第17話 そんな破廉恥なことできない!!
俺のいじわるな問いかけに城崎は不思議そうに小首を傾げた。まるでポメラニアンが「くぅーん?」と首を傾げるかのような愛らしさにドキドキとは違う胸の高鳴りを覚える。たとえるなら、庇護欲! この愛らしさを守りたい!
って、違う。なんか俺まで城崎に影響されてる気がするな……。
「隠してるっていうか」
城崎ポメラニアン美織――じゃなかった。城崎は「んー」と唇を尖らせながら話を続ける。
「学校で友達とかに見せてる私がニセモノってわけじゃなくて、あれはあれで私なの。それでもって、ユウイちゃんの前だとちょっとだけはしゃいじゃう私も私。どっちが本性とかじゃなくて、どっちも城崎美織なんだけど伝わるかな……」
「つまり俺とは違うと」
「三浦も同じだと思うよ。ユウイちゃんの中にも普段の三浦の中にも、本当の三浦がいて、100%どっちかが本物でどっちかがニセモノってわけじゃないでしょ」
「そうなの、かな」
俺はユウイでいるときも裕唯としているときも、少しだけ後ろめたい気持ちを抱えている。嘘を吐いて自分を偽っているような気持ちになる。
でもそんな俺もユウイも、全部本物だと城崎は言う。そんな都合のいいことがあるのだろうか。
「ちょっと、俺にはまだわかんないや」
「そっか。……変なこと言ってごめんね。えっと、なんだっけ。あ、そうだ。恋リアでなにをするか、だよね。」
「あ、ああ」
「ううーん、難しいね」
「ちなみに普段恋リアを見たりはするの?」
「しない……。恋リアって単語も、イマイチ馴染みがなくて」
こういうのは女子の方が好きそうだと思っていたから意外だ。でもまあ、恋愛番組に夢中な城崎というのも想像できない。
「三浦君は恋リア? っていうの、見るの?」
「俺? 俺も見ないなぁ。読んでるマンガで恋リアに主人公が参加することになった、みたいなのがあったから知ってるだけで」
「じゃあ、私と変わらないね」
ふふ、っと笑うその笑顔が眩しい。ユウイを前にしたときの「キャーーッ!!」って感じの満面の笑みも可愛いけど、城崎のときのちょっと控えめな笑顔もたまらなくいい。
学校でももっと、こうやって笑ってればいいのになぁ。
「なに?」
「あ、え、いや、なんでもない。まあ、なんだ。ミオリがユウイとどういうことをしたいとか、どんなことをして好きになってもらいたいとか考えたらいいんじゃないかな」
「ユウイちゃんとしたいこと……」
「どうした? もっとこう『遊園地に行ってデートして、それから……!!』みたいなノリで来るのかと思ったけど。あ、まあできれば家の中で完結することにしたいから、遊園地はいけないんだけど」
思った反応と違って、ちょっとだけ拍子抜けする。
けど、城崎はもごもごしながら恥ずかしそうに身体をくねらせた。
「だ、だってなにをしたらいいか、わかんなくて……。私なんかがユウイちゃんと遊園地だなんておこがましいし、本当ならふたりでいることだって私ごときが!! って思うのを必死に堪えてるの! それなのに、ユウイちゃんとしたいことなんて……」
「えええ、そんなふうに思うの……? あ、じゃあ城崎が好きな人とやりたいこととかは? なにかないの? お弁当作ってあげたいとか、あ、ポッキーゲームやりたいとかでもいいよ?」
半泣きになって「私なんて!」という城崎は可愛い。可愛いけど、それだと話が進まないから、俺はちょっとネタっぽいのも混ぜながら提案していく。
けれど、それが余計だった。
「ポポポポッキーゲーム!? そ、そんな破廉恥なことできない!!」
「ハレンチって……」
城崎は顔を真っ赤にして首を左右に振る。そんなに振ったらぽろっと取れてしまいそうだ。
でも、そっか。ポッキーゲームは城崎にとってハレンチなのか。覚えておこう。
というか、あれだな。
思った以上に、城崎って恋愛に対して免疫がないんだな。
別に俺だってあるほうじゃないし、もちろん年齢イコール彼女いない歴ってやつだけど、世の中にはマンガだってテレビだって小説だって、恋愛ものにあふれている。
まさかと思うけど、そういうのを一切通らずに生きてきたの? 逆に凄くない?
その真っ白さをユウイが染めていく。そう考えると、ゾクゾクして思わず口角が上がる。
「三浦君……?」
「あ、ああ。じゃあ、そうだな。次はとりあえずお菓子作りとかどう? ミオリがユウイに手作りのお菓子をプレゼント! みたいな」
「お菓子……。ご飯じゃダメ……?」
「ご飯でもいいけど、映えないからなぁ。とりあえず今回はお菓子の方がいいかな。あと初っぱなからご飯はちょっと重い気がする」
「そ、そっか……。わかった、お菓子作り頑張る!」
本当は恋愛リアリティ番組でも見てちょっとは勉強したら? と言うつもりでいた。
でも気が変わった。
なにも知らない純真無垢なミオリのままで、ユウイに教えられていろんなことを覚えていく方がきっと盛り上がるはずだ。
もちろん俺が、じゃなくて、視聴者が、だ。そりゃ、俺もその方がいいというのは否定しないけど。
「ちなみに、ひとつだけ質問していい?」
「なあに?」
穢れを知らない笑顔に、俺は問いかけた。
「どこまでなら、ユウイにされてもいいの?」




