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第11話 ユウイちゃんが好きなのはどっち?

 少しだけYouTubeをお休みする、という配信をしてから一週間が経った。

 次の動きをはじめるタイミングを俺は見計らっていて、そろそろいいかなと思い始めた。

 というか、そろそろ限界だった。俺じゃなくて、城崎が。

 学校では今まで通りだと言ったのに、ちょこちょこ俺の方を見てくるし、人がいないところならいいと思ってるのか話しかけようとしてくる。

 挙げ句の果てに俺のことを「ユウイちゃ……違った、三浦君!」なんて呼んでくる。わざとやっているのかと疑ってしまうほどだ。

 もしかして、とんでもない相手にバレたんじゃないか? と頭が痛くなる。

 今も、休み時間で他の女子と話しているというのに、何気なさを装って俺へと視線を向ける。全く何気なくなっていない。なんなら露骨すぎて「なにかあるの?」って一緒に話している女子から聞かれて慌てふためいてるぐらいだ。


 ついでに、あっちも限界のようだなと俺は市村の方を見た。

 まるでスライムのように、上半身が机の上で溶けている。死んだ魚のような目でスマホの画面をジッと見ているけれど、おそらくユウイの動画だろう。

 ユウイがお休みして一日目、二日目は騒がしいけれどまだ元気があった。「ユウイちゃん、早く帰ってきて!!」なんて騒いで、真田から「うるさい」と丸めた教科書で頭をしばかれていた。クラスメイトもまたか、と呆れたように笑っていられた。

 それが三日目、四日目と時間が経つにつれ、騒ぐ気力もないのかああやって机に上半身を寝そべらせてずっと動画を見ているだけになっていた。

 市村を心配してか真田まで「早く活動再開してくれよな……」とユウイの情報をチェックするようになったらしい。なんともまあ友達思いなことで。


 そんなこんなで、複合的に考えてそろそろ限界だった。

 それに、俺も。

 ユウイとして活動を始めてから、こんなにも配信をしないのは初めてでどこか落ち着かない。コンプレックスから始めた活動だったけど、俺の中で生活の一部になっているのだと思い知らされる。


 ポケットからスマホを取り出すと、俺は一通のメッセージを送った。そのメッセージを確認したのか、城崎と、それから市村が同時に顔を上げた。


「ユウイちゃん!!!」


 教室に市村の声が響き渡る。城崎はどうにか声を堪えたのか、口を押さえたまま涙目で俺の方を見つめている。

 だから俺の方を見てくれるな。周りの女子がついに俺の方を怪訝そうな表情で見てくるじゃないか。

 俺はなんにもしてませんよと言わんばかりに机に入れてあった小説を手に取って周りの視線をやり過ごした。



『みんな、ただいま! 今日十七時から、今後についてお知らせの配信をするよ!』


 そんなポストをした四時間後、俺は自分の部屋にいた。――城崎と一緒に。


「ひゃあ……こ、ここがユウイちゃんのお部屋……」

「ユウイのというか、俺の、な」

「はわわわっ、こ、このソファー! いつもユウイちゃんが座ってるやつだよね! ほっ、本物……!!! ね、ねえ。ちょっとだけ触ってもいい?」


 震える人差し指をソファーに向けながら、城崎は恐る恐る俺に尋ねる。一瞬、なにを言っているのか意味がわからなかった。


「は?」

「ダ、ダメ? 図々しかったかな……? じゃ、じゃあ写真に撮らせてもらうだけでも……」


 疑問で返した俺の反応を、却下だと受け取ったらしい城崎は、手を引っ込めるとスマホを俺に見せつける。いや、そういうことじゃなくって。


「別に座るなり好きにしたらいいよ」

「すすすす、座るだなんてそんな恐れ多い!!」

「ねえ、城崎の中でユウイってなんなの、いったい」

「神!」

「……あっそ」


 それ以上聞くのはやめた。なんだか頭が痛いというか、疲れてしまいそうだったので。

 クローゼットを開けて、今日のユウイの服と、ついでに城崎に着せる服を引っ張り出す。昨日のうちに、ユウイ用の服よりももう少し小さい、姉ちゃんが小六ぐらいに着ていた服を押し入れから持ってきておいた。小六にしては大人っぽい気もするけど。


「城崎、これとこっち、どっちが好き?」


 薄ピンクのカーディガン付きワンピースと、ブラウンの白襟付きチェックワンピース。ふたつを見せると城崎は質問に質問で返した。


「ユウイちゃんが好きなのはどっち?」

「んーー、こっちかな」


 俺は薄ピンク色を持ち上げてみせる。すると、城崎は「じゃあそれ!」と躊躇いも言った。


「いや、俺がじゃなくて城崎が着たいのを選びなよ」

「だって、ユウイちゃんが好きな方がいいんだもん」

「もんって……」


 俺の好みと城崎に似合うのは違う。このふたつだって。


「俺はこっちの方が城崎に似合うと思うけど」


 落ち着いているようで甘さも残したブラウンのワンピース。きっとこっちの方が城崎に映えるはずだ。

 でも俺の発言に、城崎はなぜか口を尖らせた。


「え? どうしたの?」

「私って言って」

「へ?」

「ユウイちゃんは俺って言わないよ」


 それはそうだ。でも、今はまだユウイになってなくて、なんて説明は城崎には通用しなさそうだ。


「……私は、こっちの方が似合うと思うなぁ」

「じゃあこれにする!」


 ニコニコと笑顔でブラウンのニットワンピースを受け取ると、城崎は――おもむろに制服を脱ぎ始めた。


「え?」


 一瞬、なにが起こっているのか理解できなかった。

 俺の目の前で、制服のリボンに手をかける。シュルッと音を立ててほどけたリボンを外すと俺のベッドの上に落とす。

 そのままセーラー服に手をかけると――。


「ス、ストップ!」

「どうしたの?」

「待って、俺廊下に出てるから!」

「ふふ、ユウイちゃんになら見られてもいいのに」


 見られても良いのに、じゃないの! 俺は男なの!

 慌てて自分の部屋を飛び出すと、バタンと音を立ててドアを閉める。

 城崎が着替え終わるまでの間、なんども先ほどの光景がフラッシュバックして、そのたびにどうにか冷静でいようと頑張り続けた。


「終わったよ」


 城崎の声にビクッとなりつつも、恐る恐る自分の部屋に入った俺は、ただただその場に立ち尽くした。


「どう、かな?」


 ブラウンのワンピースを着た城崎は、今まで見たどの女の子よりも可愛かった。


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