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神様がいる所

こんな高くあると空から落ちる爆撃にでもやられて灰になるのではないかと思う。美術館から離れて向かったその先は観光地として有名であった神社らしい。ただ目的の場所に着いたのはいいがそこには先が見えない程の長い階段がある。石で出来たそれは所々割れており足を下ろすと何とも不安定に揺れる箇所もあった。

「怖いな…止めておくか?」

「登れない事は無いでしょ?行こう」

「本当に残ってるか分からないのに…」

「見てみないと分からないよ」

この階段の下にも建物らしき場所はあった。しかし原型を止めない程に崩壊しており、美術館から離れたこの付近一帯はどうやら他国からの攻撃をまともに受けてしまったらしい。

「休み休み行こうか」

「そうだな…」

意を決して階段を上がっていく。一段二段三段と足を上げて登っていく。恐らくこうなる前は階段を上がる途中に木々や植物が生えており楽しむ事も出来たのだろうが今ではあるのは瓦礫と土、石ころぐらいである。

「何でここは何もかも崩壊してるんだろうな、残ってる所は残ってるのに」

「何か理由でもあったのかな」

「神社って…神様がいる所だろ?」

「確かそうだね。神様見た事無いけど」

「人はどうしようも無くなると神様に、縋るって…」

「休もうか?」

「うん…」

何十段か登り息切れして来たため座り込んで休憩する。リュックから水筒を出して一口飲み込み息をつく。

「で…続きだけど…その縋る存在を壊したら、逆らう気力も奪えると思ったのかもな…」

「嫌な考えだね」

「俺の予想でしかないけどな…それで弱らせて…何もかも奪おうとした」

「でもさ」

「ん?」

「神様って一人だけなのかな?」

「う~ん…」

崇拝するのは自由てあるためか、この世界には数え切れない程の神様と言う存在はあったらしい。ただ目に見えない物を信じるような人間ではない父は存在はあったと言うよりも作られたと言った。

「神様は…何と言うか…都合良く何人もいる存在じゃないか?」

「この願いはこの神様に、あの願いはあの神様って?一人だけだと抱えきれないもんねえ」

「人の都合の数だけ存在するかもな」

「ジンは神様信じる?」

「いや、信じない」

存在する場所に来ておいてだが、自分も父親同様に目に見えない存在は信じがたい。彼等の存在を立証するような物語が例えあったとして、存在を信じ、願ったところで無くなった物がすぐに再生する訳でもないのだ。

「神様って何だろうね」

「さあ、時には都合良く現れて、時にはさっさと見捨てる気まぐれかもな」

「それじゃいよいよ何でそんな存在があるのか確かめに行こうか」

立ち上がり再び階段を登る。途中で瓦礫とは違う石が割れて転がっており美術館の彫刻のような物だろうかと確認したが何なのか分からなかった。

そして何本目か忘れたが、赤い柱のような物も何度か見かける。壊れてしまい何のための柱なのかと思ったが、そもそも柱があるのに建物が建っていた様子が無いのに疑問だ。

息切れをしながら休みながら階段を登り切るとそこには三角屋根の立派な家、ではなく神社があった。

「…すごい細かい作り」

「全部…コンクリートとか石じゃない、それじゃあ木で出来るのか?今までの建物とは素材が違う…」

近くに歩み寄って見ると、太く長い紐のような物に大きな鈴があり、その前には中身が見える四角い箱、箱には賽銭箱とある。

「中にお金がある」

「神様にあげたお金かな?」

「神もお金で解決するのか?」

「…何か嫌だな」

しかしあげるお金に関しては博物館、水族館、美術館のようにいくらと書かれていない。つまりあげるお金は自分自身に委ねられるらしい。

「難しい事させるな」

「でもたくさんお金あげた人の願いだけ叶えたらここの神様はそう言う神様だって言われそう」

「…そこはじゃあ、そうならないようにちゃんと叶えてやるんじゃないか?」

「神様って人じゃん。人の目を気にしてるじゃん」

「神は人か…案外そうかもな」

賽銭箱から離れて周囲を探索する。彫刻のように作られた動物…これは龍だろうか。図書館で読んだファンタジー小説の挿し絵にあった。その龍から水が流れており飲む水なのだろうか、その水を掬って下さいと言わんばかりのとっての付いた桶もある。

「…飲む?」

「いや…何か、飲む気がしない…」

「多分正解だよ。ここ手を洗う所だって」

「え?」

「ほら」

カイが指差した方向には所々剥げた絵にお参りをする前にこちらで手と口をゆすいでくださいとある。わざわざ身を綺麗にして行かないといけないのかと少し面倒だ。

「冷た、ほらジンも」

「お参りね…願いを叶えてくれるならまあいいか」

「久しぶりに人が来てはしゃいで叶えたりしないかな?」

「そりゃ面白いな、今すぐ何か食べる物くれないか?とか」

「…出て来ないねえ、やっぱり何か手順があるんじゃない?」

手を洗い口をゆすいだだけではまだ叶える事は出来ませんという事か。面倒だな、神様。

水を吐き出し続ける龍から離れて周囲を探索すると休憩するのはこちらと言わんばかりに屋根のある場所に長椅子がいくつかある。今までのように柔らかい素材ではなく固く、しばらく座っていると痛くなりそうな椅子だった。そこに座りカイは平気なようだがこちらはなかなか疲れている。足を延ばして座り上を見ると驚いて目を見開く。

「カイ、上見て」

「え?…わ、天井に何かある」

「これも龍か?」

「あの水の所と同じだね」

休憩所らしき場所の天井には大きな龍が描かれていた。所々剥げてはいるが今にも飛び出して来そうなその迫力に長く見つめる事が出来ずに目を逸らす。カイはその龍とじっと目を合わせて見つめ合っていた。

「ここは…龍が神様なのかな?」

「人じゃなく…龍か」

「でないとこんな大きく描かないよね」

「まあ…何か格好いいからとかそんな理由でこんな大きく描かないか」

「確かに」

神様は勝手に人の形をしていると思ったが、願いを叶えるような人ならざる存在ならば確かにこのような形をしていてもおかしくないかもしれない。

天井の龍をしばらく目を逸らしながら眺め終えると再び探索に向かう。階段を上がって目の前にあった神社を一周するように回ると恐らくこの神社の中に続く階段と入口がある。

「中に入れそうだな」

「どんな感じになってるんだろう」

「…これで普通の人みたいな生活してる中身だったら少し残念だな」

「えー、それも面白そう」

階段を上がり扉は少し引っ掛かりながらも開くと今まで感じた事の無い、不思議な匂いがした。初めて踏みしめる、木の床だ。

「ねえ、ジン。土足厳禁だって」

「…失礼しました」

ゆっくり後退りながら靴を脱ぐ。改めて木の床に足をつけると軋むような音が響き壊れてしまうのではないかと怖くなる。このまま進んで床が穴が空いて怪我をするのではなと思った。

「何かいちいち音鳴るの初めてだね」

「カイ、カイ、もうちょっとゆっくり歩け」

「平気でしょ?建物は壊れてないし結構しっかりしてるんじゃない?」

「木って…朽ちていく物だと聞いたけど…そんなに丈夫なのか?」

「もしかしたらこれが木じゃなかったりして」

「石とかじゃないし…そうすると建物が立てられる素材って木だから消去法で木だと思うんだが…」

「知識で分かってても実際に見ると分からない物もあるねえ」

そう言って進むカイの後を追って行くとこの建物が、神社がまるで声を上げるように軋む音が聞こえる。電気は無いのか外はまだ明るいのに薄暗く気温も外より低い気がする。リュックの中に携帯用の明かりがあるのを思い出して中から取り出して点けてみると、何かがある。

「……!!」

「うわ!」

明かりを灯した先にあったのは像だ。

素材は金属だろうか、年月が経ち金属特有の輝きは少し薄れてはいるが問題はそこではない。静かに目を閉じた…人の形をしているがその二本の手と二本の足、その後ろには数え切れない程の手がある。全てこの像の手なのかそれとも後ろには実は何百といるという設定の像なのか定かではない。

「これ…神様?」

「神様って言われれば…納得はするかもしれない」

「この手でたくさんの人を救えますって?」

「そう…なのか?」

その無数の手を持つ像の他にも金属で作られた花だろう、様々な物が仰々しく飾られている。神社は神様がいる所、人間には理解出来ない物があっても不思議では無いのだろう。

「布みたいな服だね」

「色々アクセサリーは着けてるみたいだけど…」

「顔は穏やかだね。静かに何か考えてるみたい」

「この世界が平和でありますようにって考えてるのか」

「…まあ、平和は平和かもね…今は」

「争える程人がいないもんな」

今自分とカイが喧嘩でもすれば平和のためにこの神様らしき像は何か不思議な力でも発してくれるだろうか。

しかし気になるのはこの像はどうやって作られたのか、美術館にあった彫刻のように削って作るには石と違い金属はまたこんな風に綺麗に削れるのだろうか、専用の機械でもあるのかそれとも祈りでも捧げて勝手に出来たのだろうか。

「…これ、人が作った像ならどういう過程で作ったんだろうな。人が作るならどこかで何か、世界を平和にしてくれとか…願いを込めて作るのか?」

「何かこう…作った型に溶かした金属流し込んで完成って言うのは有り難みが無いかもねえ」

「どうなってるんだろうな?細かい作りだし…周りの花もそうだ」

「ここにいた人が作ったのかな?」

「…だったらその人が神様でいいんじゃないか?わざわざ像を作ってこれが神様ですと言わなくても、作った人間ならそっちの方が願いを聞く耳はあるし…無機物に頼らなくても」

「人だと面倒だなんじゃない?」

願いを聞いてあれこれ言われるよりも、無機物の像に静かに願いを込めると誰にも聞かれないし何か言われる事も無い。

「人に秘密にしたい願いもあるでしょ?」

「カイはあるのか?」

「あるよ。大きなお肉が入ったパンを食べたい」

「言ったら秘密にならないだろう」

「あ、本当だ」

隠し事は出来ないねえと笑うカイにつられて笑った。

願いを聞いてくれる存在が人間以外にも必要だったのだろうか。カイの言うように人には言えない願いを人には聞かれたくない願いをこの神社の中にあるこの人ならざる像に向けて願ったのだろうか。

ここが今までどれだけの人の願いを聞いてどれだけ願いを叶えたのか分からないが、ここに来て縋り願い祈っていたのだろう。

この像はこの神社はそのため必要とされた。例え叶わないかもしれなくても願いを言える場所は必要なのだろう。

「救いを求めたのかも」

「ここに?神様に救いを?」

「とにかく何とかしてほしくてその思いを吐き出せる場所があるなら心の拠り所にはなるだろうし…それでさ」

「ん?」

「それでもしその願いが叶えられたらずっとこの神様を信じるのかもね」

「…かもな」

「神様ってそうやって信じられたのかな」

「偶然かもしれないけど…偶然願いが願ったタイミングで叶えられたら存在を信じるかもな」

「ジン。願いを叶えられる?」

「カイのでっかいお肉が入ったパンを食べたいって願いを?パンはあるけど肉は無いよ」

「じゃあジンは神様じゃないね」

「…俺は人間だよ」

こんな何十何百と差し伸べられる手を持った存在じゃない。人の願いを聞いて奔走出来るような行動力も無い。出来るのは自分とカイが明日も何か楽しみを見つけて生きれるように探索した場所で何かを発見する事だ。

出来る事は限られている。人間なのだから。

「外に出よう。まだ見ていない所があるかも」

「うん。それじゃあね神様」

「失礼しました神様」

神様?に頭を下げて外に出ると水を吐き出す龍の反対側にも建物がある。今まで見て来たスーパーや物を置いてある場所と同じように綺麗な袋に何かが入った物が整頓されて並べられている。

「…お守りだって」

「お守り?何から?」

「袋によって何から守るから違うみたいだな」

中には何が入っているのか見てみたいが袋の口はしっかり閉じられており中を確認する事は出来ない。それに加えて何故か“開けるな”と言う不思議な意思も感じられる。

「開運、恋愛、子宝、交通」

「…どういう事?」

「良いことありますように、恋愛出来ますように、子どもが出来ますように、事故しませように」

「子宝持ってたら子ども出来るの?」

「まあ…あくまでお守りだな」

縋る何かが欲しい時に手に入れるのだろう。いちいち神社に来て願うよりも手のひらサイズのそれを携帯して叶えて欲しい時にいつでも願えるのはお手軽だ。

「何か持って行く?」

「持っててもな…所詮願いを叶えられるかどうか自分の行動次第だし」

「夢が無いなジンは。持っていればさ、神様が側にいてくれるかもしれないじゃん」

「それは心強いな」

じゃあ大事な車が何事も無いようにと交通安全のお守りを一つ拝借する事にした。

「カイは?」

「開運のお守り」

「良いことあれば良いな」

「大丈夫だよ。必ずあるよ」

「そんな風に信じてるなら必要無くないか?お守り」

「このお守りに広い世界を見せてあげるよ」

「そういう意味で持つのか?」

使い方としてあっているか分からないが二つのお守りは一つは車のミラーに下げる事になり、一つはカイのリュックに下げられる。プラネタリウムで貰ったキーホルダーと一緒に下げられており、ぶつかり合うので別の場所に下げたらどうかと言うと少し悩んだ結果首から下げると言う事にした。

「首から下げるなら…紐は?」

「このお守りの所に何か無い?」

「ん~…あ、あった良い感じの紐」

「…このお守りのと同じ紐か?」

見つけた長い紐はカイが持つ開運のお守りと同じ紐らしい。長いそれは首から下げるには十分な長さがあり完成されたお守りを改造するのは少し気が引けたが元々の紐を切り、新たに見つけた紐を付け加えて首から下げるのに十分な長さになった。

「首から下がってるの…邪魔じゃないか?」

「服の下に入れるよ、ほら」

「確かにそれなら邪魔じゃないな」

「守られている感じがするよ」

「そうか、気のせいじゃなきゃいいな」

「守られてるよ絶対」

「分かった分かった。そろそろ戻ろう。暗くなってきた」

「うん。ね、最後にあの箱にお金いれておこう」

「何か願うか?」

「お守り貰っていきますって報告?」

「…まあ一応しておくか」

使う場所がなかなか見つからないお金を一枚取り出す。階段を上がって正面のあの賽銭箱がある場所に戻るとそこでお参りのやり方と書かれた案内があった。

「ニ礼ニ拍手一礼…」

「やり方あるんだ」

「この通りやらなきゃ叶えてくれないのか」

「神様って面倒だね」

「聞こえてるかもよ」

「ごめんなさい」

いるかもしれない神様にお金をあげてニ礼ニ拍手一礼。聞こえているか分からないがお守りを頂戴した事と可能ならば明日もまた良い日でありますようにと願いをお参りを済ます。

「帰るか…」

「うん。それじゃね神様」

「さようなら神様」

階段を降りて車へと戻る。長い階段を降りる時は休み休み行く必要も無く来た時よりも半分もかからずに戻る事が出来た。

車に戻りお守りを車のミラーに吊るすと心なしか頼もしく見える。

「何か大丈夫な気がするな」

「そう思わせてくれるのが大事なのかもねえ」

「なるほどな…」

揺れるお守りを眺めてほんの少し、ほんのだけ神様の存在理由を分かった気がした。










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