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両親から聞いたのは外の世界の話だった。読み書きや歴史、科学を学ぶ中で両親は外の世界での生活にどんなものがあったのかを話したくれた。

写真はいくつか残せていたが、映像やそういった記録は残っていない。本での挿し絵や両親からの話でそれを想像する。自分はほんの少しだけ覚えている。

外の世界の乗り物は車だけではない。

大きな乗り物、人を何十人と乗せて走る乗り物、海を渡るための船、空を飛ぶ飛行機、線路という道を走る電車。

海は枯れて船は動かないだろう、飛行機はまだ見た事がない。あれば動くのだろうか。

そして電車、それは駅と言う場所に繋がって走る。外に出てその駅と言う場所をいくつか見たが、どこも壊滅していた。

そのため比較的綺麗に残っているのを見て、これが自分達にとっての初めての駅だった。

「セントラル第十三ステーション」

「名前もちゃんと残ってるね」

「そうだな。中に入ろう」

「お邪魔しまーす」

今までの建物と違い扉らしき物は無く誰でも招く事が出来る入り口のようだった。中は高い屋根がありいくつかカフェや何か販売していた様子がある。棚は空っぽだが一応確認をするが汚れた毛布や空のコップ。誰かの鞄が残っていた。

「駅に行くといろんな意味で所に行けるんでしょ?」

「正確には駅に電車って乗り物が停まるからそれに乗って他の駅に行けるんだよ」

「何人ぐらい乗れるの?その電車」

「さぁ…?ちゃんと見た事が無いんだよな」

駅の中を更に見て回ると何やら初めて見る機械がある。床から生えるようにしてあるそれはまるでここから先の道を通せんぼするかのようにあり、このまま何もしないまま通ると何か起こるのではないかと思い恐る恐る通ってみるが、壊れているらしく何と起こる事は無かった。

「こっちに小さい部屋がある」

「丸見えだな」

「お邪魔しまーす」

機械のすぐ横に、まるでここを通る人間を機械と共に監視目的で作られたようなその部屋はテーブルと椅子。壁に貼られた何やら目標のような物。文字が書かれた書類も多くあったが分からない言葉ばかりで理解が出来なかった。

「ジン、ジン!」

「ん?……何それ?」

「何か帽子」

カイが随分しっかりとした作りの帽子をかぶって楽しそうにしていた。どこにあったのか、この部屋の隅にあったと行って見てみると同じような帽子があり妙に惹かれる雰囲気があったため同じ様に身に付ける。

「…ちょっと格好いい」

「ここに住んでた人のかな?」

「ここにいた人のではあるけど…住んではないと思うぞ。狭いし」

「それじゃあ働いてた人のかな」

格好いいねと行ってそのままカイは行ってしまった。慌ててこちらも帽子のままに追いかけるとそこにはいくつもの下に降りる階段がある。一つ、二つ、三つと更にあり、どういう構造なのかとカイと共に一番近くの階段を降りるとそこは外のように空が見える空間がある。光を失った自動販売機に自分達が立っている場所から視線を下に向けると飛び下りても怪我をするかしないかの高さに長く、道が続いている。

「…これが線路か」

「線路?」

「電車がこの上を走るんだって、長い長い乗り物もここにくっついて走れば離れる事が無いしたくさんの人が一気に移動出来る」

「へぇ、考えたもんだね」

「でも…電車はもう無いのか」

この線路の上を走ってどこに行ってしまったのだろかと反対側にも同じ様に線路があったためその道を覗いて見たが、確かに電車はあったがその電車は横に倒れて遠くから見ても大破していた。

「あれが電車?」

「線路にあるから…そうなんだろうな」

「中入って見たかったな」

「俺もだよ。まだ乗った事も無いしな…」

階段を上がり別の階段を降りると似たような物だった。そこで気付いたが上の看板を見るとどうやら降りる場所により行き先が変わるらしい。線路もあんなたくさん複雑にあるのに間違える事は無かったのか、たくさんの電車が走っていたその頃は事故などは起こる事は無かったか。

「あのさ、ここにたくさん人が電車に乗ってたんでしょ?」

「そうだろうな」

「それをさ、あの小さい部屋の…この帽子の人達が全部案内してたのかな?」

「……電車を走らすのにどれぐらい人が必要なんだろうな」

「運転する人でしょ?他には?」

「案内する人とか?」

「掃除する人もいるかも」

「それぞれ一人じゃなくて…何十人いたかもな?」

「すごいたくさんの人に協力してもらいながら電車に乗ってたのかもね」

「はー…ご苦労様です」

過去に働いていた人達を思いながらまた別の階段を降りるとやはりここにも電車は無いかと思い引き返そうとした時、線路の向こうに色が見えた。

四角い大きなクリーム色のそれは間違いなく電車だ。しかも横転していないしっかりとした形で存在していた。

「電車だ…」

「壊れてない、中に入れるかな?」

「ここの線路の道に降りれば…すぐ着けるけど」

「あそこに線路に降りる階段があるからそこから行こう」

「よし…」

今いる場所の端にある階段は確かに線路に降りるために作られたような階段だった。しかし本来は人がそこへ降りないようにしているのかしっかり鍵の付いた扉があるがその扉の上を乗り越えてしまえば難なく向こうに行ける。階段を降りて線路を歩いて電車まで来ると、いざ目の前にするとかなり大きく力強い。

「ジン、何か顔みたいに見えるね」

「ライトの部分が目で…ここが口?車と同じに確かに顔があるように見えるな」

「笑ってるみたいだね」

「笑顔でみんなを運んでくれるのか、そりゃ頼もしいな電車さんは」

顔に見える正面から移動して車と同じ様であれば扉が側面にあるはずだと考えは正解だったらしく、ただ高さがそれなりあったため、何か踏み台のような物が必要だと思い戻ってあの帽子があった部屋の中にある椅子を拝借してその上に乗り、扉らしき部分に手を掛けてみると重い扉だが開く事が出来た。

「…おぉ」

「ジン、早く入ってよ。僕が中に入れない」

「ん。ごめん」

カイに急かされて中へと入る。続くカイも中へと入ると同じ様に声を漏らした。

向こうまで続くそれは向かい合うように設置された椅子に天井から吊り下げられた三角の何か。荷物を置くのに最適そうな棚があり、壁や天井近くには写真が貼られている。明かりらしき物はあるが電気は点いていない。

「なっがい椅子!寝れるじゃん!」

「あ、でもちょっと固い…寝返り打ったら落ちるな」

「それで何か、独特な匂いがする…?」

「電車の匂い?確かに何か…臭くはないけど」

足を延ばして寝れるほどの長い椅子に横たわってみる。少々固いその椅子は寝るために作られた固さではないとすぐに分かる。同じ椅子が並ぶ最中に離れた所に違う色の椅子がある事に気付いた。

「…優先席だって?」

「誰が優先なんだ?権力者?」

「…怪我してる人とか赤ちゃんいる人だよ」

「あぁ、弱ってる人向けの椅子か…椅子の作りは違うのか?」

「うーん…作りは変わらないね。でも優先ってあるから何か特別な事しないと座れないとかじゃないね。誰でも座れそう」

そう言うカイと並んで座る。場所と色が違うだけで後は変わり無し。

「人の善意に任せてるのか?」

「空いてても自分は健康だから座っちゃ駄目だって気持ちを持つの?」

「そうかもな?」

「……」

「……」

健康な自分達はすぐに立ってその席に座らないようにした。

「それとこれさ」

「ん?」

「気付いたけど…ここに掴まると丁度良い」

立って電車の中を歩いていた時に気付いたが、この天井から吊り下げられた三角に手を入れて掴まると立っていても少し楽になる。椅子はあるがたくさんの人が利用していたならこうして立って乗っていた人もいるかもしれない。

「え?遊ぶ道具じゃなくて?」

「ぶら下がるなぶら下がるな」

千切れて尻餅ついたらどうするんだ。

三角に手をかけてぶら下がるカイを止める。体重を全部任せていたためかこの三角から可哀想にぎいぎいと音を立てるのが聞こえた。

「にしても同じ作りが永遠に続くね」

「いちいち別々の椅子とかに変えてたら面倒かもしれないからかな」

「本当、乗るためのものだったんだね」

「乗ってる間暇じゃないのか?この写真の文字ぐらいしか読むものないぞ」

「ね、一番前に行こうよ」

「一番前?」

「運転してる人の席」

「…行くか」

長い長い電車の一番前、そこはこの電車を運転するであろう席が見えた。一度外を出て、その運転席に続く扉を開いて中に入ると車と違い複雑そうな謎のボタンにハンドル?らしきもの、見るもの全てが何をどう動かすのか理解出来ない。

「…訳が分からない」

「運転してよ、ジン」

「何も分からない…」

「僕もだよ」

「カイ、見てくれ。運転してる風」

「あー、それっぽいそれっぽい…代わって」

「もう少ししたらなー」

「代わって、僕も座る」

恐らく運転席で適当に操作している振りをする。帽子も相まって今の自分はまさしくこの電車を運転しているように見えるだろう。これだけ大きな乗り物を動かすのは怖いが気持ち良くもある。

「ほら、カイの番」

「発車しまーす」

「しませーん」

「しまーす」

「…だから適当に押すなって!」

動き出したらどこに行くか分からないそれは自分も触るのを控えていたのに怖いもの知らずのカイはボタンやハンドルらしき部分を手当たり次第触っていく。仮に止めたら停止するための操作も分からないため青ざめてカイを止める。

「動かないよ。平気平気」

「可能性はゼロじゃないんだよ」

「ほら動かない…あ」

「え…?」

何か小さく弾けるような音がしたかと思うと電車の中が一斉に明かりが灯る。驚いてこのまま動き出すのではないかと思ったが車内が明るくなっただけだった。運転席から戻り明かりが点いた車内を見て回ると扉の上の部分に嵌め込まれた四角い機械が一瞬白く光ると人が映る映像が流れた。

「…わ、これは…」

「へえ、移動しててもこんな風に映像が見れるんだ」

「…セントラルのお勧め観光スポット…」

「観光?」

「色んな場所に行って楽しむ事」

「僕らがしてる事?」

「…そうなのか?」

流れる映像をカイと座って見る。その場所がどこにあるのか分からないが、かつてのまだ人類がたくさんいた頃の映像だろう。数え切れない程の人が遊び、笑い、楽しんでいる。

「ここに行こうよ、次」

「水族館?でも残ってるか分からないぞ?」

「跡地でもいいよ。目的地決めよう」

「…まあいいか」

海の生物が間近で見れる水族館。

大きな遊具がある遊園地。

…自分達が行った場所、博物館。

「ここ行ったね」

「楽しかったな」

「…ちょっと怖がってたじゃん」

「いいだろそれは…」

同じ映像が繰り返し流れていき、大きくなく小さくもないその映像の音の大きさは丁度良い。

「今夜はここで寝る?」

「寝返り打てなさそうだな」

「意外と平気かもよ」

電車に乗って移動してた頃を知ってる人はここに泊まるなんて考えた事無かったし出来なかったかもじゃんと行ってカイは横になる。

「僕はこの寝心地好きだな」

「…夕飯食べるか、暗くなってきた」

「食べよ!」

前に手に入れた缶詰は後に食べる事にして、博物館で得たあのお菓子のような保存食を食べる事にする。あの映像で思い出した博物館での思い出を語りながら明るい車内で夜を過ごす。

「…こうしてたのかな?この電車に乗ってた人も」

「ん?」

「この映像見てここに行きたいって思ったり、行きはわくわくしながら乗って、帰りは今の僕達みたいに楽しかったねって言ってたのかな」

「目的地は様々だけどな、もしかしたらそうかも」

「色んな人が色んな目的で乗ったんだね」

「それを支える帽子の持ち主」

「帰りに返さないとね」

「そうだな、ちゃんと返すよ」

電車の椅子で横になりリュックを枕代わりにして眠る。電気を消そうと思ったがカイがめちゃめちゃに押したボタンをまた押す勇気は無く明るいままに眠る事にした。

寝返りを打ったら床に落ちる。

そう思っていたが、頭がちゃんと体を制御してくれたのか椅子から落ちる事無く朝を迎えた。

「さすがにこのまま点けたままはな…」

「どこ押したっけ?」

「見てないから覚えてない」

「仕方ない。このままで…」

「ごめんな。電車」

「ごめんね」

明るいままの車内でいさせる事に申し訳なさを覚えながら朝の駅に降り立つ。初めて降り立った時とはどこか違う雰囲気があった。

「なんか、朝の光が良い感じ」

「分かる。変な話だけど一日が始まるって感じ」

ここから仕事や目的地に向かう人がたくさんいたのだろう。聞こえないはずの足音や人のざわめきが聞こえて来るような気がした。

「…お借りしました」

「ありがとうございました」

丸一日拝借していた帽子を返し、次の目的地の「水族館」へ向かおうとする。

するが、場所が分からない。

「あの映像はセントラル第十ステーション北口から徒歩十分としかなかったし」

「駅が全部繋がってるなら線路沿いに進む?」

「線路が多すぎる。それにどこが第十ステーションなのか…」

「この地図っぽいのは?」

「…え?」

カイが手にしているのは「セントラル観光パンフレット」とあるカラフルな紙だった。破れないようにゆっくり開くとそこには電車内の映像で見た観光スポットの場所が、簡単な地図で載っている。

「これで行ける?」

「目印になる物がもう無いかもだから…時間かかるかもしれないけど…多分、行ける」

「…ここさ、こういうのがあるって事は…電車を走らすだけじゃなくて観光の案内もしてたって事?」

「だとしたらやる事多すぎないか?」

「…すごいね…」

「…すごいな」

顔も知らない駅の帽子の人達に改めて関心するとそのパンフレットと書かれた紙を持っていつもの車に乗り新たな目的地に向かう。

「水族館あればいいね」

「あればいいな」

そう思い帽子を被っていた頭を撫でながら次なる目的地へ向かう。




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