展望台
遊園地から離れて進むと遠く離れた位置からでも分かる高い建物が見えた。上に向かって細長く立つそれは地下鉄で得た地図の通りに見るとこの国で最も高い建築物である。ただ近付くにつれて分かったのは恐らく本来は最も高かったのだろう。先の方が折れて破壊されているのが分かる。
「目立つ建物だったからか」
「これだけ大きかったらそうだよねえ」
近くに車を停めて見上げると首が痛くなる。入口は塞がれており建物の周りを歩くと非常口とある扉が開けられており中に入る事が出来た。薄暗い道を抜けると電気はもう通っていないらしく昼間の光だけが差し込んでいるが薄暗い雰囲気になっていた。
「セントラルスカイタワーだって」
「これの通りだな」
「ここでチケットをご購入下さいって」
「え?ここもチケット?」
「何にするにもお金がかかるんだねえ」
本来の入口から真正面に“チケットカウンター”がありそこには遊園地でもあったように大人か子どもかで設定されているお金を払う必要があるらしい。
「わざわざ高い所に行くだけで…」
「案内があるよ」
「どれ?」
「これ」
チケットカウンターの横にこのセントラルスカイタワーの内部に何があるのか説明があった。一階はチケットカウンター。二階から三階はショッピングフロアとレストラン。そして四階から六階は展望台。ここにもいくつか店はあるらしい。そして七階が最上階でここに行くのには更にお金が必要らしい。
「…二階から四階までの距離が…長くないか?」
「本当だ。一階から二階まではすぐに行けそうなのにそこから一気に広がるねえ」
「170mって」
「一番高い所で250mだって」
「人間が立っていい高さじゃないよ」
「まあまあ、まずは二階から行こう?」
わざわざ高い物を作ってそこに人を招く事に何の意味があるのかと問いながらカイに引っ張られて探索すると別の非常口から上に続く階段がありそこからまずは二階に上がる事になった。
ショッピングとレストランと書いてあった通りにそれらしきスペースがいくつと並んでいる。ここに来ていた人達に与えたのなか食糧は期待出来なそうだ。
「何だあれ」
「何?」
「あの料理の写真」
「んー?世界一長いスカイタワーパフェ?」
ガラスの容器にこれでもかと食べる物が詰め込まれて更に容器から上にはみ出した恐らくソフトクリームが高く盛られていた。
「誰が食べるんだ」
「皆で?」
「絶対に食べきれないのに何であんな残しそうな料理作ったんだ?」
「でも何かこのスカイタワーだっけ?ここに来たって感じがしない?」
「記念の一つ?食べる事が」
「かもね」
普通の料理で普通に食べるだけじゃ駄目なんだろうか。しかし思い返して見ればステラが出してくれたプラネタリウムの星空ソーダと惑星アイスソーダも特別な物だと強く印象に残っているためそれと似たような物かと思い直す。
それでも流石にやり過ぎなような気がするが。
「こっちも似たようなのがあるよ」
「スカイタワーカレーって…どこにその要素があるんだ?」
「お米の形がこの建物そっくりじゃない」
「そこか」
盛り付けを違う形にするだけで特別感があるのか無いのか。腹に入れてしまえば分からないだろうと言う言葉を飲み込む。
更に上のレストランにも同じ様にこの建物の名前を入れた飲み物や料理がある。特別仕様のカップにしてあると言う飲み物やスカイタワーパフェと同じ様に具材を盛り付けて高く上げた天丼などどのレストランもここにはこんな特別な料理があると言わんばかりに紹介していた。
「場所が場所だから…普通に料理出してちゃ駄目なんだな」
「難儀だねえ」
「この店も…普通に食べ物や飲み物売ってないしな」
「限定って書いてあるのばっかり」
レストラン以外の場所にあるのはここでしか手に入らないと書いてあるタオルやキーホルダー、箱に詰まれたお菓子もここでしか手に入らない限定だと書いてある。
「皆ここの限定の買ってたのかな」
「もうここに来れないって人は買ったのかもな」
「荷物一杯になっちゃう」
「そうだな。きりがないな」
その皆が買っていたであろう物が並べられていた棚は空になっている。その中で棚の奥に隠れるようにあった物を見つける。
「何かあった?」
「あった…キーホルダーか?」
拾えたのは小さなキーホルダーだ。恐らくこの建物と同じ形をした物で揺らす度に音が鳴る。
「何これ?何の音?」
「綺麗な音だけど…ああ一緒に付いてる紙に説明がある」
キーホルダーに付いてある紙を読むとこの建物の形を模しているのは分かったが更に歩く度に綺麗な音が鳴る“鈴”が付いていると書いてある。
「鈴だっけ」
「へえ。鈴かあ」
「あとこれ色違いがあるらしいぞ」
「そうなの?」
「十二色あるらしい」
「多いね」
好きな色を選べるらしい。とは言えもうここにはこの一色。青しか無いが。役に立つか分からないがとりあえず手に入れておく。更に探索を進めるとキーホルダーはとんでもない量があるらしく殆ど残っていないが置いてあった形跡だけ数えると軽く三十を越えた。
「何でこんなキーホルダーばっかり…皆好きだったのか?」
「ジン。ペンもあったよ」
「あぁ持って行こう…書きづらそうだな」
カイが見つけてきたペンは確かに書けるしペンではあったがこちらもこの建物の形を模しており書こうと持ってみると重い上に持ち方が安定せず ペンとしては失敗なのではと言う代物だ。
「何なんだ。ここは」
「でもこれ人気だったらしいよ」
「これが?」
「うん。置いてあった所に人気第一位ってあった」
「これが…」
ここに来た人達はここに来た瞬間にスカイタワーの罠にでもはまってるんじゃないかと疑う。正常ならこんな書きづらいペンなんて喜んで買う物ではないだろうと理解出来ないがこれもまたリュックに仕舞っておく。
「大体見れたかな?」
「そうだな」
「それじゃ、もっと上に行こう」
「え?」
「え?」
カイに待ったをかける。ここまでならまだしもここから先の階はかなり距離があったはずだ。階段で行くと言う手段はあるがその階段を登りきるのにどれぐらいかかるか分かったものじゃない。
「今日はここまでにして明日にしないか?」
「まだ昼間じゃん。行けるよ」
「だって高いし」
「それじゃジンはここで待ってて。僕が先に行くね」
覚悟が決まったら来てよとカイは手を振りながら階段に向かってしまった。一人取り残されて声も出なかったがいつ戻って来るか分からないカイを待つよりはと思い水筒から水を飲んで言われた通りに覚悟が決まったから階段に向かう。
覚悟が決まったと言うよりもカイは自分が追いかけて来ると分かった上で先に行ったと思うがここはそうしておこう。
鉄で出来た階段は万が一何かあっても落ちないように壁は出来ているが、その壁は外から丸見えの構造で階段を登り続けると外の景色はどんどん高くなっていく。
手摺をしっかり握りならべく外を見ないように進んでいくとその先にカイが待っていた。
「思ったより早かったねえ」
「誰かさんに越されたくないからな…」
「ねえ。手、握る?」
カイが手を差し出す。
それに対して手摺を掴んだ手を離さずに首を振った。
「もう。大丈夫」
もう一人でも高い所は歩いて行ける。
「…やるじゃん?」
「そうだろう」
カイを先頭にして歩き続ける。階段は長く足が疲れて途中で休憩を挟みながら登った。前の観覧車よりも高く地上がどんどん遠くなるとカイが言った。そしてようやく扉が見えて疲れて雪崩れ込むように中に入るとそこはガラス張りの階だった。
「うわ…すごい!」
「どこ見ても景色が見えるな…」
「ジン…平気?」
「階段歩いてたよりずっと平気だ」
一瞬だけ驚いたがすぐに疲れた足を休めて立ち上がる事が出来た。円形になっているらしく、どこを歩いてもガラス張りの階からは景色を見る事が出来た。
「すごいね。この国の何処までも見えそう」
「本当だな。遠くまでずっと」
「…あれは何?」
「あれ?」
歩いていると見たことの無い物に遭遇する。機械なのか分からないが自分達より少し低いぐらいの高さにまるで目のように丸い部分が付いている。そしてその丸い部分に向かって書いてある。
「覗いてみようって」
「何か見えるのか?」
何か特別な物でも見えるのかと首を傾げながら書いてある通りに覗いて見ると、大地が見えた。
「…?」
「何が見えた?」
「…土?」
「土?貸して?」
カイと交代して覗いてもらうと同じ様に土が見えると言って首を傾げていた。何が面白いのかとその機械らしき物を触るとあちこちらに方向を変える事が出来るらしい。そこでカイは声を上げた。
「ジンこの前に立って」
「この前に?」
「うん」
言われた通りにカイが覗く機械の前に立つとカイは分かったように声を上げた。
「これすごいよ!大きく見える!」
「大きく?」
「今度は僕が前に立つからジンが覗いて!」
「分かった?」
交代してまた覗くと驚く。
確かにカイが見えるが目の前に立っていると言う訳ではなくカイが実際にいる位置よりも近くにいるように大きく見える。
「実際の距離と違う…?」
「本当にいるよりも近く見えるでしょ?」
「それじゃあこれは?」
「本当は見えないぐらい遠い所に在るものを目の前にあるように見せてくれるかも!」
だから色んな方向を向けて何があるか見つけてみようとカイが声を上げる。
この機械の意味が分かったため交互に覗いて確認する。
「何かあっちにまだそこまで壊れてない建物があるかも」
「…向こうの方向にすごい瓦礫の山がある…近付かない方が良さそうだ」
「文字が見えるけど…何だろう?ばす…センター?」
「これ持って帰れないか?」
遠くを確認出来る物なんて持っていない。これを持ち歩く事が出来ればいいがこの床にしっかり留められて外す事は出来なさそうだ。
「難しいねえ」
「とりあえず見えたの書き留めておくか」
「書ける?」
「本当に書きにくいなこのペン…」
見えた建物だけを書いておき次の目的地にでも決めおこう。地下鉄で得た地図はまだ一つ教えてくれた場所があるためそこに行こう。
地下鉄の地図を広げてカイと交互に見た場所と照らし合わせるとふと、今まで訪れた場所の中でも比べ物にならない程に瓦礫で覆われた場所。
「…国の中心部?」
「国の?」
「この国の法律や決まりを作ってそれを本当に国民に守らせるか決める場所だ」
「瓦礫で一杯だった所がそうなの?」
「だと思う。他の場所よりもずっと攻撃を受けた形跡が凄かった」
「何で?」
「ここは…この国が何かあった時にどうするか指示を出したりする場所でもあるってお父さんが言ってた。そこを攻撃して…跡形も無くすれば国は混乱するだろうから」
「皆がどうしていいか分からなくなっちゃう?ここが無くなっただけで?」
「そう、考えたからあんなひどく攻撃したんだろうな」
一見すればただの瓦礫の山でしか無かった場所だがそうなったのは恐らくそう言う理由があっての事だろう。
カイはたった一つの建物が無くなった事でこの国全体が混乱する事にいまいち納得が出来ていないようだった。
「他の場所でこうしようって言う人はいなかったのかな?」
「分からない。もしかしたらいたかもしれない。国の中心がこうなって後はひたすら攻撃されるのを待つだけなんて事はしなかったと思う」
「よく考えたらこの国もやり返してるもんね」
「誰かがそう…指示したんだろうな」
やられたままで終わらなかった。それでもやり返したからどちらもこうなった今は国の中心が無くなった時に立ち上がり指示をした人達を非難する訳でも無いが、人が死ぬと言う事を知って知りながらやり返した事実に複雑だった。
「あそこに行く?」
「国の中心に?」
「うん。何も無いかもしれないけど手を合わせるぐらいはしようか?」
「…他にも見てからにしよう」
「…まあちょっと怖いかもね」
「あの瓦礫に下で何人も死んだかと思うと少しな」
それに加えて明らかに殺してやろうと言う意味を持って攻撃をした形跡が他の場所よりもずっと色濃く残っているような気がした。
「暗くなってきたね」
「…今日はここに泊まるか」
「え?高いよ平気?」
「暗い中で階段降りるより泊まった方が平気」
「ん~…そうだね」
全面ガラス張りのここはゆっくり景色が見れるようにか長椅子がいくつかあった。それを合わせて大きめのベッドを作りリュックを枕にして寝てみる。
電気の通らないこの場所で懐中電灯だけを点けて夕飯にする。真っ暗な窓の外の景色は夜空の明かりだけが地上を照らしていた。
「こんな高い所で寝るの初めて」
「そうだな」
「ここがさ…ちゃんと機能してた頃はそう言う事してたんじゃない?」
「ここに泊まる事?」
「そう。きっと今よりもっと明るい外が見れたんだよ。それを見ながらこうやって寝るの」
「泊まりたい人がたくさんいるだろうな」
昔はそうだ。きっと今は何も無い大地にも数え切れない程に人がいてその数だけ明かりを照らしていたかもしれない。地上に降り注ぐのが星明かりだけではなく下にも同じ様に星明かりと似た人の作った明かりが灯されていたのだろうか。
「きっと綺麗だろうな。ここから見える景色にたくさん明かりがあったら」
「だからこんな高い建物造ったんだね」
「昼間の景色もすごいだろうな」
「人は高い所が好きだねえ」
「全員がそうじゃないだろうけども」
「やっぱりちょっと怖い?」
「……ほんの少しな」
「それじゃ…怖くなくしてあげる」
カイはそう言って窓の前に立つ。
そして大きく息を吸って久し振りに歌った。真っ暗なここでカイを照らす明かりは懐中電灯と窓から見えるいつもよりも近い星空。それを背にカイは歌を歌う。
「…あ」
その時カイの後ろで何かが空から落ちた。もしかするとあれが流れ星なのだろうか。
「どうしたの?」
「今、星が流れた」
「え!」
カイは慌てて振り返り空を見るが流れ星は本当に一瞬で流れて消えてしまった。
「教えてよ」
「だって本当にすぐに消えたし」
「僕も見たかったな」
「まあいつか見れるだろ」
「何か願い事した?」
「出来なかった。出来てもまあ…」
「何か大きな願い事があるの?」
「そんな大きくもない」
そろそろ眠ろう。明日はフラワーパークとやらに行ってみようと横になる。願い事を言ってくれなかった自分に少し納得がいってないようだがそれ以上に聞く事無く同じ様に横になり明日に向けて目を閉じる。
「……」
いつもより近い星空に向かって声に出さずに思う願い事はカイと一緒に長生きをしたい。欲張るなら幸せになりたい。
明日もまた楽しみであるようにと。




