第12話 反則だろ……
城崎に呼ばれ部屋に入った俺は、思わず息を止めた。
目の前に立つ城崎が、あまりにも可愛くて。
「どう、かな?」
照れくさそうに頬を染める城崎から目を逸らして、慌ててコクコクと頷く。
「可愛いよ」
「ホント? 嬉しい!」
可愛い。凄く可愛い。
でも、それだけじゃなくて……。
「……っ」
俺はもう一度城崎へと視線を向ける。
思わずゴクリと唾を呑み込んでしまう。
ニットワンピースは思った以上に、身体のラインが出ていた。
華奢な体つきに似合わない、胸元の大きな膨らみ。
制服を着ているときはわからなかったけど、胸、めっちゃ大きい……?
え、そんなことある? だって、制服姿のときは胸の膨らみってほんのりあるかな? ぐらいだったよね?
いや、でも待って。城崎が俺にくっついてきて不可抗力で胸が触れたとき、たしかに膨らみを感じた。柔らかかった。あの柔らかさを出すためには、ある程度のサイズはきっと必要だ。
……ごめん。ほんっとうにごめん!
心の中で謝りながら、城崎に気付かれない程度に胸元を見てしまう。
「あ、あの。見すぎ、だよ……?」
「ごめん!」
「いいんだけど、その、あんまり見られると恥ずかしくて……」
白い頬を赤く染めながら、両手で身体を隠そうとする姿は恥じらっているを通り越してなにかを試そうとしているようにさえ見える。
その格好で外出ちゃダメだよ。ってか、男子の前に立っちゃダメだよ!?
いや、俺、男子なんだけど。でも、他の男子の前に立ったらきっと襲われちゃうよ!
「ユウイちゃん……?」
「あ、い、いや。なんでもない」
脳内でもうひとりの俺が大暴走するのをどうにか諫めながら、俺は自分の着替えを手に取った。
「そ、それじゃあ俺も着替えてくるね!」
城崎をひとり部屋に残し、俺は自分の部屋を飛び出した。
「あれは、反則だろ……」
ドアを背にしながら、ズルズルと崩れ落ちるように廊下に座り込む。
早鐘のように鳴る鼓動に、どうにか落ち着いてくれと頼みながら。
服を着替えて部屋に戻ると――テンション高い城崎が待っていた。
「ユウイちゃん!!! 本物のユウイちゃん!! あぁん、可愛い!! めちゃくちゃ可愛い!! はああぁっ、このまま連れて帰ってしまいたい!!」
「いや、待って。落ち着いて」
隙あらば飛びついてきそうな勢いの城崎を落ち着かせようと奮闘する。
けれど、興奮した城崎はマタタビを前にした猫のように落ち着きをなくしていた。
あと、城崎。ユウイを前にするとテンション違いすぎない? 大丈夫? ドキドキ通り越してちょっとだけ怖いんだけど、パートナー選び間違えてない?
「と、とりあえずメイクして、それから配信するから。流れは大丈夫?」
学校帰りに歩きながら話した内容を確認する。城崎は少しだけ不安そうな顔で頷く。
「大丈夫、だと思うけど、ちょっとだけ不安……」
先ほどまでのテンションはどこへやら。気弱なことを言う城崎にちょっとだけ笑ってしまう。
でも、そうだよな。俺だって初めは不安で仕方なかった。それでも一紗がいてくれたからなんとかなった。
だから今度は、俺が城崎にとっての一紗になってあげたい。
隣に立つミオリの冷えた手をそっと握った。
「大丈夫だよ。なにかあったら俺が――私がフォローする。隣に私がいるから、ミオリは心配しないで」
「ユウイちゃん……」
私の手のひらの温度が伝わって、ミオリの冷え切った手に少しずつぬくもりが宿っていく。緊張も、少しだけほぐれたような気がした。
「ミオリは、メイクどうする?」
「あ、えっと、ちょっとだけ直そうかな」
「じゃあ、これ使っていいよ」
私は自分のメイク道具をミオリにも貸してあげる。
ふたりで並んでメイクをしていると、イチサとこうしていたときのことを思い出して少しだけ切なくなる――と、思ったんだけど。
「ひゃあぁ、ユウイちゃんの生メイク……。可愛いがさらに可愛くなっていく」
「リップをつけた唇がぷるぷるすぎて、今すぐ……ああぁっ、私ってばなにを考えてるの!」
「肌がきめ細やかすぎて、ファンデが邪魔って初めて思った……」
隣でずっと中継を続けてくれるミオリのおかげで、感傷に浸る暇もなかった。でも、それでいいんだと思う。
だって、これから三ヶ月間、私のパートナーはミオリなんだから。
「準備できた?」
「うん、ユウイちゃんも?」
「私も終わったよ。あとはこのミストをかけるだけ」
「ミスト?」
不思議そうに首を傾げるミオリに、私はとっておきの笑顔を向けた。
「ミオリにもかけてあげるね。ミオリが、世界で一番可愛い女の子になるためのおまじない」
「おまじない……」
「そう。目を閉じて?」
私の言うことをきいてミオリはギュッと目を閉じる。
「……っ」
ツンと顎を上げ、目を閉じたその顔は――まるでキスされるのを待っているように見えた。
ミ、ミストをかけるだけ。それだ! それだけなんだから!
そうわかっているのに、ドキドキしてスプレー缶を持つ手が震える。
グロスが塗られた唇はぷるぷるとしていて、誰かが触れるのを待っているみたいで、廊下で城崎からキス、されそうになったときのことを思い出す。
あのとき、俺が手で防いでなければ、この唇が俺に――。
「んっ……」
スプレー缶を持つ手を下ろすと、無意識のうちに反対の手をミオリの頬に手を伸ばしていた。
柔らかい頬に手が触れる。
そして――。
「ユウイ、ちゃん?」
唇が触れる寸前、ミオリが目を開けた。




