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第13話 大丈夫、私が守ってあげるから。

 至近距離で、私を見るミオリと目が合った。

 

「ユウイちゃん?」

「……っ、チ、チーク! ちょっとつきすぎてるよ!」


 頬に触れたままの手で、そっとチークを拭う。

 親指に、チークのピンク色が移った。


「え、あっ、チ、チーク!?」

「うん。ちょっと鏡見てきたらいいよ」

「あ、ありがとう! そ、そっか。チーク!」


 ミオリは顔を真っ赤にして鏡の前に飛んでいく。

 そんなミオリを見守りながら、《《俺》》は必死に冷静を装っていた。

 あっぶなかった……!

 今、完全に無意識だった。

 気付けばミオリの頬に手を伸ばしていた。

 あのままミオリが目を開けなかったら、俺は……。


「ほ、ほんとだ! ちょっと赤すぎたね! えへへ、えへ、へ……」


 鏡の前でコットンブラシを使い、チークを落としながらミオリは恥ずかしそうに笑う。


「ユウイちゃんに、キス、されるのかと思った……」

「え、そ、そんなわけ、ないよ!」

「そ、そうだよね! えへへ、だから勘違いしちゃった」


 勘違いじゃない。でも、自分でも驚くような衝動的な行動に、正直俺の方がビックリしているし、なんなら今心臓の音がヤバイ。

 いったいなにをやってるんだ、俺は。

 ユウイとしているときに『三浦裕唯』が出てくることなんて、イチサと一緒のときは一度もなかったのに。


「……ふう」


 一度、二度と深呼吸を繰り返すと、俺は目を閉じる。

 ここにいるのは、裕唯じゃない。ユウイだ。

 人気YouTuberユウイだ。


「ねえ、ミオリ」


 鏡の前に座るミオリの後ろに立つ。


「髪、アップにしよっか」

「ひゃっ」


 ミオリの長くて綺麗な髪に触れると、首筋がくすぐったかったのかミオリは首をすくめる。

 その仕草はまるで驚きに首をすくめたチンチラのように見えて、愛おしさが心臓を締め付けてくる。

 触れただけでこれなら、首筋に息を吹きかけたらどんな反応をするのか試してみたい!

 そんないたずら心がムクムクと湧き上がってくるのをどうにか押さえると、メイクボックスに入れておいたヘアゴムを手に取った。


「下ろしている姿も可愛いけど、アップにするのも良いと思うんだ。それに、普段は下ろしてるからアップにすれば印象も変わってクラスメイトにもバレにくいしね」

「可愛い……ユウイちゃんが私のこと、可愛いって言ってくれた……」

「ミオリは可愛いよ。とっても可愛い。ほら、見て」


 手早く髪をまとめて見せると、パッと顔が明るくなった。

 下ろしているときの大人しい印象とは良い意味で正反対だった。


「やっぱり。ミオリは顔のラインが綺麗だから、アップにしたほうが似合うと思ったの。っていっても、私自分がショートだからアレンジとかできなくてごめんね」


 ヘアゴムで結んだあと、レースのようになっているシュシュをつける。シンプルにまとめただけなのに、これだけでこんなに可愛いなんて反則だ。


「ユウイちゃんが私の髪を結んでくれた……嬉しい……もう一生解かない」

「ダメだって、そんなことしたらミオリの正体がすぐにバレちゃうよ。これは印象を変えてミオリと城崎が同一人物だってバレにくくするためでもあるんだから」


 まあ本名顔出しで動画をアップするぐらいだから、バレてもいいと思っているのかも……。ううん、違う。あれはなにも考えてなかったというか、わかっていなかっただけだ。

 ミオリはシッカリしているようでどうしてか抜けているところがある。

 パートナーになる以上、私が守ってあげなきゃ。


「ってことで、これで準備はできたからさっそく配信初めていこっか」

「う、うまくできるかな」


 不安そうなミオリの手をそっと握った。


「大丈夫。なにかあっても私が守ってあげるから」

「ユウイちゃん……」

「じゃあ、はじめよっか」


 頷くミオリの手を、もう一度強く握りしめた。



『ライブ配信を開始』のボタンをクリックすると、配信が開始された。

 それと同時に、たくさんのコメントが書き込まれる。


「ちょっとだけお久しぶり! みんな元気してた?」


――ユウイちゃんだ! 戻ってきてくれてよかった!

――わああああ! ユウイちゃん!!!

――今日も可愛い!! マジ天使!!!


「戻ってくるって言ったよー? って、言っても心配かけちゃったよね。ごめんね。今日からまた配信していこうと思うんだけど……」


 言葉を途切れさせると、配信には映っていない部屋の隅へと視線を向ける。

 そこには緊張の面持ちで立ち尽くすミオリの姿があった。


「みんなにね、紹介したい人がいるの」


――え? 紹介?

――もしかしてイチサちゃん?

――イチサ戻ってくるの? 嘘でしょ?


 コメント欄は、私の発言からイチサが戻ってくるのではとざわついていた。

 私は慌てて、みんなのコメントを否定する。


「ううん、イチサじゃないの。イチサとはもうお別れしちゃった。詳しいことは言えないけど、イチサからお別れしようって言われて、私もそれを受け入れたよ。イチサには幸せになってほしいって思ってるし、今までのこといっぱい感謝しかないから、みんなにもイチサの選択を応援してあげてほしいな」


――ユウイちゃんがそう言うなら……。

――ユウイちゃん天使! 良い子!!

――そうだよね……。イチサちゃんにも幸せになってほしい! でも、それ以上にユウイちゃんには幸せになってほしい!


「ありがとね。あの配信直後からいっぱいみんなから励ましのDMとかポストもらってね。どれも凄く嬉しくて……。そんな中にね、一通の熱烈なラブレターがあったの。私のことをすっごく大好きって言ってくれて」


――俺も好きだよ!!


「ふふ、ありがと。でも、その子にもねイチサと別れたばっかりだから、ってお断りしたんだけど……。『私がイチサちゃんのことを忘れさせてみせる!』って言ってくれて。イチサのこと、忘れたいわけじゃないけど、でもそんなふうに言ってくれるのが嬉しかったんだ」


 そう、嬉しかった。ユウイのことを心配して、想ってくれる、ミオリの――城崎の気持ちが嬉しかった。

 押し切られるような形にはなってしまったけど、それは紛れもない事実だ。


「それでね、その子が『ユウイちゃんに好きになってもらえるように頑張るから!』って言うから……今日、連れてきちゃった」


 えへへ、っと笑うと、私はミオリに向かったそっとウインクしてみせた。

 その合図に、ミオリが顔を強ばらせたのがわかった。

 でも、もう遅い。

 ユウイのパートナーになると言ったからには、ミオリにも頑張ってもらわなきゃ。

 大丈夫、私が守ってあげるから。


「それじゃあ、紹介するね! ミオリだよ!」

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