庫やガレージは確認してますけども…そこまで小さな物までは」

「それじゃあ…レアとマリィはここを隅々までは見てないんだな」

「そうですわね」

 旦那様はここに残された書物の方に興味があるますし私も生活に関わる物以外は不要と思ってますのでと、マリィは答える。

「勿体ないぞ」

「勿体ない」

「マリィ、探索したら?こんな面白そうな物見つかるんだから」

 箱は鍵を差し込む部分があった。力付くでこじ開けようとしてみても固く閉ざされており開ける気配は無かった。ベッドの下をもう一度確認してこの箱を開ける鍵が無いかと見てみるがあるのは細かなゴミとベッドの部品らしき物がところどころに落ちているだけだった。

「何が入ってるのか…」

「あのさ、細い針金とかでカチャカチャするのは?」

「まあ犯罪行為ですわ」

「…そう言われると嫌だな」

「マリィは何が入ってるか気にならない?」

 何か役に立つ物でも入っているかどうかはともかくここまで厳重だと気になるものだ。マリィはこの中身がどうなってるのか好奇心を刺激されないかどうか、カイに尋ねられて無言になり金色の目をこちらから視線を外し答える。

「気になりますわ」

「だよねぇ」

 空けられる道具はないだろうか。

 小さな鍵穴に何か差し込む事でも出来たらそこから開ける事も可能かもしれないがそんな真似が出来るちょうどいい道具も無い。

「ちょっと貸して」

「大丈夫か?壊れないか?」

 カイがナイフを取り出し隙間に差し込む。綺麗な箱が割れてしまうかもしれないが上手く力を加減して少しづつ箱は開いていく。空いた隙間から手を差し込み無理矢理開けるとそこにはキラキラと輝きを放ちそうなアクセサリーや髪飾りの類があった。

「これは…」

「宝物だね」

「見たところ、フェイクですわね」

 マリィが箱の中にあるペンダントを取り出して言う。本物の宝石ではなくフェイク、偽物だと言う。ガラスで出来た本物に限りなく近付けた子ども向けのアクセサリーばかりらしい。

「この部屋に住んでた。子どもの宝物か」

「持っていけなかったんだねえ」

「それか忘れてしまったのかもしれませんわ」

「忘れてしまった?」

「子どもの頃に大切に隠してそのまま成長してここに宝物を隠したと言う事も忘れてしまった可能性もありますわ」

 こんな綺麗な物ばかり詰め込んだ箱をそうもあっさり忘れるものだろうか。

 忘れる事が出来ない自分にとってはそれは信じがたい事であってマリィの意見には賛同出来ずに黙っていた。

「僕は持っていけなかったと思うな」

「何故?」

「こんな綺麗な物、きっとずっと覚えてるはずだもん」

「カイ君は、そう想像するようで」

「……俺もそう思うよ」

「ジン君も」

「俺がそうだったら良いと思うのもあるが…忘れないと思うんだ」

「そうかしら」

 二対一でそう言われたマリィは相変わらず不思議そうに偽物と断言したアクセサリーを金色の目に映していた。

「マリィ、これ貰うか?」

「私が?」

「俺達はこういうの必要ないから」

「アクセサリー、ヘアアクセサリーを私に?」

「そう。マリィに」

「…頂戴しますわ」

 アクセサリーを貰う提案をしてから少し目を伏せた後に箱ごと受け取りマリィは目を細めてまた笑った。

「それでは他の場所へ参りましょう」

 箱を持ったままにマリィは部屋から出る。

 その背中を追うように部屋を出てマリィの真っ直ぐ伸びた背中はもう小走りをしないと追い付かない程に距離が広がっていた。灰色のワンピースに足元は今までよく見ていなかったが少し踵が高くある。ヒールの靴だ。

(よく平気で歩けるな)

 あんなに足が痛くなりそうなのに。

「マリィ、待ってくれ」

「あら失礼」

 自分達を置いてけぼりにしていることに気付いたマリィは振り返り追い付くのを待ってくれた。

「このお部屋もご覧になれますわ」

「そうですか」

 次に入った部屋は思わず喜ぶ。

 本が何冊も残されていた。部屋の住人は持てるだけの本は持っていったのか棚がいくつか空いてはいるがそれでもたくさんの本が並べられている。

「本だ…!」

「……」

「カイ。マリィ。ちょっと読んでいいか?」

「駄目って言っても読むでしょ」

「ジン君は本がお好きでいらっしゃるの?」

「うん。かなりね」

 カイの呆れた声とマリィの僅かに驚いた声が聞こえてきたがそれを無視して一番近くの棚にある本を一冊取り出してもう一冊表紙が気になる本を取り、更に題名が興味惹かれる本を取り以前にも読んだ作者の違う本を取り出して可能な限り本を抱えると座り込んで読書に没頭する。活字の波が気持ちいいことこの上ない。


 ジンの読書が始まった。

「長くなるよ…これ」

「いかがいたしましょうねぇ」

「ジン。他の部屋見てくるから」

「…分かった」

「後で迎えに来るね」

「……分かった」

「ご理解いただけまして?」

「…いただけてまして」

「多分大丈夫」

 聞いていないようで聞いてはいるからとジンをここに置いてマリィと二人で他の部屋を見ることにした。

 他に見れる部屋は二つあるらしい。あると言っても一つは扉に鍵がかかっており今まで扉が壊れていたため入れた部屋とは違いそこにあるだけで入室は不可能らしい。マリィに案内されたその開かない部屋の扉は触っただけで分厚く力付くで開けようとしても開く気配など何も無かった。

「私も開けられませんわ」

「それは…マリィみたいな細い女の子には難しいでしょう」

「他の入れる部屋へ参りましょう」

「うん…」

 ふと扉の横ある電卓のような操作盤がある事をマリィに伝えると彼女は首を振り一言「開けられませんわ」とだけ伝えた。

「……ジンー!!」

 恐らく返事は無いと思うが大声で読書中のジンを呼ぶ。何の反応も返ってこない事にマリィと目を合わせて呼びに行く。


「早くないか?」

 あまりにも早い読書の中断に不満よりも困惑した表情のジンはあの短時間で既に本に埋まっていた。

「よく分からない鍵があるの。来てよ」

「さっき読み始めたばっかりだぞ?」

「後で読んで」

「……もう。分かったよ…」

 

 ジンを連れて再度あの操作盤がある部屋の前に来ると本の知識を大量に詰め込んだジンの話ではあの操作盤は万が一鍵を失くした際の第二の鍵であの部屋に住んでいた住人の網膜や指紋で開ける事が出来るらしい。

「つまり、住人じゃないからあの扉を開けるのは」

「一生不可能ですわ」

「と言うか…操作盤も真っ暗だし作動してないんじゃ…」

「恐らく侵入を防ぐために遮断したのかと」

「セキュリティがしっかりしてるね。本当に」

 ここに住んでたお金持ちとやらは自分の住む領域をこんなにも厳重に守っていたのかとため息と共に感心する。一体どんなお金持ちが住んでいたのか、そもそもお金持ちとはどんな仕事なのか。

 他にもたくさん部屋があったであろう。改めて上を見上げるとここは住むのが不安になる程に高く建っていた住居だと分かる。僅かにその痕跡だけ残し、人の足では高層まで行くのは不可能そうだ。ぽっかり空いた天井から覗く空だけかこちらを見下ろす事が出来ていた。

「元々何階だったんろうな」

「三十階あったそうですわ」

「そんな高く…そんな高い場所に住んでて不安にならないのかな?」

「人は豊かになると高い所から下々を見下ろすそうですわ」

「…それはあんまり、よくないんじゃないか?」

「元々自分達もそこの下々にいたはずなのにねえ」

「だけど住んでいたのです」

 三十階からこの国を見下ろすのは絶景でしょう。高い場所だと音も遠く、溢れるような喧騒から静かな部屋で家族と語らいゆっくりとした時間を過ごす事が可能らしい。

 高層どころか地下にいた自分達には想像が出来ない事だがお金持ちもきちんと静かだ、景色が良いと考えてここに住んでいたんだろうか。

「さあ地下のガレージに参りましょう」

「あ、あぁ…よろしく頼む」

「地下かー…馴染みがあるねえ」

「まあ長い時間地下にいたからな」

 下の階層に近付くに連れて段々と気温が低くなっている。明るい地上から地下へと続く階段は暗く、コンクリートの壁に包まれている。

「本来でしたらエレベーターを使って降りれるのですが…節電で階段で降りてますの」

「まあたいした距離じゃないから構わない」

「わー…何かすごいね」

 地下のガレージは確かに車が停められていた。しかし目に見える車はどうしたらそうなるのかと言うぐらいに破壊されており、見るも無惨だ。

「…何でこうなってるんだ?」

「私には分かりかねますわ」

「上は攻撃であぁなってるのは分かるけど…確かに地下のここが無事じゃないのは変だね」

「人の手で壊されたとしか思えないぞ」

 わざわざこの地下に侵入してこの車達を破壊していったのかと考える。逃げる手段を失くすためと考えると納得出来るがこのお金持ちの住居を攻撃して尚且つ地下にまで侵入するものかと納得が出来ない。

「見える車は…ぼろぼろだな」

「開けられてない所にあればいいけど…」

 ぴったりと閉められたガレージはいくつかあり開けて中に車が無事残っていれば何とか自分達の移動手段も復活出来る。しかしやはり鍵は必要らしく鍵を失くした時のための操作盤も付けられていた。どうしろと。

 鍵、もしくは操作盤を銃で壊してしまうのも提案したがそうすると盗難防止装置が働きガレージを開ける事は二度と叶わないと言う。

「仕方ない。開いてる部屋を見て…鍵か何かをもう一回探してみるか」

「そうだね」

「私も手伝いますわ」

「いや。俺達の車の問題だから二人でやるよ」

 気持ちだけ受け取っておくと断るとマリィはあっさり引き下がり頭を下げる。

 今の時点で見れる場所は全て見終えて地上へと戻るとレアの声が聞こえる。どうやらマリィを呼んでいるようでマリィは即座に反応してレアの声の元へと駆け足で向かっていった。

「…よく走れるな」

「マリィの事?」

「あんな歩きづらいの履いてるのに。覚えてるか?俺がプラネタリウムの下の階で似たようなの履いたの」

「あったねえ。つま先立ちの靴」

「あれ程じゃないけど、マリィは平気であんなの履いて歩いて」

「もしかしたらさ、女の子と男の子で足の構造が違うかも?女の子はあぁ言う靴履いても平気な足をしてるけど…男は無理、みたいな」

「…そうか?人体の構造は…足は男女に大きな差は無いと思ったが」

 それとも履いている内に慣れてしまったのか。

「…ん?」

「レアの声だ」

「呼んでるな…」

 マリィを呼んだレアは今度は自分達を呼んだ。カイと顔を合わせて呼ばれるままに向かっていくと昼食を食べようと言う誘いだった。

 朝に続いてまたいただけないと断るが、やはり朝と同様にもう四人分作っていると断る理由を消されてしまう。

「……じゃあ」

「どうぞ。遠慮無く」

 出来上がるまで座って寛いでいてくれとレアはずっと読んでいたのか片手には本を持っている。盗み見ると初めて見る言葉で書かれており何も読む事が出来なかった。

「…レア」

「ん?」

「いくつか質問をしても?」

「どうぞ」

 そうレアと向き合う。何だかここに来てから初めてきちんの視線を合わせたような気がした。

「ここに住んでいた人はもう…レアとマリィが来た時点でいなかったんだな」

「そうだな。誰もいない」

「それじゃどんな人が住んでいたかも分からないか」

「いやまったく知らない訳じゃない」

「そうなのか?」

「世界が滅亡する前にこのマンションに住んでる住人の生活スタイルに密着した番組があったんだ」

「…密着した…番組?」

「そう。テレビ番組」

「てれび番組」

「……テレビ知らない?」

「俺は少し知ってるけど…カイは知らない」

 本で読んだ事はあるため知っているが想像が出来ない。レアが頭を捻らせて教えてくれたのは映像機器で記録した映像を国中に見せる事。その道のプロが面白くなるように手を加えたりして見る人を楽しませるものがテレビ番組らしい。

「それにここが?」

「そう。確か…すごい人達ばっかりだ。スポーツ選手に大手企業の役人。芸術家。百貨店経営者…芸能人」

「ふーん。いまいち想像出来ないけどすごい人達なんだろうね」

 恐らく一目置かれるような存在であろう。しかし人間社会の情報が少ないためそれがすごいと言われてもそうなのか?ととりあえず頷く。カイも同じらしくとりあえずすごいとだけ解釈していた。

「………」

「…何?」

 自分とカイをレアは見つめていた。何を言う訳でもなくただ見つめているだけで居心地が悪くなり尋ねるとレアは首を振る。

「いや、人間社会から隔絶された人間ってこう育つだなって…」

「……おかしく見えるか?」

「おかしい、よりは珍しい、希少」

「今の状況で…むしろ人間そのものが希少だろう。俺達が特別希少じゃない」

「そう…そうかそうか。それもそうか。むしろこの世界で…まともに生きてる方がおかしい状況だもんな」

 世界は滅亡したのにな。

 そう言ってレアは青い目をほんの少し濁らせて独り言のように話した。


 

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