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美術館

今はそれなりに傷や汚れがあるがそれがなければ真っ白な建物だったのだろう。

空港から車を走らせに走らせて着いた場所は目的地の美術館だ。他の建物も残っているが半分崩壊していたり屋根が吹き飛んでいたりとかろうじてかつての形は分かるがこの美術館は比較的綺麗に残っていた。入り口の分厚いガラスは割れていて怪我をしないようにその割れた箇所から入ると外と同じように真っ白な建物の内部は破れてはいるが大きな絵が飾られていた。

「…何…展?」

「大きな絵だな…破れてるけど」

半分破れており、恐らく絵で描いた女性が大きく貼られており下の部分には日付とチケット○○円と書かれている。上の部分の破れていない箇所には“展”までは分かるがそれより前の文字は破れて読めない。

「あ、あっちから行くみたい」

「博物館みたいに見る順番案内してくれるんだな」

「…ねえ!ここにある紙見て!」

「ん?…あの大きい絵と同じか?」

早速中に入ろうとするとその前に紙が置かれた棚があり見てみると入ってすぐ目に入った大きな絵と同じらしき物がある。

「…歴史を語る芸術展…」

「語る?芸術が喋るの?」

「喋るもんじゃないとは思うが…」

破れず読めないと思っていた箇所はそう言う事らしい。書いてる意味は分からないがとりあえず進む事にした。

美術館の壁は真っ白だった。床も白く何か落とした汚したりすればすぐに目立ちそうだ。そうおもわせるせいか分からないが美術館にいる間は飲食を控える事にする。

「…お、絵だな」

「たくさんあるね」

歩いて行くと壁に絵がいくつも飾られている。何とも重厚そうな入れ物に入れられて飾られておりその絵の下には描いた人と作品名らしき物が貼られていた。何で描いた物だろう。しっかり守られたその絵は触れる事は出来ないが何度も色を塗ったのか厚い色が四角の中に溢れている。

「これは…日常風景か?」

「動きにくそうな服に大変そうな作業だね」

農作業をしている時の風景画らしく、その時代の何気ない一瞬を切り取ったような絵だった。手で全て行っているのかなかなか大変そうだ。

「こっち見てよ、人がたくさん」

「何か楽しくしてるんだな」

飲み物を片手にして楽しく語らっているように見える。これも日常で描いた人はまったく知らないがこんな風景を一瞬だけ切り取りひたすら描いていたのか。

「こっちは女の人、じっと見てるね」

「本当だな」

何処にいるのか分からない。テーブルらしき場所に手を着いて真っ直ぐこちらを見つめているようだ。

「…絵なのに何か目が合ってるみたい」

「怖いか?」

「んー…どうだろう。不思議な感じ」

そこから離れていくと今度は大きな絵があら。一人の女性が先導するようにして立ちその女性の後ろに人々が続いていく。絵の説明を読むと遥か昔、遠くの国で起きた革命を描いたらしい。

「革命?」

「国をどうかしてる王様に不満があってみんなが力を合わせて王様を倒しに行く…とか?」

「ふーん…それで良くなるならいいね」

「良くなると思ってるから行動に移してるんだろうな」

「王様はびっくりだろうね」

「まあ向こうも好きで王様に生まれたわけじゃないしな」

なるほど歴史を語る芸術。

一枚の絵からそう言う情報を読み取れという事かと納得する。文字を起こして本にして残す場合は読めない人間がいれば無意味になるし絵ならばその一枚で何が起こったのか表せる。

「…ん?」

「何これ」

「何だこれは」

人の歴史が分かる絵が見れたと思ったら次に目に飛び込んで来たのはさっぱり理解出来ない訳の分からない絵だった。何をどうして何を表現しているのか分からず薄目で見たり遠くから見たりしてみたが何も分からない。

「抽象画…?」

「え?」

「抽象画って書いてあるな…」

「つまり何?」

「分からない…もしかしたら分からないのが正解かもしれない」

「なるほど…?」

線や図形、何を表現しているのか分からず説明を読んでも分からない。カイはカイなりに理解をしようとしたのか見つめていたが諦めて首を振り近くの椅子に座り込む。

「見れば見るほど分かんない」

「考える方が難しいかもな」

「でも何か…見てると何か怖い感じがする。何かあって描いたのは分かるけど…ちょっと怖い」

自分には理解出来なかったためその絵が伝えようとした思いまでは伝わって来なかったがカイは何かを察したのか怖いという感情が起こり足早に去った。

すると、今度は絵ではない。

大きな像がある。

「大きいな………裸だな」

「やだ丸出しじゃん」

「芸術は裸なのか?」

「いや、知らないけど…」

飾られている像が殆ど裸だ。引っ掻けたようにだけ服を着ているのもあれば薄い布のような服だけを身に纏っているのもある。

「彫刻だって」

「彫刻…」

「大きな石とかを削ったりして作ったやつ」

「一から石を削って?」

「つまりそうだろうな」

近くで見ると本当にそうか怪しいぐらいよく出来ている。手のひらの血管や、人の髪の柔らかさを無機質な石でよくここまで表現している。この一体の彫刻を完成させるのにどれだけ長い時間を要したのだろう。

「これ一体いくらだろうな」

「ずっと遊んで暮らせるぐらいとか?」

「じゃあ王様とかが買うのか?」

「…でもさっきの革命みたいに王様がいない時だと」

「……まあ今ここに残ってる辺り何とかなったんだろう」

絵や彫刻を作り必ずしもそれが生活出来る程に売れるとは考えづらいがここにある作品を生み出した者はその数少ない一人だったのだろう。

「不思議だな、別に生活の役に立つとかそういう物じゃないのに」

「見ると何か感じない?」

「その絵や彫刻が作られた背景とは感じるけどな」

「僕は何か、描いた人とか掘った人が怖いぐらいに何か込めてる気がする」

「何か…感情的な?」

「うん。それが何だか目を逸らせなかったり見る事が出来なくなったり…人の感情を掴むんじゃないかな?」

「芸術品ってそう言う物か」

「分からない。僕が感じたのはそうかなって…もしかしたら何も考えずにただ描きたいままに掘りたいままに作ったのがそうかもしれない」

それでも長く残り結果的にその作品は多くの人の感情を掴んだのだからここにあるのだろう。

生活は役には立たない、何か便利な機能があるわけでもないが見ると魅了される。考えさせられる。それだけで十分価値があるのだろう。

「芸術は考えれば考える程分からないな」

「うん。理解しようとすると頭が爆発しそう」

「芸術は爆発なのか」

変な感想とカイに笑われながら次の場所に行くとそこは近代美術と書かれていた。描かれている絵は使われている道具は同じかもしれないが確かに先程の絵と比べると若く見える。かわいい動物を描く絵もあれば風景を切り取った絵もあり、静かな雰囲気を感じさせる。

「何か平和だね」

「そうだな」

「この時代は、この絵があった頃は平和なんだったのかも」

「うん。穏やかな感じがする」

動物の生きる様子はまるで飛び出してきそうなほどに感じられて先程見た昔の絵からはあまりなかった明るい色使いの絵があったと思うと、彫刻でもない不思議な形の像?がある。

素材は金属、銀色の球体に細長く伸ばされた金色の薄い金属が伸びてその周りをまるで弾けたような形のガラス細工がいくつもあった。

「何だろう」

「題名は…“宇宙の私達”」

「どう言うこと?」

「世界の始まりと終わりを表現した作品だそうだ…製作者…オカハラ…十九歳?俺と同じだ」

「同じ十九歳だけど理解出来る?」

「さっぱり分からない」

小さくだが製作者である彼の写真も載っている。確かに自分と同じぐらいの若い男性で目付きは少し不思議などこに視線を置いているのか写真からでも“普通”と違うような青年だった。

「この星に生まれてこの星から去りそして再び蘇る。命の線とそれを見守る過去の生命を表現…」

「…へえ?」

「まあ…この、オカハラって人にはそう言う世界が見えてたんだろ」

「同じ風景見てて、同じ世界に生きてても…こんな風に世界が見えてる人もいるんだね」

「少なくても…彼はそうだったんだな」

吊るされた星が美術館の明かりを受けて光り少し目を眩ませる。

「……」

それが何だかこの彼がすぐ側にいるように思えて背中に汗が流れる。カイが作品に何か込められていると感じるようにこの作品を作った彼もまた自分の中にある思いを込めてそれが中に閉じ込められたまま美術館にあるのだろうか。

「…理解は出来ない」

「うん。難しい」

「でも覚えておく事は出来る」

「そうだね」

近代美術を抜けるとそこは店になっていた。驚く事に先程まで見ていた絵が小さな写真になり並べられている。更にその絵を可愛らしくアレンジしたパズルまであった。

「…何か一気に身近になったな」

「あ、これ見てよ。名画プリント焼き菓子!」

「食べて良いのか芸術を」

こちらは焼き菓子が入った缶に絵が描かれており中身を開けると焼き菓子にあの名画と言われている絵が簡単な形でプリントされていた。

「…焼き菓子に名画…描いた人は怒らないか?」

「あれかなり昔の人の絵だしいいんじゃない?あ、消費期限が後十年だ。結構早いね」

「焼き菓子だと早いのかな…」

「それじゃ早く食べよう」

「早いっても…十年後だろ」

「そうやってると十年した後にこれ期限過ぎてるって泣くんだよ」

「…一理、あるのか?」

とりあえず一枚取り出し名画がプリントされたそれを口に入れる。サクッと割れて飴やチョコレートは最近食べたがこう言う焼き菓子は久々だった。音を立てながら咀嚼して名画を飲み込む、美味い。

「こうやってお腹に収められてお腹の中が美術館になるの…」

「バラバラに砕いたのに胃の中で元通りになるのか」

「…これも芸術?」

「何でも芸術になるか?」

「人が認めればそうなるかもねー」

でなければあの理解出来ない抽象画も像もただの物。白い紙に載せられた色とただただ場所を取る物なのかもねとカイは言った。

「作るのも理解するのも難解だな」

「それが芸術」

この芸術達は持って行く?

棚に並べられた数々の絵を手に取りパズルも手に取る。ここは今まで来た建物の中では比較的多く物が残っているためカイは両手に抱えきれないので程の芸術品を持っていた。

「焼き菓子は持って行く。でもパズルは一つまで、絵はバラバラになりそうだな…」

「それじゃあこの焼き菓子の箱を空にしよう」

カイは近くにあったビニール袋に焼き菓子をまとめて入れて中身を綺麗に拭くとその中に小さな絵を小さな芸術品を入れて蓋をした。

「これは?」

「芸術品箱」

「なるほど…小さな美術館が出来たな」

「そうだよ。持って行けるしすぐ見れる」

理解は出来ない。作品に何か込められていて怖いと言っていたのに何だかんだでカイはこの美術館は気に入ったらしい。

自分もそこまで悪い思いはしなかった。難解な部分が多いが芸術という物を通して自己表現をしていきそれが世間から評価され今日まで残ったその思いは素晴らしいと思っている。

「ねえ、僕らも芸術する?」

「…俺苦手なんだよな」

カイが笑いながら持って来たそれは真っ白なキャンバスとクレヨンだった。これもここに残っていた物らしい。クレヨンを開けてカイは目についた色をとにかく引いていく。

「ジンもやってよ」

「…分かった」

カイに促されて色を載せる。

綺麗だと思った色を引いて塗り、隅から隅まで塗りつぶしていくと世にも奇妙な絵が出来上がった。

あの見てきた芸術品から何を学んだのかと言われるようなそのめちゃくちゃな作品は何を表現したのか。

「…芸術」

「俺達なりの…」

「芸術」

「…」

「…」

そう結論すると笑ってしまった。こんなめちゃくちゃな芸術があるのかと手をクレヨンで汚しながら出来上がったそれは近代美術の端に置いておく。自分とカイの名前を添えて。

「怒られるね」

「こんなのが芸術なわけあるか!って」

「でも次に来た人はきっとこれも芸術って勘違いするよ、きっとね」

「素人が描いたと分かって捨てられなきゃいいけどな」

そうしてこの美術館の作品を勝手に一つ増やし、箱に詰まった小さな美術館を手にして車に戻り、美術館の側で今日は一晩明かす。改めて絵を見て何が良かったのかどこが気に入ったか頭を捻らせながらカイと話し疲れたところで眠るとその日は多くの色に触れたからか色鮮やかな夢を揃って見て目を覚ます。

お互い起きて目を合わせて苦笑いをした。


やはり芸術は難解だ。






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