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88 涙

黄龍聖国、甲亥盟国と同盟の打診をして、タクは彩姫とタイガ率いる傭兵団、黄龍の遊撃隊、甲亥の特務兵団と共に黒翼山脈を越えた。

白の一族の隠里に到着するとミクが待っていた。

彼女の表情が、出発した時と比べて明らかに暗い。


「どないしたん?」


真っ先に気づいた彩姫が心配した。


「あは、は。 ヤバいかも」

「ん? 何かあったのか?」

「みんないるから、後で話すわ」


沈んだ声音も尋常ではない。

タクも彩姫も了解して、まずは行動を共にしている兵たちの宿舎を割り当てていった。


昼食後、三人だけになる。

ミクが彩姫に抱き着くとボロボロと泣き出した。


「ど、どないしたん?!」


よっぽどのことがあったのだろう。

タクも黙ってお茶をすすり、彩姫はミクが落ち着くまでずっと彼女を抱いていた。

ぐずぐずと鼻をすすり、落ち着き出したミクにタクは茶碗を差しだした。


「ありがと」


コクコクと茶碗からぬるくなったお茶を喉に落として、すっかり落ち着いたミクはふーっと深呼吸した。


「なにがあったん?」

「うん」

「言いにくいことなんか?」

「そう、ね、でも言わなきゃなんだよ」


目を閉じて覚悟を決めたように気合をいれる。

その様子に彩姫もよほどのことが起こったと改めて気を引き締めた。


「音が出なくなったの」

「?」

「叩いても、ね、『万感の太鼓』が鳴ってくれないの」

「…」

「鳴って、くれない…応えてくれない、の…」


またもじわりと涙を溜まるミク。

ミュ・クーが引っこんだ影響が思う以上に大きいようだった。


「やっぱりミュ・クーが叩かないとダメなんだよ…」


弱気の発言。


「冷たいようなんやけど、こればっかりは、なぁ」

「うん、わかってるんだ。あたしが弱いんだって」

「けどな、ずっと頑張ってきたんや、ちょっとは休んだかてばちはあたらんやろ」


彩姫がそう言いながらタクを見ると、微笑んでうなずいていた。


「タク…」

「あまり思いつめなさんな」

「でも」

「でもじゃないって。ちょいと休めって」

「うん」


彩姫は疲れたから寝るわと言って、部屋にふたりを残して出て行った。


「このままダメだったら…」

「なんとかなるさ」

「そんな楽観的なこと」

「なるようにしかならないんだから、ともかく今夜はとことんお付き合いします」

「うん…独りで寂しかったんだよ」

「おう」




翌朝、タクと彩姫は毎朝の鍛錬代わりの模擬戦。

ミクが朝食を持ってやってきた。


「これ、新皇国にいた時もやってたよね」

「ずっと日課やね」


そこへタイガと蘭もやってくる。


「ミク、こっちが傭兵団のタイガ、副団の蘭だ」

「よろしくね♪」


ペコっとミクが頭を下げるとタイガと蘭も笑顔で応えた。


「こちらこそ」

「よろしくおねがいしまーす」

「んで、俺達も模擬戦に参加しても?」

「是非、お願いします!」


タクはちらと彩姫を見て、うなずいた。

ミクは更に人数分の朝食を整え、模擬戦の終わるのを待った。

和気藹々(わきあいあい)とした朝食。

やがてそこに傭兵団や黄龍遊撃隊、甲亥特務兵団の面々総勢90名近くもやってきて、、さながらバーベキュー大会のようになった。


隠里とは言いながら、先の南北紛争時には北の拠点にもなっていた。

ここに来たこともある者もおり、里に顔見知りもいたりいなかったり。

結局、朝から始まった宴会?は夜まで続く。

黄龍遊撃隊長マカラはタクの隣に座り込み、そこは男女混合の輪ができる。

甲亥特務兵団長カラーラをはじめ、ミク・彩姫や里の戦鼓隊の女性たちが集まって女子会?と化した。



数日を各々自由に過ごし、英気を養った頃ユミンがヒギリを連れて到着した。


「赤龍神国も同盟参加で固まったよぉ~♪」

「朗報やね。どんなやったん?」


彩姫の質問にユミンたちは赤龍神国で起こった神殿暴走未遂事件の顛末てんまつを物語った。


「どこにいっても、どの時代でも信仰ってのは厄介なもんだな」

「せやなぁ」

「まぁ、雨降って地固まるってやつだ」


ひと安心したのか、タクはほっと笑顔になる。


「リール海軍卿は、南端断崖の城を直接攻めようって考えてるみたいですぅ」

「成程。海軍らしい海軍持ってるのは赤龍くらいだからな。それはありがたいな」

「タクも顔見せ行く?」

「行くつもりではいるんだけどな」

「時間あるかなぁ…」

「それな…とりあえず黒牙都市か黒の遺跡を拠点にしたいと思ってる」




「こりゃあ、ちょっとこっちからは攻めにくいかなぁ…」


雪村は断崖に立つ城を遠望していた。

南の森は南端断崖に向かって迫るように、ギリギリまで範囲を広げていたはずだった。

が、城を頂点に扇型に森を伐採して、相当な広さを平地にして敵襲が丸わかりするように開けていた。


「お、あそこにいるんだね」


敵情が確認できるひと際高い木のてっぺんで、広範囲を索敵していた。

彼は散開して索敵敵情偵察をしている異種族斥候隊の動きも確認した。


おいおい、隠れる意識は低いのか?

気配が駄々洩れだなぁ と、雪村の顔に苦笑いが浮かんでいる。


案の定というか…

城から何かが発射された。


あれだ


黒禁呪術による超長距離狙撃。

それも3発、時間差をつけて発射されていた。


まずいな


雪村は混乱する斥候隊へ走る。


「慌てるな!撤退!」


雪村が到着する寸前に女の声で撤退指示が飛んだ。

狙撃で死者は出なかったようだ。

それでも負傷者はでたらしく、庇うようにそのまま逃走する。

追い討ちを警戒して雪村はその場で気配を殺した。


とりあえず大丈夫そうだな そう見極めて雪村は動いた。

フェアの指示で敗走した斥候隊は、一気に岩場の砦まで駈けに駆けた。





【続】

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