第18話 見てたらクラクラしちゃって……
俺の問いかけに、一瞬きょとんとした表情を浮かべたあと、ボンッという効果音が似合いそうなほどに城崎の顔は真っ赤になった。
「ななな、なっ、どっ! なっ!!」
「いや、なに言ってるのかわかんないから」
「どこまでって、なにを言ってるの!?」
「これから恋リアを進めるにあたって、やっぱり視聴者の人が見てて一番ドキドキするのって、ユウイとミオリのちょっとエッチだったりいちゃいちゃしてたりするシーンだと思うんだよね。もちろんふたりで仲良くしてるシーンは必要なんだけど、いつも仲良しこよしの幼稚園児みたいなふたりだと刺激がなさ過ぎて飽きられるんじゃないかって思うんだ」
「それは、そうかもしれないけど……」
わかりやすいよう説明する俺に、城崎は相変わらず赤い顔のまま、視線を泳がせている。
うぶで可愛い城崎に突然いろんなことをしかけるのでももちろんいい。その方がリアルな反応を撮れるっていうのはもちろんある。
でも、俺は城崎が嫌がることを無理矢理するようなことはしたくなかった。
ちゃんと境界線をわかった上で、そのギリギリをせめて城崎が恥ずかしがったり照れたりちょっと色っぽい表情を浮かべさせてみたりしたい。
ちなみに最後のはまるで俺の願望のように聞こえるかもしれないけど、もちろんユウイとしての感情だ。それ以上でもそれ以下でもない。
っと、話を元に戻さなくては。
「城崎、言ったよね。ユウイよりも人気のYouTuberになってみせるって。あれは嘘だったの?」
「嘘じゃない!」
俺の質問に、城崎はキッとにらみつけるような視線を俺に向けた。
ちょっとだけいじわるだったかな、と思いつつも城崎の反応に言葉を重ねた。
「ふーん? ホントに?」
「ホントよ! え、映像に映せないようなこと以外はなんでもするわ!」
「へえ、なんでも?」
「わ、私だって調べたんだから。公序良俗に反するような配信はできないって書いてあった。だから、それに違反しないようなものなら、なんでも受け入れる」
そこには、城崎の強い意志があるように感じた。
でも、俺は気付いていた。
強い言葉を俺に向けながら、城崎の手が小さく震えていることに。
ホントは怖いくせに強がる城崎が、可愛くて愛しい。
「そっか。了解。じゃあ、公序良俗に反しない程度に、ユウイといちゃいちゃしていこっか」
「もちろんよ! ……ち、ちなみに……違反しない程度って、どんなことをするの……?」
「あれ? 調べたんじゃないの?」
「調べたけど……その、ダメだっていう例はどれもすごくエッチで……見てたらクラクラしちゃって……」
この可愛い子、ホントに高校生ですかー!?
クラスの女子だって、もうちょっとえっちなことに免疫があると思うよ?
「城崎って、保健の授業でも恥ずかしくてそんなふうになっちゃったりとか……」
「するわけないでしょ! あれは受業なの! 教科なの!! 勉強をして恥ずかしいとか思ったらおかしいじゃない!」
「ああ、それは平気なんだ……」
「……でも、その、あのときに使うアレを……全員に配られたときは……どうしていいのかわかんなかったけど……」
「アレ?」
「だ、だから……!」
真っ赤な顔を通り越して、若干涙目になっているように見える。アレと言われてもなんのことかわからない。
城崎は身振り手振りでなんとか伝えようとしているけれど、いったいなんのことなのか。
……なんて言いつつ、本当はなんとなく気付いていた。
でも、必死に伝えようとする城崎が可愛くて、ついついいじわるを言ってしまう。
ただこのままだとそろそろ本当に泣いてしまいそうだ。
俺はようやく気付いたふりをして、手を打った。
「ああ、コンドームか」
「……っ!!!」
伝わったことが嬉しくてパッと顔を明るくしながらも、一瞬で恥ずかしさがよみがえったのか今度は両手で顔を隠す。百面相をしている城崎が可愛くて笑ってしまう。
「も、もう! 笑わないでよ! こっちは伝えようと必死だったんだから!」
「ごめん、でもホントになんのことかわからなくて」
「ホントに……? いじわるしてたんじゃない……?」
「違う違う。まさか城崎がコンドームのことを伝えようとしてたなんて思わなくて。ほら、受業は勉強だから恥ずかしくなんてないって言ってたでしょ。だからコンドームの配布だって受業の一環で、まあいえばプリントを配られるのと変わらないわけだし」
「それは……ううん、それとは違う! わかってて言ってるでしょ」
「あ、バレた?」
ふへへと笑うと、城崎は驚いた様子で目を見開いた。
「三浦君って、笑うんだ……」
「は?」
「今、三浦君笑ってたでしょ。初めて見たからビックリして」
「いや、そりゃ俺だって人間なんだから笑いもするでしょ」
「それは、そうなんだけど……」
なにか言いたそうだけど、城崎はなにも言わない。
代わりに。
「やっぱりユウイちゃんと三浦君は、同じ人だね」
と、当たり前のことを呟いて笑っていた。
ふと気付くと、窓の外が夕日で照らされていた。
時計を見ると十八時。十六時すぎから配信を始めたから、いつの間にか城崎が家に来てから二時間も経っていたことになる。
声や身長、見た目という身体的な特徴でからかわれることが増えてから他人と過ごすことが苦手になった俺だけど、城崎と一緒にいるのは思ったよりも、ううん。かなり楽しい。
ユウイのことを城崎が知っているっていうのもあるけど、それ以上に城崎は俺の身体的な特徴を笑わない。馬鹿にすることも、気の毒に思うこともない。
それがきっと、一緒にいて居心地が良いんだと、思う。
イチサと一緒にいるときも、楽しかったしなにより楽だった。
城崎と一緒にいるのも、イチサと同じ――ようで、ちょっとだけ違うように思える。
この感情はいったい……。
「あっ! もう六時!」
小さく叫ぶと、城崎は慌てて帰る準備を始めた。
「なんか用事でもあるの?」
あまりの焦りように、俺も釣られて急いで辺りを片付けながら尋ねる。
「弟たちのお迎えに行かなきゃいけないの!」
「お迎え?」
「そう。学童と保育園に向かえに行くの」
その言葉の続きを聞いて、家の手伝いだろうか。偉いなぁとのんきに思った俺を、殴りたくなった。
「うち、中学の時にお父さんが死んじゃって母子家庭なんだ。お母さんが頑張って働いてくれてる分、私が家のことをやってるの」
「え、あ、そ、れは……」
思いがけない返答に、俺は言葉に詰まった。聞いてはいけないことを聞いてしまった。そう思うと、フォローをすることもできない。
黙ってしまった俺に、城崎は笑顔を見せた。
「あっ、でも、だからって不幸とかじゃないよ!」
その言葉の裏に、今まで周りからそうやって言われ続けてきたことに対する牽制があるように思えた。
「そっか」
だから俺は、わざとそっけなく返事をする。
別に母子家庭とか父親が亡くなっているとか、そんなことで城崎を見る目を変えないよ、と伝えるために。
「うん、そうなんだ」
俺の気持ちが伝わったのか、城崎も当たり前のように頷いた。
「それじゃあ、私帰るね! また明日! 今日は本当にありがとう!」
慌ただしく言うと、城崎は俺の部屋を出て行った。はずだった。
「あっ! 宿題、忘れちゃ駄目だよ!」
「わかってるよ」
「約束だからね!」
ドアの隙間から顔を出してそう言うと、今度こそ城崎は立ち去った。
ミオリとは違う、城崎らしい言葉に小さく吹き出してしまう。
「しょうがない、やるか」
城崎とした約束を破らないために、俺はカバンの中から出された宿題を取り出した。
少しのめんどくささと、約束だよ! と言ったときの城崎の表情を思い浮かべながら。




