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瓦礫

 国がどうするべきか決める場所があることを知っている。その名称は国によって様々であるが今となってはもう何と呼んでいたか名前すら忘れられようとしている。

 あの日、この国に攻撃が降り注いだ。

 理由は分かる。自国を助けるための攻撃である。奪わないと私達の国は無くなる。それまで紡いできた歴史が守るべき文化が、言葉があり方が人がこの国を故郷としていた人々の命が無くなっていく。

 この国の人々には知られる事の無いように遮断していた情報がこの国への攻撃を知らせた。国のあり方を決める人々はそんな早く動けたのかと言うぐらいに走り回っている間に白昼、この国は攻撃を受けた。

 多くの人々が長い時間をかけて作り上げた国の光景は瓦礫になり焼かれ奪われて資源を使い続けるこの国の人間を根絶やしにしてしまおうと命を奪い続けた。

 人と言うのはおかしくなるものだ。

 満たされている時は笑って手を取るのに無ければ豹変しその手を叩き落として倒れるまで打ち続ける。

 それをお互い繰り返して繰り返して何も残らなくなりこのまま世界は終わるのだろうと思うと音が聞こえる。

(車の音だ)

 何年振りかと思いゆっくりその方向に目を向けると一般的な車よりも大きめの車から二人の若い男が出てきた。


 国のあり方を決めるための場所はやはり瓦礫しかない。混乱を起こすために一番早くそして一番ひどく攻撃をされている。何も残っていないなと思いながらその周辺を走り続ける。

「何も無いね」

「展望台から見えたからそうだと思ったけど…近くで見るとひどいな」

「政治とか何とかは、ここでやってたんでしょ?」

「全部そうなの…か?だとしたら、お父さんやジュンはここで働いてたのか」

 父はこうなる前に辞めているため無事だがジュンに関してはよく無事でいられたものだ。

「ここで色々…こうしたらいけないって事を決めてたのかな」

「だろうな。法律だ」

「法律っていくつあるんだろうね」

「かなりあるぞ。聞くか?」

「いらない」

「そうか」

 父の持っていた本の中に法律が書かれた本があったため暇潰しに読んでいた事がある。人を殺してはいけない。人を傷つけてはいけない。物を盗んではいけない。脅迫してはいけない。そんな当たり前の法律からこれは何だと思うものまで多々ある。

「でもさ、何か不思議だね」

「何が?」

「人を殺してはいけないって、当たり前の事が決まってるのに何でこうなったんだろうね」

「俺達はまだ体験してないからそう言えるんだと思える。極限状態になったりするとその自制は効かないかもしれないし、状況によっては法律が変わっていたかもしれないな」

「状況によって、戦争だね」

「そうだな。状況と時代で…分かってはいるけどそうしなきゃいけない事もあるんだろう」

 歴史を学ぶとかつて存在していた国々での争いは数えられない程にあった。それは自国の領土を広めるためであったりまたは権力を手にするためのものであったり宗教での対立もあった。

 これだけ歴史で繰り返しておきながらもまた戦争が起こるのは結局のところいつまでも全ての国が満たされる事は無いから繰り返すのだろうか。

「何かこうなると、法律って本当に必要だったのか分からないねえ」

 瓦礫の山を見つめてカイは呟いた。

「国が機能してたら必要なんだろう」

「ねえ。今は?」

「今?」

「今は法律が必要?」

「…今必要かって聞かれたら…一番必要なのは法律じゃなくて自制心な気がするが」

「自制心かー」

 法律がある理由は勿論人に対して悪い事をしてはいけないと言う理由から存在するのと同時にもし法律を破ってしまったら裁かれて牢に入れられる。そして自分は罪人だと言う烙印を押されて今後生きると言う恐怖があるため人は法律を守る。

ただ今はその裁くための人が存在していないため法律が機能しているかどうかはどちらかと言えば機能していないだろう。そもそも機能していたら自分達は人がいないとはいえ無銭飲食や本来お金を払って貰う物を何も対価を与えず貰っている。

 緊急事態なので致し方無いが。

 ただし人を傷付けない。

 人を殺さない。

 それは守っている。ただそれは今まで会った人間や人工知能の存在が悪い人ではなく善人だったから出来た事だ。

(今必要なのは、法律じゃなくて自制心…)

 それと運の良さも必要かもしれない。また次に何かあった時に人を殺さないと言う気持ちを自制心で守れるように。

「ねえ、ちょっと外に出ようよ」

「瓦礫の山を歩くのか?」

「車からだと見えない物があるかもしれないでしょ?」

「分かった…ちょっと待ってろ。停めるから」

 瓦礫の山から少し離れた場所に停めて車から出る。歩いて車から眺めていた瓦礫の山へと向かうと思っていたよりも瓦礫の一つ一つが大きい。今は何も起こらないが崩れる可能性を考慮してなるべく近付き過ぎないようにカイに伝える。

「…何だか今までのと違うな」

「何が?」

「ただ灰色のコンクリートとかじゃなくて、建物に使われてる石や材料が違うんだ」

「すごい人達がいる所だからじゃない?」

 国のあり方を決める人達が集う場所だからか、この建物に使われていたであろうそれは鮮やかな色をしていたり今でも輝きそうな真っ白な石の瓦礫が落ちていた。中には石で作られたのだろうか絵が描かれていたような瓦礫も落ちている。

「ねえジン!こっち来て!」

「今行く!」

 瓦礫を観察しているとカイの呼ぶ声が聞こえる。呼ばれた方向に行くとカイは小さな瓦礫を退かして何やら引っ張り出していた。

「崩れるかもしれいから止めろ」

「平気だよ。ほら、出てきた」

「椅子か?」

「だよね」

 瓦礫に埋もれていたのはここで使われていた椅子だろう。脚の部分は折れておりもう椅子としての機能は果たしていないが座る部分や背中を預ける部分はふっくらしており破れてはいるが十年以上この瓦礫の山に埋もれてはいたとは思えない程にしっかりしていた。

「何だか…今までで一番良い椅子に見えるな」

「ね、何か偉い人が座るぞって感じの椅子だよね」

「こんな椅子に…お父さんは座ってたのか?」

「そうだよね。パパが仕事してたかもしれない場所だもんね」

 働いている父の姿は想像出来なかったがもしかするとこの椅子に座って何か、仕事をしていたのだろうか。

「他にあるかな?」

「あるかもな」

「探そう探そう」

「カイ。気を付けろよ」

「分かってるって」

 本当に分かっているだろうか。

 崩れる様子は今のところは無いが用心しながら探索すると瓦礫の山に埋もれている物を少しづつ発見していく。金色に輝く小さなバッチのような物。何を意味しているのか分からないがここにあると言う事はこれも重要な物の一つかもしれない。

 ボロボロになったネクタイを見つけるとネクタイの裏に刺繍で名前らしき文字があった。父のネクタイだろうかと読んでみたがまったく違う名前であった。

「誰だろうなこれ」

「大人も身につける物に名前入れるんだね」

「無くしたら困るからな」

「子どもと同じだねえ」

 カイはそう言って昔、背丈が同じぐらいになった頃に身に付ける衣服の共有を提案した母に反対して自分の物に徹底的に名前を書いたのを思い出す。

 とは言えこのネクタイに名前があるのはそう言う理由ではないだろうけど、子どもと大人に不思議な共通点がある事が見つかった。

「あ、これ」

「ん?」

「何だろう」

「小物入れか?」

「それにしては…平たいね」

 見つけたそれは何か収納されているようだがやけに平たい。物を入れるには随分心許ないなと感じながら開いて見せると中には手のひらに収まる程のカードがいくつもあり、別の収納箇所には数字と絵が書かれた紙が何枚も入っている。

「平たい物専用の平たい小物入れ」

「…?健康保険証、キャッシュカード…クレジットカード?」

「何に使うカードだろ」

「さあ?」

「何これ?快感御姉様倶楽部?」

「…やけにピンクでギラギラしたカードだな」

「たくさんスタンプ押されてるね」

「快感って、何をするんだ?」

「さあ?いっぱい遊ぶとか?」

「大人は決まった所でしか遊べないのか」

「窮屈だねえ」

 健康保険証やキャッシュカードと言うカードに比べて情報量が多いそのピンク色のカードは裏面にスタンプがいくつも押されておりあと一個のスタンプで“最高の快感サービス”と書かれていた。

何だろうか。最高の快感サービス。

「それは?」

「これは……もしかしてお金か?」

「え?紙じゃん?」

「でも、書いてある。お金の証明」

 この国の名前とこの国が認めたお金であると堅苦しく書かれていた。お金の事を習った時に既に知っている固い丸い形のお金ともう一つある事。

「紙のお金だ。しかも…一万」

「いちまん?」

「一万」

「…凄い大きいじゃん!」

 こんな紙切れ一枚にそんな大きな金額が書かれているのとカイが驚く。確かに自分もこんな紙切れでそんなにたくさんの金額を手にする事が出来る事実は信じがたい。

「しかも一枚じゃない…二枚、三枚」

「五枚ある!?」

「五万円!?」

 自分で数えておきながら驚いてしまう。

この国が機能していたらかなりのお金持ちに今なっている。これだけあれば何が買えるのか、食糧も買える。本も買えるかもしれない。もしかしたら家まで買えるだろうか。

 この国が機能していたら。

「…すごい金額」

「うわー…使ってみたい」

「これだけあったら持ち切れないぐらい色々手に入るんだろうな」

「そしたら…ステラにキーホルダーのお礼を買って」

「ミナモには美味しいって言ってたキャラメルポップコーンを山程買って」

「ムギにはもう一つ水槽買おう」

 そしたら病院の彼等にはたくさんの食糧と退屈しないように本を買って大きな家も手に入れて皆で暮らせるようなそんな事も出来るかもしれない。そう笑って夢想し目の前の紙切れを見つめて カイが呟く。

「…何で使えないんだろう」

「使いたいな」

「使えたら、楽しいのに」

「そうだな」

「ジン」

「ん?」

「この紙切れ紙飛行機にしていい?」

「俺もやる」

 今となってはただの紙切れになったそれを折り畳んでいき飛行機を作る。正方形ではないため何とも歪な形の飛行機が出来上がった。どうやってもどこまでも飛ばなそうな紙飛行機を手から離して飛ばしてみるとやはり予想通りに紙飛行機はすぐに落ちてしまった。

「飛ばないねえ」

「また飛ぶための紙じゃないしな」

「これ一枚で何でも手に入りそうなのに、ただの紙にしたら何も役に立たない」

「本当だな」

「それで、これ誰?」

「知らない人だな」

 一万円に載っているまったく知らない男性の顔。それなりに年齢を重ねており立派な髭を蓄えている。

「ジンも知らない人なの?」

「見た事が無い。何で一万円に載ってるんだ?」

「この人がこの紙作ったんじゃない?」

「この絵とか書いたりしてこれが一万円ですって決めた人?」

「そうそうそんな感じ」

「まあ…それなら納得か?」

 わざわざ自分の顔を載せるなんてなかなか自己顕示欲が強い人なんだな。

 他のカードの意味はよく分からなかった。クレジットカードとはなんなのか、キャッシュカードとは何なのか。名前が書いてあるがそれ以外には数字が羅列しており何を意味するか分からない。

「どうするこれ」

「何に使えるか分からないねえ」

「置いていくか」

「そうだね。カードなんて食べられないもん」

「そうだな」

 役に立つ物や興味を引かれる物があれば持ち帰るがこちら中身も含めて興味を引かれる事が無かったため珍しくそのまま置いて他を見る事にした。

「ちょっと登るね」

「だから、危ないって」

「だから平気だって」

 カイは気にせず危ないと言っているのに瓦礫に足をかけて登っていく。その姿をただ見ているだけにはいかずため息を一つ吐いて自分も登る事にした。大きめの瓦礫に足をかけて一歩一歩登っていきカイに追い付くと退かせる瓦礫を退かして何かないか探していた。

「何も無いかな」

「何も無い…と言うより何も無くなったんだな」

「ん?」

「攻撃ひどく受けて、あったはずの物が瓦礫の山に埋まってるんだろうな」

「この瓦礫に下に何かあるはずなのに」

「あるんだろうな。でも、瓦礫の下に埋まってもう何も無い」

「つまんないなあ…それは」

 何も見つけずにこのまま去りたくないのかカイは瓦礫を退かして探し続ける。自分も退かせる瓦礫を退かしてみるが何も見つからない。あまりに瓦礫が多い。この下に何か、この建物が分かる何かがあるのだろうか。歴史が分かる、この建物に刻まれた過去の記憶やこの瓦礫の下で眠る国のあり方を考えていた人の体がもしかするとお掃除ロボットに片付けられずまだあるかもしれない。

「……」

 つい、瓦礫の下に眠る遺体を想像してしまった。目を開けているのかそれとも穏やかに閉じているのか、いや突然明日を奪われた人間の死に顔がそんな穏やかなものであるはずがないと首を振り怖くなりカイを呼んで車に戻ろうと視線を向けると驚く。

「カイ!」

「やっぱり何もないね」

 想像していた間に遠くに行ってしまった。呑気な声で瓦礫の上を歩きながら大して足元を気にせずにこちらに気付いて向かって来る姿に青ざめて慌ててカイの元に近寄ろうとするが上手く進めない。

「カイ!足元崩れる!」

「結構平気だって、ジンこそ」

 ちゃんと足元見ててよとカイの声が届くと瓦礫が音を立て、立っていた足元動き出した。

声を上げる暇もなく視界が急速に変わり落ちていく感覚が全身を包んで次に叩きつけられる痛み。カイの悲鳴とよく通る声が何度も自分を呼んで近付いて来るがそれに答えることが出来ずに地面に 倒れるとそこで記憶が途切れた。


 瓦礫の山で遊んでいるように見えた黒髪の若い男が崩れた瓦礫から落ちていきもう一人の栗色の髪の男の子が悲鳴を上げて彼を揺する。

 頭を打ったのかそう言う時は揺らさない、脳震盪でも起こしたのだろうその内目を覚ます。それが分からないのか栗色の男の子は混乱しながら名前を呼びその後ろ姿に近付き声をかけた。


「大丈夫?」


 そして手を差し伸べた。



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