89 ガールズトーク
タクや彩姫を見送ったミク。
共に行こうと言うタクの提案に ごめん と断った。
一緒にいると心強いし頼ってしまう。
それがあたしの弱さなんだ と頭では理解して、克服しなきゃなんだとわかっていても、そこにいれば心は弱いまま…
だから
先に行ってもらった。
それに今一緒に行っても、叩いても鳴らすことのできない『万感の太鼓』の鼓手じゃ、足手まとい以下の役立たず。
ひとりでは小太刀ひとつ満足に扱えない
この世界の知識も、あっちの世界の知識も中途半端。
こんちくしょう!!
と思う。
あたし、こんなに弱虫だった?
って腹が立つ。
こっちへ来たばかりの時は無我夢中で、でも、考えてみればタクにべったりで、潜在意識下ではミュ・クーがいて。
太鼓はたぶん、ミュ・クーに反応して鳴ったんだ、と思う。
あれ以来、彼女は沈んだまんま
呼んでも叫んでも 応えてはくれない
いるのはなんとなく感じるけど 前のように夢の中でさえも、彼女の存在は希薄。
出発の前の晩、彩姫とふたりで話した。
「タクをよろしく、ね」
「ええんか?ほんまにええんやな?」
「しつこい!」
「強情も大概にしとかんとあかんで」
「今は、我儘いわせて。きっと間に合わせる」
「…」
「彩姫、あたしだって口惜しいんだよ!一緒に行きたいよ!」
「なら」
「でも、今はダメだよ。ミュ・クーなしで太鼓に認められるほど、きっちり強いあたしにならなきゃダメなんだ」
「そんなん…」
「そりゃ、みんなは優しいよ。タクだって責めないと思うし、むしろみんなは守ってくれようとする。でもそれじゃダメなの。あたしがあたしを許せないの」
「ミク、あんた」
「ひとりだけ弱いまんま…ていうかさ、今のあたしはひ弱すぎて役立たず」
「…」
「みんなと並んでいたいの。同じ所に立って、笑ったり喧嘩したり、そして一緒に戦いたいの」
ミクの瞳に決意の炎が宿っている。
彩姫はそれを認めて、深いため息。
「ねぇ、彩姫。あたしはこっちへ来てから、ううん、タクが最初にこっちへ行ってからこの前まで、ずーーっとミュ・クーに護られてた。
あたし自身の選択であたし自身の行動だけど、でも、ね、あたしだけじゃ出来ない事ばっかりだった。
今、あたしはあたしだけ。だれにも依存しないあたしにならなきゃなの。ここでタクに甘えたら、みんなに甘えたら、ダメなあたしはそのまんまダメなまんまなの。
太鼓が認める鼓手に、巫女にならなきゃ、あたしは結局ダメなまんまになっちゃう。
そんなの、あたし自身が許せない。
だから、ここに残って、あたし独りのチカラで太鼓に認めさせてやるの」
「ようわかった。きばりや!」
「ありがと」
「ホンマ、手ごわくなったもんやな」
「ふん。簡単に独り占めなんてさせてやんない」
「もっと強よなるんやな…ま、そんでミュ・クーはんが起きたら倍になるんやろ?」
「ん~ん。ミュ・クーは太鼓になってもらうもん」
「あーーー依り代?」
「うん」
「ホンマに太鼓を依り代なんて、そんなことできるんやろか?」
「今のあたしが言っても根拠薄弱、説得力皆無だけど…えっと、女の勘?かな、出来る気がする」
「ミクが言うんやったら、出来る可能性、高いんやろな」
「逆でもいいかもしんない」
「ちょ!」
「うん。しないよ。ミュ・クーがこんなだし。それにあたしはタクと離れたくないもん!そもそも、さ、この身体はあたしのなんだから、ちゃんとあたしのままでいるよ」
彼女の顔は少しずつ明るくなって、
「う~ん。 彩姫と話してたら、ちょっと吹っ切れて来たかも」
悪戯っぽい本来のミクの笑顔が戻って来た。
「なんや、うち的にはちょ~っと複雑な心境やね」
「そう?」
「こんな状況やなかったら…本音言うたらミクの復活は阻止したいとこやねんで」
「うわっ」
「ぷっくくく。塩送ってしもうた…」
吹き出した彩姫だったが、不意に真顔になる。
「?」
「ハルニーナがおったら、うちは惨敗やろな…って思てん」
「ハルニーナ、さん?」
「せや。タクを命がけで救って…こっちでタクを心身ともに支えたおひとや。生きてはったら、ハルとミクでタクの両手は埋まって、うちの場所はないんやろって…」
「リュウのお母さんだよね。あたし、名前とかタクを支えてくれたとか、こっちで…恋人だったとか、詳しいことはなんにも知らないんだ」
「あー、うん。いらんこと言うたわ、ごめんして」
「いいよ。タクも話さないってことは、あたしは知らないで良いことだと思うから」
「そんでも知っておきたいやろ?」
「それでも! それでも知らないこと、言わないことをほじくり返そうと思わない。過去は事実だけど変えようがないじゃん。それを知ったって変えられないじゃん?だったら今のまま知らない方が良いかな」
「かもしれへんな」
「そーよー♪ そんなことより、まずあたし自身だよ。それに今はあたしと彩姫でタクの両手はふさがってるんだし♪」
「さよか」
「だよ」
「なんにせよ、無理だけはせんといてな」
「彩姫もだよ。強くなったって言っても、ちゃんと守られてやんなきゃ、だよ」
「ああ、それな」
「間違っても身代わりなんかになったらダメだから」
「せーへん、せーへん」
「約束だよ!」
「約束や」
「これって、フラグ立てちゃったかな?」
「立ててへんで、安心しや♪」
タクと彩姫は振り返って、大きく手を振っている。
一団はまず第一の目的地である黒牙都市へ向けて出発した。
大陸は大きな転換期をゆっくりと迎えていた。
【続】