ゲームセンター
瓦礫を避けて走っていた道は段々と狭くなりこれ以上はこの車では進むことが出来ないと判断して降りた場所は恐らくいくつもの建物が並んでいたであろう不思議な道だった。
更に今まで通って来た道は殆ど灰色であったのにたいして今歩く道は赤茶い色の長方形が綺麗に並べられた道であった。歩く度にする靴の音が何だか心地好くも聞こえる。
「何だか建物がいっぱい」
「どこも壊れてるな」
「何か無いかな…何か」
「全部見るとなるときりがないな」
「探索のしがいがあるね」
目についた建物の中へと入ると椅子や机の散乱。床には食器が割れた跡がありガラスを踏む音がする。
「ジン、見てこれ」
「ん?」
「缶詰めあったよ」
「やった。何の缶詰め?」
「…何だろう?」
「……原材料が肉だから肉だな」
「やった!お肉!」
少しは収穫がありそうだと有り難くリュックに詰めると他の建物にもいくつか食糧が見つかる。いつも食べている固いパンやスープも見つかりこれでまたしばらくお腹を空かせることは無さそうだと安心する。
「…これも食べ物?」
「…赤い食べ物はあるけども」
「でも食べるって感じではなさそう」
「確かにな…飲むものか?」
カイが手にしているのは容器に入った真っ赤なドロドロとした何かだった。食べ物が見つかった場所にあったためこれも食べられる物かもしれないが…自分達に流れる血のように真っ赤で恐ろしい。
「……舐めてみる?」
「……ほんの少しな」
そこに放り投げられていた椅子を元に戻して座るとカイがゆっくりその容器の包装を解いて手袋を外した指にほんの少し、ほんの少しだけ垂らしお互い顔を合わせるとその真っ赤な何かを舐める。
「…酸っぱ」
「…確かに酸っぱい」
これだけ舐めて美味しいとは言えない。というかこの味どこかで感じたような。
「…あ、トマトチキンスープに似てるんだ」
「え?これチキン?」
「いや多分…トマト?」
「この赤いのがトマト?丸い形はどこにいったの?」
「潰されてこの容器に詰められたんじゃないのか?」
「こんな事になるの?」
「なったんだな……持って帰る?」
「持って帰る。毒じゃなさそうだし」
お互いの体に以上無し、いつ使うか食べるか不明だがとりあえず持って帰る事に決めた。他にも何か無いかと歩くと探索した建物よりも一回りも二回りも大きな建物がある。内部もガラスの壁で透けて見えているが何やら建物の中にはいくつもの箱のような形の機械がある。
「何だここ?」
「変な機械があるね」
「ガラスめちゃくちゃ割れてるな…気をつけろよカイ」
「うん。ジンもね」
ここは他の建物よりもガラスの量が多い、うっかり転びでもしたら怪我だけでは済まないかもしれない。機械は壊れており中に何か欲しい物でもあったのだろうか、箱のような機械の下の部分は殆ど壊れていないのに上の部分はガラスのような透明な部分が割れて空っぽだった。
「たくさんあるな…似たような機械が」
「小さいのもあれば大きいのもあるね」
「どんな建物だったんだろうな」
「…ジン」
「何?」
「何かあるよ」
「何か?」
カイが拾ったのは小さなリュックだった。
「……何それ?」
「何か小さいリュック?」
「え?こんな小さいの使う人がいたのか?」
「もしかしたら僕達よりも小さい人がいたかもしれない」
「昔お母さんが読んだ本にある小人…?」
「え、見つけたら一緒に車に乗る?」
「まぁ…見つけたら」
小さなリュックは確かに自分達が持つリュックと同じように中に何か入れる事が出来そうだ。ただそのリュックには金属製の鎖のような物が付いていてその先は輪が付いている。
「僕が持ってていい?」
「持ち主が来るかもしれないから置いておけば?」
「……分かった」
小人の大事なリュックかもしれない。
カイを言い聞かせて周囲を探索すると他にも何の道具なのか分からない物がいくつかある。やけに柔らかいボールにキラキラとした石のような物。ふわふわとしか雲のような綿が飛び出た小さなぬいぐるみ。
小さな石のような物はピンク色を透かした綺麗な色でカイと共に外の日に当てて見ると更に光を増していく。
「これ綺麗だね」
「石にしては…軽いな?」
「これは持って帰ろう?記念にさ」
「まぁ…いっか。無くすなよ?」
「分かってる」
ここはあとは何も無いかと思い他の建物の探索に移ろうとした時、奥に階段がある事に気付いた。暗く壊れた機械が倒されて隠れるようにあった階段にカイを呼ぶと機械が倒れて足場が悪いのをお互いに手を取りながら乗り越え階段を昇る。
「お…明るい」
「本当だ。下よりも明るい」
階段を上がった先にあったのは下と同じような機械が並んだ部屋だった。ただ違うのは一つ残らず壊れた機械が並ぶ下の部屋と違い上の部屋は確かに壊れている機械はあるものの元の形のまま残っているのが多かった。
「何これ何これ、この中に何かかわいいのがある」
「大きいぬいぐるみ…?だな」
「何のぬいぐるみだろう」
「…図鑑でも知らない、何の生き物だこれ?」
「これ何でこんな中に入れてるのかな?」
「大事な物なんじゃないか?」
壊れず残った機械の中に何やら奇妙なぬいぐるみがあった。何の生き物なのか、目と鼻、口らしき物はあるため図鑑で見た“犬”に似ているがそれにしては何だか違うような…あんな色の犬を図鑑では見なかった。更に四方を固い透明なガラスのような物で囲われておりどこからこれを入れてどこから出すのかが分からない。展示でもしていたのか、それにしてはこの箱の中にただ置いただけのように見える。
「ここから取る?」
「届くか?」
「全然」
「何か操作したり…特殊な開け方があるのかも」
「うーん…」
カイが箱の下にある小さな扉のような所から手を入れるがまるで届かない。ただその扉はあの犬のような物がいる場所へ繋がっているらしい。
「ここの穴とそこの扉が繋がってるなら…何か方法があってここの穴に落とすんじゃないか?」
「何か方法?何か動かす?この箱を揺らしたり…」
「……」
カイと二人で揺らしてみたが何も起きなかった。
「どうするんだろう…あれ欲しいな」
「あぁ、枕とかクッションにの良さそうだな」
「……ジン、あんなかわいいを押し潰すの?」
「いやだって他の活用法が…」
「ねぇ、ここ動かしても何も反応ないよ」
「もう壊れて動かないんじゃないか?」
カイが機械のボタンを何度も押しているが何の反応も無い辺りやはりもう壊れて動かないのかもしれない。むやみやたらに銃で壊して中を取り出すのもカイはいい顔をしない未来が見えているため他の方法を探す。
「…いちぷれい百…」
「いちぷれい百?」
「掠れてるけどそう書いてあるみたい」
「百…」
「百を…どうするの?」
「百を…百……お父さんがそう書いてあった金属の…お金覚えてるか?」
形と大きさがこれぐらいのと、カイにも思い出してもらう。
「あ~何か昔はそれでご飯とか服とか交換してたって道具」
「ここにそれを入れる…?大きさも何か合いそうだし」
「……お金」
「…お金」
「お金無い」
「俺も無い…」
恐らくこの凹みのような所にお金を入れるのだろう。ただカイも自分もそのお金を持っていない。車の中にあるのは食糧と着替え、車の燃料や毛布はあるがお金は無い。まさかここでそのお金が必要な機械が出てくるとは思わなかった。
「どこかに落ちてないかな?」
「探せば一つぐらいは無いかな」
カイと共に床を見てお金らしき物を探すがあるのは壊れた機械の破片やガラス。とてもこの機械を動かすための物ではなさそうだ。
「この機械にもさ、何かお金っぽい絵があるけど」
「…他のと何か違う形してるな」
細長いその機械は確かに百や五百、千と言った数字が並んでいる。あの透明な箱の機械と違い何が入ってるのか分からない。カイがその細長い機械を揺らしてみるが特に何の反応も無い。
「これ、何か壊れかけてないか?」
「…本当だ。隙間が見える」
「ちょっと衝撃でも与えたら壊れて中身が見えるかな」
「……撃たないでよ。音が怖いしパパが言ってたみたいに弾が跳ねるのも危ないから」
「撃たないって、何でもかんでも撃たないよ」
一発で人が死ぬと分かってそんな簡単には手を出さないようにしている。しかしそれ以外でこの機械をどうするか、何か衝撃…その辺りにある瓦礫を持って来て投げて壊すのは…ここに持って来るまでが難しい。階段の入り口に倒壊した機械が邪魔で瓦礫なんて持って来れない。
それならば。
「ジン?」
「ちょっと避けてろ」
「ジン?なにする気?」
リュックを置いて身軽になり手足を伸ばして体を整える。カイが怪訝な表情で機械から離れるのを確認してこのくらいの距離でいいだろうと距離を取る。
「ジン、本当になにする気?」
「上手くいけばいいけど…」
「本当になにする気?」
「こうする気…!」
細長い機械に向かって走り出し足を蹴りそのまま機械に向かって足をぶつけた。
この前の建物で見た彼等の一人がこうして悪人を懲らしめていたのを思い出しながら思い切り機械に衝撃を与えると、自分の体重を受けて斜めに揺れた機械は元々壊れていたのもあったのか大きな音を立てて床に倒れ込む。
「…上手くいくもんだな」
「よく出来たね…」
自分の行動にカイが驚いた表情から呆れたような表情になるが、倒れた機械から銀色の物が溢れている。
「わっ…これ百ってある!」
「お父さんが見せたのと同じだ…五百もある」
「お金がたくさん…ねぇこれってすごいお金持ちってこと?」
「かもしれない…今俺とカイは世界一のお金持ち」
「すごい…じゃあ早速このお金持ちの百で…」
一つ手に取りあの機械の凹みに入れてみるとピッタリ入り込みそのまま吸い込まれるようにして落ちていく。これで良かったのかと思うと突然目の前の機械が光り、音を出した。
「え?何?何するの?」
「どうすればいいんだ?」
何をどうすればいいのか分からずただただ光り音を立てる目の前の機械を見つめていると今度は喋り出した。
『レバーを操作してね!』
「うわ喋った!」
「え?生きてる!?」
『レバーを操作してね!』
「レバー?これ?」
カイと共に戸惑いながらも言われるままにレバーを操作すると機械の中にある物が動き出した。
「なんか動いた!」
「何これ?何これ?」
訳の分からないままに操作すると今度はボタンを押してね!とまた機械から声が聞こえる。これもまた言われるままにボタンを押すと中の機械が下に伸びて人の手のように掴む動作をした。
「…あ!分かった!」
「僕も分かった!」
「この機械を操作してぬいぐるみを取るのか!」
「何のためにそんな面倒な事を!」
「…さぁ?」
「普通に取らせてよ!」
わざわざこんな手間を取らせてぬいぐるみを取らせる意味が分からないが操作は分かった。更にボタンを押すとそれで機械は動かなくなるらしく大量に手に入れたお金を使い操作を続ける事にした。
「ぬいぐるみの真上に来ればいいだろ」
今度は自分一人で操作する事にした。
真上に来れば手で掴むのと同じ要領でこちらの手元にやって来るだろうと思い機械を動かす。
「…全然掴まないが」
しっかり捉えたのにも関わらずぬいぐるみ持ち上がりすらしなかった。
「この機械、すごい弱いんじゃない?」
ぬいぐるみ一つ掴む力すら無いんだよ。
「貧弱な機械ってこの世界にあるんだな」
「今度は僕がやる」
カイと交代してやると、真上に来ても駄目と分かればどうするのかと見ていると見当違いな場所へ機械の手を下ろしている。
「何でそこで?」
「ぬいぐるみの頭のところに輪っかがあるでしょ?」
「あるな…」
「そこに上手く引っ掻けたら持ち上がるかも」
「上手くいくかな…」
「任せてよ」
「一回づつ!一回づつで交代!」
「分かったよ」
そんな上手く引っ掻かる訳が無いと見ているとカイは細かく操作をして頭の輪っかに機械の手を滑り込ませた。その時ぬいぐるみが持ち上がり声を上げたが少し持ち上がっただけですぐに落ちてしまった。
「交代!交代!」
「分かった!分かった!」
「やり方は分かった…カイは横で見ててくれ」
「何で?」
「正面だけだとどこが一番良い場所か分からないんだよ。横で見て指示してくれ」
「協力して取るんだね、分かった!」
少し前、もう少し後ろ、ジンから見て右!
カイの指示を受けながら細かく動かしてた場所へ機械の手を下ろすと先ほどよりもしっかり輪っかに手がかかる。
これは取れると思い期待したが途中で輪っかから手が外れてしまい落ちてしまう。
「次は僕!」
「任せた!」
「任せて!」
一回づつ交代しながら動かす役と指示をせる役、ぬいぐるみは確実に最初の場所から動いておりあと少しで機械の穴へと落ちる。
百を何回入れたのか分からないままにどんどん使い世界一のお金持ちの名前はもしかすると今日一日限りかもしれない。
「もう少し…もう少し」
「そこ!そこで掴め!」
二十ニ度目のカイの操作、自分の指示の時。
ここだと言った場所に下ろされた機械の手は輪っかをしっかり掴みぬいぐるみを持ち上げた。何度もこの途中で落ちてしまったので落ちるな落ちるなと祈りながら見つめると、願いが聞いたのかそのままぬいぐるみは穴の上に来た。
「あ…」
「やっ…」
機械の穴の上に落とされたぬいぐるみは滑り込むようにして自分達の元へとやった来た。
「やった!」
「やった!やった!」
「やっと取れた!」
「嬉しい!ふかふか!」
「俺も、俺も触らせて」
やっと手に入れたそれは苦労のかいがあり今日手に入れた食べ物よりも貴重に思えた。箱の中で保管されていたためかぬいぐるみは柔らかく何とも触り心地が良かった。
「…あぁ、なるほどな」
「ん?」
「何でこんな面倒な事をさせるのかと思ったら…面白いからか…」
「お金使って協力して取るの、楽しかったしね」
「ここに来た人はみんな、そうやって楽しんでたんだろうな」
「分かんないよ~取れなくて泣いた人もいるかも」
「はは、かもな」
二人で協力して取ったぬいぐるみを持って車へと帰る前に建物を振り返る。
「楽しかったな」
「うん、また来たい」
「…そしたら今度どれぐらい時間ここで使うのか分からないぞ…」
明るい内に来たのに今もう空が赤いんだから。
「楽しい空間って、時間を奪うね」
「みたいだな」
車に戻り夕飯を食べながら日記をつける。
収穫はたくさんあったがやはりあの場所のぬいぐるみが大きかったと絵を描いて表現する。それを覗き込んでいたカイは「こんなんじゃいよ」と本物を見せつけて描き直しを要求した。
「明日でいいだろ…」
大体描き直しても変わらないだろう。
「こんなかわいいのに…」
車の中に置くとなかなかの大きさだと改めて感じる。これならやはり枕でもクッションでも丁度良いと思い肘を置いて寛ぐとカイから怒られた。
しばらくその二人で苦労した取ったぬいぐるみには触らせてもらえなくなってしまった。




