バスターミナル
大きな車がたくさんあると助手席のカイが声を上げた。カイが見つけた方向に車を走らせると確かにそこには大きな車とそれなりに大きな建物がある。
看板は半分無くなっており読めた部分は“ターミナル”の文字だけだった。
「大きな車、何人乗れるんだろう」
「先にこっち見よう」
「えー、大きい車見ようよ」
「あの大きい車が何なのか分かってから見に行こう」
車の中を調べたいカイを引っ張り建物の中に入る。大きなモニターらしき機械と大きな椅子、テーブルがいくつかあった。
「ねえ。何で大きい車の中から行かないの?」
「ガラスが殆ど割れてたし、中の様子が暗くて見えない。危ない気がする」
「んー…そしたらここ見た後に大丈夫そうなくるまもあるかもしれないから探して見ようよ」
「大丈夫そうなのがあったらな」
にしてもどういう建物なのか。椅子は多くあり寛ぐ空間にも見える。そう思ったらまるで使い方がさっぱり分からない機械が幾つも置いてある。
「あ、お店がある」
「小さいなー…地下鉄の店みたいだ」
狭い面積で作られた恐らく店は棚は空でそれどころか棚は斜めになり店の中に入る事すら出来なかった。
「二階もあるね」
「この調子だとあんまり期待出来ないな」
一階がこんな何もない有り様だと二階も何か得られるような期待は出来ない。階段を上がり二階に上がるとここにも大きめの椅子にテーブルがある。一階のように店は無いが飲み物が手に入る箱があった。
「…ひどいな」
「これこんな風に開けれるんだね」
その飲み物の箱は無理矢理開けられていた。中に入っていた飲み物はお金を入れずに持ち帰りされたらしく機械の構造を分からない自分達にも中身は空だと分かった。
「ターミナルって…何だろうね」
「座る場所が多いし休める場所ではあるんだろうけど…今はもう休める場所には見えないな」
「あ、ジンこっち来て」
「ん?」
カイに呼ばれて行くと一階には無かったがこの建物の内部構造が分かる物が壁に貼られていた。
“セントラルバスターミナル”が正式名称らしくかつてここにあった店の名前や案内が示されていた。
「チケットカウンター…」
「第一センター行き、一番乗り場、第ニセンター行き、二番乗り場…」
「バスって…あの大きい乗り物?」
「あれがバスか」
「ここにいればそのバスに乗れるって事?」
「チケットカウンター…ここでバスに乗るためのチケット買って…乗るのか」
それにしては随分大きな乗り場にも思える。地下鉄は小さな乗り場だったし地上の駅もそれなり大きかったがここはそれ以上に大きい。
駅には見られなかった長く大きい椅子が多くありそれだけ座って待つ人間が多かったのだろうか。
「ねえ。こっち行こう」
カイが指差した方向は“リラクゼーションルーム”とある場所。何があるのかと思いながらその場所に向かうとまず男性の方はこちら、女性の方はこちらと分かれていた。リラクゼーションルームとやらは男女の性別で分けるのかと思いながらとりあえずは男性の方に入ろうとすると大きな注意書きがある。
「こちらは…」
“こちらは男性のお客様専用のリラクゼーションルームとなっております。ご利用されるお客様は心身ともに男性の方。心は男性でも体が女性の方は女性専用リラクゼーションルームでのご利用を必ずお願いいたします。また、従業員や他のお客様から女性であると判断された場合は速やかにご利用をお止めください”
「長いね」
「随分目立つように書いてるな」
「この心が男性で体が女性って」
「いるんだよ。性同一性障がいって言って生まれた体は女だけど精神は男。体と心の性別が合わないんだ」
「よく知ってるね」
「ヒデタカ先生に教えてもらった」
まさかここで説明するとは思ってもなかったが。こうも目立つ注意書きがあると言う事は過去にそれで大きな問題になったのだろう。
「早く中入ろう」
「分かった分かった」
カイに手を引かれて中に入ると横になれる柔らかい床の場所。貸出し用と書かれた棚の中にはここで眠るためなのか固めの枕と毛布があった。大浴場でもあったような少し手触りは悪い毛布だ。
「こっちにシャワールームがあるって」
「泊まれそうな場所だな…」
横になって眠る事は出来そうだし更に体を洗える場所もある。シャワールームは扉が割れていたがお湯は問題なく出てきてまだ使えそうだ。
「ジン。バス乗るためにわざわざこんなシャワールームとか用意するの?」
「事情があって体洗えないまま来た人とかが利用するのか…?」
それにしては長時間ここで過ごす事が想定されているような場所だ。
他にも“ご自由にどうぞ”と書かれた箱の中には小さな飴やお菓子が残っていた。
「やった。お菓子」
「こんな…泊まれるような場所作る必要あるのか?」
「あのさ、女性専用も行ってみる?」
「駄目だ。俺達心身ともに男だから」
「もしかしたらまだ食べる物があるかもじゃん?」
「……」
「誰かいたら謝ろう」
「…ゆっくり行くぞ」
あの注意書きが女性専用リラクゼーションルームの入り口にも大きくあった。同じ様に心身ともに女性の方。体が女性でないと駄目と言う事。
ただ男性専用のリラクゼーションよりも注意書きが強い書き方だと感じ取れる。
“心が女性であっても体が男性の方の利用は一切お断りしております。従業員とお客様が男性であると感じた場合は確認させていただき男性であった場合は今後の利用は一切お断りしております”
「また…差別と言う前に心が女性であれば女性専用ルームに男性がご利用した時の恐怖が分かるはずです…」
「わー…何か悪いことこれからするみたい…」
「これ…もしかしたら心は女って言って堂々とシャワールーム利用した男が過去にいたって事だよな…」
「さっきの性同一性とかじゃないの?」
「…それを利用したのかもな…」
「それってどう見抜くの?」
本当にそうか悪い事をするために利用しているかどうか。
「……それはどうすれば…自分の生殖器に対してどう思ってるか聞くとか?」
「……難し、」
「難しいんだよ。精神的なそれって」
病原体がはっきり分かるようなものじゃないんだとヒデタカ先生との授業を思い出して頭を抱えた。
「もしもーし。誰かいますかー?」
本格的に入る前に一応カイが大声で反応を待つ。特に返ってくる言葉もないためゆっくり覗くと中は男性専用のリラクゼーションルームとほぼ変わらないような気がするが、物が多いようにも思える。
「何かかわいいクッションもある」
「…ご自由にどうぞのも…紅茶と焼き菓子だ」
「シャワールーム行こうよ」
「そこは別に変わらないんじゃないか?」
人がいないとは言え女性のシャワールームに入るのは気が引けるが男性のシャワールームでは無い物がいくつかある。
髪を整えるための器具と髪を綺麗にするための何かがあった。
「…女の人ってこれ全部使うのか?」
「長い人が多いから?」
「こんな…何だこれ?油?」
「わー、んー?お肌を整えるおーるいんわんじぇる?」
「ぱうだーるーむって何?」
「粉?」
「粉の部屋…?」
分からない物が多い。
何を意味しているのか分からない部屋もある。中を覗いて見るとそこには明るく光る鏡と引き出しのついた机に座り心地の良さそうな椅子がいくつとある。
「どういう部屋だ?」
「粉どこ?」
よく理解出来ないままに部屋を見て回ると開けた引き出しの中にこれは知っている。化粧品だ。母がたまに使っているのを見た事がある。
「何これ小さいね」
「口紅は…分かるけど…何だか使い方が分からない物の方が多いな」
小さなそれは一回しか使えないらしく。口紅やアイシャドウ、ファンデーションなど肌や目蓋の上を色付ける物と説明があった。
「…これ全部使うのか?」
「そうなんじゃない…?」
「顔の面積なんてこれしかないんだぞ?それなのにこんな何色も使ったら顔が虹色だ」
「いや別に顔全体に使うわけじゃないでしょ」
目蓋しか使わない色とかあるじゃんと、カイは化粧品の説明を見ながら言った。それでもこんなたくさんの種類全部使えるとは思えない。世の女性は随分時間をかけていたんだろうな。
「化粧しないでそのままでって言うのはいかないのか?」
「前にさ、たくさん服とかアクセサリーとか…おしゃれを置いてる所があったでしょ?」
「あぁ、コーヒー飲んだ所か」
「あそこと同じじゃない?服もそうだけど顔も自分が思うおしゃれするのがいいんじゃない?」
「自分のためか?」
「ぼろぼろでいるより着飾れるんならその方が気分はいいんじゃない?」
「…自分のためか」
顔に色を一つ乗せるだけで自分の姿が綺麗になるならこれ程数があるのも納得かもしれない。あのたくさんの服やアクセサリーがあった場所で同じ物が一つも無かったようにこの化粧品もこの数だけ、いやそれ以上に人によっての正解があったのだろうか。
「ねえ、そろそろ外に行こう」
「外に?」
「大きな車、バスが見たい」
「無事なのあるか…?」
「たくさんあったし一つぐらいはあるでしょ?」
ここはバスターミナル。多くのバスが集まり走って行く場所である。
外に出てバスがあった場所へと向かうとまず見つけたのは黒く焦げたバス。攻撃を受けて燃えてしまったのか今でも匂いがしてきそうだった。
丁度このターミナルから出て少し走った場所で攻撃を受けたんだろう。
「走って行ったって事は…乗ってたんだろうな」
「…燃えちゃってるよ…ひどい」
近付くのは止めておいて他のバスを探す。
ターミナルから少し離れた位置に大きな建物、屋根だけがありその屋根の下には無事なバスが残っていた。青いバスと白と黒のバスだ。
「中入れる?」
「多分…ここが入口だろうな」
まず青いバスに近付き軽く押してみるとあっさり中は開きカイと共に入って見ると二人づつ座れる椅子が通路を挟んで並んでおり五十人近く座れそうだ。
「ねえカイ。運転出来る?」
「こんな大きいの出来ない」
「じゃあ僕がやってみる」
「え?」
不穏な声が聞こえたと思うと普段乗っている車よりも重いエンジン音がかかりバスが揺れる。いつの間にか運転席に座っていたカイは普段運転するのと同じ要領で動かそうとしていた。
「カイ、カイ!」
「すごい。ハンドル重い」
「何走らせようとしてるんだ!」
「いつもより大きいから一個一個の操作が滅茶苦茶やりづらいよ」
「なら止めろ!エンジン切れ!」
少しづつこの五十人は乗れるであろうバスが元の位置から動き出す。倒れないように座席に手をかけて立っていると機械音声で“ご着席してシートベルトをおしめください”と注意が流れる。
「もう少し走ったら停めるね」
「今すぐにでも停めろ!」
「えー…でもこんな大きなの運転する機会もう無いかも」
電車も飛行機も運転の仕方が一つも分からなかったけどこれなら分かるし問題無い。
こっちは問題あるんだ。こんな大きな車を初めて運転する人間に身を任せているんだから。そう怯えているとまた“お客様。ご着席してシートベルトをおしめください”と再びアナウンスか流れる。
「ジン。ご着席してシートベルトをおしめください」
「そんな余裕無いんだよ…」
“至急、ご着席してシートベルトをおしめください”
先ほどよりも機械音声が強くなっている気がする。安全のために言っているのは理解出来るがこちらもカイが操作を誤ったら運転席に飛んで行き何とかする覚悟もあるので呑気に座れない。
すると。
“お客様の安全確認を行いますので安全な場所へと停止いたします”
「ん?停止?」
「あれ?」
「何だよ…もう」
「…操作きかない?」
「…は?」
「ハンドル勝手に動いてる!」
「勝手に!?」
焦り始めるカイに慌てて駆けつけると確かにハンドルが勝手に動いて車を動かしている。二人でハンドルを掴むが効果は無くバスは何処かに走って行き声を上げるが突然停まりエンジンも停止した。
“お客様の安全確認を行います。確認が取れましたら再出発致します”
そう機械音声でアナウンスが流れて終わった。
「…血の気が引いた」
「車って自動で走るの…?」
「ミナモが自動運転の車の話してたろ…あるんだろうけど…まさかこんな大きいのもそうとは思わなかった…」
「ジンがシートベルトしたなかったから?」
「…危ない乗客がいるとそうなるのか…」
無理矢理停めてその危険を排除するのか。
わざわざそんな事をするぐらいなら自動運転で無理矢理停めずとも人の口から注意するなり機械音声で何度もアナウンスが流れるのだからすぐに従えばこんな怖い思いせずに済むのに。そう呟きながら座り込むとカイが一言。
「従わなかったじゃん」
「…なるほどな」
こうする事も大事らしい。
初めての自動運転を体験し普段は自分達が出来る運転が離れて勝手に動くと言うのはなかなかの恐怖体験である。これが当たり前だった時代もあったのだろう。
「自動運転って…こんな感じなのか」
「これ絶対安全なら良いけど故障したらどうするんだ」
「誰が責任取るんだろうね」
「それだ。誰が責任を取るのか…」
「ね。もう二度と運転しない」
「そうしてくれ」
青いバスから降りて白と黒のバスに乗り込んで見ると驚く。
「…何これ?椅子は?」
「何だか部屋みたいなのが並んでるな」
運転席はあるがそこから先、乗客が座れる椅子が見当たらない。見ると扉が並び小さな部屋が並んでいるようだった。一番近い扉を開けるとそこには確かに乗客が座る椅子があったが先ほどの青いバスの椅子と比べると作りがしっかりしている。
真っ白で深く座れそうな椅子の他にも収納が出来るテーブルや明かりがある。
「随分豪華だな」
「これ何人も座れないじゃん」
「特別なバスか?」
「前にさ、飛行機で椅子が違ったりしたでしょ?」
「…ああ、お金持ち専用の椅子」
「ここはお金持ち専用のバス」
「…それならこれだけ作りん混んでるのも納得だな」
支払うお金によって座れる時の快適さが違うのだろうか。青いバスの中と白と黒のバスの中身はこうも違うとは。
「うわ。座り心地が良い」
「どれどれ…」
カイの座る椅子と対になっている場所の椅子に座ると確かに沈み混むように座る事が出来、座っているのに寝ているような感覚もある。
「あ、水もある」
「本当だ。食べるのもあるよ」
座った目線の先に水と移動中に食べられるようにか箱に入ったチョコレートがある。このままの状態で移動し好きな場所に降りる事が出来たら何とも快適だろう。
「いーな…このバス」
「確かにな…寛げるし快適だ」
「このバスで移動する?」
「それは絶対に嫌だ」
「やっぱり?」
「快適だけど…大きいし運転する側だと寛げないだろう…」
「そうだよね。結局運転しなきゃいけないし、自動運転は怖いしね」
「電車も飛行機もだけど…よくこんな大きなの運転してたな…」
「練習したんだろうね」
「だろうな」
何十人も乗せて運転し、操作を誤れば事故に繋がる。そうならないように練習しそうならないように気をつかえる人がこのバスを運転していたのだろう。
「にしても二台だけか…」
「こんなに大きな所ならもっとバスがあっはずなのに」
「攻撃を受けたバスもあるし、ここから出て逃げようとしたんだろうな」
「残りのバスはどこかに行ったんだ」
「無いってことはそうなんだろうな」
「無事に逃げたのかなあ」
「……」
何処まで行けたか痕跡が残っていないため逃げたとも駄目だったのかも言い切れない。
この残った二台のバスが無事だったのはあの攻撃を受けたバスを見てもうこのバスで何処かに逃げたりする事は不可能だと思い乗るのを諦めたのだろうか。
「ここにいた人は何処に行ったんだろう」
カイがそう呟きバスから離れてまたターミナルへと戻る。ここはシャワールームも使えるため今日は泊めてもらう事にした。勿論男性専用のリラクゼーションルームで。
下にあった店の物や食べる物が殆ど無いためしばらくはここに滞在していたと言うのは感じ取れるがそれ以外にここに誰かがいたと言う感じは何もしなかった。
「あ、ジン」
「ん?」
「地図があるけど…」
「けど?」
「落書きだらけ」
「落書き…」
カイがリラクゼーションの毛布の下にあった地図を見せる。そこには確かにこの周辺の地図のようだが黒いペンで目一杯絵が描かれていた。
ここにいた小さな子どもが描いたのだろうか。
「文字が鏡文字になってる」
「多分人かな…ぱぱ、まま」
「家族を描いたのか」
「この子も…どこに行ったんだろうね」
かろうじて人だと分かる絵はこの絵の作者の両親と自分の三人が描かれている。その後ろにこれは家だろうか、歪な形の建物が描かれている。文字をまだ書けない子どもが懸命に描いたそれは早く両親と共に家に帰りたい。そう願いが込められていたようだった。
「…生きてるかな?この子」
「願望になるが…生きていればいいな」
「…そうだね」
名前も顔も知らない小さな子どもの願いが込められた絵を綺麗に畳み元の場所へと戻す。
暗くなってきたためシャワーを浴びてリラクゼーションルームで横になる。枕が固い。
「寝れる?」
「…これ一晩寝るために用意された枕とは違う気がする」
「だよねえ。固いし」
「でも無ければ無いで落ち着かない」
「明日首痛くなってるかなあ」
「かもな」
固い枕で頭を支えて眠る。
眠ろうと思っても何度か寝返りし目を覚ましてしまう。
(これあの白と黒のバスの中の方が眠れるんじゃ…)
白の黒のバスの中にある何とも座り心地が良さそうな椅子が魅力的に見えてくる。いっその事あのバスの中に移動しようかと考えていると肩を叩かれる。
「…寝れない」
「俺も…」
「あのさ」
「あのバスに行かないか?」
「やっぱり?」
カイも同じ考えだったらしい。
そうと決まれば真っ暗な道を照らしながらあの白と黒のバスに入ると手探りで扉を探しあの座り心地が良い椅子を見つける。
「こっちの方がいいかも」
「よし…寝るぞ」
「ねえジン」
「ん?」
「離れて寝るの初めてだねえ」
「…あ、そうか」
確かにカイとこうして部屋を分けて寝る事は無かった。シェルターにいた頃も寝室は一つで何ら不思議に思っていなかったためいつまでもそうだと思っていたが今日は違うらしい。
「寝れるか?」
「寝れるよ」
「寂しかったら起こせよ」
「ジンこそ」
「そうするよ」
「…否定しなよ」
おやすみ、と言って扉を閉める。
個室に別れて椅子に座り目を閉じる。
普段はすぐ側にいるカイがいない事に違和感がありまたすぐ目を開けてしまったがふと、いつかはこうなるかもしれないと思い不安になる。
(…それはそうだよな。いつまでも一緒にいれる訳がないし)
遅かれ早かれ死ぬ時は来る。両親との別れやカナエとの別れがあったようにいつかはそうなるんだろう。
(それは、寂しいけど)
今はまだ深く想像せずにもう一度目を閉じる。
今度は椅子に深く体を沈めていきそのまま意識を委ねているとあっという間に朝が来た。
「…寝れたか?」
朝になっても起きてこないカイに不思議に思い扉を開けるとひどく眠たそうだった。
「寝たのか寝てないのか…」
「後ろで寝てたらどうだ?何か見えてきたら起こすから」
「んー…いい、隣座ってる」
「そうか?」
バスから移動してターミナルに寄り顔を洗い元の車へと戻る。助手席に座り眠そうに窓に寄りかかるカイを気にしながら走ると眠れなかった理由を話し出す。
「ちょっと怖くなった」
「怖くなった?」
「ジンがずっといたから、一人で寝るの初めてだったから」
「寂しかったんじゃなくて?」
「怖かった。起きても見えないのが」
「俺も似たような事考えたよ」
「…それでどうしたの?」
「深く考えないようにした」
「それって駄目じゃない?」
いつかそうなるかもしれないなら向き合う事も必要だってそう考えてなかなか眠れなかったらしいカイと、あまり向き合わずに眠った自分。
「ジンの方が考えそうなのに、こういうの」
「怖いから」
「……」
「寂しいから」
「……」
「ジンも僕も、やっぱりそうなんだねえ」
どんなに毎日生きててもいつかはと思い暗い感情になることはある。それでもそれはまだ来ないまだ来ないと目を逸らす。
「だから、ちゃんと離れても大丈夫になるまで生きるぞ」
「ちゃんと考えてるじゃん」
明日も明後日も生きていつか離れても平気だと言えるように重ねていく。
景色から消えていくバスターミナルもそう思い別れを告げた人もいるだろうか。




