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第28話 ミオリの好きはどういう好き?

 今日は久しぶりにひとりでの配信だった。届いている質問に答えつつ、コメントへの返事をしながらのんびりと配信をしていた。


「え? 最近あったおもしろいこと? うーん、そうだなぁ。あ、この間ミオリがね」


 最近あったこと、を話そうとすると自然とミオリの話になってしまう。


――ミオリちゃんの作ったシュークリーム美味しそうだった!


「そうそう、あれすっごく美味しかったんだよね。もちろんお店で売ってるもののほうが上手なんだけど、なんだろ。やっぱり私のことを想って作ってくれてるっていうだけで、胸がいっぱいになるっていうか。気持ちがこもったものって、嬉しいしとびっきり美味しく感じるよね。みんなもそういうことってある?」


――シュークリーム作ってくれる彼女がほしい!笑

――ユウイちゃんは得意な料理とかお菓子ってあるの?


「私? んー、実は料理って苦手で……。あ、苦手っていってもレシピを見たらそこそこの味にはできるんだよ? でも、教科書通りっていうか、なんだろ。ミオリが作ってくれたシュークリームを自然に咲いている花だとすると、私のは折り紙で作った花、みたいな。伝わるかな、このニュアンス」


 自分でも、よくわからないことを言っている自覚はあった。でも、ミオリが作ってくれたシュークリームにはあたたかさというか……。


「心がこもってるか、どうか。そんな違いを感じるんだよね」


――わかる! 料理って愛情が隠し味とかいうもんね。


「あー、そうかも。いいこと言うね!」


 愛情が隠し味として入っているから、ミオリの作ってくれたシュークリームはあんなにも美味しく感じたのかもしれない。


――でも、その愛情も受け取る人によって変わるから、ユウイちゃんが作ってくれたものならミオリちゃんはなんでもとびっきり美味しく感じてくれるかもしれないね!


「受け取る人によって……」


――だって、嫌いな人がどれだけ愛情を込めてくれても嬉しくないでしょ?


 コメントに対して、たしかに……と頷いてしまう。

 ミオリの作ってくれたシュークリームに愛情を感じたのだとしたら、それは私がミオリの気持ちを嬉しく思っているから、なのだろうか。

 なら、それはミオリが向けてくれる好きと同じなのだろうか。

 そもそも、ミオリの好きはどういう好きなのだろう。城崎は、どんな思いでユウイに好きだと伝えているのだろう。

 ユウイの正体が俺だとわかってからも、城崎のユウイに対する想いは変わらないように感じる。なんなら最近の方が暴走ぐあいは酷いかもしれない。

 それはいったいどういう感情なのだろう。


――ねえ、ふたりでどこかお出かけ配信とかしないの?


「お出かけ配信? んー、そうだなぁ」


 イチサとのときも、基本的に配信は私の家からやっていた。例外は基本的にない。外に出て、誰か知り合いに見つかるのも困るし、他の人の声や姿が映るような放送事故も避けたかった。

 けど……。ふたりで出かけるのも、悪くない、かもしれない。


「ねえねえ、もしもミオリとお出かけ配信するとしたら『食べ歩きデート』と『カラオケデート』どっちがいいかな? よければ、アンケートを置いておくから答えてくれると嬉しいな。それじゃあ、今日の配信はこの辺で! みんな、またね!」


 配信を切ってアンケートを設置すると、俺は手早く着替えて外に出た。

 どちらがいいかなと考えながら、近所を歩く。

 食べ歩きなら、少し離れた商店街とかどうだろう。家の近くとか学校の辺りだと見つかる可能性もあるけれど、電車に乗って違う市まで行ってしまえば普段の俺たちのことを知っている人もいない気がする。

 ああ、でもそういう意味でいうとカラオケの方がハードルは低いな。私服で行って、カラオケの中で着替えてしまえばいい。個室に入れば誰かに見つかる心配も少ないだろうし。うん、やっぱりカラオケかな。

 なんて考えながら歩いていると、河川敷に差し掛かった。普段はこっちの方には来ないのだけれど、たまには違う道を歩くのもいいかもしれない。

 夕方ということもあり、散歩をしている人や河原で遊んでいる小学生の姿が見える。それから、誰かがどこかで歌っている声が――。


「え、この声って……」


 聞き覚えのある声に辺りを見回すと、河川敷を少し降りたところに、予想通りの人物がいた。城崎だ。

 伸びやかな声で歌いながら、テレビで見たアイドルの振り付けを再現するように踊っていた。


「え、すご……。めっちゃ上手いんだけど……」


 そういえば、投稿していた動画でも歌がすごく上手かったことを思い出す。でも、ダンスも上手いなんてはじめて知った。

 声をかけて邪魔をしたくない。

 俺は少し離れたところに腰を下ろすと、城崎の歌声に耳を傾ける。可愛い声なのに、よく響いて、犬の散歩をするおじいちゃんもニコニコしながら歌を聴いていた。

 音楽の授業で歌っているところを聞いたことがあった気がするけれど、こんなに上手だったっけ。それとも、俺がユウイとしてなら素顔を晒すことができるように、城崎も委員長として見せることができない顔を、こんなふうにさらけ出しているのだろうか。


「……ふうっ」


 歌い終わった城崎が、清々しい笑顔で空を見上げる。

 俺はその姿に、自然と拍手をしていた。


「え……? って、えええっ!? ユ……じゃ、なかった。三浦君!? どうしてここに!?」


 驚いたような表情を浮かべたあと、城崎は恥ずかしそうにその場にしゃがみ込んだ。両手で顔を押さえているけれど、多分真っ赤になっているんだろうな、なんて想像すると可愛すぎて思わず頬が緩むのを慌てて堪えた。

 こんなところでニヤついていたら、ただの変態だ。

 俺は立ち上がると、城崎の方へと向かう。


「歌、凄く上手かった」

「もう、見てたなら声かけてよ……」

「ごめん、邪魔したくなかったから」


 あと、俺がいることを気づいたら歌うのやめてしまいそうだったから。


「城崎の歌声、俺、好きだな」

「えっ、なっ、まっ……」

「いつもここで歌ってるの?」

「いつもって、わけじゃないけど……」


 赤くなったり青くなったり、信号機のように顔色を変えながら、城崎は俺から目を逸らした。


「ここなら、歌ってても誰の邪魔にもならないから……」

「あんな上手な歌声、どこで歌っても邪魔になんてならないと思うけど」

「そんなふうに言ってくれてありがと」


 微笑んでいるはずなのに、どうしてか城崎の表情は悲しげに見えた。

 さっきまでの城崎とは全然違う。歌っているときは、キラキラと輝いていてとっても楽しそうだったのに。


「ごめん」

「え? どうして三浦君が謝るの?」

「その、俺なにか変なこと言ったんだよね? 城崎の表情が曇ったから」


 もう一度「ごめん」と謝る俺に、城崎は目を伏せると静かに首を振った。


「三浦君が悪いわけじゃないの。……ほら、前にねうちの家、お父さんがいないって話をしたでしょ。カラオケに行けばお金がかかるし、ダンスもね、本格的に習おうとすれば時間もお金も馬鹿にならない。私にお金を使うぐらいなら、弟や妹に服を買ってあげる方がいいなって思って」

「城崎……。ごめん……」

「だから、どうして三浦君が謝るの。誰が悪いわけでもないの。お父さんも、お母さんも、もちろん私も悪くない。ただ、優先させるものがあるだけ。でも、どうしても歌うことと踊ることが諦められなくて、こうやって時間が空いたときに、ここで音楽を流して歌とダンスの練習をしていたの」

「そっか……」


 城崎の考え方はすごく素晴らしいと思う。優等生的な考え方だし、さすが委員長だなって思う。

 でも、俺はどうしようもなく腹が立っていた。

 城崎の、自分を犠牲にして、なにもかも諦めているところに。

 そして、それを誰も気づかないことに。

 気づいてほしい。城崎が人一倍頑張っていることに。こんなにもキラキラと輝いていて、素敵な一面を持っていることに。


「……ねえ、今度さ、カラオケで配信しない?」


 なにかを変える力なんて、俺にはない。

 でも、ユウイとしてなら、ミオリが頑張っている姿をみんなに届けることができるから。

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