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第20話 シュークリームって家で作れるの?

 全身にビリビリとした電流が走って、立っていられなくなるほどだった。

 このままじゃダメだ。

 必死に城崎を引き離そうとするのに、スイッチの入った城崎は俺の耳元で荒い息を繰り返す。


「可愛い……ユウイちゃんって本当に可愛い……ああぁん、もうこのままめちゃくちゃにしちゃいたい……」

「まっ……」

「ね、私とイイコトしない……? 私、ユウイちゃんにだったら……」

「城崎!! ストップ!!」


 しゃがんで迫り来る城崎から逃げると、少しだけ距離を取る。

 俺の態度に城崎は傷付いたような表情を浮かべた。

 って、そんな顔をしてもダメ! むしろ今傷つけられそうだったのは俺なの!! ちょっと耳元湿ってるんだけど、ホントなにしようとしたの!?

 恥ずかしさから涙目になりそうになるのを必死に堪えると、俺は城崎と物理的に離れるために両手を突き出した。ここから先は立ち入り禁止です!


「ちょっと落ち着け」

「私は落ち着いてるよ……?」

「学校で"ミオリ"になってるののどこが落ち着いてるんだよ」

「どっちの私もユウイちゃんが大好きなんだからしょうがないでしょ」

「それでも! 今は城崎だろ!」


 思わず大きな声を出してしまって、慌ててブレザーの袖で口元を押さえた。


「……さっきみたいなことしてたら、周りにどう思われるかわからないのか」


 俺の言葉にようやく少しだけ冷静になったのか、城崎はしょんぼりとした表情を浮かべて「ごめんなさい」と呟いた。


 「あんなふうに暴走するなら、俺はもう城崎ともミオリともかかわらない」

「そんなのいや! 私気をつけるから! お願い!」


 お願いと言いながら、城崎は前に突き出していた俺の手を握りしめ、そのまま自分の胸元に引き寄せた。


「……っ、ちょ、まっ……」

「私、ちゃんとするから……だから……」


 城崎の手の温かさ、とは違う柔らかさが俺の手に触れる。これ、もしかしなくても、もしかして……。

 とっさに顔を背けた俺は、その柔らかさの正体を確認する勇気がなかった。だって、もしそれがその、城崎のむ、胸の膨らみだったりしたら、俺は、俺は……。


「わ、わかったから! だから、手を……!」

「あっ、ご、ごめんなさい!」


 慌ててパッと離された手には、ハッキリと先ほどまでの柔らかさの感触が残っていた。こんなのどうしろっていうんだよ。

 思わず開いたり閉じたりするけれど、それが逆に先ほどまでの感触を生々しく思い出させる。

 昨日、着替えたとき胸大きかったもんな……。あの柔らかさはやっぱり……。


「三浦君……?」

「あ、わ、悪い。えっと、それで……なんだっけ……」


 俺はいったいなんのために呼び止められたのか、全く思い出せないほどの衝撃がたった数分の間に繰り広げられていた。城崎と一緒にいたら心臓がいくらあっても足りない気がする。


「あ、そうよ! お菓子! 結局、三浦君が好きなお菓子ってなに?」

「ああ、そういやそんな話だったな」

「もう、しっかりしてよね」


 いや、誰のせいでこうなったと思ってるんだよ。

 呆れ顔で言う城崎はすっかり委員長の顔に戻っていた。


「うーん、お菓子ねえ」

「なんでも言って! 私、頑張って作るから!」


 張り切って胸を張る城崎に、ちょっとだけいじわるしたくなった。


「シュークリームかなぁ」

「へ? シューク、リーム?」


 変なところで切るな。一瞬、なんだかわからないだろ。

 目をパシパシとさせながら、小声で「シュークリーム……シュークリーム……」と城崎は繰り返す。


「あの、三浦君」

「なに?」

「シュークリームって家で作れるの? あれは、お店に売ってるものじゃなくて?」


 不思議そうに小首を傾げながら城崎が言うから、俺は思わず噴き出してしまった。


「なっ、笑うことないでしょ! 真面目に言ってるのに!」

「真面目って……だって……」


 出来損ないの雪だるまみたいな愛らしいおとぼけ顔だった城崎は、むぅっと唇を尖らせる。木の枝の代わりにちくわで口を作られたみたいだ。

 よかったな、城崎。相手が俺じゃなかったら、その可愛い唇に指を突っ込まれるところだったぞ。俺はそういうことしないし、もちろん一般論であって俺がしたいとかそういうことを思っているわけでは断じてないけどな。


「もう! 作る! 作れるから!」

「買ってくるんでもいいよ?」

「それじゃあ意味ないでしょ! 大丈夫だから、任せといて!」


 バカにされたと思ったのか、頬を膨らませて城崎は言う。その頬を指で突っつきたくなる衝動に駆られながらも、はいはいと手を振った。


「じゃあ、楽しみにしてるから」

「――っ」


 そう言った俺に、城崎がなにか言おうとするよりも早く、誰かが城崎に声をかけた。


「あれ? 委員長?」

「……っ!」


 その声に慌てて振り向けば、そこにはクラスメイトの男子がふたりいた。戸田と、もうひとりは南田だ。

 戸田はチラッと俺に視線を向けると、ニヤニヤとした表情で城崎を見た。


「えー? 委員長、三浦なんかとこんなところでなにやってるの?」

「べ、別になにも……」


 隠さなきゃいけないと思ったのか、慌てて否定をしようとするけれどその態度があやしく思えたらしい戸田は「ふーーん?」と笑いながら近寄ってくる。

 でも、城崎。ごめん。その態度はどう頑張って見ても『なにもないんだからね! 勘違いしないでよね!』って言ってるように思えて仕方がない。というか、なにかあるから触れないでって言われているようにしか思えなかったよ。


「でも、なんかあやしいよなぁ。委員長ってば、実は三浦みたいなやつが好きだったりするの?」

「ち、ちが……」


 否定しながら俺の方を見れば、それは好きだと言っているようなものだぞ、と言ってやりたい。言わないけど。今そんなことを言えば、このあといったいどんなことになってしまうのか、想像するだけで怖いから。

 仕方ない。


「はぁ。くだらねえ」


 俺はため息を吐くと、戸田と南田を見た。

 俺より十五センチは高い身長、ちょっと茶髪に染めた髪、陽キャ集団の中でうるさくしているタイプのふたりは、俺とは正反対だ。


「あのさ、俺みたいなのが好きだなんて言われたら委員長も迷惑だろ」


 吐き捨てるように言うと、ふたりは一瞬顔を見合わせて、それからプッと吹き出した。


「だよなぁ。いや、そうだと思ったんだけどよ、あまりにも委員長が必死だったからからかっちゃったわ」

「ごめんな、委員長。そうだよな、三浦なんかとなにかあるわけないよな」


 俺をバカにしながらも納得してくれたふたりにホッとする。これで城崎と俺の間になにかあると勘ぐられなくて済む。それに、城崎にも迷惑がかからないだろう。

 まあ実際のところ、城崎の方から俺に寄ってきてるから、迷惑をかけられてるのは俺の方なんだけど、それでも委員長として凛としている城崎が、俺みたいなやつとなにか関係があると思われるのは避けたほうがいいと思うから。

 へらっと笑いながら「そうだよ」と頷いていると、俺の目の前で城崎の目が鋭くなっていることに気付いた。

 嫌な予感がする。


「し――」

「なにそれ」


 止める間もなく城崎は、怒りを含んだ声を上げる。

 俺も、それから戸田や南田もその声に思わず肩を振るわせた。


「しろさ、き……」


 怒ってると思った城崎は、どうしてか今にも泣き出しそうに見えた。

 どうして……。


「っと、俺ら用事あるから! 先行くわ!」


 城崎が怒っていると思ったのか、戸田達は慌ててその場を立ち去った。

 残されたのは、城崎と俺のふたりだけ。

 気まずくて、なんと声をかけていいかわからない俺を、城崎は見つめた。


「どうして三浦君に好きだって言われたら、私が迷惑なの?」

「それは……。俺と城崎じゃ、全然違うから」

「全然違うって、なにが? クラスメイトで、同い年で、いったいなにが違うっていうの?」


 いつもみたいにミオリのようなテンションで言ってくれるなら、まだ俺も答えようがあった。

 でも、まっすぐに俺を見つめてくるその瞳は、城崎美織のもので。

 ごまかすことも、逃げることもできなかった。


 

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