スーパー
全壊していない建物を見つけては何か無いかと探しているとよく見かけるのが大きなお店だ。
棚が等間隔に並べられていてそこにはお金と交換して何かを貰っていたのであろう形跡がある。
棚が並べられた向こうには複数の椅子とテーブルが並べられておりここで貰った物でも食べたり飲んだりしていたのだろか。
こういう場所はまったく何も無いという場所は少ない。何か役に立つ物が残っているのが多いのだ。それと同時に面白い物がある。恐らく荷物を運ぶためのものだろう。車輪が付いており多少重たい物を乗せても何も問題が無い。
「快適だよね」
「確かになー」
その荷物を運ぶ物に乗って半壊した建物の中を探索する。今回はカイが乗っている。次にこの荷物運びがある建物に着いたら自分が乗る番だ。
「ジン、走ってよ」
「危ないからやだ」
「ちぇっ」
「あ、見て見て」
「何?」
「お菓子、大安売りだって」
「どこにあるんだ?」
「とりあえずそこに行こう」
カイが乗ったそれを押してその文字がある場所へと向かうと棚はやはり空っぽで何も残っていなかった。ここに来た人達がきっとお菓子を一つ残らず取っていってしまったんだろうと思いながは他に何かないかと探す。
「ん…?」
「何かあった?」
「いや、紙だな」
「本とかじゃなくて紙?」
「えーっと…」
拾った紙は何やら食べ物の写真とその写真と共に数字が書かれている。ここでお金と交換して物を貰っていたならこの写真の食べ物はこのぐらいのお金が必要という事だろう。
「たくさんあるね」
「食べ物ってこんなたくさんあるんだな」
「知らない食べ物が多いね」
「飲み物も…シェルターにいた頃って水とお茶とお父さんとお母さんがコーヒー飲んでたな。年に三回だけ飲める甘いジュースもあった」
「それだけだと思ったけど、もっとたくさんあるんだね」
「味は全然想像つかないけどな」
「確かにね。綺麗な色の飲み物…」
相変わらず乗り物から降りないままその紙を見つめてカイは話す。年に三回飲んでいた、自分とカイが一つ年齢を重ねる度にお祝いで飲んでいたのは甘い飲み物はお母さんはフルーツミックスジュースだと教えてくれた。今でも思い出せるその味は、甘くて一口飲んだだけで身体中が冷たく甘く広がる幸せな味だった。
「たまには水以外も飲みたいな」
「水があるだけありがたいけど確かにな」
ここはもう何も残っていないかもしれないと、諦めた頃にカイはようやく降りて自分の足で歩き始めた。
「何も無さそうだね」
「そうだな…まぁ、こんな日もあるか」
「ねぇジン、一回やってみたい事があるんだけど」
「何?言ってみ」
「この乗り物を…」
「多分乗り物じゃないと思う」
先ほどまでカイが乗っていた荷物を運ぶであろうそれに手をかけてカイはそれを思い切り押した。
手が離れたそれは失速しないままに壁へとぶつかり大きな音を立てて倒れる。
「これがやりたかった事?」
「こんなのパパとママがいたら“うるさい!”“危ない!”って言って怒るでしょ?」
「俺なら怒らないとでも?」
「怒るの?」
「いいや?同じ事をするね」
建物の中、一ヶ所に固められたその荷物を運ぶ物を手に取るとカイと同じように思い切り押して手を離す。壁にぶつからず棚にぶつかりこれまた大きな音を立てて倒れた。
「あ!こうしよう!」
「何か面白いの思い付いた?」
「これをこうして…」
カイが走って棚が並ぶ場所とは離れた場所にある椅子を並べ始めた。数えてみると椅子が八、ここの棚のように等間隔に並べられている。
「どうするんだ?」
「それを投げて椅子をたくさん倒したら勝ち」
「勝ったら何かあるのか?」
「気分が良くなるよ」
「それは勝たなきゃな」
勝負は一回づつ、じゃんけんをして勝ったのが自分で先に投げる事にした。真っ直ぐ椅子に向かって投げれば間違いなく椅子は複数倒せると思い頭の中で想像しながら思い切り投げる。
ところが真っ直ぐ進むと思ったそれは逸れてしまいバランスを崩して倒れてしまった。
「…あ!何だよ!ここに小さい瓦礫ある!」
「残念だったね、どうやらこの勝負は僕の勝ちで」
「こんなの無しだろ!瓦礫退かしてもう一回!」
「一回づつって言ったじゃん!」
「公平に勝負させてくれ…」
「…僕の優しさに感謝しな」
「カイ様…」
瓦礫を退かして再度投げると椅子は四つ倒れた。思ったよりも倒れなかったがなかなかではないかと思い、カイを見る。
「まぁ見てなよ」
椅子を直しながらカイは笑っている。何か秘策でもあるのかと思いながら見ていると、カイは思い切りそれを投げた。手で押して椅子を倒した自分のやり方と違い、回して投げて椅子を倒した。触れる面積が大きかったのか自分よりも椅子を二つ多く倒してしまった。そんなやり方があるか。
「…何て乱暴な…これはお父さんもお母さんも怒るな」
「だから今ここでやってるんだね」
「俺の負けです」
「僕が勝ちです」
気分は良いかい?
えぇ、とても。
椅子が倒れて何とも無惨な場所へとなってしまったのを見ていると、箱の形の機械があるのに気付く。
倒れた椅子を片付けて進むとそれはあの紙にあった飲み物の写真が並ぶ機械だった。
「飲み物の機械か?」
「段々分かってきた。この前のぬいぐるみの機械と同じ…ここに凹みがあるでしょ?」
「つまりここにお金を入れると…」
「またあのぬいぐるみみたいに今度は飲み物が貰えるかも!」
この前の建物の中で見つけたお金はまだある。
「…百五十…」
「これって丁度入れないと駄目かな?」
「でも持ってるの百と五百しかないぞ?」
あと千って書いた紙。
「多いよりは少ないよりいいよな」
「少ないと怒って動かないかも…」
「怒られるのは嫌だな…」
百を二枚、凹みに入れる。入れてはみたもののあの時の機械のように光りだしたり音楽が流れたりはせずに暗いままそこにあった。
「…形は綺麗に残ってるけど…壊れてるのか?」
「見えないところが壊れてるのかな…」
「残念だけど…それなら仕方ないか」
そう思い戻ろうした途端、機械は自分達を引き留めるように光り出した。
「…生きてた」
「壊れてなかったな…」
時折暗く、点滅しながら機械は光りその様子を見つめてカイと顔を合わせる。
「ボタンがあるな」
「これを押したらこの飲み物が貰えるってことだよね」
「コーヒーは…あれ苦いんだよな、止めとこう」
「あ、あの紙で見たのと同じやつがある。これにしようよ」
“アップルジュース”
そう書かれた飲み物のボタンをカイが押す。ここで売られていたなら安心だろうと思いその飲み物が出てくるのを待つと、下の方から何か軽い物が落ちる音が聞こえた。
その音の方を見ると、白い…これは知っている。コップがそこにあり何があるのかと見つめているとそのコップの中に液体が注がれていく。
「機械が勝手に用意してくれてる」
「便利な機械だな」
感心して見ているとどんどん注がれていくそれは止まる気配がまったくなくこちらも段々とおかしくないかと思っていたらついにコップから溢れ始めた。
「え!まずいまずい!」
「何で!分かった!これ取らないと止まらないんだ!」
「取る取る取る!」
慌てて中身が溢れたコップを取り出すが、するとまたどこからさコップが落ちてきて今度はそれに注がれる。
「と、止まらないんだけど…」
「どっか押すのか?どこを押すんだ!?」
始めに押したボタンを押すが止まる気配が無い。二つ目のコップも溢れそうになりカイが取り出すが今度は三つ目のコップに注がれていく。
四つ目。
五つ目。
六つ目。
「もういい!もういい!」
「お願いだから止まって!」
「こんなにあってもどうすればいいんだ!」
「久しぶりに人に会ったから!?嬉しくなったの!?」
「もう十分だって!」
そう叫ぶと機械は途端に激しく揺れながら止まり、光りは落ちて暗くなってしまった。
「……」
「…止まった」
「こんな、こんなたくさん…」
テーブルに置かれたコップは七つになっていた。
「でももう動かないかもね」
「そんな感じだな…」
「最後にこんなにたくさん…ありがとうね」
「そうだな…ありがとう…」
随分たくさんくれたものだと息を吐きながらテーブルの側に椅子を置いて座る。並べられた七つのコップは中身が溢れてテーブルを濡らし、溢れる寸前まで注がれたそれは少しでも動かすと更にテーブルを濡らしてしまいそうだった。
「行儀が悪いけど…啜るか」
「溢れるよりはいいよ」
カイも同じようで溢れそうな中身を持つコップを持ち上げる事なくゆっくり口を近づけて中身を啜る。
「…美味しい…」
「アップルジュースってこんな味なんだ」
「……これ、あれだ」
「どれ?」
「お母さんが飲ませてくれた…あのフルーツミックスジュース」
「こんな味だっけ?」
「いや、こうじゃないけど…味が近いんだよ」
「言われてみれば…」
あの飲み物はもっと様々な味がしたがその内の一つにこれが似ている。懐かしい味を、忘れてしまいそうだった味を思い出させた。
「これ取っておく?」
「何か入れ物あったか?水筒は水が入ってるし…」
「このまま持ってくの…無理かな?」
「蓋もないから難しいな」
「仕方ないから全部飲んじゃうか」
「そうだな」
お腹がアップルジュースで一杯になる。七つなのに一杯になるとはどういう事か。
流石に量が多すぎるとなり、捨てる事は絶対に出来ないため残った三つを手に取りどうするべきかと車に戻る。
そこで気付いた。
「ここさ、ぴったり合うけど…」
「…もしかして、この部分ってこういうためにあったのか?」
車の座席にある円柱形の凹み。
それを見てもしやと思いコップを置いてみるとそこに見事にはまってくれた。
「こうやって飲みながら走れるのか」
「すごい便利…やるじゃん」
「それじゃ、飲みながら次に行くか」
「出発~」
いつもと同じの車内にアップルジュースが加わった。それだけでいつもと違う特別になる。
次はどんな特別に遭遇するだろう。




