花園
花と言う物は季節ごとにより咲く花が決まっているらしく色も様々でその花が大量に咲く光景は圧巻で人々はそれを求めてやって来るらしい。
とは言えその光景が見れるのはこの世界が機能してた頃の話、予想はしてたがやはり花はどこにも無い。あるのは荒れ果てた土と干からびた葉っぱらしき物だけだ。
フラワーパーク・イザナへようこそ。この場所は一年中色とりどりの華々が咲き誇る美しい地上の楽園です。
「…地上の楽園らしい」
「楽園って殺風景なんだね」
入口のすぐ側にあるご案内と書かれた紙を広げるとこのフラワーパークの説明と何がどこで咲いているか季節ごとに分かれているらしい。春、夏、秋、冬と途中で示される矢印の方向通りに進むとこの季節の順に見れるらしい。
「春の花園だって」
「春な…温かくて過ごしやすい季節らしいぞ」
「へえシェルターにいると季節のそれなんて分からなかったからね」
桃色を中心とした門で飾り立てられた入口を抜けるとそこには恐らく何か植えていたのだろう。大きな木の根っこらしき物が道の端にいくつもあった。
「切られてる?」
「これ本物の木?」
「この案内と…説明の看板がある。多分本物の木だ」
「へーこれが本物の木か…ざらざらしてる」
看板の説明にはこれは梅の木らしい。ここの入口と同じ様な桃色で小さい花らしい。
「梅の木?」
「こう言う花らしい」
「ちっちゃいね」
「花咲かせて…実がなるのか?」
「実がなるの?」
「らしい」
「食べれるの?」
「食べれるらしいぞ」
「だから皆切ったの?」
「食べようとしてこんな切ったりするか?」
「独り占めしようとしたのかも」
「欲張りだな…」
とは言えそんな訳無いだろうとも言えない。もしかしたら本当に花から実になったのを見て独り占めしてしまおうと木を切り持っていってしまったのだろうか。しかしそのままにしておけばまた実がなる事もあったのではと思う。それとももうこの木は実がならないとして切ってしまったのか。
「外はもう植物も何も無いが…ここは外とは別の環境にも見えるし今もそのまま植物があってもおかしくないと思ったが」
「育てるのに何か特別な条件でも必要だったのかな?」
「植物って放っておいても育たないのか?」
「お世話しないと駄目なんじゃない?人と一緒」
「だから育てるやめて切ったのか…」
梅の木を抜けると今度は根っこも何も残されておらず土があるだけの場所になる。ここは何も無いのかと思うと看板には確かにそこに咲いていた花の姿が映されていた。
「チューリップ」
「名前かわいい」
「これ花か?」
「かわいい」
「変な形だな…丸くて」
「色んな色があるね」
チューリップと言うそれは確かに同じ色だった桃の花と違い色鮮やかな丸い形がいくつもあった。赤に白に黄色。
「これは色んな色があるのか」
「だねえ。何でだろ?」
「俺とカイの髪の色が違うみたいに花も色を変えるんだな」
「元々真っ白なチューリップに絵の具塗ったりとかしてたり?」
「そんな…綺麗に塗れるのか?」
だとしたら正直この色鮮やかな姿は人によって作られたのかと肩を落としてしまう。
更に進むとチューリップの柔らかい雰囲気から一変して何だか攻撃的な花がある。
「刺がある?」
「うわ、何?」
「近付くな刺されるぞ」
「花も攻撃するの?」
咲いておらず枯れていても分かるその刺。この刺を持って咲くのは薔薇と言う花らしく。桃やチューリップと違っていくつも重なって咲くような姿は他の花よりも何故か贅沢に見えた。
「うわー何か怖そう」
「花に言うのも伝わらないが…何か生意気な感じがするな」
「ジン。そう言うと刺されるよ」
「刺でも飛ばしてくるのか?」
「そうだよ。うわ怖い」
人を傷付けてしまいそうな花だなそれでもこの花は人を魅了するらしい。刺を切り落として愛する人に贈り香りから香水を作り、花瓶に入れて飾られたりと意外と身近にあったらしい。
「香水って」
「香りの付いた水」
「薔薇の香水って…どんな匂いだろう」
「触れられない匂いじゃないか?」
「何か良い感じに言うねえ」
「現に触れないしな」
刺に刺される前に行ってしまおう。
早足で抜けると今度はまた桃の花と同じ様に木があった。今度は三本残っている。それ以外は全てを切り落とされているが何の花だろう。
「…桜」
「桜?」
「桃の花と似てるけど…違う花だ」
「へえ…木に一杯咲いてる…すごいね」
説明の看板にある姿はこの木に芽吹いた桜が全て咲いた姿が映されている。確かにすごい。この木全体で春を表すように咲いている。
「散っていく様子も美しく…桜吹雪と呼ばれる」
「花が吹雪になるの?」
「え?口に入らないか?」
「体に張り付いたりしない?」
「でも美しいって書いてあるな…」
「どんな風になるんだろう…」
字の説明だけではいまいち想像がしきれない。桜吹雪とは何なのか首を傾げたままに歩くと次は夏の花。明るい黄色で作られた門を抜ける。
「…ん?」
「これ何て読むの?」
「えと…あじさいだな」
看板に書いてある文字の読み方が掠れている。青、紫のような花で小さな花が集合して咲いている。大きな花と小さな花の集合がいくつもある。
「雨が多い時期に咲くって」
「雨が多い時期とかあるんだ」
「あるみたいだ」
「丸く集まるんだねえ」
「綺麗だけど毒があるみたいだ」
「え?毒がある花があるの?」
「花は全部無害って訳じゃないんだな」
何のために毒を蓄えているか分からないが綺麗な花の傍らにある葉は毒性があるらしい。誤って口にすると嘔吐や目眩がするらしい。にしてもこの事が分かると言う事は口にした人間が過去にいたと分かる。
「食べれると思ったのか…?」
「そしたら毒でしたって…」
「見るだけで満足しなかったのか」
「あんまり綺麗で食べたくなったのかな?」
「理解出来ない感性だな」
先に進もうとあじさいを抜けると随分広い空間に来た。何の花があったのかと調べると他のより大きめの看板には“ひまわり畑”とある。夏の入口と同じく黄色い花が何十、何百と咲いている姿が看板に映されていた。
「ひまわりか」
「名前は知ってるね。夏の花」
「すごい大きいらしい。花自体もその花を支える茎も」
「どれぐらい?」
「もしかしたら俺達より大きいかもな」
「何それすごい!」
そんな大きな花がここの空間一杯に咲いていれば何とも明るい空間だろう。大きなその花は常に太陽の方向を向くらしくたくましいその姿はずっと人々を魅了する夏の花。
しかも人の生活に役に立つらしく油や種は食べる事が出来ると説明にある。
「花の種が食べられる?」
「みたいだ。美味しいらしいぞ?」
「お腹の中で育たない?」
「お腹でひまわりが育つ環境が整ってれば育つかもな」
「じゃあ無理だね」
今は一本も無いそのひまわりがあった土をカイが触れていると何かを見つけたようで少し掘ると見つけた物を持って駆けてくる。
「何?」
「ひまわりの種ってこれじゃない?」
「…確かに、写真のままだ」
小さな縦縞模様のそれは説明にあった写真と同じ物だ。カイの手から取って確認すると中に実が詰まっているように膨らんでおり雨の雫のような形をしている。
「埋めたらいつか花を咲かすかな?」
「…やってみるか?」
「ひまわり畑に埋めよう。来た人が真っ先に分かるように」
「でも…咲くかどうか分からないぞ?」
「それでも埋めた方がいいでしょ?」
ひまわり畑の土を手で掘りどれぐらいの深さがいいのか分からないため勘でまあこれぐらいだろうと言う深さになった穴にひまわりの種を落として土にかける。
(葬ってるみたいだな…)
穴を開けて土をかけるとなるとどうしてもそれが浮かぶ。今度からはこの種を植えていつか芽が出て花が咲くかもと言う記憶も捩じ込まなくては。
「メモ置いておこう」
「メモ?」
「ここにひまわりの種を植えました」
紙を一枚取りそこに記す。芽が出るかは種次第だがいつか大きな花を咲かせると信じてここに刻んでおく。自分の名前とカイの名前をメモに書き植えた側に置いておく。
「いつか咲くといいねえ」
「…咲くなら水も必要だろ」
水筒から植えた種に向かって水を与える。これで土と水は与えた後は種次第。
「よし…行こうか。次の季節」
「秋の花か」
桃色と明るい黄色と続いた入口が落ち着いた色になっていた。秋の入口はまずはコスモスと言うひまわりと比べてしまうのは失礼だが控えめな花から始まった。
しかしこれも色鮮やか。チューリップのはっきりした色とは違い優しく色づいたようなその色は人を落ち着かせるようだった。
「綺麗な色だねえ」
「そうだな」
「花ってピンク色とかかわいい色ばっかりだと思ってたけどそんなんじゃなかったね」
「そうだな。薔薇の赤なんて強そうだったし」
「あれは強いよ」
花に強いや弱いがあるのか分からないが見た目だけで言えばあの派手な色や形の薔薇に比べるとコスモスは控えめな優しい花と言う感覚だ。
「…何か良い匂いする?」
「ん?」
「こっち」
「何だ?」
コスモスから抜けて行くと確かにカイの言う通りに良い匂いがしてくる。どこからその香りがするのかやって来た場所は金木犀と言う花が咲く場所らしい。しかし咲いている様子はまったく無いのに何故か香る。
「どこから…」
「あ、ジン。ここ」
「ここ?」
カイが見つけた先には金木犀の説明の看板。そこには“秋の香りをお楽しみ下さい”と探していた香りがそこからしていた。
夕方のような緋色の花、金木犀はこの香りらしい。秋になると咲いていつもの道をこの香りで満たしてくれるらしい。
「今までの花の形と違うね」
「そうだな。一番小さい…集まって咲くのはあじさいと似てるな」
「こんな小さいのにこんな匂いさせるんだね」
「しかし何でわざわざこんな匂いだすんだ?」
「自己表現?僕はこんな匂いですよって」
「何で…?」
「…守ってもらうためとか?」
「こんな良い匂いの花があるなんて…守らなきゃみたいな感じか?」
「…うん」
段々と自分が何を言ってるのか分からなくなって来ているのかカイは無言になり次の場所へと向かった。春、夏、秋と来て最後は冬だ。
シェルターにいて季節の変化は長い事ずっと曖昧に感じていたがこの国にはこの四つの季節がある。シェルターに出た頃は少し温かい空気も感じられたがここ最近は寒くなってきている。寒い、 恐らくこれから冬になっていくのだろう。
冬の入口は白い門が銀色に散りばめられていた。中に入ると大きな木があり驚いているとこれは本物の木ではなく飾りであるらしい、中に入れるようになっていてその中は冬に咲く花の名前や写真、説明が書いている。その数と種類を見て呟く。
「思ったよりも咲くんだな」
「花が?」
「冬は寒くて…植物が育つ姿が想像出来ない」
「寒さに強いみたいだね。冬に咲くのは逞しいのかも」
「スイセン…アネモネ…」
「椿だって」
「へえ、大きい花も咲くんだな」
「一年中咲く花は無いけど季節によって咲く花が違うなんて面白いねえ」
「こんなに種類もあるのが驚きだな」
花の存在は知っていても実物やどんな花を咲かせるのか分からなかった。形もそれぞれ違い匂いもある。中には毒を持ち刺を持ち危険性がある花もいる。ただただ綺麗に咲いているだけではない。
「見てると元気になれるのかな」
「花を見て元気に?」
「綺麗に咲いて良い匂いさせて…たくさん咲いてるの見たらすごいって驚いて元気になりそう」
「人を元気にか…確かに何の役にも立たないなら国が滅びる前に花も無くなってるだろうし咲いてる姿が人にいい効果をもたらすんだろうな」
「やっぱり花も人に守ってもらうためにそう咲いたんだ」
「…植物に意思はあるのか?」
「でも生きてるんだものね?」
言葉も発する事無く何かが欠けたら生きてはいけないこの植物達も花も自分達が生き残るためにこうして美しくあったのだろうか。花達がそうしたのかそれとも人達が都合よく使ったのか分からないが長い間人間と共存していたのは間違いないだろう。
「ねえジン。これ綺麗だね」
「ん?」
カイが指を差した花の写真。
それは赤い花だ。花の名前はクリスマスローズ。
「そんなに綺麗か?」
「何か良いなって」
「へえ…奥の方にあるらしい」
「行ってみようか」
花の説明をしてくれる木から出て奥に進むと確かに看板にはクリスマスローズと書いてある。赤い花だけではなく色もまだあるらしくいつ咲くかどんな花か更に詳しく説明されているが、それよりも目を奪われたのは何もない土の上に一つだけ置かれた箱。その箱から伸びて咲いてるのだ。
「…え?クリスマスローズ?」
「本物…?」
木は切られ植物は枯れ果てているがその花だけがたった一人で咲いていた。ゆっくり近付いてみると知らない匂いがする。これが本物の花の香りなのだろうか。
「ジン、ジン。触ってみてもいい?」
「ゆっくりな」
「分かった」
カイが手を伸ばして花に触れる。小さな赤い花は少し揺れた。触ってすぐに手を引っ込めたカイは今度は花ではなく下の茎の部分に触れてまたすぐ手を引っ込める。
「どう?」
「柔らかい…」
「それじゃあ…俺も」
カイと同じ様にゆっくり花に触れる。柔らかく薄い。少し手に力を込めるとすぐに壊れそうな危うさに手を離して今度は茎に、花を支える体の様な部分なのだろう。そのためか花よりもしっかりしている。
「これが本物の花かな」
「偽物か本物か判別がつかないが…ここに一つだけ咲いてるのも不自然だな」
「何かずっと咲くように頑張ったんじゃない?食べ物も昔は長くて五年とか持たないのが今は二十年も三十年も持つのが当たり前だし」
「同じ技術を持って咲かせてるか?」
「きっとそうだよ。綺麗だね」
「持ってくか?」
「やだよ。ここにいさせる」
持っていって独り占めをしたくない。また誰か来たら綺麗だねって言ってもらえるだろうとカイの意見に同意してここにこの赤いクリスマスローズはそのまま咲いてもらう事にした。
最後の季節の冬を抜けるとここで買い物を楽しむらしくマーケットの文字があった。とは言え棚は殆ど空になっているが今まで訪れた買い物が出来る場所で一番ここは色鮮やかだった。
壁には花の絵が描かれており棚も金属で出来た花の飾りがありここにもたくさん花が咲いているようだと思わせる。
「あ、見てよこれ」
「何?」
「お花の髪飾り」
「どこに使うんだよ」
「ジン。着ける」
「いらない」
「いつか役に立つかもしれないじゃん」
どこにどう着けるんだと思いながらカイは髪飾りをリュックに仕舞っていた。他には何か、使えそうな物が無いだろか。メモ用紙やペンなどは一つも残っていない。食べられる物が置いてある棚も空になっておりあの髪飾り以外は何も無さそうだ。
「わ、お花がある」
「花?」
「…え?食べ物?」
「?見せてくれ」
カイが見つけたのは一番高い場所にある棚。梯子も使わず足を掛けて登った先にあったのは透明な容器に入った青い何か。
これも飾りか何かと思ったが容器に書かれている説明には食べ物だと記載があった。
「花だろ?食べれるのか?」
「スミレの砂糖漬けって」
「食べれるようには見えないが…」
「でも食べ物なんだねえ…」
容器を開けると青い確かに花のような物が白い粒がかかり指についた粒を舐めると甘い。確かに砂糖だ。
「…食べてみる?」
「…とりあえず一つな」
そのスミレの砂糖漬けを一つづつ手に取り観察する。今まで見た来た中でこれが一番食べる物には見えないが先人の教えに従いこれを食べられると信じて口に入れる。
「……」
「…甘い」
「あっま…」
「本当に甘い…」
今まで食べたことの無い感触と口の中で目一杯に広がる甘さに思わず唸る。美味しいか不味いかと言う感想の前にとりあえず甘いの一言。
「花って甘いんだね」
「いや…これは砂糖漬けだから甘いんだろう」
「花って食べられるんだね」
「元々食べられるのか…それとも食べられるようにしたのか…?」
「ひまわりも食べられるんでしょ?こんな感じなのかな」
「いや…あれは種の話だから」
どうしたらこの花はこうしたら食べられると見つけたか分からないが食べられる花。スミレの砂糖漬けを持ち帰る事にした。車に積んである食糧箱に咲くそれは随分目立つような気がした。
「一日一つ食べようか?」
「俺はしばらくいい…まだ口の中が甘い」
「僕だけお腹の中で花咲かすの嫌だよ」
「花は腹で咲かない」
「分かんないじゃん。今日植えたひまわりも咲くかもしれないし」
「それでも人の腹の中で植物は育たない」
食べたら溶かされるんだよ。
「夢が無いなぁ」
「どんな夢だ」
スミレが咲くのは生きてる大地だけで十分なんだよ。




