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シェルター【変化】

両親が外に出て食糧を調達してくると言った時にカイは自分も着いていきたいと目を輝かせて言ったが両親は首を振り着いていくのを許さなかった。自分達を連れていかせないのは分かっていたが両親揃って外に行くのは少し疑問だった。

「二人だけにするのか?」

「二人だけでも問題無いだろ?二人ともしっかりしてるんだから」

「なあ、外は危ないんだろ?」

「そうだよ。パパとママに何かあったらどうするの?」

「外が危ないのが分かってから十年以上経ってるんだ大丈夫だろう」

「でもお父さんとお母さん二人揃って行くことも無いんじゃないか?」

「一人で行かせないのは理由があるの。例えばキリヤが怪我して動かなけなくなってもお母さんがいれば一緒に帰って来られる可能性の方が高いから」

「…でもパパとママもいないのなんて考えられないよ」

カイが空になったコップに触れながら納得のいかない様子で呟いていた。

「その内二人だけで生きる事になるかもしれないだろ?自立の準備だ」

「…まだそんな事考えた事無いけど」

「それでも、だ」

両親が外に出て自分達だけが残る不安と寂しさは解消されないままに外に出る準備をして両親は重い扉をいくつもの暗証番号を入力して外に行ってしまった。二人だけ残された空間でカイと顔を合わせると置いていかれた事にたいして寂しそうに表情を沈ませるカイの手を取り昔のように本を読んでやろうとすると「そんな子どもじゃない」と止められてしまった。


「食糧が尽きそうだったのか」

「両親がいない間の食事は予め用意されてたけど、食糧庫の中を覗いた時に自分が思ってたよりもずっと少なくなってたな」

「その時まだ十代前半だろ?両親がいないのよく耐えたな」

「一人じゃなかったからな」

ヒデタカの問いかけにそう答える。

そう、一人ではなかったから何とかなったのだ。自分の声に反応して会話が出来る存在がいた事が大きかった。カイと両親がいない間に両親の真似をして授業を行い普段は怒られるベッドの上で跳び跳ねる遊びをして大声で笑っていた。

そうして両親がいない寂しさを埋めてひたすら日が経つのを待ち十日経った日、あの重い扉が開けられて両親はたくさんの食糧を持って帰って来たのだ。

「パパ!ママ!おかえり!」

「ただいま二人とも、ごめんね留守にしてて」

「何とも無かったか?」

「何とも無かった。お父さんとお母さんは?」

「大丈夫大丈夫。これでしばらくまた平気だから」

持って帰った食糧でまたしばらく四人で穏やかに生活をしていた。しかしまた食糧が尽きそうになり二人は再び外に出る。そしてまたカイと二人だけの生活が始まり両親の帰りを待つ。

「…寂しい?」

「寂しくない。一人じゃないし」

「本当に寂しくない?カイは平気なのか?」

「ジンは寂しい?僕がいるのに?」

「…いや、寂しくない」

「ね?寂しくないでしょ?」

そう言ってお互いの存在を確認しながらまた両親の帰りを待つ。今度は十三日経った時に帰って来た。前回よりもたくさんの食糧を持って帰りしかも三冊の本もあった。

「本だ!ありがとう!」

「ね?パパとママ休んで休んで?」

「どうしたの?カイ」

「ジン、今日は僕達がご飯用意しよう?」

「え?俺本読みたい…」

「パパとママ疲れてるんだよ?」

「分かった…ちょっと待って」

「二人がご馳走してくれるのか?」

「あら楽しみね?」

帰って来た両親を座らせて両親が持って帰った食糧を使って初めてその日に両親に料理をした。とは言っても温めて食器に移すだけの料理とは言えないものだったが二人は美味しいと笑って食べてくれた。

それからまたしばらくすると食糧が尽きる。

両親は食糧を調達に外に出る。

そしてまた食糧が尽きる。

両親は食糧を調達に外に出る。

それを繰り返して三年が経った頃だった。

両親の体に異変が起きた。初めはいつもなら起きている時間なのにいつまで経っても起きてこない事に不思議に思い体を揺らすと随分重そうに体を起こして起こしてくれた事に礼を言った。

「どこか具合が悪い?」

「いや…少し疲れてるだけだ」

「じゃあ俺が朝御飯の準備するよ」

「ママも疲れてる?」

「うん…少しね」

その頃は寝ていれば治るだろうと思い家事を二人で引き受けられるだけの家事は引き受けた。

疲れてるだけ、そう思っていたが段々と両親の体は動かなくなっていったのだ。立って歩く事にひどく体力を使うらしく座っていたり寝て過ごす事が多くな勉強を教えて貰っている時に本を持てなくなり手に力が入らなくなり筆記用具を持てなくなる。

カイと何度も顔を見合わせてこれはどうしたのかと混乱しながらも二人の日常生活を支えるようにしていた。

「大丈夫」

「きっと良くなるよ」

自分達にも言い聞かせるように何度も両親に言っていた。その度に両親はありがとうと何度も言ってくれるのだ。


両親が外に出た頃は兵器の影響は薄まっていたとは言え何度も外に出た事で影響は間違いなく受けていたのだ。

それを二人は外に何度も出た際に分かっていた。お掃除ロボットが片付けてしまう前に残っていた遺体の記述から兵器の事を理解したのだ。

「…何で分かった時点で引き返さなかった?」

ソファーに座る父にそれを教えられてそう返す。

「引き返さなかったのは…生きるためだ」

「矛盾してる。生きるためなら引き返してシェルターにいるべきだったんだ。どうしてそうしなかった?」

「シェルターに引き返しても食糧が無い。餓死する早さよりも食糧を調達してシェルターに戻る方が長く生きれる」

「…俺を外に行かせれば良かったのに…そしたらまだ兵器の影響はそこまで受けずに済んだのに」

「馬鹿言え。そんな事させられるか」

はっきりとそう言われた。

親と言う存在はそう言うものだと言われた。子どもを守るために必死になるのが当たり前で犠牲になるのも当然だと言った。それを素直に納得出来なかった。カイも自分も両親を深く愛していたしその存在がそんなあっさりと自分達のためだと言って自ら傷付けるような行動を受け入れる事が出来なかった。

「…俺達は…どうすればいい?」

「…兵器の影響は今はほぼ無い…」

「どうして分かるの?」

「兵器の影響を知った外の人がその危険性を認識するための機械を作ってた…」

「危険性を認識?」

「外に漂う兵器の影響が体に害を及ぼすかどうか…数値化して確認出来る機械だ」

そう言って父が見せたのは一見ただの温度計にも見えるそれが外の危険性を確認する機械らしい。その針は赤い方に針が触れれば危険。青に触れれば無害とある。今は青に針が触れており何も心配は無いらしい。

「これ…室内だから今は平気なのか?」

「いや、この前外に出た時も青だった…兵器がこの国に降り注いでやっと外に出ても平気になった」

「外に…そしたら外に出てお医者さんを見つけよう?そしたら治る手立てもあるんじゃ…」

「ジン」

「え?」

「もうそこまでは持たない」

「分からないだろ?」

「お父さんとお母さんの事は置いていけ」

「…何でそんな事を言う?」

「もう、無理だろう」

そう言って父は自分の頬に手を触れる。子どもの頃はずっと大きく感じていたのに今は手の大きさも同じぐらいで身長は抜かす事が出来なかったがそれでもほぼ同じぐらいになっている。

大きかった父の存在が消えいていく。

触れている手に自分の手を重ねて両親を置いていく覚悟を決めなくてはいけないだろうか。

「…これから…」

「…うん」

「…どうすればいい?」

「…教えるからな。まずは明日、外に出ようか」

ずっとここに閉じ籠り生き続ける事は難しいと分かっている。これからは自分達の足で立ち、外に出て生きていかないといけない。

寝室からカイの歌が聞こえる。

母の側にいるカイが母から習った歌を歌っていた。変声期が来て今までと同じ様に歌えなくなっえしまったと落ち込んでいたが変わらない、母と同じ綺麗な歌声が響いている。


「…本当にキリヤか?」

父の話をしてジュンが頭を抱えた。

自分達の父親であるキリヤとジュンの知るキリヤがあまりに違い過ぎるらしく本当に自分の知る人間なのか疑問に思っていた。

「ジュンの知ってるお父さんって…どんな人?」

「嫌みや妬みを言われても顔色一つ変えない。目上の人間でも思った事を遠慮なく言う。だから生意気だとか言われてな…俺もあいつの考えに意見した時真顔で論破されて…」

「嫌いだったのか?」

「相性が悪かったと言っておく。嫌いではなかったよ。思った事をそのまま言うし喋り方が偉そうに感じるもんだから嫌ってる奴は多かった。でも…言ってる内容はちゃんとキリヤの正義があった」

助けようと必死になっていたのだ。

それはこちらも分かっていたが自分の身の可愛さに手を貸す事は出来なかった。

「…思った事をそのまま言う…喋り方が偉そう…ジンもそうじゃないか?」

「え?俺偉そうか?」

「カイと比べれば話し方が柔らかくないな…人によっては上から目線に聞こえる」

ヒデタカに言われて初めて話し方の指摘をされた。今まで誰にもそんな事を言われた事が無かったため改善しようにもやり方が分からない。

「まあ…ジンはそのままでいいだろ。もう気になる事でも無いしな」

「そうか…じゃあこのままで」

「変なところが似るもんだな…」

「ハイザキさんの話だとジンは見た目も中身もお父さんに似てるんですね。それじゃカイはお母さん似か」

「だと思う。カイはお母さんと似てる。顔つきやあと歌が上手いのもそうだ」

「歌、上手いのか?」

「上手い。ミナモも綺麗だって言ってた」

「ミナモ…あぁ水族館の女の人か」

「ナギさんに似てるならそうかもな…」

「ナギさん。ジンとカイのお母さんってもしかして歌手とかですか?」

ヒデタカがまさかと言った様子でジュンに尋ねる。ジュンは少し黙ってから答えてくれた。

「…そうだよ歌手だよ。デビューしたばっかりで知らない人が殆どだった」

「お母さん歌手だったのか?」

「そうだよ。それで政界の食事会で盛り上げるために呼ばれて…そこで会った」

「お父さんとお母さんが?」

「そうだよ。そもそも最初は俺がナギさんと話そうと思ってたのに…いつの間にか二人が会っててあれよあれよと結婚する事になったんだ」

「ジュン?」

「俺が先にナギさんを知ってたのに後から会ったキリヤに全部持ってかれたんだ!何であんな無愛想で無遠慮な男に!」

「ハイザキさん。ハイザキさん」

「俺だってナギさんの一緒になりたかった!俺が先に愛してたのに!」

「ハイザキさん。止めましょう。ジンが引いてます」

「…昔の敗北感が一気に甦ってな」

「そうですか」

突如としてジュンが自分の母にかつて恋心を寄せていた事実を知り一人で父に対しての恨み辛みになのか叫ぶジュンの姿に大の大人がこうも声を上げて感情を爆発させているとどうしていいか分からず逃げ出したくなる感情になるらしい。

「…仕方ないだろ。お父さんがお母さんを選んでお母さんがお父さんを選んだんだ」

しかし両親がお互い選んだ事実は変わらず今叫んでも仕方ないと言う慰めも込めて声をかける。その言葉にジュンはこちらをゆっくり見て大きく息を吐いて口を開いた。

「…そうだな。でなきゃお前は生まれてないもんな」

「お前って呼ぶな」

「はいはいジンさん」

「まったく…」

「ほらハイザキさん。ジンもそれからどうなった?ご両親の事を世話しながら外に出る準備をしたのか?」

「…そうなる。覚悟は決めたしカイがいるから一人じゃないと思っていたし…それでも弱っていく両親見るのは辛かった」

「だろうな…」

「あと…少し怖かった」

「怖かった?」

「ほんの少しだけ…おかしな事を言われたんだ…すぐに撤回されたけど」

両親の体を支えながら外に出た頃の話だ。

自分が十八歳。

カイが十六歳の時だ。


重い扉を両親に告げられた暗証番号を入力して開けると外に続く階段が見える。この階段は二歳の頃に下ったばかりだ。今は何とか歩ける状態の両親を支えながらゆっくりと一段一段上がりながら見えてくるのはもう一つの扉だ。こちらの扉も暗証番号が必要らしく父に聞いて暗証番号を入力するとこれは手動ではなく自動で開くらしく重々しい扉が開き外の風が頬を撫でる。

「……出るぞ」

「う、うん…」

両親を支えながら十六年振りに外へと出た。

「……はっ」

外には何も無かった。

幼い頃の記憶にあった大きな建物、行き交う人々街の明かりや命があるはずだった街の姿。

命があるはずの世界の姿が無い。

「……」

「…ジン…」

何も言えないままでいるとその様子を察したのか父が声をかける。

「…本当に…こんな」

「ジン!」

世界の姿に声を失っているとカイの大きな声が響く。カイにとってはほぼ初めての外の世界だ。何も無い姿に何を思うのかと恐る恐るそちらを向くと驚く事に目を輝かせて笑っている。

「カイ?」

「すごい!」

「すごい?」

「すごいよ!外ってこんなに広いの!果てが無い!ずっとずっと走って行ける!」

「…この世界が?」

「うん!すごい!」

両親も驚いていた。

こんな何も無くなってしまった世界をすごいとカイは喜ぶ。

「カイ…あ、お父さんお母さん座る?」

「あ、あぁ…」

「待ってて!椅子持って来るね!」

カイの様子に呆気に取られていたが両親が立っているのが辛そうになっていたため椅子を用意するためにカイはシェルターに走っていく。その後ろ姿を見つめて話す。

「…この世界が…すごいって…」

「そうか…カイにはあのシェルターだけが全部だったから…こんな何も無い大地がすごいのか」

「…驚いた…何も無いってきっとがっかりすると思ってたから」

「すごいって…そうか…」

「まだこの世界は…すごいのね」

両親がカイの様子を思い出して笑っていた。

自分はまだこの世界の有り様に整理がつかないままになっているとカイはシェルターから椅子を二脚持ってきたためカイと協力して両親を椅子に座らせるとカイはこの何も無い世界を見渡して声を上げた。

「すごい…空が広い…地面もずっとずっと続いてる…ねえパパ!向こうに何か落ちてる!」

「カイ!ちょっと待て!」

父が制止する声も聞かずに走っていく。父が昔履いていたと言う靴を履いて地面を駆けていく。何かあると言って手を土で汚しながら拾ってきたのは割れたガラスのコップだった。

「カイ。危ないから捨てな」

「ジン見て。このガラス模様がすごく綺麗」

「分かったから捨てな。汚れてるし」

「ちゃんと見てよ。このガラスの模様…キラキラ光ってるみたい」

「…わざわざ何でそんな模様あるんだ?」

「何も無いよりずっと綺麗じゃん。このコップが割れて無かったら…これにお水注いでさ…」

「味が変わる訳じゃないだろ?」

「気分が変わるじゃん」

割れたコップで手を切ったら、土で汚れた手を早く洗えと言っても聞かずにカイはその割れたコップを持って両親の元に走って行く。それを追いかけて行くと足元に見えたのは割れた食器の破片だった。

(土の中に)

冷たい土の中にここで生きていた誰かの痕跡が残っているようだった。

「ジン!」

誰かがいたかと思いその存在はもうどこにも無いかと想像すると怖くなり走ってカイと両親の元に向かう。

「パパ、ママすごいね外は」

「そうだろう。すごく広いだろ?」

「ここよりずっと先は何があるんだろう?」

「キリヤさんと見てきた場所はね。スーパーとかコンビニが残ってたよ」

「食べ物とか生活するための物が揃ってる場所だよね?」

「そう。ここは何も無くなったけど向こうにはまだまだ残ってるぞ」

「僕達も見れる?」

「勿論。ジンとカイはどこでも行けるんだ」

「パパとママは?」

「……」

「二人だけで行くの?」

「カイ。よく聞け」

「うん?」

カイは初めて出た外の世界で両親からもう長くない。自分達が死んだ後は二人でこの世界を生き延びろと告げた。

カイは表情を歪めて首を振ったが頭の中ではもしかすると両親は治らないのではと分かっていたらしく両親からひたすら二人で生きるようにと何度と言われて泣いた後、ようやく頷いた。


その日から二人で生きるための術を教わる事になった。







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