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第15話 ユウイちゃんの好きなトコ

「ミ、ミオリ?」


 戸惑う私をよそに、ミオリは話すのを止めない。


「私、ユウイちゃんの全部が好きなの。すっごく可愛いくてずっと見てたいって思うの。実際に、ユウイちゃんの配信は生で見て、それからその日一日中リピートして、新しい動画が上がるまで何回も何回も見たの。それにね」


 スイッチが入ってしまったミオリは止まらない。

 それでも無理矢理にでも止めるべきか少しだけ悩んだ。でも。

 

――ユウイちゃんが押されてる!

――ミオリちゃん、めっちゃ語るじゃん!

――いいぞ、もっとやれ!


 ミオリの勢いにコメント欄が大盛り上がりだった。

 これは……このまま止めないほうがおもしろい、かも?

 そう思った私は、さらにミオリの答えを引っ張り出すことにした。


「待って、可愛いところってことは顔が好きってこと? それはちょっと悲しいかな……」

「ち、違うよ! もちろん顔も可愛いけど、声だって鈴が鳴るような可愛い声で、ずっと聞いていたいって思うし、仕草もすっごく好き!」

「……っ」


 な、なんだ、これ……っ。

 顔を赤くさせて恥ずかしそうにしながらも、必死にユウイの好きなところを伝えてくれるミオリにドキドキしてしまう。

 今までだって、コメントでは何度も言われたことがあった。でも、目の前でこんなにもストレートに『好き』を伝えられると、心臓が破裂しそうな程にうるさく鳴り響く。このまま息が止まって死んでしまうんじゃないかってぐらい苦しくて仕方がない。


「わ、わかった! わかったから……!」


 ストップと言おうとしているのに、ミオリの耳にはもう私の声は聞こえていなかった。


「それにね、ユウイちゃんの可愛いところはもちろん好きなんだけど、それ以上に周りの人を元気づけてくれるようなパワフルなところとか、声ももちろん好きで眠れないときにユウイちゃんの声を聞くと安心して眠れるどころか元気になっちゃってそのまま眠れなくて朝を迎えたこともあったの。それからユウイちゃんの来てる服があまりにも似合ってて私、ユウイちゃんの服になりたいって思ったことだってあるの。でも、服になったらユウイちゃんの素肌に触れちゃうってことだから、きっとそんなの我慢できなくて鼻血吹いて倒れちゃってユウイちゃんのこと汚しちゃうって思って、それでね、あのね、」

「ストップ!!!」

「んひっ」


 放っておけばどこまでも語り続けそうなミオリの口を、私は両手でふさいだ。

 突然、口を押さえられたミオリはいったいどこから出したのかわからないような悲鳴とも嬌声ともつかないような声を上げたから、私は慌てて手を離した。


「ご、ごめんね。でも」

「んふふふふ、ユウイちゃんの手が私の口に……」


 驚かせたのかも、って少しでも申し訳なく思った私がバカだった。

 ミオリの表情は恍惚としていて、私をうっとりとした目で見ている。

 大丈夫? ちゃんと意識ある……?

 そして困惑しているのは私だけではなかった。


――ヤバイ、ただのオタクだ

――ユウイちゃんのこと好きだけど服になりたいって思ったことないわ……。負けた……。

――逆に心配になってきた。ミオリちゃん、ユウイちゃんと一緒にいて死なない? 心臓止まらない??


「ほ、ほら。みんなもビックリしちゃってるし、それぐらいにしておこうね」

「あぁん、私ユウイちゃんのことならあと一時間、ううん。丸一日でも語れる自信あるのに!」

「うん、わかった。ありがとう、でも今は大丈夫かな」


 そんなことになったらもはや放送事故にしかならない。

 ……それにしても。

 さっき、ミオリに言われたことが頭の中で繰り返される。

 もちろんユウイに言ったことであって、裕唯に言ったわけじゃないのはわかってる。

 わかってるんだけど、どうにもくすぐったくて、照れくさい……。

 勘違いしないようにしないと。

 ミオリが、城崎が好きなのはユウイであって俺じゃない。

 みんなに、城崎に求められているのは俺じゃないんだから。



 ちょこちょこ暴走しそうになるミオリを諫めながら、なんとか初回の配信を終えた。


「はあぁ、疲れた……」


 いつもの何倍も疲れた気がする。ソファーに倒れ込むと、隣にいたミオリが不安そうに私を見ていた。


「お、お疲れさま」

「ミオリもお疲れさま。どうだった?」


 おずおずと尋ねてくる美織に聞いてみると、パッと笑顔になった。


「楽しかった! 凄く楽しかった!! 憧れてたユウイちゃんと一緒に配信したなんて夢みたい! え、もしかして夢? 夢だったのかな? ユウイちゃん、私のほっぺたひっぱたいてくれない?」

「え、やだよ。そんなことしたら痛いじゃん」

「痛くない! むしろ嬉しい!!」

「喜ぶなら余計やだよ! ってか、痛くないならひっぱたいたって夢か現実かわかんないでしょ」

「それはほら、ご褒美的なあれで」

「どんなご褒美よ、もう」


 配信は終わったというのにテンションが落ち着かないミオリについつい笑ってしまう。

 大丈夫だったかなって心配してたけど、楽しかったならよかった。

 楽しそうなミオリを見ていると、ついつい私まで嬉しくなるから不思議だ。


「それじゃあ、着替えよっか」

「あ……、そう、だね」


 残念そうに、ミオリは顔を曇らせた。


「ユウイちゃんとの時間が、凄く幸せだったから、ずっとミオリでいたくなっちゃう」

「……うん、わかるよ」


 私も、ずっと自分の素を出せるユウイのままでいられたらいいのにと何度も思った。

 いっそ、学校に行かず、ユウイとしてだけ活動してもいいんじゃないかと、裕唯を捨ててしまってもいいんじゃないかと思ったことさえある。

 でも、俺はそれを選ばなかった。


「ミオリとして過ごす時間を作るためにも、城崎として生活することが大事なんだよ」

「どういうこと……?」

「やりたいことをやるためには、現実も頑張らなきゃいけないってこと」

「現実がつまらなくても?」

「うん、現実がどれだけしんどくても。それに、この時間があると思えば、現実も頑張ろうって思えない?」


 自分自身に何度も言い聞かせてきた。

 現実から逃げるなと。

 私の言葉を何度も繰り返すと、ミオリは小さく頷いた。


「わかった」

「ミオリ……」

「でも、そのぶんミオリとしての時間はユウイちゃんにいーーっぱい好きって伝えるって決めたからね!」

「う、うん? あ、ありがとう」


 

 なにがわかったのか、なにを決めたのか、イマイチその繋がりがよくわからないけど。



 着替えと片付けを終え、俺たちはすっかり裕唯と城崎に戻った。


「……じゃあ、これで」

「そうやってると、さっきまでユウイちゃんとしてキラキラしてたなんて思えないよね」


 上から下まで、ジロジロと俺のことを見ると城崎は冷たい口調で言う。

 そういうお前こそ、さっきまでユウイに対してテンション高く喋ってたのと同一人物とは思えない冷ややかさだけどな、という喉元まで出かかった言葉をなんとか呑み込んだ。


「悪かったな」

「別に悪いなんて言ってないけど……。ねえ、ユウイちゃんはお喋りが好きなのに、どうして三浦は喋らないの?」


 素朴な疑問とばかりに城崎は尋ねてくる。

 さっきまでユウイがミオリに尋ねていたけれど、今度は俺が城崎に尋ねられる番だった。


「喋りたくないからだよ」

「どうして?」

「どうしてって……変だろ」


 こうやって城崎と喋っていても、女子が会話しているとしか思えない。


「男のくせにこんな、女みたいに高い声なんて」


 拗ねたような口調になってしまって恥ずかしい。

 ユウイとしてならいくらでも話すことができる。

 でも、裕唯としては、コンプレックスから逃れられない。


「ふーん?」


 興味なさそうに城崎は言う。

 そんな返事をするなら聞かなきゃいいのに。

 くそっ、なんで聞かれて答えた俺が傷付かなきゃいけないんだよ。

 だいたい、俺は――。


「私は好きだけど、その声」

「……へ?」

「そりゃたしかにクラスの男子に比べたら高いかもしれないけど、透き通ってて綺麗で素敵だと思うけど」

「……あっそ」


 ユウイとしてじゃなくて、俺自身の声を褒められるなんて思わなくて、素っ気ない返事しかできなかった。

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