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第33話 どうしても明日、ふたりで配信したい

 久しぶりに城崎から声をかけられたのは、ユウイとして翌日の配信予告をした日の放課後だった。


「今、話できる?」

「いいけど……」

「えっ、こっ、声! 声どうしたの!?」


 そうか、城崎と最後に話したときは、まだこんな声になっていなかったのか。そう思うと、同じ教室内にいたはずなのに、全く会話をすることもなければ関わることもない。ユウイとミオリという関係性がなければ、俺と城崎はただのクラスメイト、よりも希薄な関係なのかもしれない。


「あー、ちょっとね。それで、どうしたの?」


 声変わりだと思う、とは言えなかった。言いたくなかった。城崎には、知られたくなかった。


「あ、う、うん。その……」


 教室では話せない。つまり、ミオリとしての話だということはわかった。


「場所、変える? 帰りながら話す?」

「あ、そ、それは……」


 俺の提案に、城崎は困ったようにもじもじする。俺とは一緒に帰りたくないらしい。もしかしたら、俺と一緒に帰っているところを見られたら困る相手がいるのかも。

 そう考えただけで、胸の奥が痛い。

 ユウイのこと、好きだって言ってたじゃん。あれは、嘘だったのかよ……。


「あ、あの……」

「その辺の空き教室にでも移動しよっか」

「うん、そうしてもいい……?」


 あからさまにホッとしたような表情を浮かべる城崎から目を逸らすと、俺は教室を出た。

 後ろをついてくる城崎の方を見ると、スマホでなにかを確認しているようだった。


「それで? 話って?」


 空き教室の机にもたれかかるようにして、城崎を見る。

 城崎は俺の態度に少し戸惑っているようだった。


「三浦君、なにか怒ってる……?」

「怒ってない。それで? なに?」

「あ、う、うん。ユウイちゃんのことなんだけど……明日、配信するって今日ポストしてたでしょ?」

「うん、したよ。それがどうかした?」

「その配信、ミオリとの配信にしてもらえないかな……?」

「え?」


 は? と言わなかった俺を誰か褒めてほしい。

 いや、言ってる意味が理解できないという意味では『は?』の方が正しいのかもしれないけど。

 今、ミオリとの配信にしてって言った? 今まであんなに断ってたのに? どういう風の吹き回しだ?


「いや、でももう告知しちゃったから。明日じゃなくて明後日とかは……」

「明日じゃなきゃダメなの!」

「そう言われても……」


 そもそも、明日の動画は生配信じゃなくて、今日収録したものをアップするだけにしようと思っていた。

 声変わりのせいで声がガラガラだし、喉の違和感が酷くてときどき咳払いをしてしまう。

 だから、編集して聞きづらいところとか耳障りなところとかをカットするつもりでいた。

 けれど、生配信の場合、編集することができないからごまかせない。


「どうしても明日、ふたりで配信したいの!」

「なんで、そんなに……」


 明日、なにかあっただろうか。

 特別に、二人で配信しなければいけないようなことが……。

 いや、もしかしたら。

 明日が特別な日になるのかもしれない。

 ふたりで配信をして、それで――。


「ああ、そういうことか」


 その配信で、ふたりでの配信を終わりにしたいって言うつもりなんだとわかった。

 たしかに、ふたりではじめた以上、ふたりで終わらせる必要がある。

 ……イチサとのときみたいに、俺ひとりでカップルチャンネルの終わりを知らせるのは、もうこりごりだ。

 イチサのときは、なんとか頑張れた。

 でも、たぶん……ミオリとの終わりを、俺ひとりで配信することは、できない。想像しただけで、悲しくて、つらくて……心臓を握りつぶされるみたいに痛くてつらい……。


「わかったよ」

「ホント?」

「ああ。時間は、いつもどおり放課後でいい?」

「うん、それで大丈夫。あ、でも一回家に帰りたいからいつもより開始を三十分ぐらい遅らせてもらってもいいかな……?」

「ああ、大丈夫だよ」


 せいいっぱいの笑みを浮かべると、城崎は安心したみたいに表情を緩めた。


「それじゃあ、急に呼び止めちゃってごめんね。私、そろそろ帰らなきゃだから、行くね」

「わかった。また、明日ね」

「うん、また明日!」


 明るく手を振ると、城崎はひとり教室を出て行く。

 帰るってなった瞬間、笑顔になるなんて反則だろ。


「そんなに、俺と一緒にいるのが嫌なのかよ」


 思わず吐き出した声は、自分の声だと思えないぐらいにガラガラで。

 誰もいない教室に吸い込まれるようにして、消えた。



 いつにも増して緊張していたせいだろうか。

 翌日の授業は一瞬にして終わり、気づいたら放課後になっていた。

 ちなみに市村は久しぶりのユウイの配信があるということで、授業が終わるなり飛ぶように教室から消え去った。

 そんなに楽しみにしてくれている配信が、ミオリとのお別れ配信になると思うと申し訳ない。

 城崎の席を見ると、城崎も俺の方を見ていた。

 ニコッと笑ったかと思えば、口パクで『あとでね』と言うと、教室をあとにする。

 事情を知らない市村はともかく、城崎まで楽しそうなのが腹立たしい。

 ユウイとミオリの配信を終わりたくないと思っているのが、まるで俺だけみたいじゃないか。


「……帰りたくないな」


 帰らないわけにはいかない。

 告知した配信開始の時間は、もうあと一時間後に迫っていた。

 あと一時間で、ミオリとの関係が終わる。


「……終わりたく、ないな」


 でも、その言葉を、ミオリに伝える勇気は、俺にはなかった。



 重い足を引きずるようにして自宅に帰る。ミオリが来る前に、とユウイになるための準備を始めた。

 慣れた手つきでメイクをしていく。これまで何十回も、何百回もやってきた。

 でも……。

 ミオリとの配信を終わらせて、ユウイとしての配信だけを続けていくことは、きっと俺にはできない。

 イチサの時と今回が全然違うことを、俺自身自覚していた。


「今日、一緒に終わらせちゃおうかな」


 それもいいかもしれない。

 ポツリと呟いてしまった言葉が、心をどんどんと侵食していく。

 終わりたくないけれど、どうせ終わるなら一緒に終わらせてしまったほうがいい。

 悲しいことは一度だけでいい。

 逃げだと言われるかもしれないけど、別にいい。

 これ以上もう、傷付きたくない。


 ピンポーン、とチャイムの音が鳴った。

 俺と城崎と、ユウイとミオリの、終わりのはじまりの合図のように。

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