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死エイ

作者: 雪傘 吹雪

差し伸ばされた手が、塵となった時

エイはやって来る

揺蕩う水面に波紋を広がらせ

その存在を強調されるように

けれども、静かに、物音立てず

やって来る


無理難題に直面した時

エイはやって来る

水面は流線形に退く

さりげなく上がる飛沫は

エイの存在を隠す


孤独に打ちのめされた時

エイはやって来る

気付けば後ろに漂っていて

慰めるように、尾びれを左右に揺らす


エイは何処からやってくるのだろう

私にはそれは見当も付かない

エイはやって来るのだ、多分、知らない所から

遠い地の、海の、心の果てから


エイは何者だろう

エイは本当にエイなのか

神の使いのような類ではなかろうか


ただ、一つ分かる事がある

エイは既に死んでいる

ずっと、昔に

エイは死んでしまったのだ

まだ伊弉諾物質がマイナスネジの様に扱われていた時代

そんな大昔に

エイは、志半ばに死んでしまった

けれども、不思議な事に

エイは今でも私達に会いに来る


寂しい夜を迎えた時

エイはやって来る


叶わぬ恋を知った時

エイはやって来る


努力の末が全て崩れ去った時

エイはやって来る


エイは

また、今日もやって来る

そして、私達の心の周りを

楽しく儚く美しく、泳ぐのである

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